22 南の島へ
週末になった。
つまり、俺の人生最大の危機がやってきた。
「あら、リュウがお祈りするの初めて見た」メリスが目ざとく見つけて言った。もう、神様にお祈りするしかない。
「なになに? リュウが信心深いって、嘘でしょ?」はい、嘘です。そんな訳はありません。ユリ分かってんじゃん。
「意外と分からないものよ。人間なんて」とメリス。
「じゃ、はい。お弁当。バッグに入れてね」ユリは大きな包みを俺に渡して来た。俺、ただの荷物運び要員かも。
「おはようございます」
「おはよ~」
シナノとセリーも来た。
「おはよう! いま、荷物チェックしてるとこ」とメリスが応じた。
「あ、水は用意した?」ユリだ。
「一応一日1L計算で三人分ある」
「ええっ? 五人だけど?」
「おまえ、なんで俺が五人分を用意すると思ってんの?」
「あ、私たちの分はあります」とシナノ。
「だよなっ」
「そっか~っ」とユリ。
「あ、何かあったら困るので、水は各自で持つように」
「あっ、それはそうね」とユリ。
「了解!」とメリス。
「そうですね」とシナノ。
「わかった」とセリー。
みんな素直でよろしい。
* * *
飛翔モードは快適だった。操作をホールド出来るようになったので楽ちんである。ときどき方向を修正するだけだ。景色を見る余裕もあるし、レーダーをチェックすることも出来るようになった。
ここは文明の進んだ世界だが、流石に太平洋上の空の便は少ないようで、すいすい飛ぶことが出来た。まぁ、高度も航空機などとは違って低空だしね。この世界では高高度を超音速で飛ぶらしいので俺たちが邪魔になることはない。
防護スーツの通信で会話をしながらの空の散歩はなかなか楽しかった。
ー 気持ちいいね~っ。
そういうユリの空の散歩はちょっと華麗だ。ロールしたりして遊んでる。目が回ったりしないのか?
ー ユリさん、お上手ですね。
それを見たシナノが誉める。
ー わ~、わたしもやってみよ~っ。
セリーがユリのあとを追い始めた。こうしてみると、本当に対称的存在なんだなと思う。
ー 海も透明で、綺麗ね。
すっと隣に飛んできたメリスが言った。既に八丈島付近で海の水は綺麗だった。高空から見ているので青さも消え、透き通って見える。
ー この辺りは、海の中も綺麗だよ。魚も固有種がいるし。
ー そうか~、潜ってみたいね。
とメリス。
ー いや、流石に荷物もあるし無理だろ。
ー えっ? レジンは荷物あっても潜れるって言ってたよ?
ー マジか、どうやるんだろ?
ー ちょっと潜ってみる?
ユリが近づいて来て言った。
ー いいね!
セリーもその気らしい。
ー じゃ、行くか。
俺たちは水中散歩をすることにした。
* * *
以前は滑空モードしか無かったから下降については緊張していたが、上昇も出来るようになったので気持ちが全然違う。するすると海面まで降下した。
ー ちょっと潜ってみるね。
言うとメリスが海中に潜っていった。スクーバダイビングなら勢いを付けて潜るのだが、そのまま軽くす~っと潜れるようだ。
そして、しばらくして上がって来た。
ー おもしろ~い。これ、以前の潜水モードと全然違うよ。
ー ほんと~?
ユリも興味津々だ。
ー ほんとか? 荷物持ってても平気か?
ー 空気の泡みたいになるから全然平気。
ー ほう。よし、俺も潜ってみる。
確かに以前の潜水モードとは全く違う。フェイスマスクやフィンがない。こうなると、むしろ飛翔モードに近い。つまり空から降りてきて違和感なく潜水できる訳だ。レジン、流石だ。
潜ってみると、体から離れたところに膜があるように水が入ってこない。大きな泡の中に入ってる感じだ。しかも空気の泡の中で浮いている。まぁ、水を感じられないから、本当の意味ではダイビングとは違う? あっ、ドライスーツと同じか。究極のドライスーツだな。
ー これは面白いなぁ~。海の中に空を作って飛んでるようなものだな。
ー ほんとだね~っ。面白いね~っ。あれ? 魚とか獲れるのかな?
メリスが言う。
ー どうだろう。流石に手が届かないからダメだろう。
ー 残念~っ。
まぁ、何か道具を使えば出来そうだが。てか、ユリは魚獲っても料理できないと思うんだが。俺も、捌けないぞ。
ー やっぱり、海の色が違うわね。青さが違うっ。
メリスも楽しそうだ。
ー 太陽がキラキラして綺麗だよね。
ユリが言うように、海の中から見上げると日の光は波で屈折して放射状に閃いていた。
ここは人のいる島から離れているので、あまり魚影は濃くないが地形も変化に富んでいて面白い。海に潜らない人は海底が平坦だと思ってたりするが、実際は山あり谷ありで複雑な地形なのだ。人の手が入っていないので、自然そのものだから尚更だ。
* * *
海から上がって、目的の島へはすぐにたどり着いた。
「最初にここに来た時は、どうなるかと思ったわ」とメリス。
「そうだね。私、料理できないし」とユリ。やっぱりか。
「じゃぁ、俺は座れる物でも探そう」
さぁ、いよいよ危機だ。
「よろしくぅ」とユリ。
「あ、シート持ってますよ」シナノが言った。そうか、うっかり忘れていた。
俺たちは、シナノが持ってきたシートを拡げて座った。
「じゃぁ、お弁当~お弁当~」ユリは大はしゃぎで、シートの上に並べていった。
「さぁ、私たちも」シナノも弁当を取り出した。
「はい」
並んだ、弁当を見ると。メリスとシナノのお弁当は瓜二つというか全く同じものだった。
「え~っと、これって誰が作ったの?」
「「もちろん、食堂のおばさんよ!」」なるほど。賢明な判断です。
こうして、俺の危機は過ぎたのだった。
季節が十一月とはいえ、南国の島で食べる弁当は美味かった。食堂のおばさんありがとう!
空は青く晴れ渡っていたし、波はあるけれど明るく輝いていた。周囲の海には魚もそこそこ泳いでいるし、のんびり楽しく遊べる。
ここを、俺たちの隠れ家にしてもいいかも知れない。そんな、暢気なことを考えていた。




