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多重世界の旅人  作者: りゅう
黎明編
42/128

42 紀州の蜜柑とドッペルゲンガー

 俺たちが日向屋市之助に紹介された頃、ツウ姫とレジン一行は紀州、和歌山城の上空だった。

 ツウ姫の実家である藤原氏は、この紀州の城主だったそうだ。今では城ではなく普通の邸宅に住んでいるらしいが、墓はそのまま継承されていて城の一部に残されているとのこと。

 ツウ姫2の羽衣スーツが馴染んでから、さらに訓練をしつつ移動したので、この日は母親の墓参りが精一杯だった。


  *  *  *


 翌日、俺たちは堺の日向屋を辞して紀州に飛んだ。もちろん、レジンたちを手伝う為である。

 既に俺たちは転移発光物質を複数発見していた。しかも、下手に堺の商人に智慧を付けてしまったので急がないと転移してしまうかもしれないと、ちょっと焦ってもいた。そんな事情もあって急遽レジンたちを手伝うことにした。


 俺たちが和歌山に着いた時にはレジンたちは一生懸命に蜜柑を集めていた。もちろん青カビの付いた物である。蜜柑の季節としては遅いので室の中ではカビが大量に発生している。これを譲り受けて来たようだ。


「本当は個別に培養したいところですが、しっかり管理された室でしたので大丈夫だと思います」


 とりあえずペニシリンを抽出して検査してみたが期待通りの効果が確認された。前回よりむしろ性能がいいようだ。

 これを受けて俺たちは量産を開始した。


 ただ、量産と言っても生体フィルムを使った分子サイズで選別する抽出器だ。それほど、大量に出来るというわけではない。ただし、今回は胃酸で分解されない経口薬である。これなら飲み方を教えるだけで一般の医者に託すことが出来る。これは大きな違いだ。実際に、藤原の実家に出入りの医師に渡して使って貰ったが効果は絶大であった。


 俺たちは協力の礼として、この経口薬を藤原の実家に少し渡してから京都へと向かった。


  *  *  *


 タダヨシは、朝廷出入りの医師と共に首を長くして待っていた。

 俺たちが上空から降下すると同時に、邸内からタダヨシが飛び出してきた。後ろから、待っていた医師も続く。


「リュウ殿、リュウ殿、いかがででしたか? 薬は?」タダヨシは藁をもつかむ思いで聞いて来た。

「大丈夫ですよタダヨシ殿。この通り、ここに。すぐにでも使えます」と薬を入れた袋を渡した。

「おおお、ま、まことか」俺から袋を受け取ると、タダヨシは感極まって涙を流し始めた。


「父上、泣いている場合ではございませぬ」ツウ姫2がタダヨシを励ます。

「おお、ツウ。戻ったか」

「はい、父上。ご安心ください。ツウは元気に戻りました。それより、薬を」ツウ姫2、いつの間にか大人になったような気がする。


「おお、そうであった。松庵殿、この通り薬が出来ましたぞ。すぐに宮中へ」タダヨシは振り向いて、後ろで待っている医師に薬の袋を渡した。

「か、かたじけない」松庵医師は、大事そうに受け取った。


 その後、レジンは医師の松庵とその門下生にペニシリン経口薬の使い方をレクチャーして彼等を朝廷へ送り出した。


  *  *  *


 タダヨシが松庵と門下生を引き連れて行くのを見送った俺は、どうしたものかと思っていた。たぶん、これで薬が効果を発揮したころ俺たちは旅立つことになるからだ。


「行きましたね」レジンが感慨深げに言った。

「お疲れさん」俺はさすがに労ってやりたいと思った。

「リュウ殿、本当にありがとうございました」ツウ姫2に礼を言われた。

「いや、多分このために、この世界に呼ばれたので満足ですよ」

「そうなのですか」

「そうなのじゃ、わらわも満足なのじゃ」ツウ姫が言った。


 そいうえば、この二人だいぶ違うなと思った。確かに似ているのだが、性格もだいぶ違うようだ。瓜二つのドッペルゲンガーに出会って無いのは何故なんだろう?


  *  *  *


 夕食後、ドッペルゲンガーに出会わない理由についてレジンに話してみた。


「ドッペルゲンガーですか。なるほど。確かに見ていませんね」レジンも同意した。

「ルジンとレジンも、見た目も少し違うし性格は全く違っていた」

「そうなんですか? ちょっと、私には怖い話ですが」

「ああ、すまん」

「そっくりな人と、同等な人って分かりにくいね」とユリ。


「そうですね」

 そして、レジンは少し考えてから言った。

「全く同じ人は相似体、ちょっと違う人は……等価体でどうでしょう?」


「ドッペルゲンガーが相似体か。転移では相似体には出会わないってことかな?」

「そうですね」

「相似体は全く同じ存在確率ってことだから、同時には存在できないのか?」

「ああ、そうかも知れませんね」とレジン。

「そりゃそうよ。突然旦那がふたりになったら大変よ」とユリ。そういうことだな。


「でも彼女が二人になったら嬉しいかもね?」とメリス。おいっ。

「それどころじゃないよ。たぶん」

「私たちは、全く違うので問題ありませんよね?」とシナノ。

「そうそう」いや、それは違う意味で問題なんだが。


「わらわたちは等価体なのじゃな?」とツウ姫。

「はい。ねぇさま」

「ルジンとレジンも等価体か」

 レジンは、さすがに微妙な顔をしている。


 俺たちは、漂流者のようにただ流れに乗って流されているだけなのかと思っていたが、意外と多重世界固有の力が働いているのかも知れない。


  *  *  *


 次の日、早くも患者が快方に向かったと連絡が入った。


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