68 無限回廊支援隊1
多重世界研究協議会で決めた無限回廊支援隊を実際に組織することになった。
俺たちは引き続き無限回廊を調査するのだが、無限回廊ステーションも完成したことだし、早急に監視要員を配置してバックアップ体制を固めたいのも事実だ。
「私たちのような、自由転移ができる人間を計画的に育成する必要があるわけです」リジンが言った。
無限回廊に入れる確率要素転移を自由転移と言うようになった。さらに、自由転移が出来る人間を転移体という。
「計画的になんて出来るのか?」
今の俺たちのメンバーは増やそうとして増えたわけじゃないからな。正確には方法を知ってるわけでは無い。
「分かりませんが、リュウさんも含めて自由転移が出来る人とチームを組んで転移すれば増やせるのではないかと考えています。要は存在確率的な視点からリュウさんたちの仲間と認識されればいいのではないかと思います」
なるほど、リジンの言う通りかも知れない。ただ、誰に認識して貰うのかは不明だ。
「まずは私たちにお任せください」世界Lのレジンが応じた。
「一度、リュウさんたちと無限回廊に入ってみる必要はあると思いますが、転移体になる方法を詳しく調べるつもりです」
レジンが調べてくれるのなら有り難い。
「私も、出番を待っていました!」これはシナノだ。
「もちろん、私もね!」セリーもやる気らしい。
「分かった。そういうことなら、防護スーツのアップデートが出来たら、すぐ無限回廊に入ろう。今は確率風の凪ぎが続いているからな」
「そうですね。よろしくお願いします」とレジンが応じた。
アップデートで、全員転移トリガー付きの防護スーツになる。
結果から言うと、既にレジンたちは無限回廊へ入れるようになっていた。つまり転移体だった。転移トリガーで無限回廊へ入ることが出来たのだ。ただし、未経験者の場合は無理だった。必ず、転移体が同伴する必要があるというのは予想通りだった。一度転移を経験すれば、再度入ることは問題ないようだ。
* * *
教育担当も決まり、支援隊の隊員を募集することになった。
レジンたちが主体でカリキュラムを策定してくれた。もちろん教官も予定通り世界Lのレジンたちが担当することになっていたのだが、ここでちょっと問題が発生した。
早急に世界球色の調査を進めるのはいいとして、参加する人間はなるべく三世界に分散させたほうが安全ではないかという意見が出たのだ。つまり、特定の世界の人間が主体となって行動すると、分離現象に至る可能性が高くなるかもしれないとの懸念からだ。
これにより、支援隊の募集は三世界で実施することになった。ただし、大々的な募集は出来ないので、既に関係している研究機関の新人に打診する形になった。
また、世界ゼロの空間転移研究所のすぐ隣に無限回廊調査隊本部の建設が始まった。三世界の多重世界研究を全てここに集める危険性も危惧されたが、情報については厳密に管理する必要がある。分散させるのは得策ではないということになったのだ。情報爆発させないためにも、情報は一元管理しようという訳だ。
この無限回廊調査隊本部は、今後、調査隊や支援隊を含め全ての無限回廊での活動を統括することになる。当然、調査隊員や支援隊員の宿舎なども併設される。要するに、俺たちの活動拠点であり隔離場所という訳だ。
* * *
ほぼ秘密裡に、無限回廊支援隊の募集が始まった。彼らの業務内容は次の通り。
・無限回廊の白球に常駐し多重世界の監視を行う
・近傍世界の定期調査
・調査隊の後方支援
今でこそ秘密にしているが、多重世界の研究は三世界の研究者にとってはフロンティアであり、最大の関心事だった。急に、情報統制されるようになったこともあり、なんとか多重世界の研究に参加したいと思っている研究者の卵も多い。
というわけで、消極的な打診だったのにも関わらず多くの応募があったそうだ。
まぁ、気持ちも分からないでもないのだが本当にいいんだろうか。危険な仕事だし多くの応募があったと聞くと逆に心配になる。
