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多重世界の旅人  作者: りゅう
無限回廊編
51/128

51 多重世界研究室

 この世界の空間転移研究所では、リジンは多重世界研究室の室長だった。

 第一研究室というのは無いらしく、リジンは生体医療研究者ではなかった。


 歓迎会の翌日は、ちょっとした確認だけで一日休養した。そして、俺たちが、多重世界研究室のレクチャールームで研究室メンバーに紹介されたのは、その次の日だった。

 俺たちは四角く並べられた長テーブルの一つに付いた。残りは全て研究所の研究員である。俺たちの紹介は歓迎会で一度やっているので軽く済ませ、後は沢山いる研究員の紹介になった。


「えっ? 生体医療の研究者じゃないの?」最初のリジンの自己紹介で俺は驚いて聞いた。


「ち、違いますよ。以前はやってましたけど、今は多重世界専門です」以前はやってたんだ。微妙に違うんだな。


「っていうか、ホワンがいない!」メリスが指摘した。

「そもそも、第一研究室が無いし!」これはユリだ。俺も驚いている。世界が違うのだから当たり前と言えば当たり前なんだが。

「それだけ、違った世界だということだな」

「そうだね」メリスも納得した。

「遠いんだね」ユリも認めるしかないという顔だ。

「思えば遠く来たもんじゃ」ツウ姫はちょっと違うよな。


「驚くのは分かりますが、落ち着いてください」リジンに注意されてしまった。ただ、俺たちの反応そのものが面白いようで、みんな興味深そうに聞いていた。

「ああすまん、続けてくれ」


「こほん。では、私はこの多重世界研究室の室長ということで、次にメンバーの紹介をします」リジンが研究員を見て言った。さぁ、問題はここだ。


「まずは、転移装置、重力加速器チーム十名」向かいにいる十名が目礼した。

「チームリーダーはマカラム」

「マカラムです。よろしく」誠実そうな男だ。


「次に、陽電子発生器チーム十名」次の十名がお辞儀した。よく分からない装置だ。

「チームリーダーはトマム」

「トマムです。よろしくお願いします」


「フェーズシフトチームの五名」さらに良く分からない装置のチームが紹介された。

「チームリーダーのコーリン」

「コーリンです。よろしくね!」


「空間調査チームの十名」唯一防護スーツじゃない服装の一団が挨拶した。と言っても、発掘隊のような恰好だ。

「チームリーダーのニコライ」

「ニコライだ。よろしくな!」精悍な感じの男だ。


「ここまでは、転移装置関連のチームだ」リジンが言った。まだいるのか。

「次に多重世界通信機チームだ」クロスワールドという呼び名は止めたのか? 俺たちに合わせてくれたらしい。

「通信用転移装置チーム十名」

「チームリーダーのビシャム」ビシャムは軽く目礼した。


「転移発光体調査チーム十名」

「チームリーダーのサラ」

「サラよ。よろしくね!」赤毛の小柄な女性だった。


「防護スーツチーム五名」

「チームリーダーのヨセム」

「ヨセムです。いろいろ話を聞かせてください。よろしく!」


「以上が、多重世界研究室の構成です。他にも協力者はいますが、今日のところはいいでしょう」ひとまず、一区切りという顔で言った。まぁ、お疲れ。


「それから、多重世界研究室の全チームリーダー七名で構成する企画会議があります。この企画会議で多重世界研究室の活動全般を決めていますので、リュウさんたちにも是非参加をお願いします」


「大所帯だな」俺は、思わず言っていた。

「そうですか? これからもっと増やすことになるでしょう」リジンは当然のように言った。


  *  *  *


「それじゃ、まずはこちらのチームの現状をリーダーから説明してもらいましょう」リジンはそういって、現在の研究状況をリーダーに説明させた。


 彼らの話によると、この世界の転移装置の転移は上流下流どちらも一つの世界らしい。世界ゼロや世界Lのように十世界ではない。つまり世界ゼロや世界Lの目標である特定の世界を選択するという目標はクリアしている訳だ。ただ、転移の方向については世界ゼロや世界Lと同じく上流から下流だった。また、別の世界の選択も出来なかった。つまり固定だった。

 それから、多重世界通信機は下流の単一世界をターゲットにしているため、転移発光セルの選択が容易で安定しているとのこと。確かに、世界ゼロや世界Lでは複数の発光セルを使っていたので安定しなかった。転移装置の性能がそのまま通信機にも出た形だ。

 また、この世界では俺たちと同じ苔以外にカビや酵母なども転移発光物質として使っていた。より単純なものほど広い宇宙での存在が期待出来るからだと言う。

 俺は他の種族に傍受されないほうがいいと思うが、これは目的によるだろう。別世界の宇宙人に応答してほしいのか?


