46 ツウ姫2
次の日の朝、廊下をバタバタと走って来る者がいた。
「リュウ殿! リュウ殿!」障子を勢いよく開けると叫んだ。
「またお前か! 廊下は走るな!」
「ここは縁側じゃ! 廊下ではない!」ツウ姫だ。何それ?
「で、どうした?」
「ツウ姫2、ツウ姫2が来た!」
「なに? 若いツウ姫2か?」
「そ、そうじゃ。母上ではない」
「なに? 一人で転移したのか?」
「わらわは知らん! 目覚めたら、隣にいたのじゃ!」
「ちょっと、行ってもいいか?」
「そうじゃの。母上はもうすっかり良くなったし大丈夫じゃろう」
「じゃいくか」
「私も行く」メリスも起きてきた。
「私も行くよ」ユリもか。
ツウ姫の母親、セツの部屋に行ってみると、母親に抱き着いているツウ姫2がいた。
「かあさま~っ」
亡くなったと思っていた娘が生きていただけで驚きなのに二人に増えていた母親の心境は複雑だと思うが嬉しそうに抱き寄せていた。ただ、騒ぎで駆け付けたタダヨシは驚くばかりだ。当然だよな。突然、娘が二人できた訳だし。
俺たちはツウ姫たちを残し客間に戻ることにした。
* * *
「どうなってんの?」さすがに、メリスも困惑気味だ。
「わからん。あ、そう言えば昨夜母親に会いたいと言ってたな」
「ツウ姫2と話したの?」
「ああ、通信して来た」
「なら、やっぱりそれかしらね?」ちょっと考えてメリスが言った。
「うん? どういうことだ?」
「きっとリュウに話したから転移できたのよ。リュウは会わせたいって思ったんじゃない?」
「あ? 俺が願ったから転移したってのか?」
「そう」
「それ、あるかもね~」ユリまでか。
「マジか」俺がトリガーかよ。
流石に眉唾だと思ってレジンにも聞いてみた。
ー それは、分かりませんね。このところ、近傍の世界を行き来しているようですので、あまり転移に障害がないのでは?
ー なんのことだ?
ー 坂道を転がりながら、穴に落ちるって話をしたのを覚えてますか?
ー ああ、そんな話したな。
ー 今の状況を見ると。坂道ではなく、平坦な印象ですね。小さい穴があったから入った。すぐに埋まって隣に移動するような。
ー ああ、今は転移しやすい状態ということか? 自分の意思で動けるほどに。
ー ええ、恐らく。もしかするとタイミングにより転移し易いことがあるのかもしれません。
ー 確かに、自然現象だからな。そういうことはあるか。ってことは、今ならそっちに戻ろうとすると戻れるのか?
ー 可能性はありますね。
* * *
翌日、朝食後に俺たちは客間に集まっていた。最近の状況について整理する必要がある。ツウ姫とツウ姫2も落ち着いたようで、来ていた。
「あんたの望み通りに転移するってこと?」
メリスは驚きを隠せないようだ。っていうか、いつの間にメリスは「あんた」呼びに?
「まぁ、可能性だ。ツウ姫2が願ったからかもしれない。恐らくこんなこと出来るのは今だけだ」
「ツウ姫2のようにレジンたちも呼べないの?」とメリス。
「むしろ、ツウ姫2と一緒に何故レジンが来なかったのか分からない」
「ああ、なるほど。レジンが拒否られたと。ドッペルゲンガーでもいるのかしらね?」
レジンというかレジンチームか? レジンはまだ作業中だしな。
「その可能性もあるが、普通に仕事が終わってないからじゃないか?」
「あるいは、こっちの世界の確率の溝は、それだけ小さかったとか?」とユリ。それもあるか。
「うん。彼らが一緒だと来れないような。たぶん、あっちの溝のほうが大きい」
「そうか。あっちは病気が蔓延してたからね」
「そうだな」
「でも、ツウ姫2は入れたんだ」
「そうだな。もしかすると世界Hの溝はかなり埋まってきているんじゃないか? それでツウ姫2が辛うじて転移出来たとか」
「そういえば、もう直ぐあっちの世界の溝は埋まる筈だもんね」
存在確率の溝が何なのか不明だが、とりあえず今は思い通りに転移出来るような気がする。
「そうだな。そうすると、もしかして、もしかするかも?」
「何を言ってるの?」とメリス。
「今が、平穏な状態になりつつあるんだとしたら」
「だとしたら?」
「全員、元の世界に戻れるのかも」
「ホント~っ? やったじゃん!」メリスは大喜び。
「す、凄い! 願いが叶うね!」ユリもだ。これまでにない朗報だからな!
「ま、待つのじゃ!」ツウ姫は慌てて叫んだ。
「ま、待ってください」これはツウ姫2だ。
「わらわは、この世界にいたいのじゃ」
「わたしも母様と一緒にいたいです」
「ああ、そうか。それは、どうだろう?」
「いいんじゃない?」メリスはあっさり言う。
「そうだよ」ユリも同じらしい。
「いや、俺が決めてる訳じゃ……あ、決めてる可能性があるのか」
「そうよ」とユリ。
「そうなのよ」とメリス。
「ちょっと疑わしいな。本人の意思が強いと思う。まぁ、俺は本人たちの希望通りでいいと思うが」
「やったのじゃ!」とツウ姫。
「うれしぃ~」とツウ姫2。
そうか、多重世界って、こんな使い方もあるんだなと思った。これ、いいじゃん。まぁ、孤独なオヤジが二人できるが。
レジンたちとも、話した。
ー なるほど。今は全員が自分の世界に戻れる可能性があるってことですね。
レジンも納得したようだ。
「恐らくね。今を逃すといつになるか分からない」
ー そうですね。
ー え~、もう会えなくなるの?
これは、セリーのようだ。
「いや、そうとも限らない。無風状態の時なら人間の意思で行先を決められるってことなら、みんなが好きに飛べるんじゃないかな? 少なくとも、このメンバーは」
ー まだ、可能性でしかないですが。
「ツウ姫2が単独で飛んだから、かなり確率は高いと思う」
ー 確かに、そうですね。
「なんとか、無風状態を測定できないものかな?」
ー 問題はそこですね。転移の風に飛ばされるようなものですからね。
「うん、荒れてるときは遠くまで飛ばされるってことかも」
ー そうですね。
「確率風速計か、レジンなら作れそうだな」
ー えっ? そんな、一人では無理ですよ。
ー もう、通信機があるから、いつでも話せるだろう?
ー ああ、そうですね。複数の世界で協力したらきっと出来ますね!
「私、どうしようかなぁ」これはメリスだ。どの世界に行くか迷っているようだ。
「悩むところよね」とユリ。
「俺は、それぞれが希望通りになるように願うことにする」
ー そうですね。どこの世界に行くかはそれぞれが決めるとしても、自分の世界のことを整理する必要もありますからね。
ほんとうに、そんな風に気軽に転移出来るんだろうか? 分からないが俺が引き連れて来た可能性のある人たちは一旦元に戻すべきだろうなと思う。
あと、タダヨシにも確認して貰った。娘の希望なら仕方ないと言っていたようだ。ツウ姫の親父のほうには連絡出来ないが、そのうち知らせる機会も来るだろう。本人が戻るかも知れないしな。
そして、その夜。俺たちは転移した。




