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多重世界の旅人  作者: りゅう
黎明編
26/128

26 ジャガイモとトウモロコシ

 この世界Sでの俺たちの方針が決まった。


 ・世界Sの存在確率を大きく変えて他の世界へ転移する。

 ・世界Sを認識できる転移発光物質を見付ける。


 この方針に沿って行動を決めることになる。


「まず俺は、第一目標である別世界への転移に専念しよう。どれだけ存在確率を変動させる必要があるのかは不明だが、転移するまでやるしかない」まず、俺が宣言した。


「それが順当ね。確率変動爆弾リュウの仕事よ。私も手伝うよ」メリスもやる気だ。てか、爆弾かよ。なんだか、最近俺の扱いが変わった気がするんだが。

「そうだね。リュウと言えば転移だもんね。私も一緒に手伝う!」ユリもやる気だ。てか、同じ認識なんだ。俺、被害者なんだけど? 忘れてないよな?


「では、転移発光物質の探索については私が担当しましょう。生物関係にも詳しいですからね」とレジン。おお、そう言えばそうだった。

「では、私がレジンさんのサポートをしましょう」こちらはシナノが申し出た。

「じゃ、私もレジンチームで」セリーも当然参加だ。


「必要により、確率変動要素になりそうなことが何かあれば追加で実行しましょう」レジンも確率変動爆弾のひとつだしな。てか、レジンのほうがデカいと思うのだが。体形が細いからといって誤魔化されてはいけない。


  *  *  *


 うまくチーム分けも出来たし、すぐ行動に移ることにした。ただ、この世界の事情も聞かなくては効率的に動けない。そこで、さっそくノブタダに聞いてみた。


 まずは食料だ。どうも小氷期の飢饉で大活躍した食料、『ジャガイモ』がないようだ。これはマズい。あれは確か南米原産で、大航海時代に広まったんだよな? 最近まで近代化が進まなかったということは、ジャガイモの伝来も遅れているのかも知れない。

 そうなると、『トウモロコシ』も伝わってないと思われる。どちらも、寒冷地でも育つ作物だった筈だから、これを探すことにした。


「苔ですか?」レジンが苔について質問したらノブタダは不思議そうに応えた。

「苔でしたら、どこにでもありますが……南の湿地帯などにも多数あるようです」苔など何に使うのかという顔をしている。まぁ、そうなるわな。


 この世界の土地勘はないが、おおよその場所が分かれば後は何とかなる。俺たちはチームごとに行動を開始した。


  *  *  *


「なんで、ジャガイモとトウモロコシなの?」とメリス。

「えっ? いや欧州や日本でも小氷期の飢饉ではこの二つの作物があったから何とかなったらしいよ。歴史的な食物ってことだ」

「へぇ。良く知ってるわね」メリスはちょっと見直したような表情で言う。

「ふっふっふ。任せなさ~いっ」

「昨日、レジンに聞いたもんね」ユリ、そんな突っ込み要らないから。

「確かな奴がいるなら聞くべき」

「ふふ。で、どこに行くの?」とメリス。

「そうだなぁ。この世界は歴史的な流れが遅れてるみたいだから、直接原産地で調達しよう」

「原産地?」

「そう、インカ帝国だ!」

「えっ? 原産地ってインカ帝国なの?」

「いや、伝わったのがインカ帝国からってだけみたいだけど。既に作物として栽培してたんだとか。あの辺りで探せば手に入るんじゃないかな?」

「シナノが言ってたよね」

「ユリ、だから細かい事はいいの!」

「ふふふ」


「あ、でもそれって私たちの世界の歴史でしょ? 今行って手に入るのかな?」メリスが鋭い指摘をする。

「あっ」

「あ~っ」


「考えて無かったんだ」とメリス。

「いや、さすがに絶滅はしてないだろ?」

「そうよね」とユリ。

「知らないわよ」とメリス。

「祈ろう」


 さすがに行ってみないと分からない。


「祈りましょう」

「このチーム、研究者とは思えないわね」メリスが呆れて言った。


 何はともあれ、俺たち三人は旅立った。

 日本列島を北上して海峡を渡り海岸線に沿って移動した。このルートが意外と近い。流石に小氷期なので雪や氷に閉ざされた世界だが、防護スーツに保護されているので問題ない。流石に和服ではない。

 俺たちは、大陸の北からジャガイモとトウモロコシを探し始めた。


  *  *  *


 大陸の海岸に沿ってやや内陸部をゆっくりと南下した。

 初めはほとんが針葉樹林だったが次第に植生に変化が現れ、人の集落がいくつか見えるようになった。たぶん、この辺りで目的の作物が手に入るだろうと降りて調べてみることにした。

 どうも平野部の村では作物を育てているようだ。


「あのあたりの背の高い植物はトウモロコシじゃないかな。こっちの低いところはたぶんジャガイモだろう」


 季節的に収穫後なので見分けがつきにくい。


「私、トウモロコシが生っているところを見たことないのよね」とメリス。お前、良くそれで志願したな。

「わたしも~。ジャガイモの木ってどんなの?」あ、ユリもダメか。まさか、木からジャガイモがぶら下がってるとか思ってないよな?


 そんなアホな会話をしていたら、現地の住民に見つかったようだ。十数名ほどの民族衣装を身に着けた一団が現れた。見た感じ、二百年くらい歴史がズレているかも知れない。


 そして、この一団は近くまでやって来たと思ったら膝まづいた。

 ああ、やっぱりか。そりゃ、空から降りて来たらこうなるわな。ただ、ここの場合言葉が通じない。どうしたもんかな。

 黙って見ていたら祭壇のようなものを作りはじめた。そして、完成した祭壇に持って来た作物を乗せた。これ、お供えなのか? 収穫後だから沢山あるのか?

 見ると、お供えの品の中にトウモロコシとジャガイモと思われるものが含まれていた。しかもトウモロコシは何種類かあるようだ。いきなりミッションコンプリートである。

 ただ、この寒冷化の時代に貰うだけでは申し訳ない。俺は、物々交換用にと持ってきた大豆を供え物の代わりに置いた。すると、彼らは喜んで受け取って帰って行った。


「これ、新しい伝説が出来たんじゃないの?」メリスが彼らの後姿を見ながら言った。


「そうそう。たぶん、あり得ないことが起こった瞬間だよ」ユリも面白そうに言った。

「あ? そうか? まぁ、いいだろ」


 どうなるかは分からない。この土地でも厳しい時代が続いているだろうが多少変化が起こるかも知れない。


 そして、俺たちは帰途に就くのだった。


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