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多重世界の旅人  作者: りゅう
黎明編
33/128

33 防護スーツの改良

 日本のガニメデ基地に居候出来ることになった。

 だが、現状の設備では足りない。全員が寝る場所がない。ただ、重力が地球の月より小さいので浮いているようなものだ。立って寝ることもできそうだが俺たちには優秀な防護スーツがある。重力加速器を調整することで立って寝ても普通に横に寝てるように体に加速を加えることが可能だ。これで快適に眠れるし低重力の悪影響から開放される。


 防護スーツのこの重力調整機能はガニメデ調査隊にとっては羨望の的である。さっそく重力加速器を作れないかカストが検討を始めた。せめて、重力室のようなものが出来れば、全員が宇宙病にならず安眠できると言っていた。

 現在、彼らの寝室は回転式の重力加速器になっている。これだと出入りし難い上に大きな重力は作れない。しかも、寝返りを打ったり移動したりするとバランスを崩して自動調整するまで振動が発生して五月蠅いという欠点がある。安眠出来ないのだ。


「ねぇ、一緒に寝れないかしら?」ユウナが怪しいことを言い出した。いや、布団じゃないから。防護スーツだから。スーツの機能として興味があるんだよね?

 それだけ、重力は宇宙では貴重であり魅力的なのだろう。


  *  *  *


 その後、重力加速器を作ることは重力理論を確立していないこの世界では無理なことが判明した。だが、この重力加速器以外でも世界Lの防護スーツには優れた点がある。例えば滑空モードや潜水モードだ。研究棟でメカ担当のカストとレジンによってスペーススーツの改良が始まった。


「これは、素晴らしいじゃないか。特に重力の小さいこのガニメデでは」改良されたスペーススーツを見てマクガイが絶賛した。


 地球の重力の七分の一しかないので空気さえあればいつまでも飛んでいられるようになった。空気さえあればだが。


「ガニメデは空気もないからな。惜しいところだ。だが、地下に建設中の巨大施設では使える筈だ」


 どうも、地下の海を利用した国際的な施設を建設中らしい。そこでは滑空モードや潜水モードが大活躍するだろう。マクガイは、他国に見せびらかしたいようだ。


 もちろん、この世界のスペーススーツにも世界Lの防護スーツより進んだ点があった。まず、生体スーツの強度は二倍だった。さらに、エネルギーモジュールの性能は十倍だった。流石に宇宙空間での長時間稼働を狙っているだけのことはある。生命維持や体温調整機能も、使えるエネルギーが多いためこの世界のスーツのほうが優秀だった。


 これらのスペーススーツの優れた機能を防護スーツに取り込むことになった。

 まず、生体フィルムについては改良した成分と交換することですぐに改良出来た。さらに、この生体フィルムは硬度の向上だけじゃなく電子回路を組むことが出来た。彼らは生体フィルムの中に通信機を作っていたのだ。驚くべき機能だ。丁度いいので俺たちも同じ通信機を組み込むことにした。彼らとの連絡に必要だからだ。

 また、エネルギーモジュールについては真似て作る訳にもいかず、そのまま交換することにした。どのみちメンテは出来ない物なので、複数個をベルトに装着して予備とすることにした。

 もちろん生命維持機能、体温調整機能なども向上した。


 思ったよりすんなり改良が出来たので、おまけでスペーススーツに飛翔モードも追加することになった。既存のスラスターを使うので制限はあるし重力加速器のある俺たちの飛翔とは違うが、ゆっくりでも自在に飛べることは大きい。


  *  *  *


「多重世界通信機は凄いな。重力加速器がないから実現できないけど、世界の判定にも使えるんだろ?」スペーススーツと防護スーツの改良を終えたメカニックのカストが興味深そうに言った。

