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多重世界の旅人  作者: りゅう
無限回廊編
62/128

62 赤色世界球分離

 多重世界銀河の中で俺たちが自由に活動できるのは、白球があるおかげのようだ。この白球が無限回廊を維持しているのだろうか?


「無限回廊の維持を別としても、この白球そのものが驚異だな」俺はつくづくそう思った。

「まず、中の広さが変わるのが、まず訳が分からない」俺には、理解不能だ。お手上げだ。

「そうですね。この島になったとき、球体は何倍にも大きくなったと思います」リジンも同意した。

「最初、ツウ姫と入った時は直径十メートルくらいにしか感じなかったんだけどな」

「そうじゃの」まぁ、全体が白なので、焦点が合っていなかった可能性もあるが。

「しかも、好きなものを出せるようだ。椅子とテーブルを出してみよう」


 俺はそう言って椅子をイメージした。ベランダなどによくあるプラスチックの白い椅子を想像してみると、そのままのものが現れた。すんなり出るから凄い。どこから持って来ているんだろう?


「まぁ、座ってくれ」と、椅子を勧める俺。

「あら、気が利いてるわね」とメリス。

「そうね。クッションがあればもっと良かったけどね」とユリ。贅沢な奴。

「そうか。すまん。出し直す」


 俺は固い椅子ではなく、応接用の長椅子をいくつかとテーブルを出した。


「いいわね!」とメリス。

「私にふさわしいね」とユリ。うん、これユリの部屋のと同じだもんな。

「あのな君たち。自分でも出してみたらどうだろう?」

「それは、そうね。じゃ、私はティーセットを」と言って、メリスはティーセットを出した。

「あ、ちょっと待て」

「なに? なにか?」

「い、いや、何でもない」大丈夫だろうか? 白球も信用ならんが、レシピを無視する奴なので不安だ。

「どうぞ。飲んでちょうだい」

 もう紅茶が出来てるんかい! 飲んで大丈夫なんだろうか?


「やっぱり、作った本人からだろ」

「もう! あら、美味しい」いや、作った本人がびっくりするのかよ。


 あ、作ったんじゃなくて店で出されたポットを想像したのか。なるほど。それは名案だ。そんなことも可能なんだ。店のケーキも出せるかも。


「おお、ホントにうまいな。さすが白球だな」

「これ、私の行きつけの喫茶店と同じだわ」とメリス。

「ほんとか? もしかして、ポットも? カップも?」

「そう。私のお気に入りなの」とメリス。

「凄いな、白球システム」

「白球システムを誉めるんだ」だって、店のものを出しただけだよな?

「いや、味覚はメリスだから、メリスも素晴らしい」

「良く分からない誉め方しないでね」

 ちょっと危なかったな。


  *  *  *


ピーピーピー

 暢気に白球を調べていたら、いきなり防護スーツの警告音が鳴った。


「なんだ?」

「これは。確率風です。確率風が強くなっています」とビシャムが報告した。

「なに? ああ、確かに、いつになく強くなってるな。それに、なんか押される」

「これは、確率風の作用でしょうか?」とリジン。

「と、飛ばされる~」とユリ。


 俺たちは全員、ズリズリと強い風に押されるように白球の端まで押し込まれて行った。危険なので椅子やテーブルなどは消した。

 ただ、白球の外に出たわけでは無い。家の中で強風が吹いているような感じだ。まだ、抵抗すれば立っていられる。


「帰ったほうがいいんじゃない?」とメリス。

「そうだな。あ~でも、世界球まで行って、飛び込む必要があるのか!」

「この数値だと外に出るのは危険でしょうね」リジンが言った。


 俺たちは無事ではあるが白球の壁に押し付けられてるのだ。外に出たらただでは済まない気がする。もちろん白球の外に掴まるものなどない。外は更に強い確率風の可能性もある。


「そうだな。しかし、ここにいると何も見えないな。島はいいから透明で外が見えればいいのに」


 そう言った途端に、島は消えて白い壁は透明になった。


「島を出した本人なら変更できるのね!」メリスが感激して言った。もちろん俺も同意だ。

「す、凄~いっ」とユリ。

「素晴らしい」とリジン。


 ただ、透明な球体の壁に張り付いてるだけの俺たちは素晴らしくない。てか、どう見ても間抜けだ。安全ベルト付きのしっかりした椅子でも用意するんだった。

 思っただけではダメだった。だが、口に出したら出現した。


「これよ~っ」とメリス。

 うん、これで大夫快適になった。


 俺たちは、白球の中心で高い背もたれの椅子に座って多重世界を眺めていた。慣れると居られないほどではない。


「あっ?」外を見ていたメリスが声を漏らした。

「どうした?」

「いま、何かが飛んで行った」

「何かって? 光球? 白球?」

「分かんない。でも、何かが飛んで行ったよ」

「ん? あれは?」


 言ってリジンが指差す先を見たら、赤く輝く光球があった。普通の光球より強く光っている。


「あんな光球あったか?」

「さあ、見てませんね」とレジン。

「私も覚えがない」とメリス。

「知らない」とユリ。


 俺たちが見ていると、赤い光球は白い蒸気のようなものを太陽のフレアのように噴き上げ始め、さらに赤く輝いた。


「確率風が、ますます強くなったな」しっかりした椅子を用意して良かった。

「もしかして、さっきの何かはあそこから飛び出したのかな?」

「かもな」

「なんか、かなりヤバそうなんだけど」とメリス。


 俺たちは椅子に張り付くように強く押されていた。こんな時に転移してたら、どこまで飛ばされるんだろう? いままで俺の転移が近場だったのは、たぶん確率風が弱かったからなんだろうな。俺は幸運だったのかも知れないと思った。


