19 光速を超える
二人との関係はともかく、多重世界通信機の開発は順調に進んだ。
順調と言うか俺たちは単に転移発光物質を生体フィルムを使ってセルに封止してるだけだ。後はレジンが全部やってくれる。
それだけではない。さらにレジンは滑空モードを改良して飛翔モードを作るそうだ。自分で飛べるらしい。夢のようだな。
そんな呑気な感想を言ってたからかレジンが仕事を回してきた。防護スーツの飛翔モードで使うベルトの改良だという。
いや、そんなこと言われてもなぁ。
「そもそも、重力加速素子なんて使ったことないんだけど」
「あれ? ラジコンとか作ったことないですか? あのサーボみたいなもんですよ」
「マジか。そんなもんか」
「ちょっと違う程度です。はい、これが仕様書」
* * *
ホントかと思ったら全然違うじゃないか! でも重力加速器自体は今でもベルトに入ってるから基本は同じだ。高性能になってるだけらしい。俺たちはなんとか教えて貰いながら組み立てた。だいぶ小さいが、それでも使えるらしい。
「こんなものが重力加速器なんだな。まぁ、確かに発射プレート上からは飛び出せたわけだから、そのままでも飛べるはずだな。ちょっと強力になっただけ……だよな?」
とりあえず、前回の経験を生かして潜水プールでテストしてみた。レジンもルジンと同じ間違いをするかも知れないし。
だが、すんなり動いてしまった。レジンの方が優秀なのか?
* * *
それで、いよいよ発射プレート無しで発進してみる日が来た。
「どうでもいいけど、なんでこんなに観客がいるんだ?」
「みんな暇……興味があるんじゃないでしょうか?」観客の一人のシナノさんが言った。
「暇なわけないよな? あ、昼休みか」
「そうですね。娯楽も少ないですし」娯楽なんだ。
シナノさん、意外と言いますね。てか、この世界、進んでるのは科学技術だけで娯楽は少ないのかも。それって、進んでることになるのか?
やっぱり俺っておもちゃになる運命なのかと、半ばあきらめてテストに入った。
発進は、以前と同じだ。発進プレート無しだが、体をやや傾けて急加速する。
「発進」
パッシューッ
まぁ、こういう音はしないんだけどね。ちょっと、シューみたいな音はするけど。
「「「「「「「「おおおお~っ」」」」」」」」
ギャラリーからどよめきの声。
なかなか快適です。軽く飛んで降りてくるのだが、あまり早く終わってしまうと滑空モードと違わないので、広場を三周してから降りて来た。つまり下降だけでなく上昇もして見せた。
「うん。快適だ」
「すご~い。じゃ、次私ね!」メリスも飛び出した。順に飛ばないと補助できないからな。
「あ、先越されたっ」ユリが悔しがる。三教官だからな。ま、三暇人とも言う。
* * *
「どうですか? 不都合はありませんか?」もちろんレジンも来ている。
「滑空フィルムは、逆にじゃまかも知れませんね。あれって使ってるんですか?」
「一応ね。無くても飛べるけど。まだ、ないと不安じゃない?」
「ああ、どうかなぁ。飛翔モードに異常があったとき滑空モードが予備として使えるなら安心出来ると思います」
「なるほど。やっぱりそうですか。じゃ、完全に独立させましょう」
そう言って、レジンはプログラムを書き換えた。どうも、出来てたらしい。
「これで、大丈夫だと思います。設定は同じで操作はフィルムを張らないので手足を拡げる必要がありません。手足が自由になるので、何か物を持つこともできます」
「分かった。じゃ、行ってくる」
パッシューッ
「あっ、ずるいっ。私の番なのに」ユリごめん。
「もういい。一緒に飛ぶもん」ユリも後から飛んできた。お前なぁ。ま、メリスがいるからいいか……と思ったら、後ろにいた。まぁ、いいか。バカップルじゃなくて、バカ……以下省略。
発進後、手足を開かなくてもいいのはかなり楽だ。さらに体の操作方法は同じだが状態をホールド出来るようになった。これで、長時間の飛翔でも耐えられそうだ。
* * *
多重世界通信機の開発は転移発光セルを作ったあとレジンに渡してそのままだったのだが、少しして結果が出始めたようだ。
俺たちがレジンの研究室に到着するとレジンが走って来た。こんなレジン初めて見た。
「確率波が、どう伝搬するのか不明ですが結果は出始めています」
確立波か、なるほど。電波ではなくて確率の波で伝わる訳だ。
その確率波って、どう考えても普通の空間を伝搬してないよな?
どう伝わるんだろう。ま、確率波そのものが仮説だが。
「もうですか」
「はい、転移対象の世界が絞れていないので、発光物質の選択が難しいんですが通信は出来るようになりました」
「それは凄い」
「ええ、ただ通信そのものより確率波のほうが面白いですね!」なんか、目つきもいつもと違うんだけど?
「へ? それはどういう?」
「まだ、分かりませんが、もしかすると光速より速く到達します」な、なんですと~?
「マジですか。というか距離の概念がないのか? 世界と世界の距離ってないですよね?」
「そうなんです。だから、何処へも同時に到着するんじゃないかと思うんです。少なくとも、光速より遅いことはないのではと思います」
「ああ。遅かったらいろいろヤバいことが起きそうですよね」
「はい」
「そうかぁ。光速を超えるかぁ。あれ? もしかして惑星間航法とかに利用できますかね?」
「それ、ワープとかですか? それは、ちょっと話が飛びすぎてると思います。ですが光速を超えるならタイムラグ無しで通信できます! これは凄い事になりますよ!」
そりゃそうだよな。遥か宇宙の彼方と遅延なく通信出来たらリモートで宇宙開発とかできそうだ。しかも、シグナルの減衰がない……って、バンドが簡単に一杯になりそうだけど。あ。発光物質を変えればいいのか。
特定の惑星にしかいない生物使って惑星限定の通信とか出来ないかな?っていうか、生物の進化なんて宇宙規模で同じになったりしないよな? うん、いけそうだ。
確かに面白い。レジンが興奮してるのも分かる。
「面白いことになって来ましたね」
「ホントに! もう、楽しくて!」
後ろでは、女性二人が待っていた。
「リュウとレジンが怪しい話してるんだけど」とメリス。
「そうね。美女二人をほっておいて」とユリ。そもそも、研究室では美女の価値は高くないんだが。
「美しさの概念も瞬時に伝わるのかしら?」メリスが面白いことを言い出した。
「美しさは宇宙を揺るがす」ユリも、怪しいけど面白い。
「そもそも、そういう概念は空間を走らないだろ?」一応突っ込みを入れる俺。
「それはそうね」
「あれっ?」
「そういえばこれ、別世界経由したら、ホントに空間転移出来ちゃうかもな」
「え?」とレジン。
「なんで?」とメリス。
「わーぷ?」とユリ。
「だって、世界と世界は距離がないんだろう? この場合の転移って座標指定するだけだし、行って戻る時座標を変えれば普通に空間転移だよ」
「「「……」」」
「おおおおおお~~~~~~~っ」とレジン。
「ああああああ~~~~~~~っ」とメリス。
「リュウってば~!」なにそれ?
本当に同じ世界内の空間転移の可能性が出て来た。冗談だったのに。
少なくとも、座標調整が必要な時点で空間転移が出来る可能性が高い。転移門型か? 自分で転移も可能なのか?




