専属魔術師に
リートミュラー様の提案を受けて、私は早速お父様に彼を我が家の専属魔術師にして下さるようにお願いする事にしました。あれだけの腕の魔術師を、しかも向こうからの提案で専属に出来るなんて願ったり叶ったりです。あのもふもふも捨てがたいですし。
夕食を終えて家族三人で寛いでいる時、私は彼の事を両親に話しました。
「お父様、リートミュラー様を我が家の専属魔術師にして頂きたいのです」
「アルーシャ。そうか…やっぱり婚約するのは無理か」
「いえ、お父様。そういう訳ではありませんの」
専属でと切り出すと、お父様は落胆しているような素振りをしましたが、どこか喜んでいるようにも見えました。お父様はリートミュラー様では婿として不足だとお考えなのでしょうか。
「婿としてお迎えするのもやぶさかではありませんわ。でもその前に、専属魔術師にして頂きたいのです」
「先に?婚約すれば彼は我が家の一員に準じる。わざわざ契約する必要は…」
「あるからお願いしているのです」
そうして私は両親に、リートミュラー様の呪いの事をお話しました。中々に衝撃的な話ですが、両親には話していいと了解を頂いています。話を進める毎にお父様の表情が段々険しくなっていきますわね。
「…マイヤー侯爵令嬢がそんな薄情者だったとは…」
「人は見かけによりませんわね」
義を大事にする両親は、マイヤー侯爵令嬢の冷淡さと身勝手さに呆れるばかりでした。
「こうなるとあの令嬢は、婚姻を嫌がって王子にすり寄ったという事か…」
「そうなりますわね。王子ならリートミュラー辺境伯も文句を言えないと踏んだのかもしれませんわ」
「だったらマイヤー侯爵も絡んでいるんだろうな」
両親は令嬢だけでなく侯爵も婚約破棄を狙っていたのだろうと結論づけ、そういう事ならリートミュラー辺境伯家と令息に最大限支援しようと仰いました。勿論専属魔術師の件も即決です。調べたところ、彼は魔術師試験を好成績で通過していたそうです。
「次に来た時に専属の契約を交わそう。その前に辺境伯にも一言断りを入れねばならんしな」
「お父様、お願いしますわ」
どうやら専属魔術師の件は無事に適いそうですわね。
「それでアルーシャ、彼との結婚はどうするの?気が乗らないなら別の方を探さなければならないわ」
「そうだな」
お母様がそう仰ると、お父様も同意されました。跡取りとしてこのまま独身という訳にはいきませんわね。でも私は…
「お父様、私、リートミュラー様さえよければ彼を婿に迎えたいと思いますの」
「まぁ」
「…本気か、アルーシャ」
「ええ。これまでに何度かお話させて頂きましたけれど、彼はとても聡明に思えますわ。魔術の造詣も深そうですし…」
それに、両親には言えませんが素敵なもふもふ付きで、それを触らせて下さるくらいにはお優しいと思います。
「そうか。アルーシャがいいと言うのなら反対はしないが…」
「呪いが解ければあの肥満体は解消されると思います。そうなればもう少し見栄えよくおなりかと」
「そうね。生活態度が問題の肥満なら困りものだけど、呪いなら話は変わって来るわ」
「ええ、お母様。彼は背も高いし痩せればかなり見栄えが良くなると思いますわ」
これは願望ではありますが…ぷにぷにお腹にもふもふなら…むしろ今のままでも…と思っているのは内緒です。この前は腕だったのでぷにぷに感が不足していたからではありませんわ。
「そうそう、クラウス王子とマイヤー侯爵令嬢が正式に婚約したそうだ」
「まぁ、そうでしたの」
「ああ、近々発表の夜会を行うだろう」
「まぁ、嫌だわ、浮気者同士が恥を晒すなんて」
「そうは言っても、陛下はクラウス王子には甘いからな」
吐き捨てるようにそう仰るお父様、思い出す度に怒りが再燃しているみたいですわね。
「アルーシャはどうしたい?欠席でも構わないのよ?」
お母様が私を心配してそう仰いましたが…
「そうですわね。でも、出ないと変な勘違いをされそうですし…叶うならリートミュラー様と出たいですわ」
「そうか。だったらその件も一緒に問い合わせしておこう」
「ありがとうございます、お父様。お願いしますわ」
そう言った私にお父様が何か言いたそうでしたが…私、決してもふもふに目がくらんだわけではありませんわよ。




