12_右拳でぶん殴る天宮さん
オペちゃんや、ゾンビアポカリプス状態って云ったじゃんよ! だからって、怨霊がいないとも云ってなかったけどさぁ!
私は心の中でそうオペちゃんにケチをつけつつ、そいつの背後に忍び寄る。
そしておもむろに――
右拳でぶん殴る!
突如として後頭部をぶん殴られ、そもそも打撃なんて受けるはずもないのに強打を受け、そいつはたたらを踏んだ。
ってところで――
振り下ろした右拳の勢いのままに体をぐるんと縦回転させるようにして、左踵を脳天に打ち下ろす!
バランスを崩したところへの追撃で、そいつはビタンと地面に叩きつけられた。
もはや完全に混乱しきりだろう。だって、本来なら地面に叩きつけられるなんて有り得ないハズだもの。本来なら、地面に透過して、ダメージを受けるなんてことはないのだ。最もそれ以前に、殴りつけられることが異常事態なんだろうけど。
それらが分かっているから、私は予め地面に透過を阻害する結界を張っておいたわけだ。びっくり仰天混乱の極みだろう。
はっはっはっ。幽霊30年もやっていると、へんちくりんな芸も面白半分に身に着けるモノなのだよ、怨霊君! 天狗さん、ありがとう! いつも役立ってるよ、この結界術!!
ってことでこれで最期だ。
左掌でぶっこ抜く!
私は左手を俯せに倒れている怨霊の背中に突き入れると、狙ったものを引っ掴んて引っこ抜いた。
左手には、背骨みたいな何かが握られている。
そしてそれを抜かれた怨霊は、叫び声を上げながらそれを取り返そうと私に飛び掛かろうとするが――
立ち上がれず、振り向きざまそのままガクリと膝をつく。
その体を構成している霊体が千切れ、崩れていく。
その状況に驚愕し、驚いた表情を私に向けた怨霊が目を瞬いている。その間にも体が、伸ばした触手がブチブチと千切れ消える。
叫ぶのも忘れ、きょとんとしている。
痛みはない。霊体だからね。ただ、要となる部分を私に引っこ抜かれたせいで、怨霊として自身を維持することが出来なくなっただけだ。
私は手に握っている背骨をグシャッと握り潰した。……普通は霊体が他の霊体を掴んで潰すとか出来ないハズなんだけど、なんでか私は昔っからできるんだよね。
オペちゃん曰く、私が普通の幽霊じゃなくて、煩悩由来の残念だからかな?
怨霊は驚いた顔のまま。ブチブチとからだが千切れ、細かくなって消え失せた。
本体は残りそうなもの? いやいや、肥大化した部分と融合しているからね。崩れるのに巻き込まれてついでに千切れちゃうのさ。
よし。怨霊退治完了! やー、やっぱり怨霊退治は、不意打ちでぶん殴ってぶっこ抜くのが一番だね。お手軽に退治できるもん。
《……質問:あの、マスター、いったいいま、何を成されたのですか?》
オペちゃんが私のやったことの説明を求めてきた。
いや、見た通りなんだけれど?
ちなみに、周囲では迫りくるゾンビの大軍に対し、ミーナさんが法術をぶっ放し捲っている。【Amok】だっけ? 火炎のない爆発がドカンドカンと凄いこと凄いこと。そしてそれを抜けて来たゾンビに対しては、ダンジョンコアが手にした六代虎徹で無双している。……なんだか某ゲームのボスキャラみたいなムーブをしてるんだけど、見なかったことにしよう。
細菌製ゾンビは昨今のホラー映画仕様のようで、爆速で突撃して来るんだよね。なので地味に対処が面倒臭い。
あ、そうそう、最初に私が作ったダスター、大活躍だよ。埃に憑依して活動するアンデッドモンスターなんだけれど、憑依する埃の量の上限が無いみたいでね、巨大な壁を形成した上に、そこをよじ登ろうとするゾンビを容赦なく殴り潰しているんだよ。四方のウチの三方を壁で囲んでガードしてくれているから、こっちはとっても戦いやすいのだ。
《困惑:見た通りと云われましても、不明なのですが。そもそも、怨霊を殴って地面に叩きつけるという事象が異常です》
あぁ、そうか。そりゃそうだ。掴むのはともかくも、私も天狗さんに教わるまで、そんなことできなかったし。
ちなみに天狗さん、あの蜂の妖怪に困っていたんだよね。倒せないこともないけど、戦った場合の被害を考えると放っておきたい。でもご近所過ぎて地味に迷惑(勢力拡大を定期的にするため、子コロニーの駆除が大変)。となっていたところを、私たちがぶち殺したんだよ。
そのお礼で、妖術を教えて貰っちゃった。結界術ひとつだけだけど。私だけ運よく適正があったんだよね。
それらを含めて、説明をしたんだけど。
《回答:いえ、それらに関しては観測できました。よって、結界術に関してマスターのステータスデータを更新しています。それではなく、怨霊よりなにかを奪い取って退治したというのが不明なのですが》
あぁ、あれか。
《確認:あれは怨霊の中核ではありませんよね?》
うん。そうだよ。つか、中核部分はどうやっても掴んだりはできないからね。もし掴めたりしたら、すごい厄介なことになると思う。ヘタすると私が怨霊化するだろうしね。……あ、いまはダンマスだから、それは大丈夫なのか。
