24 そこは仙台時代だった
人の住む土地を目指して、俺たちは飛び立った。
飛び立ってすぐに気が付いたが俺たちが転移した場所は南国の西之島そのものだった。島の形もそうだが小笠原諸島が見えたからだ。だが、俺たちが世界Lで見た島とは全く違っているのが気がかりだ。今年は天候不順だったのだろうか?
それはともかく、そうと分かれば浅間山麓の研究所に直行である。六人はなんの躊躇いも無く、一路研究所に向かって飛び続けた。
一時間ほど休みなく飛んでいると見覚えのある地形が見えて来た。ただ、ちょっと地面の色が違うような気がした。
浅間山を間近にして降下し研究所を探す。だが、どこにも研究所は見当たらなかった。溶岩の流れた跡に作られていたので世界が違えば多少場所がずれることも考えられるが、周囲には建物や住居すら見当たらなかった。俺たちは降り立って途方に暮れた。
「どういうことだ?」世界Lで見た景色とそれほど違っているようにも見えないが。
「この辺りに人は住んでいないようですね」メリスも信じられないという顔をしている。
「溶岩がまだむき出しだね」ユリが指摘した。
「最近、噴火したんでしょうか?」シナノが言った。
「これじゃ、人は住めないんじゃない?」セリーも同意か。
転移していきなり大きな障害があるのは初めてだ。
「そうですね。ここは諦めて仙台を目指しますか?」レジンも流石にここで何とかするのは無理だと思ったようだ。
「仙台に? 目立ってしまってもいいのかな?」俺はちょっと気になった。
「転移なんて荒業使って放り込まれた世界に遠慮は無用でしょう」とレジン。確かにそうだな。俺たちは転移を引き起こさないように気を使いすぎているかも知れない。思えば、自然現象に気を使ってどうすると言うのだ?
「よし、じゃ仙台を目指そう!」
俺たち六人は再び飛び立った。首都仙台を目指して。
* * *
「こ、これは。私の知る仙台ではない」
上空から仙台を見下ろしたレジンは確信をもって言った。レジンが知ってる仙台ではないらしい。彼は仙台出身とのことだった。
「私たちが知っている仙台でもありませんね」とメリス。
「うん、全然違う」ユリの知る世界ゼロの仙台とも違うようだ。俺の知る世界有数の大都会とも違う。
「そもそも、高層建築物が全く見えませんね」レジンが言った。
「そうだな」
仙台と思われる位置に確かに街はあった。しかし殆ど平屋か低層階の建物だった。
とりあえず、俺たちは一番高い建物を目指した。
そして、仙台を見下ろす高台に降り立った。
「あれは、お城かしら?」とメリス。
「場所的には、仙台城のようですが」レジンも疑わしいようだ。
「私の知ってる仙台城と違う」ユリの知る城でもないようだ。つまり、俺たちの世界から、かなり離れた世界ということだ。
「これだけの人数の人間を飛ばすだけはありますね。この世界は何か異常事態が起こっている気がします。まるで……」しばらくしてレジンが言った。
「まるで?」
「まだ封建時代が続いているようです」
「仙台時代のままか?」
「そうですね」
俺たちの世界では浅間山大噴火のあと人々は江戸を捨てて仙台まで北上した。火山灰が厚く積もって作物が取れなくなったからだ。南下も考えられたが、より火山灰の少ない土地へ移動した結果だ。
その後、長く仙台時代が続いたが近代化の流れと共に封建時代は終焉を迎えた。
しかし、目の前の仙台は近代化前のように見える。
「何があったんでしょうね?」メリスが心配そうに言う。
「わからんな。誰かに聞いてみるしかない。しかし、この姿ではな」近代化前なら恐らく和服だよな。
「ああ、その心配ならもう遅いようですよ?」レジンが坂の下を見て言った。
見ると、仙台城と思われる方向から坂を登って来る一団がいた。明らかに、俺たちをめざしてる。
まぁ、空から人型の何かが下りてきたら見に来るか。目がいいな。
* * *
一団は、顔が分かるくらいの距離まで来ると明らかに驚いた顔をしてから全員で膝まづいてしまった。
「こ、この度は、畏くもご光臨を賜りまして……」ご光臨?
