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多重世界の旅人  作者: りゅう
黎明編
16/128

16 もう一つの空間転移研究所

 俺たちは空間転移研究所の接客用の部屋に通された。俺が最初にホワンと話した部屋でもある。

 そして今回もやって来たのはホワンだった。


「ホワンか」思わず言ってしまった。違う世界だと分かっているのに。

「何故知っている?」

「聞いてないのか? 俺たちはこことは違う別世界の空間転移研究所から来た。そこにもホワンがいる」


 すぐ後からレジンが入って来た。こいつは微妙にルジンと違うから話がややこしい。


「ほう。時間は空けた。ゆっくり話を聞かせて貰おうか」


  *  *  *


 俺たち三人はホワンとレジン相手にざっと事情を説明した。


「どう思う? レジン」俺の説明が終わると、しばらく考えてからホワンはレジンに意見を求めた。


「ちょっと信じ難い話ですね。ただ、この研究所の機密事項も多く含まれてますし、なにより登場の仕方がめちゃくちゃでした。諜報員ならあんなことはしませんね。信じていいと思います」

「あんなこと?」

「はい。最初に防護スーツの会話を傍受したとき位置を確認してびっくりしました。西之島の上空五千メートルだったんです」


「ああ、そうだったな。どうやって降りてきたんだ?」ホワンは俺に振り向くと言った。

「防護スーツの滑空モードです」

「そんなモードあったか?」怪訝そうにレジンを見る。

「ありませんね」

 どや顔で俺を見るホワン。


「ないだろうな。俺たちの世界の開発担当ルジンが最近追加してくれた機能だからな」

「ほう。そっちの世界ではレジンではなく、ルジンと言うのか」

「ちょっと、怪しいですね」

 いや、お前のほうが怪しいんだが。


「だが、向こうのルジンのほうが優秀だな。そんな機能は俺たちのスーツにはない」ホワンの言葉に、レジンはちょっと悔しそうな顔をした。素直な奴だな。


「それは、リュウが提案したからじゃない?」メリスが突っ込みを入れた。

「そうね。世界ゼロにはリュウが転移して来たからね」ユリもか。まぁ、お前が俺を贔屓にするのは分かる。てか、その言い方だと、俺が自分から転移したみたいじゃないか! 俺が一番怪しくなるだろ!

「まぁ、スーツについてはそうかもしれない」仕方なく俺は認めた。


「ふむ。そういえば君は世界ゼロじゃなくて世界……Rの住人でしたね」レジンは納得がいったような顔をした。そんなに気にしなくていいのに。


「そういう人間の登場で、変化が生じた……というわけか」この世界のホワンも理解が早い。


「君たちからすると、この世界は何て言う名なんだ?」ホワンは世界の認識のほうが気になるようだ。


「この世界の名前は、まだありません」

「そうか。どうやって名付けるんだ?」

「決まってません。俺たちもまだ二十個ほどの世界を確認したばかりなので」二十個と聞いて、ホワンはちょっと驚いた顔をする。


「そうか。じゃ、ファーストコンタクトした人間の名前を使うか。レジンで世界R……は、もうあるか」ホワンは俺たちと同じ方式で考えている。いいのか?

「失礼。私の名は『R』ではなく『L』です。何度も言ってますが正しくは『レディン』なので」レジンが速攻で突っ込みを入れた。

「そうか、じゃぁ、レジンから名前を取って世界Lとしよう」


 ファーストコンタクトって、俺たちは宇宙人扱いかよ。てか、レジンのままでいいのか? レディンが期待を込めて見てるぞ。


「それにしても、我々が研究している空間転移装置が別世界に繋がる転移装置だったとはな」ホワンは、俺たちを見渡しつつ言った。


「だがこれだけ証拠を提示されたら信じるしかないだろうな。いや、研究はちょうど袋小路に入っていたところだ。君たちの登場はむしろ有り難い。出来れば一緒に研究してほしいところだ」やっとホワンの信頼を得られたようだ。レジンは諦めたっぽい。


「ただ、一応手順は踏まなければならない。こちらと同等の保護スーツを着ている以上、あまり検査は必要ないだろうが、こちらにも事情がある。しばらく、検査に協力してもらいたい。その後で研究員に紹介しよう」


