21 多重世界通信機、完成する
週末には俺の人生最大の危機が訪れようとしていたが、その前にレジン研究チームで開発を進めていた多重世界通信機が完成した。
まぁ、完成と言っても別世界との通信に成功したわけではない。あくまでも、この世界内で転移発光セルを使った通信が出来たという話だ。つまりプロトタイプだ。
「これは素晴らしい成果だ。例え別世界に届かなくても、この宇宙で十分使える!」ホワンも絶賛している。
「転移発光セルを切り替えれば混信しないのがいいよね。バンドが一杯になったら、セルを切り替えれば済むんだから凄いよ」マナブも良く分かってる。切り替える転移発光セルがあればだけど。
「いや、宇宙全体で共通になってしまうから、それほど余裕があるとも思えなんだけどね」今のところ、他の星系とコンタクトしてないので何とも言えないが。
「そう言えば、これを使えば別の星系の会話とか聞こえるんじゃないの?」トウカが面白いことを言い出した。
「ああ、そう言えば電波で宇宙人探すプロジェクトあったなぁ。あれは微弱な信号で苦労したみたいだけど。これだと減衰しないから、見付けるのは簡単だとは思うんだけど」
「だけど?」とトウカ。
「うん。生物を転移発光セルに入れて使ってるから、同じものが生息している世界でしか使えないのがネックかも」
「ああ、なるほど。その意味では、クローズな通信になるわけね」共通の希少生物セルを持つ者同士の通信ということだ。
「うんそう。でも、どこまで行っても通信可能だから、自分たちで使う分にはいいんだけど」
「そうか。自分たちが宇宙に進出する時には使えるけど、見知らぬ宇宙人を見つけるには不向きなのか」トウカは残念そうに言う。
「たぶんね」
「共通の生命が必要だからね。そんな生命ってあるのかな?」
「どうだろうね。途中で変異しない胞子とかならいいけど」
「えっ? 同じものを持ってたら発光しないから通信できないんじゃないの?」メリスが横から突っ込んできた。
「いやいや、そうじゃない。『存在しない世界』と『通信したい世界』は別だよ。同じ希少生物が存在している世界間で通信出来るって訳だ」
「あ~、そうだった。」とメリス。ここはちょっと誤解しやすいところだ。
恐らく、実際に通信できるのは近隣の世界だけだろう。言い換えると最近別れた世界同士だろう。
「じゃぁ、ヒカリゴケはこれからは発光する苔になるんだ」意外な方向からユリが突っ込みを入れて来た。確かに通信で使ったら発光するよな。
「あ~っ。確かに、そういうことは弊害としてあるなぁ。けど、巨大な転送装置じゃなくて、通信機のパワーは小さいから微弱な光だけど」
「そうなの?」
「いや、確かに要注意かも。っていうか、そうなると傍受される危険性もあるな」ちょっと使い方を考えないとダメかも。
「ふうん。夜光虫とかホタルイカとか発光生物は、実は通信に使われているんだったりして。クラゲは宇宙のメッセンジャーとか」
「ありゃ。そういう可能性もあったりするかな? 誰か研究してくれないかな?」
「流石に、それはないんじゃない? でも発光する希少生物だったら通信しているのバレないかも」
「そだな」
「そこ、黙って聞いてれば、アホなこと言ってるし。通信機のデモは終わりなの?」やっとメリスが突っ込んでくれた。遅いよ。
* * *
完成した多重世界通信機は非常にクリアーな音質だった。今はまだ音声だけだが、もちろん映像も乗せられるだろう。というか、これがあれば多重世界を結ぶネットワークも作れるかも知れない。まぁ、まだまだ先の話だが。
貴重な多重世界通信機だが俺たちは防護スーツに組み込んで使うことにした。現状、誰も使う人がいないし、使わないと進歩しないからな。この通信の存在が知られれば彼方此方で使いたがるだろうが、それまでに改良もしておきたい。
とりあえず地球圏での利用には苔を使えばいいと思う。遠い世界に同じ種は存在しないだろうから気兼ねなく使えるだろう。
「これは理想通信機と言えるんじゃないですか?」試作機を使ってみて、マナブが興奮して言った。
「確率波というものが何なのか分かりませんが、電波と違って遮蔽するものがないから何処へ行っても周りを気にしなくて済みますね。全部サービスエリアだし」
確かに、電波の届く領域とかサービスエリアという概念がないからな。っていうか、むしろ届きすぎるのが問題だ。宇宙の隅々まで届いてしまう。まさか、宇宙の外には届かない……と思うが。あれ? 隣に別の宇宙ないよな? 確率は宇宙から、はみ出さない……よな?
