13_平面な天宮さん
お、オペちゃんや、この【鏡面世界】ってなに!?
《回答:マスターの能力のひとつです。(仮名称)とついているのは、その能力名で正しく顕せているか未確認であるためです》
ちょ、どういうこと!?
現在、私たちは生存者がいると思われる方面へと進んでいる。
テクテク……というよりは、テテテテと小走りに進むクロウラーの後を、私たちがのんびりついて行っている感じだ。
あ、走っているのではなく、歩いている速度でだ。クロウラー、コンパスが短いからね。
いま進んでいるのは正に都会と云った感じの場所。中世らしい感じのレンガ積みとかの建物ではなく、ちゃんと筋クリな建物が並んでいる。高さはせいぜい5、6階程度のものがほとんだけれど。
地球の時代背景にあわせると、20世紀初頭くらいかな? 現代と遜色ない……とはとてもいえないけれど、そこまで違和感はないかな?
ただ、地面はアスファルト張りってわけじゃなく、こっちは焼き煉瓦を敷き詰めた道路だ。
尚、完全にゴーストタウン化しているのは、ここらのゾンビをついさっき一体残らず殲滅したからだ。
《回答:【鏡面世界(仮名称)】は、マスターが使われた能力の中で、もっとも訳の分からないものです》
そうかなぁ。幽霊と云えば、テレビの画面に映ったり、鏡に映ったりするものだよ。まぁ、基本的に写真に写ったもので確認されるのが殆どだけど。
《回答:カメラ、映像等の原理は既に確認しています。それを鑑みても、マスターの能力は、霊体が写り込んだというものとは別種のものと考えられます》
どういうこと?
《回答:心霊写真、心霊映像の類は、霊体が実像として写り込んだモノです。あくまでも光学的に写ったということです》
ふむ。
《回答:鏡、硝子などの場合は、その鏡に映った、或いはへばりついていたということです》
ふむふむ。
《疑問:ですがマスターは鏡に映っているだけのオブジェクトに影響を与えるなどと云う不可解なことを行っているのです。どういうことですか!?》
ふむふ……あれ?
そういやなんで映ってるだけのものに干渉で来てるんだ? それにあわせて現実のものも動くなら、私が現実でやってるってことだけど、そう云うわけじゃないしね。そもそも私、鏡の中の世界と云うか、普通の部屋とかと同じように認識してウロウロできてるんだけど、なんでだ? いままで考えたこともなかったや。
《確認:これまで、特に意識していなかったと?》
そうだね。自分でもびっくりだ。でも映像とかは無理だよ。出来なくもないけど、ガタガタして体がバラバラになるかと思ったからね。前に試した時に。
《仮定:実のところ、鏡などに映ったモノだけではなく、絵に描いたモノにでも入れるのではないと推測しています。こちらで試してもらえませんか?》
なんか畳み2畳くらい大きなクリーム色の紙が現われた。そこには線で長方形が描かれており、中央左端に筒状の絵。
うん。ドアの絵だね。ちょっと斜めから見た感じの。
……え、これに入れと。でもって扉を開けろと? いや、さすがに無理じゃね?
頭を抱えた。
いや、なんで入れるんだよ。それどころかなんで扉を開けられるんだよ。向こうも同じ紙の上だったけれどさ。えぇ……。
びっくりどころじゃないよ。さすがにこんなことやろうなんて思ったことないしさ。ってことはなに? 壁にかかれた落書きとかにも入れるってこと?
《困惑:提案しておいてなんですが、訳が分かりません!? ちなみに、絵の中に入ったマスターも、絵になっていました》
どういうことだよ!?
