伯爵令嬢の機密事項…?
《ねぇ、フォルラン伯爵様は、領地の方々のために納税を安くした上に領地でお祭りや産業や特産品などの開発を行なったそうよ》
《素敵なお方ですわね》
《でも、忙し過ぎて社交界には出られないそうよ》
《美しい白銀の髪に美しいそして瞳は世にも珍しいサファイアの瞳!一度でいいからお目にかかりたいわ!!》
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先日、久し振りに城下町に降りてみてそれらの噂を耳にしたのだった。
そして目の前で止血をしているヴィンを再びみる。
確かに噂通りの白銀の髪に美しいサファイアの瞳。本当にヴィンなのか?彼は深夜の様な紺色の髪に美しいサファイアの瞳。
「ヴィンなのよね?」
「そうだよ。正確には俺はヴィンセントだ。まぁ、命この通り狙われてるから元々親戚のサリヴァン伯爵がな『君には屈辱的だと思うんだが、うちの娘は極度の引きこもりでな。身の安全は保障しよう。娘の…エルシアの執事になってくれ》って」
何て言ったらいいか…
「なぁ、エルシア。俺、エルシアじゃないとダメだってことこの離れてる間痛感したんだ」
「はーい。ストップ!」
いきなり止めに入ってきたのは金の髪をした
『ユリウス(様)⁈』
だった。
「やぁ。エルシア…と兄さん」
「ユリウス。お前…」
「ごめん。兄さん」
ユリウスはエルシアの手をさっと掴むとそのまま中庭へと導いた。
「ちょ、離して!」
「ごめん。少しこのままで」
すると手を引かれていた方を更に引かれ、ユリウスに抱きしめられた。
「っつ!」
抵抗しようと思い顔を上げる。しかし目の前にはユリウスの麗しい顔。
「離してく、」
振り払おうとするが体格差で出来ず、ユリウス様は自身の唇を私のそれに重ねた。
いや!
私はユリウス様には申し訳ないが彼の唇を思いっきり噛んだ。そして口にほんのりと広がる鉄の味。目を見開いた、ユリウス様は咄嗟に私を離し、その隙に私は逃げた。その足で父たちがいるであろう王宮の医務室へ向かった。
「お父様!!」
「心配するな。エルシア」
父の病室から出てきたのはガリュエント・ルーズ・フォーサイス。ユリウス様とヴィンのお父様だ。
「フォーサイス公爵様?」
「酷いな〜。昔はよく小父様!って迷わず飛び混んできたのに…」
公爵様と面識なんかあったかしら?
それより、お父様!
父はすやすやと寝ていた。
私は父の手をそっと握る。父の手は剣士の手だ。ゴツゴツとしながらも長いその指は、
私達、三兄妹を育ててくれた優しい手だった。
「エルシア。お前は本当にリリアンに似ているな」
リリアン…?記憶にないのだけど、その名前って確かお母様の名前よね?
「リリアン?」
「リリアンは君の母親だよ。流石に覚えてないか」
そう。私の母親は私を出産後、流行病にかかり亡くなった。一家にとっては、新たな命の誕生と悲劇の幕開けだった。そして父は、幼い兄と姉、生まれて間もない私を男手一つで育てたが?私はフォーサイス公爵には会った記憶がない。ってかほんとにある?
「え?」
「僕はね、君のお母さんの弟なんだよ」
「え?」
驚くのもしょうがない…わよね?だってあの天下の公爵家よ?!
待って…つまりどういうことなんだろうか?
「ヴィンのお父様?」
「正解!いや〜。もう小父さんうれしい!」
嘘。フォーサス公爵ってこんなキャラなの⁈
おかしいわ。フォーサス公爵って厳格な方なはずはだわ。
するとフォーサス公爵は私の隣に座り、よしよしと私の頭を優しく撫でた。