伯爵令嬢の危機察知②
流血表現ありです。苦手な方はご遠慮ください
「動くなっ!この中の誰か1人でも動いたらこの女の命はないっ」
首元に刺さる刃。刃が食い込んだところから、流れる血。
私の血? このまま死ぬのだろうか。
すると刃を持つ男の仲間だろうか。彼らが拘束していたのは…息を飲んだ。苦しくて堪らない。少しづつ流れる血が私のドレスを彩っていく。こんな彩は欲しくないのに…
涙が溢れる。すると刃を持った男が拘束した人を目にやり応えた。
「お前達は俺たち、マーティン家を地に陥れた!!サリヴァン家!!中立という立場にありながら…お前たち伯爵家をなくしてやる!それが嫌ならマーティン家の手駒として働くんだな。でもまぁ、この娘は殺す。見せしめとしてな」
「っつ!!娘を離せ!!」
「黙れ。だが、娘が1人足りないな」
「リガル様。その娘はヴィーナでは?」
「何だ。ルーカス夫人か。面倒だからほかっとけ」
「しかし…リガル様、この女、美しいのに殺すのは勿体無く思いませんか?」
「ははっ、そうだな。こいつは俺が手篭めとしよう。たしかに勿体ない」
手篭め?冗談じゃない!!
捕まっている…父と気絶している兄。
何もしていないのに…何で?
すると周りの明かりが消えた。月明かりだけが入る、バルコニーには1人剣を持った覆面の男がいた。その男はこちらに向かってゆっくりと歩く。
「お、おいっ!聞こえてねぇのか⁈こ、こっちへくるな!!」
そう叫んだ男の首に、剣が構えられた。
静かに男は黙って言う。
「殺されたくなければ女を離せ。さもないとお前の命はないと思え?」
今まで食い込んでいた刃がついて一気に抜かれタラタラと血が垂れている。
覆面の男は私の首を止血し抱きかかえた。
その男の腕の中は酷く安心し、今まで震えていた、震えもいつの間にか止まっていた。
私は彼の仮面に手を掛けた。
「っつ!!」
私の目からはポロポロと涙が流れていた。
「……ヴィン!」
「守れなくてすまなかった」
彼はぎゅっと私を抱きしめた。
ほっとするのも束の間。次の瞬間には剣を持っていた男が私の首をめがけて振りかぶってきた。
本当に、死ぬんだ…。
彼の腕の中で。本望かもしれない。
そう思いながら私はゆっくりと瞼を閉じた。
あれ?痛くない?ゆっくりと瞼を開けると血だらけのヴィンがいた。
「ヴィン!!いやぁ!」
「エル、聞いてくれ…俺はお前を置いて死にはしない。だから泣くな」
彼の暖かい手は私の顔を優しく包む。
血だらけの彼は私の額に唇を寄せると、ゆっくりと立ち上がった。
「お前は第2王子派だな?」
「そうだ。俺様は貴様には興味がない。その女を手篭めとするのだからな。まぁ、最も貴様諸共殺すのが一番いいのか?」
「言ってろ」
キンとなる、鳴り止まない剣の音。
相手の男も互角…ヴィンは深傷を負っているのでそれ以上に相手は強い。
いつの間にか、辺りの明かりは付いていてヴィンや、男を取り囲むように衛兵がいた。
「ちっ」
「もう、降参するか?」
「だ、黙れ!貴様は誰だ!?俺様はマティウス・マーティン!侯爵家の嫡男だ!!跪け」
ヴィンはニヤリと笑うとゆっくりと唇を動かした。
「我が名はヴィンセント・リーフ・フォーサイス。フォーサイス公爵家の嫡男でありフォルラン伯爵」
え?ヴィンが巷で話題になってるフォルラン伯爵⁇
何?執事じゃないの?どういう事?
「そして、この場を借りて一言。この件…マーティン家が、地に堕ちたのは自業自得。だってそうだろう?悪事を為し人に罪を押し付ける。その罪が返ってきただけの話だ。捕らえろ」
嫡男と名乗っていた男はヴィンの一言で捕らえられた。
ヴィンは傷を押さえこちらへきた。
私は取り敢えずヴィンの元へ寄りドレスを引き千切るとヴィンの傷を止血した。