  *  *  *


 最後に、俺が俺たちについて説明した。


「俺は、元は世界Rの人間だ。世界ゼロの転移実験に巻き込まれて多重世界を転移するようになったが、元々は一般人だ。いろいろあって今では世界ゼロの空間転移研究所に所属してチームリーダーをやっているが、研究者ではない。たまたま多重世界を移動できるようになっただけの、単なる旅人だ」俺は、こう話始めた。


「次に、この二人の女性メリスとユリは、世界ゼロの空間転移研究所の研究者だ。研究所公認で俺の旅に付き合ってくれている。ただし、ツウ姫に至っては全くの素人で一般人だ。本来彼女には何の義務もない。これはまず知っておいてくれ」俺が言うとリジンが頷いた。


「こういうチームなので、俺たちに対する支援は歓迎するが自分たちの生命や活動を最優先とさせてもらう。その上での協力関係ならば歓迎する」


「問題ありません。あなたたちは私たちに対して何の義務もありません。むしろ、情報の提供に合意してくれて感謝しています」リジンが言った。

「情報提供については、お互い様だとは思うがな」俺は素直に言った。


  *  *  *


 そして、俺は俺たちが経験したことや思い付いたことなどを順を追って話していった。

 まず、関心を寄せられたのは、世界Lのレジンが気が付いた「空間転移と確率要素転移」だった。


「『空間転移』と『確率要素転移』は、どう違うのでしょう?」リジンが言った。

「よくは分かっていない。どちらも転移装置の実験で発生している。転移形態が明らかに違っているので区別しているだけだ。恐らく、この違いを決めている要因を見つけていないのだと思う」そう言って、研究者たちを見渡した。みんな固唾をのんで聞いている。


「ただ、転移装置を使わない俺たちの転移では、必ず『確率要素転移』になる。もしかすると、『空間転移』のほうが多重世界のルール的には特殊なのかも知れない」


「なるほど。空間転移装置のほうは、多重世界のルールを無視して強引に転移させているということでしょうか?」少し考えてからリジンが言った。

「その可能性が高いと思う。さらに不思議なのは俺たちの『確率要素転移』の場合は、特別なエネルギーを使っていないということだ。物体を転移させているのだから途方もないエネルギーを使いそうだが、俺たちはエネルギー源を持ち歩いていない。何が俺たちを転移させているのか不明だ」

「そうですね。それが最大の謎でしょう」リジンが腕を組んで言った。ちょっと考えを巡らせているようだ。


「それから、『確率要素転移』では自分の行きたい場所へ転移出来るようだ。これも『確率要素転移』の大きな特徴と言えるだろう。実際に行ったことのある場所限定だが、自分の意思で転移先を決めることが出来るのは確かだ。実際、複数の世界R、世界ゼロ、世界L、世界Sへとそれぞれが戻れたからだ。さらに、こうして再集結することも出来た」研究者たちから、唸るような声が聞こえた。


「それが、次なる謎ですね。まったく驚くばかりです」リジンがさらに言った。

「恐らく、人間の思考そのものが存在確率を変動させているのだと思う」

「それは、どうでしょうね。ただ、私たちの目標に近い形の転移なので、『確率要素転移』は非常に興味があります。空間切り取り型では危険すぎますからね」

「そうだな」他の研究員たちも頷いている。


「人間の思考が存在確率に与える影響については、これも大きなテーマですが解明は難しいでしょうね」とリジン。確かに、脳の中は扱いが難しい。実験が出来ないからだ。

「そうだな」


「ちょっといいですか?」マカラムから声が掛かった。

「どうぞ」

「自分の意思で転移先が決められるとの事ですが、最初は決めていなかったように聞こえましたが?」


「そうだ。自分の意思で転移したのは、各自の世界に戻る時とこの世界へ来るときだけだ。さらに、自由に選べるのは多重世界での転移の流れが弱いときだけのようだ」


「転移の流れ?」マカラムは、ピンと来ていないようだ。

「そう。俺は確率風と言ってるが、確率要素転移では大きくジャンプする場合と小さくズレる場合があることに気付いた。あたかも流れに乗ったように。そして、殆ど流れが止まったときに自分たちの願い通りの世界に移動出来るようだ」


「確率風ですか。それは転移装置の転移が上流から下流に一方通行なのと関係していると思いますか?」

「恐らく似たような力だと思う。ただ、俺が立ち会った実験だと、転移装置の流れの強さは一定のように見えた。だが、俺たちだけで転移した場合は流れに強弱があるように思う」

「それは、更に興味深い!」リジンだ。


「そして、俺たちが自分の意思で転移出来たのは、この力が弱まっているときだけだと思う。俺は無風だと判断した。確率風が無風のとき、希望通りの転移ができた訳だ」


「確率風が止まったと?」マカラムだ。

「確率風が無風状態のとき限定で自由な転移が出来るんだと思う」

「無風状態を測定する方法は?」マカラムは更に興奮したように言った。

「残念ながら分からない。たまたま俺たちが流されていて無風状態になったと認識しただけだ。それ以外では今のところ分からない」

「それは、今後の重要なテーマですね!」マカラムが言った。

「そうですね。確率風を測定できれば大きな前進になります。自由に転移出来るかもしれません。少なくとも、その可能性が高くなるでしょう」リジンも異存は無いようだ。


「ただ、もう一つの可能性があるかも知れません」とリジン。

「もう一つの可能性?」

「ええ、転移装置が確率風にあまり影響を受けていない点のほうが重要かもしれません」

「なるほど。転移装置が流れを作っていると?」

「そうですね。つまり、まだターゲットの世界を変更出来ていませんが、固定できているので流れを作っていると言えると思います」


「そうか。弱い力でヨットのように転移する俺たちとは違う訳ですね」

「はい。転移装置は動力を積んだ船。うまく、力を制御出来れば、こちらのほうが有利でしょう」

「ええ、そうですね!」俺は強く同意した。意志による弱い力に頼るより、確実に転移出来るほうがいいに決まってる。マカラムや、トマム、コーリンといった転移装置のチームからも明るい声が上がった。


 この日は、顔合わせの会合だったにもかかわらず遅くまで議論が続いたのだった。


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