転移体って特異体質だよな? 確率風が吹き荒れたら、わけ分からない世界へ飛ばされる危険性があるんだけど? 元に戻れないと思うけど、なんで希望するんだろうと思う。支援隊に応募してくる奴は怖いもの知らずだなと思う。
もっとも、俺が簡単に確率風で飛ばされたのは、空間転移装置から転移エネルギーがダダ漏れだったからと言うのが最近の多重世界研究協議会の見解だ。今では、パワーを調整しているので、簡単には転移しなくなっているとのこと。確かに、知らぬ間に転移することは無くなった。その意味では、新人もあまり心配する必要は無いのかも知れない。
* * *
ところで、レジンに投げたと思っていた教育だが、俺も参加することになってしまった。早急に無限回廊の調査監視体制を確立して欲しいとの強い要請が上がって来たためだ。じわじわと恐怖を感じているのかも。
ただ、レジンたちだけに任せていては時間が掛かってしまう。ちんたら待ってられないという訳だ。
「物好きが多くてびっくりだよ」
これは、『支援隊の応募が多い』と聞いた時の俺の素直な感想だ。ユリとメリスが俺の部屋に遊びに来て教えてくれた。
「ふふ。リュウは、強制的になったから分からないんだよ。私たちは、こうなりたくてなってるから分かる!」メリスがそんなことを言った。
「そうそう。シナノたちも言ってたでしょ?」とユリが言う。
「ああ、そういや、そうだったな。確かに、なろうとしてなれないしな」
俺の魅力の一つみたいに言われてムカついたのを思い出した。まぁ、もういいか。確かに、もう俺の一部だし。
「しかし、こっちでも募集するとは思わなかった」
「何言ってんのよ。もともと、それぞれの世界で募集すべきだったのよ。絶対こうなるって思ってた」とメリス。
「それはそうだが、俺も教官やるとはな」すっかり他人事だと思ってた。
「いいじゃない、教官は慣れてるでしょ?」
「慣れてないよ。防護スーツで飽きた」
「だめだめ。絶対許してもらえない。まだ、教えられる人がいないんだから」とユリ。
「そうよね。諦めが肝心よ。大丈夫、ちょっと無限回廊に行ってくるだけじゃない!」と近くのコンビニに行くように言うメリス。
この二人、なんで積極的なんだろう? まぁ、俺たちを支援してくれる人たちだから有難いとは思うのだが、理解を超える人気に一抹の不安を感じる俺だった。
「まぁ、防護スーツそのものの教育は別になったのが不幸中の幸いだな」
「そうね。あれはあれで面白かったけど」とメリス。面白いんだ。
「リュウは勝手に遊んでただけだと思うけど」
ユリは厳しいことを言う。そうだったっけ?
「まぁ、やるしかないか」
「レジンたちの教育と比較されちゃうかも」とユリ。
「は? 別にいいよ。ついでに、教官から降ろしてもらったほうがいいし」
「もう、リュウの生徒になる人に同情するわね」とメリス。
「ふふふ」なぜかユリは笑っている。
もちろん、この二人も教官だ。
* * *
支援隊員を募集してから半月たった頃、無限回廊調査隊本部と隊員宿舎が完成した。潜水プールも完備したしっかりした施設だ。突貫工事にも程があるだろうと思ったが、普通らしい。そう言えば、この世界も俺の世界に比べればいろいろ進んでるんだった。
こうして準備も整い、支援隊の教育がスタートすることになった。
「きゃっ、私リュウ、ツウ姫チームよ!」
「いいね~。でも、私もメリス、ユリチームよ! ラッキ~」
「おお、やったな! 俺、リジン、サラチームだぜ」
「なら、ラッキーじゃん。俺なんて、ビシャム、ヨセムチームだよ。むさい!」
「ご愁傷様!」
なんだろう、このノリは? 当然、リジンたちも駆り出されている。無限回廊支援隊の候補生が、チーム分けに一喜一憂しているが、ここは無限回廊調査隊本部の食堂だ。不用意な発言は身を亡ぼすぞ。
「あいつら、ゆるさん!」とビシャム。
「無限回廊の藻屑にしてやる!」とヨセム。
まぁ、そんなことはしないけどね。たぶん。てか、無限回廊にクズは落ちてない。
それにしても、チームの教官名に「ツウ姫」とは書いてない筈なんだが?




