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04_代替品な天宮さん


 ダンジョンコアの事情を訊き、そして聞かされた。


 なんというか、うん、あの神様の端末はおっちょこちょいだったのではなかろうか?


 それとも、ダンジョンコアの執念と云うか、執着心が想定外に異常であったのか?


 さて。ダンジョンというものは、大雑把にわけて2種類に分けられる。


 ひとつは、誰でも思いつくような形式のダンジョンだ。いわゆる地下迷宮。あるいは天を衝くような塔といったもの。即ち構造物、建造物といったものだ。


 もうひとつは、フィールドダンジョンと呼ばれるもの。平原、森林、湿地、山、そういった自然の一定範囲そのものがダンジョンとなっているもの。


 私が契約してしまったダンジョンコアは、後者のもの。それも標高4000メートル程の山、いやさ山脈を擁する巨大ダンジョンのダンジョンコアであった。


 ダンジョンコア自体はツールであり、管理者たるダンジョンマスターが必要である。当然、それだけの巨大ダンジョンのダンジョンコアだ。ダンジョンマスターは存在していたのだが、突然、彼(或いは彼女)は、ダンジョンを棄て、行方をくらましてしまった。


 それどころかどうやったのか、ダンジョンコアとの契約も破棄したのだ。


 ダンジョン自体は、巨大化したことにあわせて自動で運営されている。ダンジョンマスターが指示せずとも、それどころかダンジョンコアがなにもせずともダンジョンとして機能するまでになっていた。それもこれもフィールドダンジョンであったからこそではあるのだが。


 だからといって、ダンジョンマスターを失ったダンジョンコアも問題ないのかというと、そんなことはなかった。


 この状況にパニックに陥ったのだ。


 ダンジョンコアにとってダンジョンマスターは己の半身、というよりは、己の庇護者、いわば親とでもいうべき存在であったのだ。


 突如として親にポイッと棄てられたとあれば、子供はどうなることだろう?


 契約を切られたダンジョンマスターとの再契約は不能。であるならば、することは唯ひとつ。新たなダンジョンマスターを求めること。


 ダンジョンコアは新たなダンジョンマスターを探し始めた。だがそれは誰でも良いわけではない。

 前ダンジョンマスターの“波長”、いうなれば指紋や虹彩のような魂の紋とでもいうべきものが刻まれてしまっているため、それと同様のモノを持っている者でなければダンジョンマスターとできないのだ。


 ダンジョンコアは全力をもって世界を探査した。該当する存在なし。ならばと。その探査範囲を宇宙の果てまで、更には次元を超えた異世界にまで伸ばした。


 巨大なダンジョンを擁し、莫大なエネルギーを持っていたからこその力技だ。


 そして――






 私が見つかった……ってこと?


《回答:その通りです。よってダンジョンコアは力任せに世界を繋ぎ、マスターを呼び寄せました》


 ……なんとなくふらふらとあの穴に近寄ったのは、そのせいか。


 で、まさに“飛んで火にいる夏の虫”の如くダンジョンコアに吸い寄せられて接触、契約して、ダンジョンマスターになっちゃったと。


 つまり、私が異世界に落っこちたのは必然だったと。……あのイケメンお兄さん、偶然の出来事だと思ってたみたいだけど、神様関係者としてはポンコツだったんじゃないかな。まぁ、幽霊の私はヘタしたら消されてたかもしれないから、これは運が良かったと思っておこう。


 そういや、実体がないから受肉したって話だけれど、実体は必要だったの?


《回答:実際には不要です。ですが、再度マスターを失うことに恐怖を覚えたダンジョンコアが、新たなダンジョンマスターに異常な執着を持ったため起こった事象です。

 実体のないマスターに実体を持たせ、その実体の内に自身を取り込ませてしまえば、いつ何時とも共にあることができると考えた結果です。これはマスターが生体でなかったということから、これ幸いとダンジョンコアが暴走した結果です》


 ……ダンジョンコア、ヤンデレ化してね?


《追答:実際のところ、マスターは前マスターと同じ波長を持っていたわけではありません》


 はい?


《マスターには魂がありません。故に、確固とした“波長”有していたわけではありません。疑似的な自我を遺した“残念”でしかないマスターは、いわばどんな“波長”の存在の代替となることの可能な存在であったということです》


 ……。


 ……。


 ……。


 ……ねぇ、私、馬鹿にされてない? 要は“空っぽ”ってことでしょ? つか、完全に代替品扱いだよね?


《本来、“残念”とされたモノが“個”として存在し続けることは不可能です。胡散霧消するのが常です。それらを鑑みるに、マスターを生み出した存在はそれこそ神の如き確固たる信念、あるいは煩悩をもっていたと思わます》


 信念と煩悩が同列なのかよ。つか、そのふたつだったら絶対に私は煩悩だろ。しかも男性の性的な方面での煩悩だ。


 サブカル漬け日本人男児の煩悩を舐めんな! ……猫耳だのが生えてなかったのは僥倖ということか?


