16_不穏を感じる天宮さん
「クラウスさん、資源はいらないかい?」
ダンジョンコアの体に憑依して、私は朝食をのんびりと食べているクラウスさんに訊いた。
クラウスさんはというと、ドレッシングを掛けたレタスをバリバリと食べている。健康志向なのかどうなのかは知らないが、私のイメージする偏見増し増しの外国人と違い、お肉よりも野菜をたくさん食べている感じだ。
もっとも、昼食の際には胸焼けしそうなほどお肉を食べてるけど。クラウスさんはお昼に大量に食べて、朝と夜は軽く済ませるスタイルのようだ。
食事会などがあるときは、お昼を抜いているみたいだけど。
「いきなりなんだ? リッコ。資源とだけいわれても、どんなものか分からなくては答えようがない」
「あぁ、それもそうか。思い浮かぶものほぼすべてだ。食糧と木材関連以外といっていいな。金属、希少土類、石油にガスといったものだ。宝石なども資源といっていいのかな?」
クラウスさんは目を瞬かせた。
「また随分多岐に渡っているな。このところの事情からして、どんなものでも欲しくはあるな。私の所の事業で直接関係するのは、貴金属と宝石関係だが」
「あぁ、宝飾品関係の事業を手がけているんだったね」
「だが突然どうしたんだ?」
「先日、女の子をひとり連れて来ただろう? 彼女の関連でね。大量に手に入ることになったんだ。具体的に云うと――惑星1個分」
ぶふぅっ!
クラウスさんがコーヒーを噴き出した。
「は?」
「パラレルワールドって分かるかい? 分かりやすくいうとその類だ。で、その世界、星は生物災害で破滅してしまってね。カビのせいで人類どころか陸上生物が滅亡した。その世界にいた神様も世界を見放したのか、より上の神様に責任を取らされたのか知らないけれど、まるごと未管理の状態にあったんだよ。
だから、その最悪の状況を生み出したカビを根絶して、ついでだから丸ごともらった。そんなわけで石油はもちろんの事、各種資源が大量に手に入ったのさ。
で、要る? 腐らせとく必要もないだろ?」
「リッコ、冗談は――」
クラウスさんが私をじっとみつめる。もちろん、私は真面目腐った顔のままだ。……ちょっと口元あたりは笑ってるかもしれない。
クラウスさんはため息をついた。
「リッコ、出所不明の代物が大量に湧いて出ようものなら、問題にしかならないだろう?」
「それなら、ただの土くれだけの山でも買って、掘ったら資源が出て来たとでもいえばいいじゃないか。実際、そこに資源を埋めるというか、そう云う風に細工するのは簡単だから、こっちでやってもいい」
「……なんでもアリだな」
「あの薬のことを考えれば、すごい現実的だと思うけど」
そう云ったら、クラウスさんは笑って肩を竦めた。
そんな会話をした数日後、なぜか吸血鬼っ子の身分まで造られてた。尚、あの吸血鬼っ子、記憶がかなりの部分ふっとんでいた。
オペちゃんがいうには、あの世界の吸血鬼も地球の伝説なり伝承なりと基本同じであるとのこと。つまり吸血行為で増える、ということ。ただの吸血行為だけだとダメらしいけど。例外として、被害者が血を吸いつくされた場合、吸血鬼の出来損ないが出来るらしい。いうなればゾンビ兼吸血鬼という、知性のない代物が。
彼女はそれに足を突っ込みかけの状態だったようだ。要は、血を吸われ過ぎたということのようだ。
死亡から吸血鬼化までの間に、脳を維持するのに必要な酸素を送るだけの血液が無かったため、脳が半ば壊死し損傷。吸血鬼化後に修復されたというのが、いまの状態のようだ。
現在はUVカット100パーの防護指輪を付けて生活している。
これで似非デイウォーカーになれると知ったら、世の吸血鬼はチベットスナギツネの如き顔をになるんじゃなかろうか。
日光の克服は吸血鬼の悲願らしいし。
というか、某漫画の吸血鬼同様、天敵となっているのは紫外線であるようだ。
ま、地球には伝承のような吸血鬼はいないからどうでもいいか。いるのは吸血鬼じみたカニバリストか、自身を吸血鬼と思い込む精神病患者だけだ。
さて、その彼女、年の頃はナディアちゃんと同年代くらとあってか、仲良くなっている。
吸血鬼の本能というか、血の乾きとやらが心配だったんだけれど、オペちゃんが彼女をダンジョンに属させたことで、行動制限を架しているから安心とのことだ。
呪いのようなもので、吸血行為を行おうなどと考えようものなら、即失神するらしい。
まぁ、いまは牛乳と……乾燥赤血球のカプセル? で十分賄えているようで、血の渇きの心配はない。
なんとなしに気になって、人工血液なるモノは存在するのか調べてみたところ、そんなものは存在しないようだ。赤血球だのを人工的に作る技術はない模様。もちろん、その代替となるものも。
……となると、ダンジョンコアが作り出したあの赤血球の代替品ともいえるカプセルは世に出ようものなら大変なことになるのでは?
