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多重世界の旅人  作者: りゅう
黎明編
14/128

14 多重世界の識別

 ヒカリゴケの発光現象だが、新たな発見もあった。

 遠く離しても減衰せずに光ることが確認されたのだ。つまり、長距離通信が容易なのだ。

 これを受けて、多重世界通信機の開発がスタートした。


 また、この転移発光物質の有無で、それぞれの世界を識別できる可能性が出て来た。多くの種類の転移発光物質を用意しておいて、その発光パターンで世界を識別しようという訳だ。

 もちろん絶滅危惧種を使っているため、絶滅による変動は覚悟しなければならない。また、生物である以上、長期保存が出来ない場合もある。苔の場合は胞子が良さそうだ。


「流石に、多重世界通信機は他のチームに任せることにした」ユリはちょっと残念そうに言った。

「ああ、そうか。こっちは多重世界識別で手一杯だもんな」


 最近ユリと俺は一緒に研究していることが多くなった。

 ヒカリゴケで見付けた転移発光現象は他の生物でも実験をしているが、発光物質は多ければ多いほど世界識別能力が増すので、いくらあっても足りない。だから他の研究をする時間などないのだ。

 今日も、休日なのに俺の部屋に来て研究の話をしていた。研究者って、休み取らないのかな? たまには息抜きしないんか?


「うん、うっかり大変な研究に手を出しちゃったって思うよ」恨みがましい目で俺を見ないでほしい。泣きついたのお前だからな!

「でも、それだけ重要な研究だよ」

「そうだけど」

「じゃ、誰かに任せるか?」

「それはイヤ。初めての高等研究員らしい成果だもん」そうなんだ。

「分かったから。俺が手伝ってやるから、頑張ろう」

「うん。ありがとう! 頼りにしてるよ!」


  *  *  *


「そう言えば、今やってるのって生物ばかりだけど、特定の発明品とか技術とかはどうなんだろうな?」俺はちょっと気になっていたことを言ってみた。

「どういうこと?」

「ああ、例えばメモリーチップとか、もっと言えば半導体の小片とかも転移発光物質の可能性があるんじゃないかってこと」


 ユリはちょっと考えてから答えた。

「ええ~っ? でも、細かい違いも反応するかなぁ?」確かにね。

「たぶん、ブレークスルーしてるようなものは区別するんじゃないか?」

「ああ、なるほど。あとは、特許取ってるようなものとか?」流石に全部と言う訳にはいかないか?


「そうだな。どこまで反応するか分からないけど、世界を変えるような発明なら反応する可能性があるんじゃないか?」

「きゃっ、また仕事増やしているし」そうは言うが、ユリは嬉しそうだ。

「いや、だって生物だと標本にするの大変だし、物質なら扱い易いかなと」

「あ、そうか。仕事が捗るのか。でも、この世界の文明レベル以下の所は反応しないよね、きっと」

「まぁ、それは生物の場合と一緒だな」

 ただ、生物なら存在するだけで意味があるが、人工物は認識されないと意味ないだろうなとは思う。自分で言い出したけど、見込みは薄そうだな。


 ユリはぶつぶつ言いながら、サーバーから二人分のコーヒーを入れて来た。

「でも、そういう発明品とかが、転移する度に全宇宙で発光するのって変じゃない?」ユリはコーヒーカップを持って窓の外を眺めると、ぽそっと言った。

「ああ、確かにな。けど、それを言ったら生物だってそうだろう?」

「そうだけど、どっちも考えにくい気がする」


「確かに。そんなエネルギーないかもな。っていうか、数が多くなると光が微弱になって検出不能になるとかはあるかも」

「うわ~、また研究テーマ増やしてるし」

「まぁ、とりあえず将来の研究テーマでいいだろ」

「別世界の状況とか調べられないしね」

「そうだな」

「うん。まずは絶滅危惧種を頑張る。他に手を出す余裕なんてない」

「おっしゃる通り」


  *  *  *


「この世界って俺の世界より進んでると思うけど、多重世界ではどのあたりなんだろうな?」ふと思い付いて俺は言った。

「どのあたりって?」とユリ。

「いや、だから文明レベルが」

「ああ、そっちね」

「そっちって?」

「確率論的な世界なら、存在確率のことかと」

「それはそうだけど」

「技術レベルや文化レベルが高いとレアになりそうだよね!」

「やっぱ、そうなるか。あ、逆に低いのもレアかもな。平均が一番存在確率が高くなるとか」

「ううっ。それも面白そう。『文化レベルはポワソン分布するか?』とか。もう! リュウといると、やりたいことが増えすぎる」やりたいのは君だけど? まぁ、文化レベルの測定方法なんてどうすんだろう? 単純に人口とか、死亡率とか、平均寿命とかしかないか?

「ご愁傷さま」

「面白すぎる!」

「まぁ、さすがに簡単には分からないようなことだけどな」

「それだけに楽しみがあるんじゃない?」

「そうだけど今すぐに分からないのは焦れったいな」

「全部、自分で発見したいの?」

「まさか。人に投げるほうが楽しいよ」

「そう。大丈夫、絶対手伝ってもらうから!」逃がさないんだ。


 だが、そんな暢気なこと言ってられたのは、この日までだった。もっと正確に言うと、この夜までだった。


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