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多重世界の旅人  作者: りゅう
無限回廊編
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64 マップ作成と近傍調査

 無限回廊調査隊は、まず俺たちの世界の近傍マップを作ることにした。

 今まで謎だった多重世界の構造が、無限回廊で直接調べられるようになった意義は大きい。いつまでも無限回廊が使えるという保証はないし、なるべく早く、関係しそうな多重世界を調査しておきたい。そこで、その第一歩がマップの作成というわけである。

 各世界を表す光球(世界球)の位置が存在確率そのものと言うのなら、世界球は一か所に留まっていないことになる。つまり、静止しているように見えるが、実際には移動する可能性がある。移動するとなると位置の把握は重要事項だ。また、移動するならその移動の仕方も重要だ。


 多重世界銀河のマップ作成では3Dマップにすべきなのだろうが、この無限回廊の場合は扁平な構造のようだった。つまり、多重世界銀河は中心を始点として、ほぼ水平方向の角度と距離のみで無限回廊の位置を表せた。角度と存在確率の極座標でマップが出来るという具合だ。多少厚みがあるのは、確率的に重なっている場合か。


 だが、困ったのは俺たちが活動するにあたっての距離だ。存在確率の空間に距離は無い。あるのは存在確率の違いだけだ。だが、それでは俺たちの存在との整合が取れない。無限回廊は、存在確率の世界に俺たちを無理やり押し込んでいるので距離感がむちゃくちゃになっている。


「近場なら、とりあえず私たちの移動時間でいいんじゃない?」メリスが言う。確かに、俺たちの無限回廊での移動速度の最大値は決まっているようだ。

「とりあえず、全員の最大速度が同じだからな。移動時間でいいだろ」


 結局、世界球の位置は極座標と俺たちの移動時間を併記することにした。移動速度については、初めて無限回廊の基準となる数値を発見したとも言える。


 白球と白球の距離が全て一致しているという訳ではないということも分かって来た。この辺りは世界球との位置関係があるのかも知れない。白球の間隔は移動時間で約十分間だった。これは、遠いといえば遠いのだが、白球にダイブする場合は転移出来るので少し近くなる。世界球との距離も同程度だが、こちらはかなりバラツキがあった。

 ちなみに、白球から出て隣の白球めがけてダイブしようとしても出来なかった。どうも有効範囲があるようで、三分ほど飛べばダイブ出来た。つまり、避難する時は最短距離の白球にダイブしなければならない訳だ。それで、これだけ並べているのだろう。


  *  *  *


 世界ゼロの近くには世界Rの他に行ったことのない世界が並んでいた。世界ゼロで転移実験をしていた世界だと思われる。

 世界L、S、H、Mも同じように並んでいるが、こちらは白球の列がひとつ外側だった。また、世界Gと世界Nは、もうひとつ外側だった。どうも、白球の列は存在確率の大まかな境界に配置されているようだ。つまり、世界球は渦巻状に並んでいて、その渦の境界に白球が配置されていた。


 そんな中、多重世界銀河での俺たちの位置も分かってきた。これは、ちょっと予想外だった。俺は自分の世界も含めレアな世界を旅していたと思っていたのだが、実はそうでもないという事が分かった。多重世界銀河の中心方向には確かに多数の世界球がひしめいているのだが、外周方向にも、多くの光球が見えるからだ。現在知っている中で最も外周にあるのは世界Gと世界Nだが、そのさらに外周にもレアと思われる世界が多数広がっているのだ。そこまでレアな世界とは、一体どんなところなんだろうと興味もわくが、怖い気もする。


 ところで、無限回廊内での距離の測定方法はひとまず決まったが、この移動速度で多重世界を全て調べるのは無理だという事も分かってきた。まぁ、全部調べようということ自体が無謀な事なのだろう。例え無限回廊が安定しているとしても、自分たちの世界の安全を考えると近傍世界の調査に留めておくべきかも知れない。ただ、何をもって安全とするかは不明だが。この無限回廊と多重世界の基本的な性質だけは、調べておく必要があるだろうとは思う。


