18 二人の関係VS二人の関係
次の日からは俺たちも正式な研究員として活動を始めた。ときどき他の研究チームから質問に来るけれど原則はレジンチームだ。
だが、俺たちに医療機器の専門知識はないので転移発光物質の収集と多重世界通信機がらみの雑用になる。その間にレジンは多重世界通信機用の超小型転移装置を開発していた。ベルトに仕込むものだ。
転移発光物質自体は、世界識別用に沢山用意していたのでそのまま使えた。俺たちが使っている苔は胞子の状態なので嵩張らず長期保存が効くので便利だった。
* * *
そんなある日、俺たちが発光物質の封止処理をしていたら、シナノとセリーがレジンの研究室に訪ねて来た。
「やぁ。調子はどうだ?」
「ええ、最初の部分を教えて貰ったから、とっても順調よ」とシナノ。俺たちが提供した情報を元に研究を進めているからな。
「それはよかった。で、今日は?」
シナノはちょっと間を置いてから話し始めた。
「単刀直入に言うけれど気を悪くしないでね」
「うん。わかった」
「お二人も」
「えっ? 私たちも?」メリスは意外な顔で言った。
「なになに?」とユリ。
「実はね。私たち二人とお二人が違っているのは、意味があると思うの」シナノは自分とセリー、メリスとユリを見比べるようにして言った。
どうも世界ゼロと世界Lの違いについて言っているようだ。二つの世界は、『メリスとユリ』、『シナノとセリー』が違っている。
「ああ、確かにメンバーとしては、明らかに違うよね。あとレジンもちょっと違うけど」ルジンとレジンの違いは微妙だ。かなり近いと思うが。
「そうね。それも意味があると思うけど、特に私たち二人はお三方が転移して来たことと関係があると思うんです」シナノって、どこか古風な言い方をした。
「ああ、そうかもしれない」
「っていうか、これ見よがしというか、あからさまと言うか。直球よね?」横で聞いていたメリスが言った。
「そうね。そこは、世界の選択だから」ユリも同意する。
「そうなると、お二人の事を、もっと知るべきかと思ったんです」
「うん?」
「お二人は、どういうご関係なのでしょうか?」
そこか。
「その話は、後でもいいですか? 今はちょっと」俺はちょっと周りが気になった。
「そうよね。っていうか、まだ確定してないのよね。こちらも」とメリスが補足した。
「うん」
「確定していない?」シナノは不思議そうに言った。
「まぁ、人間関係ですから流動的なわけですよ」
「ああ、なるほど」そう言って、シナノはちょっと謎めいた笑いを浮かべた。気付いたか?
「そうなんです?」セリーは気付いてないらしい。
「では、夕食を一緒に取ってからということで如何でしょう?」メリスが提案して来た。
「ユリはどう?」メリスはユリに聞いた。
「私は大丈夫だけど」
「じゃ、いいわ」おいっ。俺には聞かないのかよ。
なんだかヤバイ雰囲気なので出来れば退散したいのだけど、集合場所は俺の部屋だよな?
* * *
相変わらずというか、やっぱりというか研究所の食堂の料理は美味かった。この研究所は名コックばかりなのか? 研究所がレアだから? 研究員よりコックのほうがレアだったりして。
そんな冗談を言ってられないのが俺の今夜のスケジュールなのだが。なんか、カツアゲ予告された気分。俺、悪い事とかしてないよ?
「では、差し支え無ければお二人のこと、教えて下さい」食後、俺の部屋にセリーと共にやって来たシナノは物怖じしない様子で言った。いや、思いっきり差し支えあるけど?
「私たち二人はリュウの恋人です」メリスが言った。おいっ、それはおかしいだろ。って、突っ込み難いんだけど。
「っていうか、候補です」ユリが訂正した。そうそう。
「恋人候補?」
「いえ、お嫁さん候補です」そうなんだ。ああ、そうかもな。
「つまり、恋人ね?」とシナノ。
「そうですね」メリス、ぐいぐい来ますね。断定ですか。っていうか、自信に満ちてるのは何故だ?