《回答:私に聞かれましても。……さすが、マスター! としかいえません》
……むぅ。
なんか、ミーナさんは手を合わせてワクワクしたような顔をしているし。……まぁ、何故か私を神格視してるしね。ダンジョンマスターとその配下って考えれば、そんなものか。
《質問:ということで、能力名称をいかがいたしましょう?》
【鏡面世界】でいいよ。実際には【平面世界】ってことなんだろうけど。2次元とはちょっと違うしね。そもそも私は鏡にしか入らないだろうから。
《了解です。説明書きの所に詳細を記しておきます》
さて、ちょっと足を止めちゃったけれど、先を進もうか。
進むこと1時間。
すっかり日も暮れて、空には歪な月が輝いている。多分、ここは街の中心だと思うけど、なんというか、荒れようが外縁より遥かに酷い。
爆弾とかミサイルとかでも落ちたのか? 爆心地みたいな場所がいくつかあるし。
そんな街中を進んでいたクロウラーがやっと足を止めた。
ここかな?
「そのようですね。どうしましょう?」
さしものミーナさんも、目の前に有様を見上げ、苦笑を浮かべている。
目の前にあるもの。倒壊したビル。このあたりの建物はどれも似たような有様だ。どうやら爆撃のようなことが行われたと思われる。
生存者はこのビルの下にいるらしい。……地下にでもいたのかな。というか、地下にいたとしても、これ、崩れて大変なことになってるよね。
本当に生きているのか? 生き物の気配がしないんだけど。
《訂正:生存者ですが、生存者ではないようです。アンデッド……いえ、この世界においてはイムモータルに分類されるようですが、生命活動は行っていないようです》
む? イムモータルって不死者ってことだよね? いわゆる不老不死にして不死身みたいな。いや、完全な不死身ではないらしいけど。
《回答:生命活動は行っておりませんが、生命活動と同様に食事等を必要としているようです。あと、不死者は明確が寿命がないだけで不死身ではありません》
あー、ダンジョンコアやミーナさんみたいに、魔力だけで生きているわけじゃないのね。……考えたら、魔力のみで生きるのって、仙人が霞を食べて生きるっていうのと同じじゃね? で、普通にダメージで死ぬと。
それじゃ、ちょっと私が見て来るよ。それから瓦礫はクロウラーを使って片付けよう。ストレージに放り込んじゃえば問題ないでしょ。
《了解です》
ゆらゆらと瓦礫のなかを通って、地下を目指す。
このビルはなんだったんだろ? 集合住宅的なものなら、地下にあるのは駐車場だったりしたのかな?
とはいえ、崩れた瓦礫……コンクリで酷い有様だ。あ、鉄筋は入ってないんだ。だから脆かったのかな?
でも、ギリシアのほうの、コロッセオとかで使われたコンクリは、現代のコンクリより遥かに頑強って聞いたんだけどな。乾燥にバカみたいに時間が掛かるから現代では実用されていないだけで。年単位だっけ? いまも乾燥中だからさらに強度があがってるとかなんとか。違ったかな?
地下一階の床に沿って、隙間を探しつつ左右にウロウロとする。
やがて、生存者を見つけた。
……下半身が完全に瓦礫で潰れてんじゃん。ついでに背中にも瓦礫が被さってて、確実に胸部を圧迫してるから呼吸できてないぞ。
え? 不死者、だよね? 単に不老不死ってだけの。アンデッドじゃないよね? なんで生きてんの? いや、生きてるって云っていいのか? これ。
私は生存者? の側面から、正面に回った。
頭部の周囲だけは、ほんの少しだけ空間があった。どうやら物理防護の障壁を張っていたらしい。それでうまい具合に頭の周りだけには空間ができたようだ。それに加え、崩れた瓦礫がほぼそれに合わせた形で安定するなんて云う、奇蹟的なことが起きたと見える。
幸運持ちかな? 秀太朗みたいな不運と凶運持ちじゃなくて良かったよ。秀太朗、結局幽霊人生1年で終わっちゃったしねぇ。というか、あの子、クズ共に対して容赦なかったからなぁ。さすがに生きてるのを祟りまくれば、堕ちるの早いか。
さて、意識はあるかな? えっと、女の子かな?