ビッグバンした時の映像を宇宙の外周付近で撮って送ってくれる……なんてことが起こるかもしれない。転移出来れば可能だ。「今夜の特番はビッグバンの実況です」なんてことが起こるかも? 夢が膨らみまくりだな。
* * *
ビッグバンの実況はともかく、この研究所内のことで気になることがあった。多重世界通信機の発表会でもそうだったんだが、シナノとセリーが妙によそよそしい。俺、なんか変なことしてないよな? 転移を起こさないように気を使ってるだけだよな?
そんなことを考えていたら、多重世界通信機の発表のあと食堂でシナノに声を掛けられた。
「今夜、お部屋に伺ってもよろしいでしょうか?」これって、あの話だよな。たぶん。
「え~っと、そうですねぇ」俺はどうしたものか迷った。
「いんじゃない?」横からメリスが返事してるし。
「いいよっ」ユリもいいらしい。
「分かりました。では、後ほど」とシナノ。
あれ? 俺の意見は? セリーは、手をひらひらさせただけだった。でも、笑ってたし大丈夫だよな。俺、別世界でどろどろした人間関係に突入したくないんだけど?
* * *
「私たち、もう素直になることに決めました」夕食後しばらくして俺の部屋に訪ねて来たシナノが宣言した。
「素直に?」
「はい。素直に、正直に」うん?
「ええっと」
「私と付き合ってください」やっぱり。
「私も!」以下省略かよ。
「二人のこと、あまり知らないんだけど」
ちょっと間をおいて、シナノは小さく笑った。
「やっぱりおかしいですよね。私、ちょっと気が急いてましたね」シナノはあっさり言った。
「私もそうかも」とセリー。なんだろう。どこか、言ってみただけというサバサバした感じがした。
「普通でいいなら研究員仲間でいいんじゃない?」メリスが言う。
「うん。特別避けたりしなくていいと思う」ユリは余裕で言う。
「お二人に、そう言って貰えると気が休まります」とシナノ。自分たちの行動について、いろいろ考えてたのかな?
「私も」いや、セリーはもっと自分の意見を言おうよ。
「ま、無理しないでってことで、いいんじゃない?」メリスがそれを言うか。
「よかった。よろしくお願いします」
「よろしくぅ」おいっ。
「じゃ、これからは普通に話すよ」
まぁ、意識してしまいそうだけど。
「はい」とシナノ。
「うん」とセリー。
「あ、そうそう。今度の週末、南の島へピクニックに行くんだけど、二人も来ませんか?」突然メリスがそんなことを言いだした。
「えっ、誘って貰えるんですか?」とシナノ。
「うれしい!」とセリー。
「あ、それでしたら私、お弁当作っていきます!」とシナノ。
「シナノの料理、美味しいよ」セリーが言った。これは朗報だ!
「それはいいですね」
「あら、じゃぁ、私も作っちゃおうかな」おい待て。
「メリスの料理も旨いよ」とユリ。ホントか?
「南の島なんて、素敵ですね。」シナノが言う。
「うん、無人島なんだけどね。防護スーツで飛ぶ予定」
「まぁ、楽しそう」とシナノ。そ、そうか?
「いいね~!」とセリー。
「楽しみよね!」とメリス。
「楽しも~っ」勿論ユリ。
なんとか無事、和やかに済んでよかった。でも、俺の人生最大の危機は続く。まだ、油断してはいけない。




