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多重世界の旅人  作者: りゅう
無限回廊編
52/128

52 存在確率と確率風

 多重世界研究室での発表の後も歓迎式典の熱気は続いていた。

 研究室内部と外部では温度差があるようだ。まぁ、内部は内部で大騒ぎにはなっていたのだが。

 それでも数日が過ぎれば一時の喧騒は無くなっていた。とは言え、これからが本番だ。ここは世界Nの空間転移研究所だからな。世界ゼロや世界Lに行った時以上に注目が集まっている。


「流石に聞く立場と話す立場は違うわね」とメリス。世界ゼロの時は、興味津々で集まって来た人間の一人だったからな。

「そうだね。興味本位の視線って結構きついよね」とユリ。こっちは、一般のインタビューに閉口したようだ。

「まぁな。お前たちも同じだったけど」

「それを言われると弱い」とメリス。

「ごめんなさい」ユリは素直だな。うん。

「まぁでも、ヒーローと言うか芸能人とかと同じなんだろな。そう言う意味では大したことないのかも」

「そうね。願ったわけじゃないけど」とメリス。

「そうよね」

「決めポーズを作るのじゃ!」一人違うやつがいた。そういや、ポーズ決めてなかったか?

「ああ、ツウ姫の言う通りかも。そういう気持ちでいればいいのよ」とメリス。

「そうか! 楽しんじゃえばいいんだ!」とユリ。

「ふふふ。分かっておるのぉ」

「お主も悪よのぉ」

「先に言われたのじゃ」絶対狙ってると思った。


  *  *  *


 先日の俺たちの発表で多重世界研究室は大いに湧いた。冷静に聞いてたように思ったが、単に抑えていただけのようだ。何しろ、研究員の数が半端ないからな。

 その後、しばらく各チームで大騒ぎをしてたようで、終いには研究所としては既存の研究は一旦停止して、新たなテーマに向けて特設チームを組むということになった。

 まずは各チームで候補となる案件を絞り込み、来週の企画会議で具体的な研究テーマとして発表するということになった。もちろん、この企画会議には俺たち四人もアドバイザーという形で参加する。


  *  *  *


 企画会議で彼等から上がって来た研究テーマは以下のようなものだった。


特設研究テーマ

 ・転移先決定法

 ・存在確率測定法

 ・確率風測定法

 ・確率要素転移のエネルギー源の調査

 ・多重世界通信機

 ・防護スーツの改良


 最初の転移先決定法については既存の転移装置でもやっていたが、今回の報告を受けて転移先を決定するヒントが得られたからとのことだった。転移装置関連の各チームから一名、合計五名の特設チームとなった。チームリーダーはマカラム。


 次に、存在確率測定法と確率風測定法だが、これについてはまだ確たる手がかりがない。現状は俺の感覚頼りでしかないので、各チームから関心のあるものが出て俺の経験などから手掛かりを模索していくことになった。


 確率要素転移のエネルギー源については更に情報が少ない。

 転移装置の状態を管理しているコーリンが特に興味を持ち、俺たちの防護スーツに各種センサーやデータロガーを追加したいと言ってきたので了承した。まぁ、実際に転移して帰って来た時にはデータを渡せるかも知れないという気の長い話だ。


 また、多重世界通信機については、この世界の物のほうが優秀だ。実際に俺たちの通信を一部だが傍受できたのは凄いことだ。ただ、世界ゼロや世界Lと直接通信出来ている訳ではないのが惜しいところだ。当然、これが次の目標だと言う。

 この研究には、多重世界通信機のチームからビシャムとサラが参加することになった。


 最後は防護スーツだ。

 俺たちのスーツと彼らのスーツから更にいいものを作る予定だ。今まで転移が夢物語だった彼等にとって、実際に複数の多重世界を渡り歩いてきた俺たちのスーツは非常に価値がある。実際に自分たちも転移で使う可能性が出てきたことも大きい。もう、夢ではないのだ。宇宙を含め実績のある実用品が必要なのだ。

 この特設チームは防護スーツチームがそのまま対応し、俺とメリスが協力することになった。


  *  *  *


 特設チームの中で最初に大きな動きがあったのは、まず多重世界通信機チームだった。次の多重世界研究室の企画会議で発表された。


 多重世界通信機は初めて転移した世界では使えたことがない。その世界で使える転移発光物質を持っていないからだ。つまり、役立たずなのだ。だが、そう言われた多重世界通信機のチームリーダー、ビシャムが奮起したようだ。

