50 何故かヒーローだった
空間転移研究所へ到着した俺たちは意外な光景を目の当たりにした。
研究所員総出の熱烈な歓迎を受けてしまったのだ。何ごと?
「ようこそ、この世界へ!」誰かが言った。
「よくぞ、ここまで!」
「到達を歓迎します!」
「待ってました~!」
「いらっしゃ~いっ!」
「キターーーーーー」おいっ。
なにこれ? なにがどうなった? っていうか、俺たちのこと知ってるの?
なんか、紙吹雪とか舞ってるし。
エアカーから降りて来た道の両側に研究者たちが並んで待っていた。それだけ聞くとヒーローを迎えた群衆なのだが彼ら自身も防護スーツ姿でヒーローっぽいのが笑える。『ヒーローの星に帰って来たヒーロー』みたいな絵面だ。まぁ、世界は違うが同じ研究者だからな。似てるのは分かるんだが。
「きゃ~、ツウ姫こっち向いて~っ!」
「メリスさ~んっ」
「アレがリュウか、意外と小さいな」大きなお世話。
「すみません。この研究所では皆さんは有名人なんですよ」俺たちを先導しているリジンが言った。それ、先に言っとけよ。びっくりするじゃないか。
「なるほど。研究者ですからね。研究対象が自分から歩いて来たようなものですよね」カモネギか?
「でも、研究所の周りにも人だかりが出来てたのは何故でしょう?」屋上に到着する時に見えていたのだ。
「えっ。あれは、一般人ですよ。ニュースで流れましたからね!」とリジンが真顔でとんでもない事を言った。なんだって~っ? 聞いてないんだけど?
どうも、この世界のトップニュースになっていたらしい。芸能人か? あ? 俺たちが宇宙人扱いなのか? もしかして特番組まれてるのか? 緑の顔じゃないけどいいのか?
「私たち、人気者なの? それとも見世物?」メリスが不安そうに言った。
「どうだろうな。日本語の話せる宇宙人状態なんじゃないか?」
「そうだね。あれ、まんま私たちだったのね」メリスが、ちょっとがっくりしてる。
「そだね~。まぁ、お互い様だけど」とユリ。
「何言ってんですか! ヒーローですよ!」とリジンが振り向いて言った。
「ヒーローって何じゃ?」ツウ姫はイミフだよな。
「英雄のことよ!」ユリが教えてあげる。
「別に、手柄は立てとらんぞ?」
「そうよね」とユリ。
「ほんとよ」とメリス。
「世界の壁を超えたんです! 偉業です!」リジンが、当然のように言った。
「ああ、なるほど。世界の壁ね。って、いつもだけど」
「そういうことね。普通だよね」とメリス。
「そうね。もう日常よね」とユリ。
「壁抜けの術じゃ! わらわは天女から『くノ一』になったのじゃ!」とツウ姫。確かにな。嬉しそうだけど、天女のほうが良くないか? くノ一でいいのか? 降格してないか?
さすがに屋上からの通路には誰もいなかった。俺たちはリジンに連れられ研究所の中に入っていった。
研究所に入ってすぐに、俺たちはメディカルセンターで全身スキャンを受けた。そして特に問題は無かったらしく、その後はイベントホールのような場所に連れて行かれた。短時間のスキャンだったが、あれで大丈夫なんだろうか? 世界ゼロに転移した時とは雲泥の差だった。
* * *
イベントホールの楽屋で待っていると、女性の司会者らしい声が聞こえて来た。
「本日はなんと、多重世界の冒険者リュウさんたちが、この世界に来てくれました! 待ちに待った多重世界を渡り歩く冒険者の登場です! 今までは、会話のみで彼らの姿は想像するしかありませんでしたが、ついにこうして実際に会ってお話を聞ける日がやってまいりました! きっと私たちの願いが天に届いたのでしょう!」冒険者だっけ?
「それでは、別世界から来た冒険者の登場です。みなさん大きな拍手でお迎えください!」
司会の声を合図に、俺たちはホールのお立ち台のような場所へと案内された。
何これ。俺たちの会話全部聞かれてたのか? 一般人にも? やばい会話とか聞かれてたりするのか? 俺はちょっと緊張してきた。多重世界盗聴禁止条約とか必要なんじゃないか? 電波法で通信の守秘義務ってないのか?
案内役のリジンを先頭に俺、メリス、ユリ、ツウ姫と五人の姿が見えると、黄色い声が混じった歓声が沸き起こった。特に、ツウ姫が人気らしい。まぁ、分かる気もするが。
リジンが俺たちを紹介すると研究所長が出て来て歓迎の意を表明して俺たちの活動を全力で支援すると約束してくれた。いや、どっちかというと俺、遊びに来たんだけど? 活動とか特に決めてないんだけど? あと、さすがに冒険者はちょっと違うんじゃないか?