「確率風は計測不能になってます!」とビシャムが報告してくれた。

「確率風の原因はこれだったのか!」俺は思わず言った。

「これ、外に出たら、どうなるんでしょう?」ビシャムが言った。

 どう考えてもやばい。

「恐ろしい」とメリス。

「ほんと」とサラ。


「あ、少し動き始めました」ヨセムが報告した。

「あ、あれは」


 見ると、輝く光球は二倍に膨れていた。いや、二つに分離しようとしていた。赤い光球と白い光球の二つになっていた。赤いほうの光球は、完全に分離が終わると眩く光ったあと勢いよく飛び去って行った。


「これか! これが二つの世界に分離するってことか!」とヨセム。

 それを聞いて俺も、はっと気が付いた。そういうことか。多重世界だものな。分離するよな?


「そうですね。世界が分離する時に確率風が発生するのですね」とリジン。

「しかし、今のはかなり異常なんじゃないか?」と俺は飛び去った方向を見つつ言った。

「そうですね。あんな確率風の数値、いままで見たことありませんし」とヨセム。

「それは、計測を続けてみないと分かりません」とリジン。


「あの赤い光球は、かなり遠くへ行ったみたいだな。相当強烈な確率変動があったんだろう」まぁ、遠くへ行くことが存在確率の変動と一致していればだが。

「そうですね。まだ、これが異常な分離なのか通常の分離なのかは分かりませんが」リジンは、あくまでも慎重だ。


「確かにな。ただ、あの様子からみて異常事態の可能性は高いだろう。もしかすると、赤い世界は消えるのかもな」

「確かに」リジンも、その可能性は否定しないようだ。


「ここに居てよかったのぉ」ツウ姫が言った。その通りだ。さすがに、確率風はだいぶ収まって来ていたが、まだまだ強かった。


「ほんとだな。ツウ姫のお陰だよ。助かった」

「おお、これか! これなのか! わらわが来た理由は!」突然、ツウ姫は思い付いたようだ。

「ああ、そうかもな。ツウ姫がいなかったら、俺たちは多重世界の果てまで飛ばされてたかもな!」


「うむ。これで、わらわが来た甲斐があったというものじゃ」ツウ姫は上気した顔で言った。

「そうだな。ありがとう」

「お互い様じゃ」


「あ~、ってことは、ここって避難場所なんじゃない? 安全地帯?」とメリス。

「なるほど、そうですね!」レジンも同意した。

「つまり、ここから多重世界を観察すればいいんですね!」とビシャム。

「そう言うことだな。それが無限回廊の正体かもな!」


「それで、あちこちに白い球があるんだ」とユリ。

「そんなにあったか?」

「あるよ。何個か見たよ」とユリ。

「わらわも、いくつか見たのじゃ」

「そうか。そうすると、いつでも飛び込めるように置いてあるのかな」


「ふむ。そこまで多く配置してるということは。避難が間に合わないような事態もあるってことでしょうか?」とリジンが言った。

「ああ、たぶんな。今回は、ツウ姫のお陰で助かっただけだ。かなりヤバかった」

「そうですね」リジンも厳しい顔で言った。


  *  *  *


 確率風は完全には収まっていなかった。どのくらいで無風になるかも貴重なデータなので、俺たちは完全に収まるまで白球で過ごすことにした。

 この白球なら、ずっと生活できるのかも知れない。


「この白球、メリスが言ってた理想の世界なんじゃないか?」ちょっとふざけて言ってみた。

「えっ? ああ、そうね。確かに欲しいものは出て来るわね。その意味では理想郷かも知れないわね」


「ま、俺の理想とは違うけどな」

「どうして? なんでもあるよ?」とメリス。

「知ってるものはな。知らないものは出てこない」

「そうね! そこよ! 分かってるんじゃん」とメリス。

「でも、自分で考えたものはでてくるかもよ?」

「本当?」とメリス。だが、ちょっと考えただけではアバウト過ぎて無理だろう。

「どうだろうな? 原理が分かってれば出て来るかも知れないけど」

「そうかなぁ? 私はティーポットの作り方とか知らないけど出てきたわよ?」

「ああ、そういう意味では、知らなくてもデータベースにあれば出てくるのか」

「データベース?」

「データベースというより、この多重世界のどこかにあるものなら出てくるんじゃないか?」

「ああ、そういうことね。世界中にリンクされてるのかな?」

「あ、じゃぁ。ここで欲しいと思ったとたんに、何処かの世界からティーセットが消えたのかも」

「え~っ? ホントかなぁ? 転移するくらいなら、コピー作るんじゃない?」

「どうかな。なんでも出て来るなら、やっぱ理想郷かもなぁ」


 まぁ、でもここで出て来るということは、その世界にはある筈だ。何処かの世界に存在するのに、その世界に理想郷がないと言うのは理不尽ではある。ま、あくまで「物」についての話でしかないが。


 理想郷はともかく、使っている技術はとんでもないものだ。実際、この技術があれば本当に理想郷を作ることもできるかも?

 もちろん、とんでもないエネルギーを消費したりするんだろうけど。まぁ、コスト的には買うより高くなるかもな。

 そういえば、この白球のエネルギー源は何だろう?


「エネルギー源ですか。なるほど。それも大きな謎ですね」リジンを見たら、もうおなか一杯といった顔で言った。何をやっても謎だらけだからな。


 少し待っていたら確率風は収まり、俺たちは無事に世界ゼロへ戻れたのだった。


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