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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大事な貴女のために復讐を目論みます

作者: 高月水都

逆ハーして、男同士の潰し合いって起こるよね。じゃあ、疑われないために結婚して子供を作るというのは……。

「結婚しよう」

 と言う言葉も。

「そろそろ子どもを作らないとな」

 と言う言葉も必ず次の言葉がありましたね。


「お前と円満であると見せないと殿下が俺とロータスとの仲を怪しむからな」

 とその言葉で私がどれだけ傷付いたか。怒りが湧いたか。憎んだか分からないでしょうね。


『わたくしの味方にならないで貴方は貴方の守る者を守って生きなさい』

 とあの方に言われなかったらすぐにでも後を追いたかったのに。




 思い出すのは最悪な卒業記念式典。

「ダリア!! お前との婚約を破棄する!!」

 王太子が宣言した傍らには男爵令嬢のロータス嬢。そして、王太子の側近。王太子の側近の中には私の婚約者もいた。


「お前は公爵令嬢と言う立場を笠に着てロータスを虐めていたそうだな」

 それは違うとダリア様の傍にいた私が反論をしようとしたが、それをダリア様がそっと手で遮って止める。


「そんな記憶はございません」

 堂々と言い返すさまは美しかった。彼女が無実だと知っている者は庇おうとしていたが、皆止められた。


『貴方は……貴方方は守るべき存在があるでしょう』


 その言葉で領民を、家族を、婚約者を脳裏に浮かべた者たちを彼女は責めなかった。それどころか。

『そうよ。わたくしよりも国を守って、生きなさい』

 悔しかった。

 対抗できる力が無い事が。

 真実を告げて助けたくても王太子とその側近と言う立場であるかの存在らがそんな真実をあっという間にもみ消せるという事実を。

 守るべき存在を巻き込んでも立ち向かえないという己の心の弱さを。


 盛りに盛った罪の数々、その中には真実を明かされたくないからと毒殺をしようとしたというものもあり、そんな訳ないと誰もが言おうとしたがそれすら止められて……。


 そして、冤罪の果てにあの方は処刑された。


 あの方が居なくなった途端王太子は男爵令嬢と婚姻を結び、もともとあの方を気に入らなかった王妃が後押しをした事で誰も止める事が出来ずに王太子妃として贅を凝らしたドレスに身を包んで王城で暮らしている。


