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多重世界の旅人  作者: りゅう
無限回廊編
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66 無限回廊ステーション計画

 無限回廊は驚くべき世界だった。

 もちろん多重世界そのものが恐るべき存在であり謎の塊なのだが、その多重世界を研究するために作られたと思われる『白球システム』も、とんでもない代物だった。

 無限回廊は多重世界に白球システムを被せた二重構造で出来ていると思われる。何故、この驚異的なシステムが今動作しているのかは謎だが、使えるのであれば今のうちに多重世界の情報を引き出しておくべきだろう。

 まずは、今最大の関心事である世界球色の意味から解明することになるだろう。


 ただそうなると、無限回廊で活動をする環境をあらかじめ整えておく必要がある。

 白球では物質の生成は出来るが、観測機器や居住スペースなどを毎回生成し直すのでは大変だ。長期滞在して観測もしたいのだが、その為の設備となると規模も大きくなるだろう。

 そこで、無限回廊に観測ステーションのようなものを置けないかと考えた。大きな建造物だが、自分たちで設計をしてこれを元にすれば物理生成できるのではないか。もし、これが可能ならば長期的な展望も見えて来る。設計変更や拡張も可能という訳だ。


 この考えを推し進めて、リジンが『無限回廊ステーション計画』として提案した。毎週月曜に開いている多重世界研究協議会の定期ミーティングの席上でだ。


「さすがに、設計図だけで生成は無理なんだよな?」調達担当であり予算を握っているホワンが言った。一緒に聞いている別の世界の人間向けに確認するように言う。


「はい。ダメでした。そこで、実際に地上で組み上げる予定です」


 最初は設計図だけで出来ないかと期待したが、実際に試してみたところ全く反応しなかったのだ。完成しているものなら問題無かったので、要するに白球の物理生成はコピーを作るだけなのがはっきりした。想像しただけでは存在確率はゼロということか。


「一つ作れば、無限にコピーできます」リジンは面白そうに言った。

「そこが凄いとこだよな。持って帰れないのか?」とホワン。

「基本は、無限回廊から物は出せませんね」


 白球で生成したものは持ち出せなかった。白球システム内で完結させるのが基本なのだろう。


「つまり、地上で実際に作る必要がある。もちろんメンテナンスも必須ってことだな?」とホワン。

「そうですね。必ずしも完成時の状態を維持する必要は無いと思いますが、使いながら修正していくことも必要でしょう」

「そうだな。分かった。直ぐに手配しよう。要望は書いておいてくれ」

「わかりました」


 これで、白球内に置く俺たち調査隊の基地が出来そうだ。今までは通信機しか置いてなかったので、ありがたい。テーブル一個生成するのは簡単だが、毎回家を建てるのは無理だからな。


  *  *  *


「基本はやっぱり、球形でしょう?」とメリスが言った。


 定例ミーティングの後、無限回廊ステーションの形状を決めようとみんなで案を出し合っていた。


「球形じゃ、住みにくいだろ」

「じゃ、いっそのことキューブにする?」とメリス。

「多重世界銀河じゃ、世界球の少ない上下方向はあまり観測しないから、円盤型でいいんじゃないか?」

「それより、常駐する人数に合わせることのほうが大事でしょ?」とユリ。

「調査隊のチームが立ち寄ることを考えると、二倍、いや三倍の収容人数が必要か?」

「支援隊と調査隊って、同じ人数でいいの?」とユリ。


 うん、なかなか纏まらない。そもそも、無限回廊の業務が確定していない状況で適切な設備もへったくれも無い。人間の住環境を確保して、あとは使うものを追加して行くしかないろう。

 結局、まずは調査隊の人数を元に、円盤状のステーションを作ることになった。角の取れた丸みのある円盤を本体として、四つの観測用球体を取りつけたような形だ。白球に置いたままになるので機能さえ果たせれば形状には拘らない事にした。

 それから、部屋の内装などで盛り上がった。


  *  *  *


 そして、無限回廊ステーションの建設が始まった。研究所の一角に大型の建屋を作り、この中に三十メートルほどの『観測ステーション』を組み上げることになった。まるで航空機の組み立て工場のようだ。


 仮組が出来たと聞いて、俺とメリス、ユリ、ツウ姫で回って歩いてみた。


「まるで宙に浮いてるみたいな感じね」


 ステーションから突き出したような観測球を見上げてメリスが言った。通路や観測機器を除き、ほぼ透明な球体になっているからだ。


「そうだな。観測には最適だろう」

「ちょっと怖い気もするね」

「そうだな」

「ステーションの上下は統一するんだよね?」とユリが聞いて来た。

「白球と合わせるだろ。たぶん、最初の状態がそうだったと思う。多重銀河の軸と同じだろうな」


 多重銀河は渦巻状だが、コマで言えば軸方向に重力が発生していた。ただ、この方向は変えられる。


「重力の向きを変えてステーションを回転可能にするのはどうかな?」とユリが面白いことを言いだした。

「ちょっと面白いな。 ああでも、観測データの座標が全部狂っちゃうだろ?」

「回転を前提とするのは、難しいね。でも、考慮しておくべきかも。傾いた状態でも観測するならね」

「確かにな、空中に浮いた球体の観測所だからな」無限回廊を作った人に保証して貰わないと安心は出来ない。

「まずは、白球自身の基準を探る必要があるってことね」とメリス。ごもっとも。


 で、これはすぐに分かった。というか、答えが返って来た。白球自身が基準線を持っていたのだ。予想通り、コマの軸方向だ。当然、全てこれを基準とすることにした。


  *  *  *


 そして、ついに無限回廊ステーションが完成した。ついにと言うか、建設開始から約一か月で完成である。この世界の建築技術も半端ない

 で、さっそく使ってみることにした。白球で物理生成する前の地上での試験だ。


「観測球は普通に人間も入れるのね!」


 ユリは監視員席の座り心地を試してみて言った。当然自動観測を原則としているが、人間がマニュアル操作することも出来るようにした。


「そう。ただ、一人でずっと多重世界を眺めることはあまりないだろうな」

「そうねぇ、人によるんじゃない? 天体観測が好きな人とかいるし」

「ああ。そう言えばそうか。そういや、子供の頃に天体望遠鏡とか持ってたなぁ」

「そうなんだ。リュウってそういうタイプに見えないんだけど」

「そうか? まぁ、仲間の中では飽きるの早いほうだった」

「やっぱり!」

「飽きっぽいって言いたいのか?」

「違うの?」

「さあな。お、これは座席が連動するのか。望遠鏡を覗きながらスウィングするんだな!」


 俺は、望遠鏡と座席がセットになっている観測席を実際に動かしてみた。


「追いかけようとする対象にロックすれば、自動で動くみたいね」とユリ。

「うん。簡単に追尾できそうだ」


 流石に追尾は自動になっている。つまり人間のテクニックは要らないってことだよな。ちょっと残念な気もする。


「逃がさない! ってことよ」妙に鬼気迫る言い方をするユリ。ええと。世界球の話だよな?


 宇宙のような無限回廊で使うステーションだが、基本は重力があるので地上試験で十分試せる。あとは少しずつ修正していくことになる。

 出入口は、緊急事態を想定して気密ハッチになっている。白球が管理している空気に異常が起こらないとも限らないからだ。ただ、普通は中央の大きなドームに直接転移するので、ハッチから出入りすることはない。


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