「了解した」

 もう二度目だしな。なれたもんだ。


  *  *  *


 俺たちは隔離部屋に通された。流石に、それぞれの個室という訳にはいかないが、防護スーツを着ているので問題はない。常にシャワーを浴びているようなものだからな。たまには風呂に入りたいんだが。


「ねえ、リュウ」隔離部屋に入ってしばらくして、メリスがコーヒーを持って来て言った。設備はしっかりしているようだ。


「リュウとユリが転移して来たのはいいとして」

「なんで俺たちはいいんだよ」

「だから、一緒のベッドだったんでしょ?」ちょっと責めるような目をする。

「ああ、そういう意味か」

「そう」


 メリスは、三人分のコーヒーをテーブルに置くと自分も椅子に座った。


「でも、どうして私も転移してんのよ」

「いや、俺に言われても」

「そうよ。分からないわよね? 何も実験して無かったし」ユリも同じ気持ちらしい。

「そうなんだけど、これは何か意味があると思うのよ」メリスは納得いかないという顔で言った。

「そうだな。だが、まずは転移した原因からだろ。あの夜何があった?」

 と言ったものの、思い返しても特別なことはないようだった。


「昨日、俺たちは世界識別器を作る作業をしていたんだよな?」

「そうそう。リュウが安定発光セルを作るとか言って、色んな要素技術で作ったものを集めてた」

「それって、転移直前に光るって話の?」

「そう。たくさん並べておくと、相手の世界に対応したパターンで光る」

「でも、夜には何もしてないわよね?」

「もちろんだよ」

「そうよね」


「あれ?」

「何かあるの?」

「いや、だから。あれなのか?」

「どれなのよ」とメリス。

「ええっ? もしかして?」

「いや、まさかな」

「全然分かんないんだけど」とメリス。


「あ~っと、二つの世界の人間が付き合うのがまずいのかも?」

「あ~、それかも。もしかして、自然界の禁忌に触れて飛ばされた?」メリスは、ちょっと鋭い目で言った。

「禁忌ってなんだよ。だったら、二人を別れさせる筈だろ?」

「そう言えば、そうね。なんで一緒なの?」だから、知らんがな。


「だから禁忌じゃないって。二人一緒なんだから問題ないってことだろ」

「もしかして、私たちって運命だったのかな?」ユリが耳打ちしてくる。

「どうかなぁ?」俺もそっと返す。

「そこ。こそこそ相談しない! ただ、世界に影響する関係ってことは確かね」メリスは、確信したように言う。


「そうかなぁ。でも、そうだとすると、ますますメリスがいる意味が分からないじゃん」

「そ、それは」メリス、ヤバそうな顔をする。

「もしかして、私と同じで『恋人関係』ってことなの?」ユリが怪しむような顔で言う。

「……」

「どういうことだ?」


「だから、メリスもそういう関係ってことじゃないの?」とユリ。

「そういう関係って?」

「だから三角よ」とユリは俺の腕に縋り付いて言う。

「えっ? そうなのか? いや、俺知らないぞ?」

「それは」メリス慌てる。

「そうなんだ」とユリ。

「そうなのか?」

「もう、だって、好きになるのは勝手でしょ?」

「まじか」

「そういうことなのね」ユリは納得した顔で言う。

「もう、最悪ぅ」メリス、思いっきり後悔する。


「でも、それって、世界が認識しているってことだよな? 世界が意識を読んだとも思えないし、もしかすると将来の可能性とかも含まれてるのか?」

「ああ、なるほど」メリス、ちょっと元気になる。

「たぶん何かが大きく変わる?」何が変わるのか思い付かないが。

「分かんないよ。でも、そうすると私たちって運命共同体ってこと?」ユリが鋭いことを言った。


「確かに。一緒に世界を渡る程に」

「そうね。これって真面目に考えるべきね。分かったわ。私、リュウと恋人になる!」メリスは、すっきりした顔で言う。

「どうしてそうなる」

「嫌なの?」

「いや、そういう意味じゃない」

「じゃぁ、いいじゃない!」

「それ、おかしいだろ」

「そうよ。でも、これは運命なの?」とユリ。

「わからん。単に今の状態もしくは未来に関係してるんだろうな」


「恋人はともかく。三人は協力していこう。それしか、選択肢はないよ」ユリが漢な発言をする。

「そうね」

「そうだな」


 てか、これって普通もっとヤバイ場面だよな? ユリが特別なのか?

 ただこれ、問題を先送りしただけだよな?


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