 王太子を含む側近の方々に大事にされて。


 そんな様を話に聞きながら私の婚約も解消……破棄されるのだろうなと思っていた矢先の結婚を申し込まれた時の言葉だ。

 ああ、偽装結婚ですかと政略結婚であるが、仲睦まじく協力して民の生活を守ろうと幼い時に誓った私の心はゆっくりと凍り付いていきました。


 それでも、民のため。家族のため。それに何よりあの方の遺言を守ろうと思って耐えてきた。


 白い結婚もよくある話だと。跡継ぎは親戚筋から探せばいいと思っていた。でも、

「そろそろ子どもを作らないとな」

 子供を作ろうと思う事はいい事だ。跡取りは必要であるし、養子よりも実子の方が後々の事を考えるともめる原因を作る必要がないだろうから。


 だけど……。


「――分かりました」

 でも、これも民のため。ゆくゆくは国のためなのだからと自分に言い聞かせて身を任せた。


 子供がそれで無事できたのは天の采配だろうか。





 子供が出来て、安定期に入ったからと正式に発表された。

「殿下がお前に会いたいと言われた」

 子供が出来たらもう用済みだと全く屋敷に戻ってこなかった夫が久しぶりに戻ってきて告げてきた。


「それは……」 

「本当に子どもが居るか目で見て安心したいのだろう。あの方らしい」

 と笑う夫が子供が出来て私との仲が円満だと見せかけて王太子妃になったあの女と密通をしているのを知っていた。


 それだけではなく、あの時の側近全員とも関係しているとも。


「そうですか……なら用意いたします」

 王太子に会うのに相応しいドレスを選んできますと席を外してすぐに信頼できる侍女に手紙を届けてほしいと伝える。


 ――時が来た。




「ああ。君がブラウンの」

「はい。カサブランカと申します」

 何度もあの方のお茶会で会ったはずだが覚えていないようだ。まあ、お茶会に来てもすぐに帰って行かれ、男爵令嬢と逢引していたのだから仕方ないだろう。


 近くに池のある自慢の庭の東屋でのお茶会。


「話は聞いてるわ!! ブラウンの自慢の奥さんですもの」

 と気さくに声を掛けてくる王太子妃の視線に一瞬だけ冷たいものが宿っていたのを見逃さない。


「そんな……自慢していただけるなんて」

 余計な事を言うなと事前に言われていたから円満そうな演技をしておく。その返事に王太子は満足げに、王太子妃も微笑ましいというように微笑みながら……。


 目は笑っていなかった。


 それからしばらく話をして、王城を後にしようと思ったが、夫と王太子が従者に何か用があると呼ばれて席を外す。


「カサブランカさん。少し庭を見て回りましょう」

 そう誘われたら断る理由もないので一緒に席を立つ。


 王太子妃と共に歩き回り、池に魚が泳いでいるのが見えた。

「綺麗ですね」

 池の前に立ち、その水の綺麗さを褒めると。


「――あんた邪魔なのよ」

 私にしか聞こえない声で囁かれる。


「せっかくの逆ハーなのにブラウンが結婚して子供がいるって冗談じゃないわよっ!! ブラウンもノワールもスカーレットも私だけのものじゃないと駄目なのよっ!!」

 だからあんたはいらない。


 その言葉と同時に足を引っかけられて池に落ちる。

「子供なんて流れちゃえ!!」

 王太子妃の笑みは醜悪で、不快なものだった。


「――大丈夫か」

 池に落ちると思った瞬間。

 慌てたように引き戻される。


「ええ……大丈夫」

 護衛についていた騎士が完全に落ちる前に間に合って助けてくれたのだ。


 王太子妃の傍には王太子妃を拘束している他の騎士。


「ちょっと、これどういう事よ!!」

 侍女たちは助けない。


 新たに見えた方を丁重に迎えて、王太子妃が行ったすべての罪の証拠をその方に差し出しているのだ。


「よく耐えてくれた」

 現れたのは、かつて()()()()()()()()()()()()()()()()()()王弟殿下とあの方のお父上である前宰相閣下。


「いえ………すべてはダリア様の采配です」

 涙ぐみながら告げると周りの者たちも涙を流す。


 皆ダリア様を助けたくても助けられなかった身分の低い者たちだった。

 ダリア様の無実を知っていたからこそ耐えて、証拠を集め、宿敵に媚びて、対抗できる方を探してここまで辛酸を舐めてきた。


 すべてはこの時のために。


「ありがとう。――ああ、やはり」

 王弟殿下の盛られた毒とダリア様が毒殺容疑で処刑された時の毒は同じで、どちらも王妃が手を回して手に入れた証拠を探し出していたのはダリア様が礼儀作法を教えていた身分の低い男爵、子爵令嬢たちだった。


 毒で弱った王弟殿下を回復させる伝手を見つけたのはダリア様に重宝された商会の息子だった。

 

 王弟殿下を動かしたのは王太子の側近の元婚約者たちだった。


 すべて冤罪で処刑されたダリア様の無念を晴らそうと動いていた。


 そして、全ての元凶である男爵令嬢は自分が侍らせている男性を一瞬でも他の女性と共有するのを好まない性格だと気付いたからこそ、その時期を窺っていた。

 …………彼が王太子妃になった男爵令嬢から離れようと思っていたらきっとこんな手段を選ばなかっただろう。

 だが、彼は…夫は自分の子供も妻も男爵令嬢との関係を持つために利用したのだ。


「君たちのおかげで彼女の無実が判明した。感謝する」

 王弟殿下の声が自分たちの無念を晴らしてくれるものであったからこそ皆救えなかったダリア様をしのんで声を上げて泣き出した。









 それから王妃派閥の方々の罪が次々と露見して、王妃は処刑。王太子は毒に関与はしていなかったと言う事で廃嫡して、防衛拠点に送られて一兵士としての日々を送る事になった。

 側近たちはそんな王太子の暴走を止める役割を果たせなかったとそれぞれが処分され。

 元凶の男爵令嬢は、

「何でこうなるのよ!! 花色の世界でしょ!! きちんと逆ハールート入りしたのに何でこれは、リセットよ!! 死ねばリセットできるはずだから!!」

 と意味が分からない事を喚いていたので、処刑するよりも生かした方がいいのではないかと判断されてあえて殺さずに生かして、死なせなさいと喚いている日々を過ごしているとの事だ。


 王妃を止めなかった陛下は退位して、王弟殿下が新たな王になった。だが、新王は毒の影響で子供が出来ない身体になっており、前王の側室が産んだ、元側近の婚約者が保護していた王子を養子に迎えた。


 そして、無事に子どもを出産した私は、夫の子供を産んだのでそのまま夫の跡を子供が継ぐ事になり、子供が成人するまで代行になったのだった。


「ダリア様。貴女の復讐を果たしました」

 守るべきものがあるのなら見捨てなさいと言われた日から力を手に入れた。誰よりも守りたかったのはダリア様だっただろう。彼女の分も国に…民に影響が出ない形ですべてを終えた。


「まだ、守る者があるのでお傍に行けませんが、すべて終えたら………」

 また、貴女様の傍においてくださいと天国に居るはずの方に祈りを捧げたのだった。


ちなみに百合ではない。敬愛です。

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