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幻の姫

「麗しい、エルシア姫。私と一曲踊ってくれませんか?」

「いえ、この私と」

「いえ、この僕と」


エルシア・ユナ・サリヴァン。ただ今、大変な事になっています!


〜二週間前〜


「ふぅ〜締め切り間に合った。間に合った。本当ギリギリだったわ。あとはダリアさんに提出するだけ。さぁ、着替えて街に行こう」


ヴィン…は今日も休みか。ここ1ヶ月ぐらい彼を見ていない。いつも一緒にいたからかなぁ?寂しい…ん?寂しい⁇私が?ヴィンに対して?たったの1日だけで?嘘?そんなはずはないはずよ!そうだわ、そうよ!


「いるのか?」


部屋を偽造工作を……


「あれ?今声が?」

「エルシア!!ここを開けろっ!」


げ、お父様⁈やばっ!資料しまって、ペンをしまって、化粧直して、裁縫セットを…ぁ〜刺繍セット!!


「ど、ゼーハーゼーハーどうぞ?お、お父様」

「なぜ?そんな息切れしている」

「い、いや〜。す、ストレッチを…」


ヴェルダン・ザービサス・サリヴァン伯爵。現宰相で、早くに亡くした妻の代わりに男手一つで私達、三兄妹を育ててくれた大切なお父様だ。


「エルシア。ここに座りなさい」


私は父に言われソファに座り、侍女にお茶を入れるように頼む。


「エルシア。そろそろ…そのな」

「身を固めろと?」

「…あぁ。分かっているならいいんだが」


結婚かぁ。あと少ししたら、行き遅れか?まぁそれでもいいし、稼ぎはあるからなぁ〜


「わかりました。で?お父様はそんな事をおっしゃる為にここにいらしたのではないのですよね?」

「へ?…まぁいや、そうなんだが。この夜会でなさい」


めんどくさい…


〜現在〜


「麗しい、エルシア姫。私と一曲踊ってくれませんか?」

「いえ、この私と」

「いえ、この僕と」


もう嫌だ!

そしてお父様の視線が怖い…

令嬢営業スマイルを貼り付ける。


「麗しい幻の姫よ。今宵のこのひと時だけ、私と踊りませんか?」


え?あれ…?………嘘⁈どうして?


「姫?」

「え、えぇ。喜んで」


彼は私の手を取るなり、口づけをする。

決して取り乱してはいけないこの夜会。そんな中彼を見た瞬間、私の心は決定的に大きく揺れ動いた。グイっと腰を引き寄せた男は何とも言えない色気を漂わせ、ダンスのリードをする。


「姫の美しい菫色の瞳。あまり見つめられると恥ずかしいな」


ほんのり赤くなる顔も。声も。雰囲気も。間違えるもない。だって耳元で囁いた彼の声だ。甘く温かくそして切ない。でもどうしてヴィンはここにいるのだろう。


「ヴィン?貴方、ヴィンなの?」

「人違いだと思いますよ」


嘘だ。こんなに似ているのに。


喪失感に浸っている間にダンスが終わり、名も知らぬ彼に手を引かれ、月明かりが綺麗なテラスに出ていた。


「幻の姫君。何をそんなにがっかりされているのです?」


私の頭の中はヴィンの事ばかり。

でも、目の前にいる彼は気になって仕方がない。


「ねぇ。名前教えて?」


すると彼は耳元で囁いた。


「可愛い姫君。私と賭けをしませんか?」


賭け?一体彼は何をかけると言うのだろう。


「何を賭けるの?」

「姫の心と私の心です」

「心?」

「そうです。考えてみて下さい。今宵の一度限りこの場で手札を全て把握しても面白くないでしょう?」


それは確かにそうだ。それならば彼の言う通り少しづつ相手を知る方が面白いのかもしれない。だけど、この賭けは心。いまいちピンとこない…。くっ。この私が恋愛小説作家だというのに!!相手の心が読めないなんて…


「でも、心とはどう関係がございますの?」


彼は私の髪を一房手に取り口付けをする。


「私は、姫に一目惚れしてしまったのです。あなたのその瞳に」


あ〜なるほど。これはあれだね。勘違いってやつだね。私にはわかるのだよ。それは、昔から好きだった子と私の目が同じ色だから。どうよ!素晴らしい!!


「姫。私と仮初めの恋人になっていただけませんか?」


仮初め⁈

でも、そうなってしまったら私は浮気を…いやいや。待てよ?賭けってことは、私が勝てばいいってわけだよね?でも、不誠実すぎる。いくら向こうが持ち込んだからって…わたしには彼氏がいるわけで…。

あ〜もう。どうしよう。


「少しお返事を待ってくださる?」

「えぇ。もしかして既に恋人が?」

「あ〜。えっと…」

「毎日会われているんですか?」


やけに熱心に聞くな。あ、ヴィンの事を自慢気に話して、私から興味をなくしてもらおう!名案だ!


「いえ…ここ1ヶ月ぐらいは音沙汰なしで…。ですが、彼も仕事が忙しいのでしょう」

「ならば大丈夫です。ね?」


ここまでキラキラスマイルで言われてもとても困る。そもそも、何かが間違ってるような?待って、私。この人にヴィンの自慢話した?してないよね?なのに……ね?っておかしくない?しかも何?この人ことごとく断りづらい…。


「ダメですか?」


だーかーらー!!子犬みたいにクゥンってしないでよ!!もう!ヴィンにバレずに上手くやる。いや、バレる確率高くないか?逢引を上手くやればいいのか?そもそも、彼と会うのに逢引という言葉を使うものなのか⁇

もうわからん。


「分かりました。お引き受けいたしましょう」


あぁ!神様仏様。ん?待ってこの世界に仏様なんているの?まぁいっか。神様仏様お天道様。どうかヴィンにバレませんように……

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