  *  *  *


「やっぱり、上流世界と下流世界という認識で正解だったんだね!」世界の並びを確認したあと、メリスは興奮して言った。


「あのアルミの箱とかが、安全な場所に落ちてて良かったよ。でないと、説明に行く必要があったかも」


 世界ゼロの下流世界を千里眼で覗いて分かったことだ。特に意味のない最初の頃の箱が見つかった。この情報はトウカが喜ぶだろう。


「そうね。殆どが碓井湖という湖に落ちてたし」

「でも、結構人が多かったから見付かっちゃうかもよ?」

「ほっといてもオカルト扱いになるだけじゃない? 平気よ」ユリは暢気に言った。


「しかし、こんなに近くに、驚くような世界があるものじゃのぉ」ツウ姫は江戸湾付近の繁栄に驚いていた。

「そりゃ、存在確率が近いってだけだからな。歴史が近いのとはまた違う」

「人間から見たら大きな違いでも、多重世界的には近いってことね?」とメリス。

「確率だけだがな。そういう意味では、隣と情報交換するだけでも情報爆発する危険性があるのかも」


「そうか、近いから安全という事にはならないんだ」とユリ。

「そう。そういう意味でも安易に別世界との交流は出来ないな」

「そうですね。まずは、関係を持ってしまった私たちの世界がどうなるのか、慎重に監視する必要があります」リジンが言った。


「二つに分離するとして、片方は以前の世界のままになるんでしょ? 一旦無限回廊に逃げて、落ち着いたら、残った世界に移住すればいんじゃない?」メリスは、そんなことを言った。

「それって仙人生活するってことか? あ~、でもドッペルゲンガーがいるからだめだろ」

「あ~、そうか」とメリスは諦めたように言った。


 まぁ、周辺に飛ばされたとしても、いきなり消滅とかしないんじゃないかとは思う。ただ、極端に存在確率が減った世界がどうなるのかは、知っておきたいが。


  *  *  *


 俺たちは、白球に一週間ほど滞在してみた。そして、この避難場所がいかに安定しているか、良く分かった。好きなものを出す機能も全く衰える様子がない。流石に遊びに来ているわけでは無いので壁は透明化して中心部に生活に必要な設備を置いているが、非常に快適だ。驚くことに地表の裏側にも家を建てられる。つまり、全方向を眺めるような設備にできるのだ。宇宙と同じで上下は無いからな。数名で全天を監視するようなことが出来るわけだ。まぁ、いつまでも人間がやる必要はないんだろうが。


 白球を使えば多重世界の観測は容易だと分かった。ただ、世界球もほぼ同じ大きさなので区別し難いのが難点だ。多少、色が付いているものがあるだけだ。


「世界ゼロや世界Lはブルーで綺麗ね」メリスが言った。

「わらわの世界Sは紫じゃな、高貴な世界に相応しいのじゃ」などとツウ姫は喜んでる。世界Hや世界Mも紫だけどな~。


「世界Gや世界Nはピンクっぽいですね。なんだか、怪しい雰囲気です」とサラ。

「ちょっと赤を連想して嫌ですね」とヨセムも難色を示した。


「実際、外周にピングが多いのが気になりますね」ビシャムも同意見らしい。何故か外周の光球は赤みがかったものが多い。赤方偏移というわけではないようだ。

「確かに、ちょっと要注意ですね。この色に意味があればですが」


「分離した時のどぎつい赤から考えると、着色してるのは、この白球の機能なんだろうな」

「そうですね。だとすれば、ピンクは問題ありの可能性が高いです。さっそく、重大事項の報告になりそうで、ちょっと鬱です」ビシャムは心配そうに言った。


 白球がおしゃれのために着色してたら逆に怖いぞ。


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