58 気付いたら、無限回廊だった2
「世界Nはどれでしょう」リジンがそう言うと、ゆっくりと動き出した。世界Nは、ちょっと離れているようだ。
「ああ、こっちですね。勝手に体が動きます! これが世界Nですか!」世界Nを見付けたリジンは中を覗き込んだ。
「おお、本当ですね。見えます! ああ、マカラムが居眠りしてます」リジンに言われて、思わずヨセムも世界Nに飛んで行き中を覗き込んだ。
「ほんと? どれどれ」サラも食いついた。
「私にも見せてください」ビシャムも一緒に覗き込む。
「あれ、見えてないよ? 地球しか見えてない」サラが言った。
「えっ? 自分でズームして探すんだよ。」とヨセム。
「ああ、確かに自分の意思で視点が変わりますね。これは面白い!」ビシャムはこの機能そのものに興味があるようだ。実際、なんで操作できるのか分からない。
本来なら、こんな奇妙な世界はいち早く抜け出さなければならないところだが、研究者ばかりのせいかみんな我を忘れて飛び回っている。少しは、自分たちの事を心配しようよ。仕方ない、少しだけ付き合うか。
「なに! そう言うことか! 分かったのじゃ」ツウ姫も何をしているのか分かったようだ。ふわふわと近くの光球まで飛んで行ったと思ったら覗き込んだ。
「おおお、まるで空を飛んだ時のように見えるのぉ」覗き込んでズームしたようだ。確かに、防護スーツで飛んだ時に見た景色に似ているよな。
「ここが京都か! うん? ツウ姫2がおるぞ。はて、連絡してみようかのぉ」そんなことを言ったと思ったら、多重世界通信機で呼び出した。
「おお、通じた。元気しておるか? 元気そうじゃのぉ。なに、今は天界から見ておるのじゃ。 いや、心配は要らん。わらわは生きておる。天界のようなところから見られるのじゃ。そうじゃ、不思議じゃのぉ。おお、母上も見えるぞ」なんだか、ツウ姫がビデオ電話みたいなことをやり始めた。遅れてるのか進んでるのか分からない奴だな。
「ツウ姫やるわね!」それを見ていたメリスが感心して声を上げた。
「さすが、リュウに付いて来るだけはあるわね!」ユリも、びっくりしている。
「それぞれが違うものを見られる千里眼なんですね。しかもちゃんとリアルタイムで」ビシャムが言った。ツウ姫の行動で、それが証明されたわけだ。
「まさしく。これは、驚異ですね。しかし、非常に実用的でもある」世界Nの光球から戻って来たリジンが言った。
「ここまで来ると、俺の想像とは関係ないだろうな」単に似てただけだ。
「そうですね。単にアイデアが似ていたという事でしょう。ですが、発想が近いのは朗報でもありますね」
「朗報?」
「私たちに近い存在が、この無限回廊を作ったのでしょう」
「なるほど」
「仮想的であると同時に現実でもあるようですが。研究のし甲斐があります」
誰が作ったかはともかく、この新しい体験は、新発見に満ちていた。研究者が熱中するのも無理はないのだが、俺としては少し焦りを感じ始めていた。
* * *
「そろそろ、普通の世界に戻りたいんだが」そう言って俺は皆を集めた。
「ああ、そうですね。もう潮時ですね」とリジン。
「え~、もう帰るの?」とメリス。いや、訪問したわけじゃないから。
「そうよね。危険かも」とユリ。そうなんだよ。
「ちょっと、もうちょっと待ってください」ヨセムが防護スーツで可能な限りのデータを取っているようだ。
「もう、来れないかも知れないもんね?」そう言って、サラもヨセムの作業を手伝った。
「多重世界通信機が使えるのが驚きですね」とビシャム。確かに、ここは特定の世界では無い筈だ。何故使えるのかは分からない。俺たちにとってはありがたい謎だが。
データ収集を待っている間に、俺たちは世界ゼロに転移することに決めた。俺のチームの本拠地だし、今回の発見を報告する必要がある。俺は多重世界通信機を使って世界ゼロのホワンを呼び出した。今の状況の説明は省略して、これから転移を試みるとだけを伝えた。
「データの収集、完了しました」ヨセムが報告した。
「よし、じゃぁ、世界ゼロに行くか」
「どうやってい行くんです?」とヨセム。
「まぁ、この無限回廊を作ったのは俺じゃないが、俺の発想に似てるのでたぶん転移出来ると思う」
「リュウさんなら、どうするんでしょう?」とリジン。
「そうだな、この千里眼で場所を特定して転移する感じだ」と思い付いた方法を言った。
「なるほど。転移場所の特定が出来るんですね。そのための、千里眼ということですか」とリジンも納得したようだ。
「転移出来るとすればな。単なる覗きの道具じゃないってことさ」
「分かったわよ。じゃ、行きましょう」とメリス。
「うん。じゃ、まずは世界ゼロへ移動!」そう言って、世界ゼロの光球へ移動した。
世界ゼロでは、空間転移研究所の実験棟でホワンが待っている筈だ。
「じゃ、みんなこっち来て実験室を覗き込んで」
「それ、一人が行先決めるだけじゃだめなの?」とメリスが指摘した。
「あ、どうだろ? 行けるかも。じゃ、俺に続くつもりでいたらいい。ダメだったら、今言った通りに個別に空間転移研究所の実験棟にダイブすればいい」
「わかったわ」
「いいよ」
「了解」とリジン。
「はい」
「大丈夫です」
「どうぞ」
「あ、あのな。なんで縋りついてるんだ?」
「だって、くっ付いてたほうが確実な気がする」とメリス。
「そうそう」とユリ。
「私も」サラまでかよ。
俺、信用されてるんだか、されてないんだか。
「ええと、スペースモードに切り替えて。いいか? よし飛ぶぞ」
ともかく、俺は千里眼で世界ゼロの実験室を探し出して転移するイメージを思い浮かべた。転移トリガーは使っていない。このインターフェースを考えたものが俺と同じ考えなら、これで動くと思ったのだ。千里眼のズームは思考で操作出来たからな。
* * *
俺たちは、実験室の天井付近に現れ、ゆっくりと降下した。イメージ通りだ。
「うわっ!」実験室にいたホワンが思いっきり驚いた顔をした。
君、転移実験室に転移して驚いちゃいかんよ。修行が足りん。
「ホントに来たっ!」トウカが叫んだ。
「こんな風に現れるんだね!」マナブは感心するように言った。
でも、俺の確率要素転移を見るのは二度目なんだけど?
「なかなか快適な転移だったよ!」まぁ、転移した俺も成功してびっくりしてるけど。
「驚いた。本当に団体で転移して来たな」とホワン。まぁ、確かに。
「しかも、転移カプセル関係無いし」とトウカ。そういえば、懐かしいなこのカプセル。もう、二度と入りたくないが。
「とにかく、よく来たな!」ホワンが歓迎してくれた。ホワンも懐かしい。
「おう。それよりなホワン。実は今、俺たちは驚くべき体験をしてきたところなんだ」俺が言った。ここのみんなは、普通の転移だと思ってる筈だ。
「なに?」ホワンは言って急に厳しい顔をした。
「ほんとなのよ!」とメリス。
「凄かった!」とユリ。
「予定より人数が多いようだが、それどころじゃ無さそうだな! 分かった。場所を変えて、ゆっくり聞かせて貰おうじゃないか」ホワンは緊張した声で言った。