 新しい世界へ転移した直後に多重世界通信を使うためには、転移先で使えそうな転移発光物質を予め用意しておく必要がある。しかし、転移先を特定していない状況では、まず無理である。

 だが、ビシャムは特定の物質を用意するのではなく、発光する条件をゆるくすることを考えた。具体的には、より遠い世界を通信のターゲットに指定すれば、転移先で絶滅している可能性が増大し通信可能な世界が増えると考えたのである。

 これは、見事に成功した。また、この方法は転移先の世界を選択することでもあったので研究所は大騒ぎである。つまり、ビシャムは通信能力の向上と同時に、転移先の決定要因のひとつを見つけたことになる。


「やったな~ビシャム! サラ!」リジンも大絶賛である。

「くっそ~っ、先を越された~っ」転移先研究チームのマカラムが悔しがった。実際、パラメータとしては操作する予定だったようだ。


「重力加速器を調整しただけでうまく行くとはな! まぁ、そういう視点では調査してなかったから仕方ないが」マカラム、諦めきれない様子。

「凄いな! これで、前より気軽に転移できるよ」俺はビシャムに言った。なにより、初めての世界でも通信できる可能性が高くなったのだ。


 実は、多重世界通信機が役立たずだと言ったのは俺だ。だって、ホントに使えないことが多かったからだ。


「リュウさんたちが来てくれたお陰です。実際に通信機を比較できましたからね!」ビシャムは嬉しそうに言う。


 彼は、通信機のターゲットが世界ゼロは近く世界Nは遠いということを突き止めたのだ。ターゲットが近い場合、発光できる物質が限定されてしまう。


「いや、それで発明できるビシャムが凄いのは変わらない」俺は言った。


 ビシャムはちょっと照れるような表情で笑った。


  *  *  *


 次に成果を上げたのは存在確率測定法だった。


「特設チームの中では、存在確率という一番難しそうな課題だったのにな! これが進展したのは大きいぞ」リジンが手放しで絶賛した。


 測定出来たのは世界の存在確率の相対値ではあるが、世界間の位置関係が分かることは大きい。


「出発点は、ユリさんの話でした」サラは発見の経緯をそんな風に言った。

「同じ発光物質でも別の世界のものは光り方が違うと言うのは本当でした」とサラ。これは俺たちの発表の中で、ユリが言ったことだ。

「その話を聞いて、発光物質の量を精密に測定して比較することにしました。そしたら、光り方の違いは採取した世界の違いだと分かったんです。そうなると、要因としては持ち出した世界の存在確率そのものしか思い浮かびません。発光強度の比率は存在確率の比率と思われます」


「なるほど。この発見は、ユリとサラ、二人の成果か」と俺は言った。

「そうね」とサラ。ユリもちょっと頷いた。


「物質を別の世界に移動させても、元の世界の存在確率を引きずっているってことも大発見だよな」

「そうですね。それは、大きいと思います。出自を多重世界が知っていると思うと、胸が熱くなります」とリジンが興奮気味に言う。


「つまり、俺はどこまで行っても『世界R出身』が付いて回る訳か」

「そうね。でも、そのお陰で全員元の世界に帰れたんじゃない?」とメリス。

「ああそうね。間違うことなく帰れたもんね」とユリ。

「なるほど。そう考えると、頼もしいな」世界が戻してくれたとも言えるのか。


「そういえば、リュウさんが言ってた通信中の揺らぎについてもちょっと気になってます。私が調査してもいいですか?」とサラが言った。

「ああ、頼む」


 多重世界通信機チームの発表の時、俺が気になったことを覚えていたらしい。通信機の開発中に転移発光セルが会話もしていないのに、ちらつくことがあったのだ。


  *  *  *


 結論から言うと、通信中の揺らぎとは確率風のことだった。世界の存在確率が測定できるようになっただけでなく、確率風も捕まえることが出来た! この世界Nの研究者は凄い。続々と成果を出していっている。


「これ、凄いね!」とメリスも驚きを隠せない。

「仮説でしかなかった確率風が測定出来たんだから凄い。この揺らぎが無くなった時に転移すれば行きたいところへ行けるって訳だ」これは、本当にありがたい。

「ふふ。これはリュウさんのお陰よ」サラはさらっと言う。いや、発見したのお前らだから。

 サラの発表を聞いていたリジンも満足そうだ。


 いづれにしても、存在確率測定機と確率風測定機という、ほとんど実現できそうも無かった二つの計測機が暫定ながらも実現し、空間転移装置の転移先まで決定できそうなのは大きな前進である。このことは、研究所だけではなく、この世界の一大ニュースとなってセンセーショナルに伝えられるのだった。


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