20 空間転移再び
多重世界通信の話で気付いた話を、『別世界転移で往復すれば空間転移になる』と定例ミーティングで報告したら大騒ぎになってしまった。研究所の当初の目的であった空間転移が可能になりそうだからだ。一度諦めた夢が急に実現しそうな状態で目の前に再登場したのだから無理もない。
ただ、見方が変わっただけなので大発見と言うほどではない。というか、まだ実現できるかどうか怪しい話だ。今は片方向の転移が出来るかどうかさえ分からない。気の早い話でしかないとも言える。ただ、今の研究の先に『空間転移』があると再認識されたのは大きい。
加えて、タイムラグ無しの通信が出来そうなのも話を大きくした。空間転移と超光速通信の組み合わせは、とてつもなく刺激的なのだ。恐らく、広大な宇宙が物凄く身近な存在になるだろう。大騒ぎになるのも無理もない。多重世界を含めて宇宙を自由に動き回れるという未来の情景が、目の前に広がったのだから。
あれ? これでよく転移しなかったな俺。飛ばされてもおかしくないんだけど? これを含めてこの世界に転移したってことなのか? それとも、最後に難関が待ち構えているのかな? こればっかりは終わってみないと分からないな。
「ホントに嬉しいよっ。転移は俺の長年の夢なんだっ。これで、俄然やる気が出て来たよ」そう言ってトウカが握手を求めて来た。
「そうか、よかったよ」そんなに喜ばれると、逆に居心地が悪い。
「後は、やっぱり転移の方向決めだよね。頑張らなくちゃ!」マナブも、さらにやる気が出たようで何より。
「そうだな。幸運を祈る」俺には出来そうもないからな。
そんなわけで、改めて空間転移研究所は『空間転移』を正式な研究目標に設定した。
もしかすると宇宙工学関係の研究と連携を始めるかも知れない。夢は広がりまくりだな。まだ仮説だけど。
* * *
その日の夜、俺たちは自室で寛いでいた。ていうか、俺の部屋に集まっていた。
「ねぇ、リュウ。あんまり活動し過ぎると、また飛ばされるかもよ?」窓際のテーブルでコーヒーを飲んでいたメリスが言った。
「そうなんだよなぁ。けど、これも含めて転移して来たのかもしれないだろ?」ベッドに寝転んだ俺は天井を見ながら言った。
「そんな、未来の可能性だけで確率が……ああ、そうね。そうかもね」メリスは自分の事を思い出したようだ。メリスと俺の関係なんて、可能性しかないのに一緒に転移してきたのだ。
「あくまで可能性だからな。まぁ、人間の可能性って単純じゃないと思うけど」
「リュウは特に分からないかも」俺にコーヒーを持ってきたユリが言う。
「どういう意味だよ」俺はベッドから起きてコーヒーを受け取って言う。
「そういう意味よ」
「不確定な存在か? 怪しすぎる」
「そこが、魅力ぅ」
「ホントかよ」
「惚れるぅ」
「惚れて無かったのかよ」
「あ、忘れてた」
「忘れるなよ」
「そこっ! ギャグやってる場合じゃないわよ。いきなり飛ばされたら困るんだから」メリスが突っ込んだ。
「まぁ、そうだな」
「そう言えば、シナノたちは、その後何か言って来てる?」メリスは思い出して言った。
「ああ、何もないな。諦めたのかも? ヤバイと思ったのか?」
「ヤバイって?」
「だって、転移しちゃったら今の研究が頓挫するかも知れないだろ?」
「ああ、そうね。そうよね」
「なるほどっ。責任問題になるもんね」ユリも同意した。
なんか俺、実験動物扱いされてるか?
* * *
空間転移の可能性は提示したが、特に俺たちに仕事があるわけではない。特に、転移発光セルを作ってしまったので三人は元の暇人に戻ってしまった。それで、ちょっと散歩に行くことにした。
散歩と言うか飛翔モードで遠出しようという訳だ。
「ねぇ、今度の週末、この世界に来た時の島まで行ってみない?」メリスが、そんなことを言い出した。退屈だからな。研究者って課題がないと退屈だよね。
「えっ? でも遠すぎるだろ?」
「そうかな? でも、重力加速器を強化して防風フィールドが付いたから高速飛行も出来るんじゃない?」
重力加速器は、周りの空気も加速することが出来るらしい。というか、体の周りの空気も体と一緒に加速しているだけとのことだが、それだけではないだろう。
おかげで速度を上げることができるとのこと。しかし、音速を越えるとは思わなかった。
「一時間くらいでいけるんじゃない? 途中で遊んでもいいし」とメリス。
「そうだなぁ。飛び石で島もあるしな」
「面白そう!」ユリも行きたいらしい。
「あの辺りって、空より海に潜るほうが面白いかもな」
「そうね! 絶対面白いね! お弁当持っていこう!」どうやって、お弁当持って海に潜るのかは不明だが。
まぁでも世界ゼロで外出していなかった俺としては、ちょっと出かけるのも面白い気がした。
しかし、だ。誰が弁当作るんだ? メリスかユリか? 二人とも料理を作ったところを見たことないぞ? 絶対作れないよな?
普段、料理しないのに自分は作れると主張するかもしれないが信じてはいけない。非常に危険だ。独創的な料理になってる可能性大だからだ。
いや、この二人がそうだとは限らない。二人は賢いので大丈夫だろう。たぶん。
俺、人生最大の危機?




