57 気付いたら、無限回廊だった1
藤原邸の裏庭で、ヨセムが作ってくれた転移トリガーを起動した。実のところ、まだ実験段階なので転移出来るとは思っていなかった。しかし、転移トリガーはその効力を発揮した。しかも、思ってもみない方向で。
俺が手首の外側の位置にあるトリガーボタンを押すと、通常の転移と同様に目の前が暗転した。
* * *
次の瞬間、俺たちはまばゆい光の中に放り込まれた。
いや、正確には光の前に浮いていた。目の前には、大きな綿菓子のような光る球体が浮いている。そして周りにも沢山の球体が浮いていた。目の前の一番眩い球体は一メートルほどもある。その周りにある球体も同じサイズだと思われるが、少し離れた所に浮いている。そしてそれは何処までも続いていた。
「なんだこれは?」俺は思わず独り言ちていた。
その光球は雲のようにフワフワした感じだが、動くことなく静止していた。そこで動いているのは俺たちだけだった。
そう、俺たちだ。周りを見ると全員が一緒に宇宙遊泳をしているように浮いていた。
無重量だが、ここは宇宙空間ではないようだ。何故なら、防護スーツがスペースモードになっていないからだ。そして呼吸も出来る。普通に声が出せるが、とりあえず多重世界通信機をオンにした。通信できることを確認出来たので少し安心した。
俺たちは転移したはずだ、だがそこは俺が行こうとしていた世界Lではなかった。転移トリガーは失敗したのか? 何処だか見知らぬ世界に飛ばされてしまったのか?
「こ、ここはどこでしょうか?」リジンが言った。
「わからん」
実際、分からない。が、何処かで見たことがある気がした。自分の記憶を探る。
「まるで」
「まるで?」とリジン。
「俺が空想した世界のようだ」思わず言ってしまった。
「リュウが空想した世界? わ、動ける!」そう言って、メリスがふわふわと近寄って来た。
「行きたい方向に動けるよ!」とメリスが言うので、俺も少し動いてみる。確かに動けた。みんな試しに動いてみる。
「なるほど。不思議な現象だな」
「これはリュウの想像した通りなの?」メリスが聞いた。
「どうだったかな。確かに、多重世界はこんな感じじゃないかって思ったことはある。もっと漠然とだが」
「リュウのイメージ通りってこと?」とユリ。
「まぁ、そうだな」
「えっ? 多重世界って、沢山の世界の糸が集まったロープのようなものなんじゃないの?」とメリスが言った。
「え? ああ、それは時間の概念を入れた場合のイメージだろ? 今見てるこの世界は、そのロープの断面になる」と俺は説明した。
「ええと、これが断面?」とメリス。
「そう。その断面にある世界はどうなる?」
「どうなるって、線は点になるわね」
「そう。それが、周りに浮いてる光球なんだろう」
「ああ、この光球が一つの世界なのね」メリスはフワフワ近寄って見た。
「そうだな」言って俺も近くの光る球体まで行って触れてみる。光球は、柔らかい壁のような弾力を感じた。そして、中を覗き込んでみた。
するとそこには、地球が見えた。中を覗こうと思うとズームして見ることが出来る。これは、ハワイ王国か? さらにズームすると、マリ王女の部屋が見えた。部屋では、マリ王女がすやすやと寝ていた。もう、朝だぞ。ってか、ちょっと寝相が悪い。あ、メイが来て、呆れてる。
俺が笑っていたら、みんなが奇妙な顔をしていた。
「世界Hのマリ王女が見えた。この光球は世界Hだ」
「え~まじ? 見せて見せて」メリスが食いついた。
「え~っと、どれどれ。わ~、ほんとだ。かわいい! って、透視できるじゃん!」
「あ、確かにそうだな。凄いなこれ」
「マリ王女、眠そう。お~い」
「いや、それは無理だろう」
「そうなの?」いや、わからんが。
「あ、寄ったら言ってること聞こえるよ!」とメリス。ズームすれば会話も聞こえるのか!
「マリ王女! 聞こえる?」メリスが声を掛けたようだ。
「聞こえないみたいね」メリスは、ちょっと残念そうに言う。確かに聞こえたら凄いが、地上で聞いてたら天啓みたいでヤバいだろ!
「これ、千里眼みたいだね!」とメリス。
「千里眼って映像だけだろう? 音も聞こえるから、それ以上だな。まぁ、映像に壁の振動まで入っていたら、そこから音声を再現できそうだけど」
「リュウって普通に発明っぽいこと言うよね」うん? メリス作る気あるのか? 音声再現装置付き双眼鏡。まぁ、無理だろうけど。
「ほんとに世界Hなの? わっ、ほんとだ~。あ、メイに叱られてる」ユリまで覗き込んでいる。いや、これ後でマリに叱られそうだな。
「これ、覗き放題じゃない!」そう言って俺を睨むメリス。俺、なんで非難されてんだ?
「いやいや、俺はそんな想像してないぞ!」俺のせいじゃないからな! てか、想像しただけなら無罪だろ?
「ほんとかな~?」俺って、意外と信用無いのかも。ヤバイのは、これ作った奴だ!
「これは、多重世界そのもののようですね。」リジンが冷静に分析して言った。
俺は光球がひしめき合っている周囲を見渡した。
「ってことは、この辺りには俺たちが行った世界が集まってるってことか?」
見た感じ等間隔で光球が浮かんでいる。光球自体は、どれも雲のようにふわりとした印象だが、押して動かすことは出来ないようだ。
その光球はどこまでも続いているが、水平方向に光球が集まっているようで、天の川以上に濃く帯状に見えている。
「まるで銀河だな」俺は独り言ちた。
「本当ね」とメリス。
「多重世界銀河? でも綺麗」とユリ。二人とも、俺の横に漂ってきていた。実際、白だけじゃなく、いろんな色で光っていた。
確かに綺麗だが、こんな奇妙なところにいつまでもいる訳にはいかない。