打ちっぱなしのコンクリにほっぺを押し付けるように、ナディアちゃんと同じくらい、10歳くらいの子が倒れている。
とりあえず話しかけてみよう。このために鏡も持ってきたんだ。
鏡の破片をストレージからポイっとな。これで声だけ鏡を介して発することができる。
いや、鏡を介さないとダメなんだよ。普通にふわふわした幽霊状態だと、話しかけても呻き声みたいになるのが殆どでさ。
さてと。
《おーい、生きてるー?》
お、目が開いた。本当に生きて? るよ。凄いな不死者。
瓦礫のせいで上手く首を動かせないせいか、視線だけをあちこちに彷徨わせている。
えっと、ここらで視線に入るかな? 正面だと瓦礫のせいで、それこそ鼻を突き合わせるレベルで近づかないといけないからね。
あ、私に気がついたみたいだ。頑張って実体化してるけど、これ苦手だからいいとこ1分が限界なんだよね。
女の子が私をみて、はくはくと口を開く。声が出せないようだ。そりゃそうだ。瓦礫が圧迫してんだもの、肺が仕事をしていない以上、声なんてまともに出せやしない。
とりあえず安心させるように手を振っておこう。よし、ここにクロウラーを寄越して、瓦礫を撤去だ。
私は瓦礫を通り抜けるようにそこから離脱する。
ありゃ、泣いちゃったか。まぁ、助けが来たと思ったら消えちゃったんだもんなぁ。そりゃ心細くなって泣きたくもなるか。持ち上げて落っことしたようなものだし。
とはいえ現状ではどうにもならん。
私は地上に戻ると、クロウラーを地下へ送り込む。この子たちも幽霊準拠だからね。私同様に壁抜けはできるのだ。
でもって、下から瓦礫をストレージに放り込ませる。
なんで下からかと云うと、下手に上から除去して崩れたら目も当てられないでしょ。さすがに不死者とはいえ、プチッ! ってぺちゃんこになっちゃったら死ぬと思うんだよね。
実際、除去を始めたら崩れ出してどんどん瓦礫の山が低くなっていく。これ、上からも除去した方がいいな。クロウラーを追加で生成、動員。クロウラーはなんだかんだで1000体くらい作ったからね。情報収集用に世界中に派遣するとなると、数がいるんだよ。現状、まだまだ少ないから、10体くらい追加で作っても問題ない。
ってことで、撤去と云うか、瓦礫を格納しまくって5分経たずに撤去完了。
まともにやってたら、それこそ数日掛かったんじゃないかな。重機とか使って。崩れて要救助者が潰れないように計算しつつの瓦礫撤去となれば大変だ。
数日じゃ無理? や、ってことは正にチートだねぇ。
ってことで、
綺麗になくなったねぇ。あとは地下部分だけか。結構撤去中にガラガラ落ちたからなぁ。
《提案:そのウチ、なにかに再利用しましょう。さきほどのゾンビの残骸も、程度の良いモノはDP化せずに保管しています》
は?
《五体満足なモノはもちろん、各パーツごと、老若男女しっかりと取り揃えました。ご安心ください、すべて滅菌済み。安全です》
いや、なにしてんの? 死体なんて使う機会なんてないと思うんだけど?
《回答:フラグですね》
オペちゃん!? え、必要になるの? 生首とか?
って、なんでそんな言葉を知ってんのさ!?
《回答:覚えました。いずれ【一級フラグ建築士】という言葉を使ってみたいです》
私はそんなのにはならないよ!? そんなことになったら、称号に入りそうだ。
「主様、撤去が完了しました。生存者の状態が酷い有様ですが……あれで本当に生存しているのですか?」
生きてるんだよねぇ。殆どアンデッドだと思うんだけれど。
《彼女に【癒しの奇蹟】を。それで回復します。ポーションは彼女にどういう効果をもたらすか不明ですので》
「問題ありませんか?」
大丈夫みたいだからやっちゃって。
ミーナさん治療をお願いした。これで大丈夫……って、いやいやいや。
ダメだろ。この世界終わってんだぜ。あの子ひとりぼっちで今後どーすんのさ!
え、連れて帰るの?




