31 気付いたら、ガニメデだった
「ここは、何処だ?」
俺は明るい部屋のベッドで目覚めた。妙に体が軽い。見たことのない丸天井の部屋で骨組みは剥き出しだった。俺の体はバンドのようなものでベッドに留められていた。
「おお、起きたか」少し離れたところから声がした。
「誰だ?」
「そういうお前こそ誰だ?」
「なに?」
「俺はマクガイだ」
「俺は……リュウだ」
「リュウか。混乱しているのか? あんな荒野で、お前ら何してたんだ?」
マクガイと名乗った男が言った。
「荒野?」
「ああ、この先の高原でお前たちが倒れているのを見付けたんだ。そんな旧式のスペーススーツじゃ、死ぬぞ」
この男は何を言っているのだ?
「な、仲間は?」
「心配ない、六人全員ここにいる」
「六人?」
「そうだ。俺たちが見つけたのは、それだけだ」
「そうか。ありがとう」どうやら、俺たちは転移したらしい。
見ると、レジン、メリス、ユリ、シナノ、セリーが俺と同じように簡易ベッドに寝かされていた。前回の転移と同じメンバーということだろう。通信機を操作して、これで全員なのはすぐに分かった。確認機能を付けておいて良かった。
少し遅れて他のメンバーも気が付いた。そして、この場所についても知ることになった。
ここは木星の衛星ガニメデだった。
* * *
俺たちが転移してたどり着いたのは地球ではなかった。木星の、しかも衛星に放り出されたのだ。とんでもない事だ。
ここは臨時の救護室らしい。覚醒した六人で話し合った。
「そう言えば、ツウ姫は来なかったんですね」とシナノ。ベッドに女の子座りして言った。
「ノブタダ……惜しい人を亡くした」隣のセリーが言った。いや、あっちで生きてるから! たぶん。それにしても、あの人たちが、こんなところへ転移せずに済んで良かったと思う。
「さすがに、衛星ガニメデとは驚きました」レジンは簡易ベッドを折りたたんでソファにしていた。
「防護スーツを着ていたからいいものの。多重世界は何考えてんだ! ああ、考えてないか」俺はベッドに座って言った。
「私たちの存在確率が宇宙まではみ出したと言うことでしょうか?」レジンがそんな冷静な分析をしたが、俺は納得いかない。
「なんで地球じゃないんだよ。おかしいだろ?」前から出現する場所がまちまちなのは覚悟していたが、ここは人間の領域じゃない。
「そんなこと、言われても」レジンが困った顔をする。別にレジンに文句を付けてるわけではないのだが。
「でも、確かに何か意図を感じるわね」メリスが言った。
「そうね」ユリも異存はないようだ。
「意図というか、必要性? なんか、確率的な変動が予想されてて、その対策に使われている気がする」俺が言うと皆、理解できないという顔をした。
「いや、世界Sのことだけど妙にタイミング良く流行り病になったじゃないか? あれ、レジンが居なかったらどうにもならないだろ? しかも、薬を作ったのも、たまたま気が向いてやってたことだ」
「いえ、確率変動を期待してやったのは確かです。私の出来ることと言ったら、ああいうことですから」レジンとしては、それほど自覚はないようだ。
「つまり、必要な奴が必要なタイミングで転移したわけだ」
多重世界はデリバリーサービスでも始めたのか?
「意図があるかどうかは別として、確かに未来予測できなけれは説明がつかないかもね?」とメリス。
「たまたま……の筈ないよね? 転移なんてこと普通ないわけだし」ユリが言った。
「うん。あの状況に俺たちの存在が都合がいいのは確かだよな。ただ、俺たちがいたのは、たまたまなのか?」
「うん?」
「普通なら、こんな便利屋みたいな存在はいない。でも、今に限って世界からはみ出した存在がいるわけだ。既に自分の世界から転移しているし、さらに転移させても確率的には問題ない。だから、穴埋めに使ったとか」
「う~ん、ほんとかなぁ?」ユリは信じられないようだ。
「不安定な世界に突っ込めば、その世界が安定するような存在と認識されたんじゃ?」これは、俺の仮説だ。
「ああ、なるほど。確かに、そのように働きましたね」レジンは言った。
「リュウは、多重世界の特効薬?」とユリ。上手いこと言うな。
「いや、俺だけじゃ無いだろ。みんなを含めてだ」
「効果抜群だったしね!」メリスは腕組みして唸って見せた。
「確かに問題は解決したね」とユリ。
「私、何もしていませんが」とシナノ。
「私も」とセリー。そうだろうか? ツウ姫との関係を取り持ってくれていた気がするが?
「分からないが必要な存在なんだと思う」
「ともかく、ここから再スタートってことね」メリスが言った。
そんな話をしていたら、俺たちを救ってくれたマクガイが現れた。
「やあ、君たち調子はどうだ?」
* * *
彼等は、日本ガニメデ開発機構第五次調査隊で、このガニメデ日本基地に先日派遣されて来たばかりだそうだ。現地訓練の一環で基地周辺を探索していた時に俺たちを見付けたとのこと。
「しかし驚いたよ。訓練ミッションで人命救助なんてあり得ない!」重力が小さいので、簡易ベッドに掴まったまま、マクガイが言った。
「いや、助かった。改めて礼を言う」俺は素直に礼を言った。
「いやいや、宇宙で人を助けるのは当然だ。礼には及ばん。」マクガイは友好的な雰囲気で言う。
「しかし、だ」マクガイは、それまでの気安い様子から一転して真剣な顔で言った。
「お前たちは何者だ? 何があった?」当然、そう来るよな。俺も同じ意見だ。
「お前たちは調査隊ではないし、各国の記録にも載っていない」どうも、いろいろ調べてくれたようだ。
「つまり、ここには居ない筈の人間だとはっきりした」
はっきりしちゃったか。そうだろうな。
「じゃ、俺から話そう。落ち着いて聞いてほしいんだが」
「ああ、大丈夫だ」とマクガイ。ホントか? 大抵、だめなんだけど?
「俺たちは、別世界から転移して来た」マクガイは、ちょっと焦点の定まらない目で固まっていたが、次第に目を大きく見開いた。ついでに、大きく息を吸った。
いや、そんなストップモーションのように見えた。どうも大丈夫じゃないらしい。
「な、なんだって~っ?」ガニメデ基地のドームじゅうにマクガイの叫びが轟いた。




