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多重世界の旅人  作者: りゅう
黎明編
29/128

29 ツウ姫

 次の日の早朝、ツウ姫が突撃して来た。


「リュウ殿、リュウ殿。話はノブタダより聞きましたぞ。このツウにも是非、協力させてくだされ」

「はいっ? いえ、もう十分配慮を頂いてます。姫は長旅でお疲れでしょう。ごゆるりとお過ごしください」

「いいえ、なりませぬ。わらわはリュウ殿の側仕えですから」ツウ姫、何かを悟ったような真直ぐな眼差しで言った。ちょっと怖いぞ。


「俺は当面暇なので。そうだ、こちらのレジン殿のお手伝いをお願いします」

「リュウ殿、それは無理です。苔とカビですよ」すぐレジンからダメ出しを貰ってしまった。

「あ、そうか。ではシナノのお手伝いを」

「わたし、もう仕事がございませんの。今は、わたしもリュウ殿の側仕えですが」意味わからん。シナノを俺の側仕えにした覚えなどない。変に誤解を招くようなことは言わないで欲しい。側仕えがバウムクーヘンみたいになってるぞ。


「ねぇ、リュウ。もうここはハーレムでも作って転移するしかないんじゃないの?」メリスが怪しいことを言い出した。

「それ、絶対だめだから、ハーレムごと転移したらどうすんの? 防護スーツない人いるよ?」

「ああ、流石にダメよね。スーツ着て飛ぶ訓練してる暇ないし」とメリス。

「いや、そういう問題ではない。そもそもスーツがないんだけど」

「予備のスーツなら多少ありますよ?」とレジン。

「なんでだよ」いやそれ、あっても言っちゃだめでしょレジン。俺に、お守役を押し付けようとしてる?


 そんなやり取りを聞いてたツウ姫。

「リュウ殿。もしや、そのすーつとやらを羽織れば、わらわも空を飛べるのかえ?」とツウ姫。なんて勘のいい姫なんだ。どうも羽衣か何かと思っているようだ。


「リュウ殿。わらわも是非そのスーツを羽織って、リュウ殿のお役に立ちたいと存じます」見ると期待でわくわくした目で言った。あ、そ~言えばこいつ遊びに来たんだった。面白い事発見した目だ!


 後でわかったが、元々生体スーツは複製が可能なのだそうだ。ベルト用の部品のみ予備として持っているとのこと。

 あ、でもこの世界の人間が防護スーツ着たら存在確率が大きく変動するよな? あ~、じゃ、いいことにするか?


  *  *  *


「リュウさん、教官やったんだから教えられますよね。じゃ、よろしく~」ツウ姫に防護スーツを用意して一日。十分安定したのをみてレジンは自分の研究に戻っていった。


「こ、この防護スートとやらは、傍で見るのはいいが、着てみるとちと恥ずかしいのぉ」

 ツウ姫、防護スーツを着てもじもじするのは止めてください。


 まぁ、ウェットスーツとか見たこと無い人にとっては抵抗あるかもな。てか、俺もそうだったし。デザインは色々変えられるんだからツウ姫にあったものを後でレジンに頼んでみるか。


「止めてもいいですよ。慣れてからだと止められなくなります」まぁ、便利だから慣れたら止められない。

「そうか。分かった。では、決めたのじゃ。わらわは、このままずっとリュウ殿の側仕えになるのじゃ」あれ? それ、ちょっと話が違うんだけど? 今だけだよ?

「いや、それは違う」

「もう、止められないのであろう?」

「まぁ、そうですけど」

「ならば、わらわはそなたのモノではないか?」どうしてそうなる。

「リュウ殿、それについてはわたくしからゆっくり説明いたしましょう」シナノがフォローしてくれた。

「そうか。頼む」ん? シナノ? どんな話をするのかな?

 流石に、本物の側仕えと同じ扱いは出来ないけど、どうしたもんだろ?


 その夜、さっそくツウ姫は俺の部屋に来ようとしたが全力でお断りした。ツウ姫も側仕えを連れてるので、控えの間が側仕えだらけになったのは言うまでもない。


  *  *  *


「すっご~いっ」


 あくる日、ツウ姫は大きく両手を広げて軽々と空を飛んでいた。いや、防護スーツが優秀なんだが天性の才能もあるようだ。ちょっと飛び方を教えただけでツウ姫は自在に飛んでいた。


「この羽衣は本当に素晴らしいのぉ」あ~、確かに羽衣って言いたくなるよね。ってか、天女の羽衣も防護スーツだったのか? 最近、昔話が妙にリアルに感じるんだが?


「空から海へ~っ」

 どぼ~んっ

「海から空へ~っ」

 ずぽ~んっ

「空から海へ~っ」

 どぼ~んっ。


 なんだろう。妙に気に入ったっぽい。

「面白いのぉ。わらわは生まれてきてこんなに楽しいことはなかったぞ」ツウ姫は満面の笑みでそんなことを言った。まだ、あんまり生きてませんけどね。


「じゃ、もっと高く昇ってみましょうか?」興が乗ったので、ちょっと誘ってみた。

「うん? 空へは行ったぞ?」

「もっと高くです」

「ま、待て。待つのじゃ。こら、わらわを置いてゆくな! リュウどの~っ!」


 俺は五千メートルほど上昇した。

「ど、どこまで昇るのじゃ? 天までゆくのか?」ちょっと焦った風で言った。やっぱり高くて怖いのかな?

「どうですか? 姫様」

「何がじゃ? おおおお~っ。こ、これは、絶景じゃのぉ。ど、どこまでも見えよる」ツウ姫は、意外と高所が平気なようだ。

「ほら、あそこ」

「おお、富士の山が綺麗に見えるのぉ~っ」

「今日は雲が少ないから、良く見えますね」

「あああ、く、雲が。雲がわらわの脇を流れてゆく~っ」

「いかがです?」

「お主、これをわらわに見せたかったのかっ?」

「はい」


「凄いのぉ。あ、ほれ、あの先が京の都じゃ。流石に見えんがのぉ」ツウ姫は、遠くを見透かすようにして言った。

「あれ? もう、帰りたいですか?」

「うん? そんなことはないぞ。お主と遊ぶほうが楽しい。恋しい人もおらんしのぉ」うん? 恋しい人?

「でも、家族は待ってるでしょ?」

「ああ、父上だけじゃな」

「母親は?」

「母上は、わらわがまだ小さい時に亡くなったそうじゃ」ツウ姫は、少し寂しそうに言った。

「そうか。悪い事を聞いた」

「構わん。顔も知らんのじゃ」


 多重世界の中には、ツウ姫の母親が生きている世界もあるんだろうか?


「あっ、もっと上昇すれば京都の山が見えるかも。あそこは盆地だから」

「ああ、そうじゃの」

 さらに少し上昇した。まぁ、ちょっと上昇したくらいでは見えないんだけどね。

「お主、京へは行ったことがあるのかえ?」

「あ、いえ、行ったことはありません」

「なんじゃ、そうなのか。なら、今度参られよ。わらわが案内して遣わす」

「その時には、是非」

「うむっ。任せるのじゃ」


 ツウ姫の提案で防護スーツは羽衣スーツと言うことになった。まぁ、この世界ではそれでいいか。っていうか、ツウ姫が『羽衣』としか言わないんだけどね。

 しかし、流石に防護スーツの作り方は伝えられないので羽衣はツウ姫だけで終わることになる。これ、あとでおとぎ話になったりして? おとぎ話って、こうやって出来るものなのか?


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