「おいっ」俺は声を掛けてみた。
「はい?」代表らしい男が応えた。
「お前、名を名乗れ」
「は、はい。申し訳ありません。拙者は仙台城をあずかる藤原信忠と申します」拙者かよ。てか、いきなり城主登場かよ。フットワーク軽いな。まぁ、いいか。
「ノブタダ?」
「平安時代にそんな人いたな」レジンは歴史に詳しいのか、横からそんなことを言った。
「いえ、あの藤原陳忠ではありません。違う漢字です」とノブタダ。
「ややこしいな」
「はっ? 申し訳ありません」城主は意外な顔をした。そりゃ、名前はこの人のせいではないよ。
「そうか。ではノブタダ殿。まず、俺たちは神ではない」
「さ、左様でございますか」
「神ではないが悪いものでもない」
「はい」
「そして空も飛べる」
「はい。存じております」ノブタダは城から見ていたようだ。
「しばらく、この仙台に留まりたいのだが世話をしてくれる者がいるだろうか?」城主なら出来るだろうと思って聞いてみた。
「それでしたら是非我が城へおいでください」
「そうか。では、しばらく逗留させてもらう」
「承りました。では、カゴを……」
「いや、カゴはいらん。飛んで行く」
「はっ?」
「リュウ、それは目立ち過ぎるんじゃない? 城下の人たちが騒ぐでしょ?」とメリスが指摘した。
「ああ、そうか。じゃ、世話になる」
「ははっ。畏まりました。おいっ、カゴを持て」
言葉遣いは、かなり今風ではある。それはそうか。外来語は別として言葉は普通に変化するものだからな。最初、特に古風な言い回しをしたのは俺たちを神か何かと思い込んだためらしい。面倒なので普通に話すことにした。
* * *
俺たちはノブタダの用意したカゴに乗り仙台城に案内された。
城といっても俺たちが通されたのは平屋の屋敷である。庭が綺麗に手入れされているのを見ると客人用と思われる。もちろん畳の部屋だ。
「こちらで、しばらくお待ちください。すぐに参ります」何か手配があるのかノブタダは出直すようだ。
「そういえば、藤原と言うと平泉の?」
「はい。その通りで御座います。我らは、平泉の藤原を継ぐもので御座います」なるほど。そういえば俺たちの世界でも平泉は信仰の地だったな。
* * *
しばらくするとノブタダが戻って来た。
「失礼します」見ると着替えてきたようだ。正装なのか和服と洋服の中間のような服装だった。近代化は始まっているのかも知れない。そんなに畏まらなくていいのに。もしかすると、こちらに合わせたつもりなのかも知れない。
「ただいま飲み物を用意させていますので、しばらくお待ちください」なるほど。
あれ? もしかして、火を起こしてたのか? 流石に、それはないか。
「そうだ、名乗って無かったな。俺はリュウ、こちらは連れのレジン、メリス、ユリ、シナノ、それとセリー」
「は、この度のご光臨……」
「ちょっと、待て。だから神ではない」
「はっ。ですが、空より降りて来られました」それを言われると、そうなんだけど。
「確かに、分かりにくいと思うわよ」メリスが注意して来た。しかし、全部を正直に話しても、まず理解できないよね?
「リュウ殿、ここは私にお任せください」レジンが言った。リュウ殿って。
「そ、そうか。分かった」レジンに何か名案があるらしい。とりあえず、任せてみるか。
「では、ノブタダさん」
「はっ」
「私たちは、神のしもべです」まぁ、人間はみんなそうかも。
「やはりそうでしたか」ノブタダ、大きく頷く。自分の考えに近いので信用してくれたようだ。
「ですが、神よりこの地へ試練として遣されました」
「な、なんと。試練と?」
「そうです、我々は神の試練としてこの地にやってまいりました」
「はい」妙に納得した様子。神を『多重世界』とすれば、確かに嘘は言っていない。
「ですが、やるべきことは明確には示されておりません。それを探るのも試練の内なのです」
「なるほど」
「しかし我々はこの地の事を知りません。そこで、城主のノブタダさんに協力してもらいたいのですが、お願いできますか?」
「もちろんです。このノブタダ、身命を賭してお役に立ちます」
まぁ、ノブタダから見たら神様みたいなもんだからな。
「ありがとう。頼りにしています」神様のほうから来ましたとかって、ほとんど詐欺じゃん。
「滅相もないことでございます。これ以上ない誉れに御座います」
うん、話は纏まったけど、これでいいんだろうか? まぁ、無駄に混乱させるよりいいか。ごめんノブタダ。後で詫び入れる。きっと。
とりあえず、城主のノブタダから協力の約束を貰えた。これで自由に動けるだろう。
* * *
まずは、この世界の情報を集めるしかない。その意味では最高の状況ではある。
「レジンのお陰だな。どうなるかと思ったよ」俺は素直に感謝して言った。
「これで、この世界まで来た甲斐があったと言うものです」レジンは、ちょっと意味深な笑みを浮かべて言った。あれ? レジンが来た理由でいじり過ぎた?
「まずは、ゆっくり休もう。畳の上の布団で寝るのは初めてだ」
「私も、初めてです」レジンも同じらしい。
「私たちも」メリスとユリもだ。
「あ、私は一度あります」これはシナノだ。
「へぇ~、そんなところあったんだ」
「セリーの家にあるんです。ね?」
「ええ。古い家なので」
「ほぉ。あんなに進んだ世界なのに、面白いね」思わず俺は世界Rと比較していた。セリーって意外と旧家の出なのかな? 名前からは想像できないが。
世界Rと世界Lじゃ物凄い差だと思ってたが、こんな事もあるんだな。
そんな話で初めての夜は盛り上がるのだった。