この世界の空間転移研究所は、科学省空間転移研究所と言う名称だった。他にも関係機関らしい人が出て来て挨拶していたが全く分からない。
* * *
そして、そのうちにインタビューが始まった。
「では、まずチームリュウの存在に最初に気付いたリジンさんにお話を伺いましょう」司会者が登場してリジンに話を振った。
「発見者の一人として、お会いした時の感想は如何でしたか?」司会者は俺たちを見つつリジンにマイクを向けた。
「はい、初めて多重世界通信機に反応があったと報告を受けた時以上に興奮しています。あの時は、思わずベッドから落ちそうになりましたが」
「おやおや、大丈夫でしたか?」お道化た風に、オーバーアクションの司会者。
「はい。しかし、ベッドから落ちる以上の衝撃ですからね。しかも、今回は声の主が目の前に居るのです。憧れの人に会ったというか、神様に会ったような気がしました」
あれ? そうだっけ? なんか、盛りすぎじゃない? これって、パフォーマンスなのか?
「ええ、そうでしょうね。私たちも、別世界人がいるなどとは信じられませんでしたが、記録した会話を聞かされて事実なのだと理解しましたね」
ああ、あのアホな会話が聞かれたんだろうか?
「そうですね。非常に人間味のある会話なので逆に信用できました。最初の会話はリュウさんとレジンさんの会話でした。ここにレジンさんが居ないのは残念ですが、私の等価体のようなので、気分的にはちょっとほっとしています」そう言ってリジンは笑った。
等価体ってのは、ドッペルゲンガーのことか? ああ、ちょっと違う奴のほうか。ツウ姫とツウ姫2みたいな関係の人間のことらしい。ってことは、世界Sつまり仙台時代に行ったときから聞かれていたようだ。
思い返してみると多重世界通信機を使ったのは、最初に世界Lにコンタクトしようとした時と世界Mと世界Hで肺炎のリモート診断をした時くらいしかない。リジンもほっとしたようだが別の意味で俺もほっとした。
「それでは、お待ちかね別世界からおいでくださったリュウさんにお話をお伺いします」そういって司会者はマイクを向けて来た。
「どうも、こんにちは。初めまして。いままで等価体に会ったことがないリュウです。何故か研究者の真似事していますが本来は普通のエンジニアなので、この世界の等価体の方がいたとしても目立つことはしていないと思います。特に探したりしないのでご安心ください」
とりあえず、ちょっと笑いを取った。
「リュウさんは、いくつかの世界に転移されているようですが、一番遠い転移先はどこでしょうか?」司会者はリストを見つつ聞いてきた。用意された質問らしい。
「そうですね。一番遠いのは、木星の衛星ガニメデでした」俺は素直に言った。
「な、なんと衛星ガニメデだそうです! 既に宇宙へ飛び出していたようです! まさに、我々が期待していた転移を既に経験済みということです! これは驚きました!」司会者は大きく目を見開いて叫んだ。会場もどよめいている。どうも、ニュースが流れた段階で、いろいろな可能性が話題になっていたようだ。まぁ、そうだろうな。
ガニメデに行ったのは知らなかったのか。確かに、ガニメデでは転移発光物質は見付けたが多重世界通信機を使った会話はしていない。例え信号を受信したとしても位置は特定できないしな。
ガニメデ基地については更にいろいろ聞かれた。この世界にもガニメデ基地はあるようだが、どうもこの世界の基地ではないらしい。
* * *
その後も歓迎式典は続き。用意された部屋に俺たちが入ったのは夜も九時過ぎだった。
「はぁ~、疲れたわね~。どうなってんのよ、この世界」とメリスが俺のベッドに倒れ込んで、吐き出すように言った。
「お前、自分の部屋で休めよ」
俺の部屋は、二人用で意外と広いが四人では狭い。
「いいじゃない、ちょっとくらい」
とりあえず食事はしたので俺は全員分のコーヒーを淹れた。ツウ姫はお茶のほうがいいかと思ったが意外と喜んでいる。「舶来のお茶じゃな?」だそうだ。
「とりあえず、多重世界通信で聞かれたのは、南の島でのレジンとのやり取りと、ツウ姫の母親の診察関係だけみたいだな」
「そうね。ちょっと不思議。ガニメデでは通信して無いから仕方ないけど、全員が自分の世界へ戻った時の会話が聞かれなかったのは、何故かしらね」メリスは気付いたようだ。
「万能に思える多重世界通信器にも限界があるのかもな」
「そうね」
「私は最初の空から落ちてた時の会話が聞かれなくてほっとしてる」とユリ。
「お前、それを今言うのか?」
「あっ」
「なんじゃ? そんなことがあったのか?」
「あのね~っ」メリスが要らんことを言おうとしている。
「おいっ、帰って寝ろ!」
「は~いっ」
「帰って聞くのじゃ」こらこら。