エネルギー産業と医薬品産業関連は利権が大変なことになっているから、そこを揺るがすような代物を登場させようものなら、恐らくは産業スパイと暗殺者が大量に暗躍することになるはずだ。
そんなものはいくらでも返り討ちにはできるけど、面倒な事この上ないから、手を出すことはしない方が無難だ。なにより死神がうるさい。
ん? それならなんでクラウスさんに資源の譲渡を持ちかけたのかって? クラウスさんのところで使う分には、どうとでも誤魔化しがきくでしょ。要は、過剰に世界に流通させるようなことをしなければ問題ないない。世話になってるお礼ってものさ。
ということで、クラウスさんのところには、希少な宝石の原石と貴金属を渡すことなった。パライバトルマリンとかプラチナとかね。
そんなこんなで、吸血鬼っ子を拾ってから半年ほど経過た今日、私たちは日本に戻ってきた。
この半年でナディアちゃんは自力で生活できるほどに回復。肉体的には問題なくとも、年単位で手足の無い状態でいたわけだからね。以前のように手足を動かす、というのが衰えていたんだよ。
あれだ。身に着けた言語も、使わなければあっという間にまともに喋れなくなるっていうでしょ。それと同じようなことだと思う。
それに加え、不自由な状態がデフォルトとなっていたため、元の五体満足な体での行動が、妙にギクシャクしていたんだよ。
それを半年のリハビリで解消。かなり早かったんじゃないかな。クラウスさんも一緒にリハビリしていたのも大きかったんだろう。
そうこうして、なんの問題も無く日常生活ができるようになってから、日本に移住と相なったのだ。
日本も物騒と云えば物騒ではあるけれど、海外の厄介な地域とくらべたら天国だからね。
そう思って、のほほんとしていたんだよ。
ライフワークにしていた怨霊、悪霊退治を気まぐれにしながら。なにしろミーナさんがその手のことにやたらと乗り気でね。
……というか、都内はどれだけ魔窟になってんだよ。埼玉の孤島でずっと燻ってたから、まさか都内があんな有様とか思わなかったよ。
まぁ、酷い酷い。とはいえ、殺人事件の数とかを考えたら、さもありなんってことなのかな。
まさか悪霊退治で忙しなくなるとは思わなかったよ。
そんな程度で、私の方はさした問題はなかったんだけど……。
「お姉ちゃん。相談したい」
ある日、まだ若干つたない日本語で吸血鬼っ子が私の袖を掴んできた。
「ん? どうした? なにかあった?」
まだ日本語のつたない吸血鬼っ子は、考えて言葉を選ぶように、すこし首を傾いでからこう云った。
「ナディア、危ない。狙われてる」
……。
ほほぅ。なかなか聞き捨てならない話が出て来たね。