えっと、怨霊というか、幽霊ってさ、中核となる残留思念があって、それに霊力を纏って形を為しているわけじゃない。
でも悪霊怨霊となると、そこらの霊をくらって肥大化してるわけだけど、その弊害として自己の形状維持が困難になるんだよ。
そのために、肉体でいうとこの骨格とでもいうものを作り上げるんだよ。いや、肉体より、家屋の骨組みのほうが分かりやすいな。
で、私が引っこ抜いたのは、その要。家でいえば、大黒柱を引っこ抜いた。当然そんなことをすれば、家は倒壊するよね。
《困惑:そんなバカな……》
そんなバカなって。以前からずっとこうやって悪霊退治をしてきたんだよ。それこそアキたちと逢う前から。
天狗さんから結界術を教わってからは、そりゃもう効率よくなってサクサク倒せるようになったけど、それまではコソコソしながら近寄ってぶん殴らなくちゃならないから、大変だったんだよ。1対多だったら退治するのも諦めたりしてさ。
《確認:それが事実であるなら、ゴースト系のノーライフキングでも瞬殺できるのでは?》
そうだねぇ。相手が大物であればあるほど、要を引っこ抜かれたら自壊するね。潰れるか、いまみたいに維持できないでバラバラになるかどっちかだよ。
《質問:時に、そもそも、なぜその要となるものを引っこ抜こうと思ったのですか?》
いや、昔アニメでそんな感じのを見てね。で、見よう見まねでやってみたら、どういうわけだか出来た。
《困惑:えぇ……》
俺の拳が紅蓮に燃える! 喰らえ、剛腕のブラストナックル! とかいって、とりあえず悪霊をぶん殴って回ってたからね。1995年頃だっがかな?
いや、黒歴史とかそういうのじゃなくってね。あの頃はひとりで悪霊退治を黙々としてたんだよ。
んで、ひとりっきりで殺伐とそんなことばっかりしてるとさ、なんていうの、おかしなことを始めるんだよね。
で、やってたのはアニメのアレの真似。ほとんどゴッコ遊び気分?
どーせ幽霊だし、他人には見えないからね。これから消滅する悪霊にみられたところでどうってことないし。そもそも幽霊の類は転生だの出来ないしね。死神だって迎えにこないんだから、そいつは間違いないんだ。
ってことで、存分に遊んでたんだ。
そういや、あの頃は拳に鬼火を纏ったりもしてたんだっけ。やっぱりゴッコ遊びをするなら徹底しないといけないからね。
《……記録:マスターのデータを更新します》
なんだか納得がいかないのかなぁ。まぁ、アキや秀太朗も「え、それ、どうやってやるの?」と驚いてたからな。
そういや斎藤のおじさんだけは笑ってたな。
まぁ、いいか。と、私は周囲に注意を向ける。
ゾンビに混じって、厄介な霊が来たりしてないよね。……うん。いないな。
いましがた消した怨霊は、この辺りを縄張りにしていた地縛霊的な奴だったんだろう。
まぁ、また見つけたら、始末すればいいか。
それから30分程して、ゾンビの大軍の殲滅は完了した。向こうから突撃してくれるから、探しに行く手間は省けるんだけど、この数はいただけない。
いったい、何体くらいいたんだ?
《回答:今回の戦闘で倒したゾンビの総数は43,724体です》
多いんだか少ないんだか分かんないな。ちょっとした町の人口くらいかな?
しかし、よくもまぁこんだけの数が襲ってきたな。
《回答:ゲームでいうところの、いわゆるリンクした結果だと思われます》
あー。なるほど。連鎖的に「生きているのがいるぞー」って感じになったのね。
いや、私たちみんな死んでるじゃん。なんで襲われたの?
《回答:邪魔者をまとめて始末しようと、ヴィルヘルミーナが法術【Decoy】を使い呼び寄せました。さすがにあそこまで大量に連鎖して来るとは思ってはいなかったようですが、問題ないと判断したようです》
法王さま!?
い、いや、ミーナさんのあの法術の威力は凄いのは知ってるけどさ。本当にゲームみたいにゾンビがバラバラになって吹っ飛んでいくからね。
でもだからって、無茶じゃないの!?
《回答:生前の彼女は武闘派でしたから。法王となってからは大人しくしていましたが》
……詳しく。
《回答:マスター同様、法力を纏った拳で神敵を殴り倒していました》
Oh……。
嘘だろ……法王さま、私やアキと同類かよ。
どうしよう。常識人的な思考と行動のモンスターでも生成しないとダメかな。いや、あんまり実体のあるのを作ると、それはそれで大変だしな。
まぁ、いいや。それはあとで悩もう。
それよりも、なんか私のステが更新されたらしいし、ちょっと確認してみよう。
ステータスオープン!
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■名前:天宮理子 ■性別:女
■種族:残念
■属性:アンデッド
■技能:【鬼火】【結界術】【鏡面世界(仮名称)】
■称号:【聖霊】【ダンジョンマスター】【異世界帰り】
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なんじゃあ、こりゃあ!?