「転移発光物質を見付けられればね」今のところ、この世界は特定できていない。


「そういえば、この世界の名前はどうするの?」メリスが気になっていたようだ。

「そうだな。ガニメデに転移したんだから世界Gでいんじゃないか?」

「そうね。ガニメデだけで別世界作ってそうだしね」

「えっ? そんなことあるのか?」カストがびっくりして聞いて来た。


「いや、分からない。ただ、多重世界って確率的な要素を基本にしているようだから、確率的に一緒に変動するものが一つの世界になると思う。だからガニメデで別世界を作ってもおかしくない」

「複数のガニメデ世界が存在するってことか?」カストは信じられないという顔つきで言った。

「恐らく」


「でも、地球も連動してるだろ? こっちと呼応して活動してる訳だし」

「そうだな。ただ、ガニメデがどうなろうと変わらない部分も沢山ある。もしかすると世界が分離しないで違いを吸収するメカニズムがあるのかもしれない」

「違いを吸収する?」

「うんそうだ。それが、吸収しきれなくなると……」

「どうなるんだ?」カストが身を乗り出してきた。近い近い近い。そんなに、くっ付くな。


「世界が分離したり俺たちのように飛ばされたり……かな?」

「ああ、なるほどな。大変だな」納得顔でカストは頷いて言った。

「大変だよ。意味わからんよ」

「面白そうだけど」


「見てるだけならな。当事者はたまったものではない」

「それはそうだな。人間のような意識を持った存在が保証するわけではないからな」カストは、ちょっと憐れむような眼差しで言った。

「そうだ。全く保証がないんだよ」


 人間の保証なんて高が知れてるとも言えるのだが、流石に世界から命の保証くらいは貰いたいものだ。消される可能性すらあるって、とんでもないと思う。


  *  *  *


 防護スーツの改良により俺たちはガニメデ調査隊と一緒に活動することが出来るようになった。


「こりゃ凄いな。鳥のように自由自在だ」隊長のマクガイまで浮かれている。

 スペーススーツも宇宙空間での移動用にスラスターは付いていたのだが、防護スーツの制御機構を採用して操作が楽になったからだ。まぁ、鳥が本当に自由自在なのかは知らない。


「こっちもパワードスーツになったみたいだよ」


 生体フィルムの成分が変わって硬度が向上し、豊富なエネルギーで重力加速器による作業補助も出来るようになった。これはレジンが追加した新機能だ。これで作業が楽になった。


「夢のように作業が進みますね」副隊長のアスモも新スーツの性能に驚きを隠せない様子だ。スペーススーツにこの作業補助機能を追加できなくて残念そうだ。


「わらわにも楽々なのじゃ」ツウ姫が何トンもありそうな建材を楽々持ち上げている。まぁ、もともと重力は小さいんだが慣性力はあるから簡単には運べないのだ。ってか、危ないからやめてくれ! 周りに被害が出そうだ。


 いままで出来なかったことやコンプレックスに感じてたことが出来たりすると、調子に乗ってしまうので特に危ない。


「のう、リュウ」

「なんだ?」

「足が抜けない。助けるのじゃ!」言わんこっちゃない。


 低重力環境の作業は楽だと思われがちだが必ずしもそうではない。通常の感覚とは違うので集中力が必要になり、逆に精神的に疲れるのだ。

 それでもパワーが増大した効果は確実にあり、みんなであっという間に新しい居住棟、研究棟を完成させてしまった。


 もちろん、居住棟は調査隊用回転式重力加速器なので俺たちはこれとは別に汎用棟を借りて生活することになった。寝るだけなら防護スーツなので最悪ゼロ気圧でもいいのだが、調査隊のメンバーも出入りするので与圧環境になっていて独立した生命維持装置も働いている。もちろん、本来の機材置き場にも使われるが今はあまり物がないので俺たち専用のようになっていた。


 基地の施設は基本ドーム状の棟からなっている。そして各ドームは、太いパイプ状の気密通路で接続されていた。ただし、これは外観上だ。ドームは実際には球体であり三分の一ほどが地下に埋まっている。これで強度と安定性を確保しているとのこと。場合によっては半分ほど埋めてしまうこともあるようだ。こうすれば放射線対策になるというわけだ。


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