「はぁ。そうですか。やはり」いや、そこで俺を見られても困る。俺は無実の筈だ。二股してない。今のところ。
「そうなんだ!」セリーは納得した模様。今気づいたんかい!
しかし、何か勘違いしてる気がするんだが?
「いや、ユリとは恋人になったばかりで、メリスは打ち明けられたばかりだ」俺は素直に言った。本当の事を言わないと誤解の嵐になりそうだし。
「ああ、なるほど。そうですか。それで確定していないと」とシナノ。
「そういうこと」
「そうですね」とメリス。
「そうそう」とユリ。
「ふ~んっ」とセリー。
シナノはちょっと考えるしぐさをしてから言った。
「でしたら、私たちも同じにして貰いましょうか?」
「同じ?」
「恋人に」とシナノ。なんでそうなる。
「いや、意味が分かりませんが」
「恐らく、私たちの行動が世界に大きくかかわっているのだと思うんです」とシナノ。
「はぁ」
「ですから、お二人の関係と同じか正反対の行動にでるのが結果が明確になるのではないでしょうか?」とシナノ。それ何の実験?
「いや。それ、明確にすべきなんでしょうか? そっとしておくと言う手もありますが」
「ふふ。そうですね」選択肢にないらしい。
「それじゃ、面白いくないよね?」セリーさん、面白い必要が分かりません。
「いや、大変な経験をしたばかりなので、危険に飛び込む必要はないということです」
「それは、確かに」シナノには分かって貰えたようだ。
「ううん」とセリー。
この二人。絶対自分の人生に飽きてたよね? 面白ネタが飛び込んできたので飛びついてるだけだよね? あれ? それじゃ、メリスとユリもそうなのか?
「ちょっと待て。『シナノとセリー』が『メリスとユリ』」と対称だとすると、メリスとユリが俺に近づいたのも、そういう動機なのか?」
「あっ」今更驚くメリス。
「ええっと」
「白状しろ」
「ええっと、そういう興味も多少はあったかな? 最初だけだけど」ユリは素直に白状した。
「そ、そういうのは確かにあるものよ。普通よ。当然よ」なんか、開き直った人いますけど。
「マジかよ。別世界人大人気だな」
「嫌だった?」とユリ。
「えっ? 動機としては、微妙。ただ、驚いたけどな」
「じゃ、いいじゃない」とユリ。
「いいのかよ」
「私もいいけど。むしろ、歓迎よ。そんな関係、ちょっと望めないし」とメリス。
「そうなんだ。てか望むのかよ」
「ふふ。私たちも同じですね。運命的な出会いとか求めてしまう」とシナノ。
「そうだね」とセリー。何処か少女めいた笑みを浮かべる。
「でも、二人で十分なんだけど? てか、不幸になる運命だったらどうすんの?」
「そこなんですよ。そこに何かあると思うんです」とシナノ。
「うん、きっとあるよ」
「いや、ないだろ。転移するくらいじゃないかな」まぁ、一大事件だけどな。
「そうでしょうか?」とシナノ。
「分からないけど、もうちょっと状況を把握してから考えるというのはどうでしょう? とりあえず、すぐにはお二人の気持ちに応えられないと思うし」話、聞いたばかりだしな。
「はい、そうですね。でも、私たちの気持ちは分かっていてください」
「よろしくね!」
いや、全然分からないけど? なにこれ、研究者独特のハーレム前夜ってこと? それとも、俺がモルモット状態なだけ? 希少生物? かなり危険な状態な気がする。好奇心旺盛ってだけか?
まぁ、人間ならともかく、もしかすると多重世界のおもちゃになった気がするのが怖い。
そういえば、大嫌いになるっていう選択肢もあった筈だよな? ま、嫌われるのは厭だけど。
その夜、二人は大人しく帰って行った。




