43 確率のピース
翌日朝食を済ませたあと、次々と入る抗生物質の成果に喜びながらも俺たちは昨晩考えていた多重世界固有の力について話し会っていた。
「相似体がいる世界には転移しない」
これが、久しぶりに俺たちが見つけた多重世界の法則かも知れない。例のドッペルゲンガーには会わないというアレだ。
しかし、これ以外にも多重世界の性質が見えて来た。俺たちの転移は、多重世界が確率の変動を吸収するために起こしているのかも知れないということだ。
「俺は、自分たちに相応しい世界に転移させられたんだと思う」
「ふさわしい? 必要とする世界じゃなくて?」ユリが言う。
「そうとも言えるかも。あるいは特定の要素を欠いている世界へ転移したのか」
「リュウが、その欠けている要素ってことね」ユリが言った。
「なるほど。ジグソーパズルにピースが収まるように、世界に入るわけですね」レジンがうまいことを言う。
「入るべくして入ったわけね」とユリ。
「単に上流から下流に流されてるだけじゃないってこと?」メリスが言った。
「いや、流されてるんだろうけど、どの世界に入るかは条件があるのかもってこと」
「ああ、相似体がいたら入れないもんね」とユリ。
「そう。入るために必要な条件って言うのかな。その条件を満たした時だけ入れるような」
「それで、すぐには転移しないんだ」とユリ。
「恐らく。ぴったりはまって世界が安定するんだろう」
「流れは、やっぱり上流から下流なのかしら?」とメリス。
「それなんだけど、流れも空間転移装置の場合とは違うかも知れない」
「違う? どうしてそう思ったの?」
「えっ? ほら、この世界Hへ来たからだよ」
「ここへ?」
「そう。ちょっと前までは、全然違う世界に飛ばされてただろ? けど、今回は以前行った世界Sとほぼ同じ世界だった。戻ったというか、少なくとも下流ではないと思う」
「ああ、確かに世界Sとあまり変わらないわね」
「そう。でも、世界Sに戻ったわけでもない。転移装置の場合は同じ世界の繰り返しだっただろ? 何度も俺の世界が選ばれたし」
「なるほど。私たちの場合、ガニメデから比べたら戻っていますが、決まった世界を転移しているわけではありませんね」レジンも同意して言った。
これは印象でしかないが。
「確かに謎ね。流れが変わったのかしら?」メリスが面白いことを言った。
「変わるの? 潮の満ち干のように?」これはユリだ。ユリも鋭い。
「まぁ、存在確率が測定できないから確かじゃないけど」
「そうよね。認識は出来ても存在確率は分かんないもんね」とメリス。
しかし、この多重世界を相手にするのが俺たちの運命なら、こうして少しづつだが手掛かりを探していくしかない。やっと、その一端に触れられたような気がした。
* * *
次の日の朝食後、多重世界について分かっていることをレジンがまとめてくれた。
レジンは和紙に筆で書いたものを衣紋掛けに下げて見せた。ちょっと面白い。
<別世界転移の種類>
・空間転移
指定座標から球体で切り取られる転移
転移の方向は上流から下流
対象世界は繰り返し選択される
・確率要素転移
確率変動要素としての転移(例 リュウ、ヒカリゴケ)
転移方向は不定
対象世界は確率変動要素がいる世界に限定される
<転移の特殊事情>
転移先に存在しない絶滅危惧種は発光する
相似体がいる世界には転移しない
<今後の課題>
・確率要素転移のトリガー方法
・確率要素転移の転移方向を決定する方法
「なるほど。さすがレジンだね。分かりやすい」とユリ。
「ほんとよね。ちゃんと種類を区別しなくちゃね」とメリス。
「確率要素転移というのは、今の私たちの転移のことですよね?」シナノが聞いた。
「はい、そうです。この転移は空間を切り出す転移とは明らかに違います。つまり、私たちが元の世界に戻るには、この確率要素転移を解明する必要があります」
「これですか!」シナノは目標がはっきりして、やる気が出たようだ。
「これなんだ!」セリーもだ。
「ただ、この二種類の転移を選択する方法は分かりません。リュウさんの転移は、確実に確率要素転移になるようですが」
「確かにな」やっぱ、俺のせいなのか?
「もちろん、リュウさんに連れて帰って貰います!」とシナノ。
「そだね」とセリー。
逃げられそうにないな。
「転移のトリガーって?」とメリス。
「これは、転移を発生させる方法のことです。現時点で明らかにするのは難しいテーマですが」
「そうだな」
「今までは転移まで一月くらいと言っていましたが、もっと明確な方法を見つけたいところです」
「うん。今まではなんとかなったが、下手するとガニメデで一生を終える可能性もあったわけだしな」と俺は素直な感想を言った。
「そ、そうか! 結構ヤバかったんだ!」とメリス。
「うわっ! ヤバすぎっ!」と改めて驚くユリ。
「逆に言えば、住みやすい世界に行ったら何もしないという選択肢もあるか? まぁ、俺たちは選ばないけど」
「あ、それいいかも。天国みたいな世界があったらいいな! そんな世界があったら私、戻らないかも」
おいっ。俺たち、一蓮托生なんだけど? メリスにとって天国でも俺にとって天国とはかぎらないけど?
てか、天国って住みやすいのか?
「そだね~、夢のような世界があったらいいね~っ」
いや、それ絶対ヤバいって。絶対消える直前とかだろ。
「ふふふっ」
「いいなぁ」
シナノとセリーが何を想像しているかは、全くわからない。
「そもそも、そんな満たされた世界に転移できるんだろうか?」
「ああ、確かに。満たされていたら弾かれそうですね。今までの転移は、世界に問題があるから呼び込まれたのかもしれません」レジンが言った。
「そうだよな。俺たちって、いいように使われてるだけだよな」
「わらわは、どうしたもんじゃろう?」とツウ姫。
「そうですね」ツウ姫2も戸惑っているようだ。
あれ?
「ツウ姫妹、何でいるの?」俺は、ハタと気が付いた。
「え? もう、わらわと一緒で羽衣スーツ着たから同じ運命ではないのか?」
「いや。それは、わからん。っていうか、転移させたらマズいだろ?」
「あ~っ、でも、もう無理なんじゃない?」メリスが言う。
「そうだよね。たぶんリュウと一緒に転移しちゃう」ユリも。
「多分このスーツ付けた時点で確率が変動してますね」とレジン。
レジンもそのつもりで着せたんかい!
「だって、いきなり連れ出されちゃ可哀相だよ」と言ってツウ姫2を見た。
「私、大丈夫です。覚悟してます」覚悟してるんだ。
「そうか。まぁ、良く分からない理由で転移してるから、必ず転移するとも言えないんだけど。じゃ、そのつもりでいてくれ」
「はい。分かりました」意外と芯のしっかりした人なのかも知れない。
* * *
そんなわけで、俺たちは「転移トリガー」と「転移の方向」を決定する方法を探すことに専念することになったのだが……。
「わらわは何を頑張れば良いのじゃ?」
レジンの話の後、ツウ姫が聞いて来た。
「そうですね、姉さま」とツウ姫2。そう言えばそうだな。俺以上に専門知識もないし。彼女のいる理由はなんだろう?
「そうだな。ツウ姫たちは、存在自体が謎だ」
「おお、そうじゃ。リュウ殿、謎の女を調べるのじゃ!」
「謎の女2もいます!」
「謎のままでいいだろ」
「いけず」
「ほんに」