 つか、さすがに煩悩の権化とか云われると気分が悪いんだが? まさかここにきて、自分が幽霊じゃなく、どこぞの妄想の産物とか知りたくなかったよ。あれか、イマジナリーフレンドみたいなものか。私を産みだしたのはどんな輩だったんだか……。


 なんか、真っ先に思い浮かんだのが、アキと一緒にボコしまくったあの色情怨霊なんだけど。あの腐れ痴女幽霊、まったく度し難かったからな。そこらの商売女に取り憑くならともかく、なんでたかだか4歳の幼女に取り付いて、大学生のお兄さんに、パンツ脱いで色仕掛けとかしかけるんだよ。危うくお兄さんの人生が終わるところだったぞ!


 ……まぁ、あのお兄さん、ホモセクシャルだったからか、変態幼女に臆することもなく、パンツを履かせた上で正座させて説教してたけど。自分好みのお兄さんに説教されて、あの怨霊、恍惚としてたけど。本当、イカレタ状況だったな、アレ。


 秀太郎がゲラゲラ笑って、斎藤のおじさんは遠い目をしてたっけ。あのあと幼女から引きずり出して、アキとけたぐり倒して亡ぼしたんだ。


 ……あかん、なんかしんみりしてきた。


 つか、私はなにをどうすればいいんだ? なんか意図せずしてダンジョンマスターなんてものになっちゃったわけだし。

 まさかこっちの世界でダンジョンなんて作るなんて問題しかなさそう――いや、問題なのか?


 オペちゃんや、私はなにかしなくちゃならないのかな?


《回答:マスターのお望みのままに》


 ダンジョンコア的には問題ないの?


《マスターが居られれば満足ですので》


 なるほど。


 ところで、私はこの体に囚われたままなのかな? 壁抜けとかできないのはすごい不便なんだけど。


《回答:幽体離脱の要領で肉体より離れることは可能であるハズです》


 幽体離脱って、そんなんしたことないんだけど。


 あれか、某双子コメディアンのネタをやれということか。


 ということで、せせこましい屋上スペースで仰向けになる。


 おー……空が綺麗だ。


 さてと。


 幽体離脱~っ! って、抜けきれなかったけれどズレたぞ。これならイケる!


 肉体からはみ出した霊体を、頑張って引きずり出す。下手に肉体に触れると元に戻りかねないから、上半身が抜けた時点で、まるで平泳ぎでもするかのように空に向かってジタバタする。


 よっしゃ、抜けた! 幽霊に肉なんていらんのや!


 ……なんか、地味に私に似た顔をした体が、悲壮な表情で私に向かって手をのばしてバタバタしてるんだけど。微妙に外国人より? 日本人というより、西洋人とのハーフみたいな顔で、亜麻色の髪で灰目をしている。


 オペちゃん、ちょっとダンジョンコアを落ち着かせてくんない? 置いてどっかにいったりしないからさ。






 やっと落ち着いたのか、ダンジョンコアは私の隣りに座っている。()れられないせいか、私の体を時折腕がスカスカ通り抜けてるけど。


 なんでこんな必死なんだ? なんか迷子になってた子供みたいなんだけど。


《回答:ダンジョンコアはツールでしかありません。そのために、マニュアルとでもいうべきオペレーションガイドが存在します》


 いや、そういうことではなく。というか、なんか冗談じゃなしに幼児と云うか子犬と云うか、そんな感じがするんだけど。ツールっていうなら、こんな執着なんてないでしょ? そもそも私を引き寄せたりしたりしないでしょうに。


《推察:恐らくは前ダンジョンマスターとの関りが影響していると思われます。ダンジョンコアはオカルト系のアナログツールです》


 は?


《契約より、マスターより得た知識に照らし合わせますと、付喪神(九十九神)がもっとも近しいものでしょう。その基本知能は、いうなれば従順な犬、人間であれば2歳児程度となります》


 あー……。つまり、ダンジョンマスターはダンジョンコアからしてみれば飼い主、或いは親ってところなのね。


 ところで、前マスターってどうなったの? 再契約とかはどうやっても無理だったの?


《回答:前マスターがなにを思い契約破棄をしたのかは不明です。ですが、あまりにも短絡的であったといえます。契約破棄をし、下山を開始したのですが――》


 したのですが?


《ダンジョンマスターではなくなったため、侵入個体と判別。ダンジョン配下のモンスターに襲われ死亡しました》


 ……。


 ……馬鹿なのかな?


《逃げ惑っていましたので、自殺ということはないでしょう。ですので――仰る通り、馬鹿だったのかと。ダンジョンの外縁部で契約破棄をすれば良かったものをと愚考します》


 その答えを聞いて、私は思わず乾いた笑い声をあげた。それこそ斎藤のおじさんみたいに。



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