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異世界渡航者シリーズ

これはとある異世界渡航者の物語・特別編「新春短編Ⅱ︰転生女王と偽りの記憶」

作者: かいちょう
掲載日:2022/01/01

王都の中心にあって広大な敷地を持つミンストル宮殿。

そのバルコニーからは地平線まで続く庭園と宮殿内を流れる運河が見渡せた。


そんな場所にずっと引きこもっていては国民の声など耳に届くわけがない。

現にこの国は今危機に瀕している。


餓えた国民とそれを先導する貴族たち、彼らは王を打倒しようと革命の狼煙をあげた。

そして、それを裏で他国が支援し、糸を引いている。


これを鎮圧すべく王は軍を率いて挙兵し内戦がはじまったのだ。

王は自ら馬に乗り最前線へと出掛け、宮殿には主がいなくなった。


この国の王にはかつて妃がいたがすでに他界し王は独り身だ。

そして王には子がいなかった。


先代の王には現在の王以外に4人の子がいたが、このうち2人にも嫡出子がおらず、1人は婚姻前に病死している。

そんなわけで現在、ミンストル宮殿には唯一の王位継承権を持つケイン侯爵の一人娘、ヴィクトリアが招集され滞在している。


戦の最前線にたつ王にもしもの事があった時、迅速に王位を継承できるようにするためだ。


そんな次期女王であるヴィクトリアはドレスではなく動きやすい軍装に身を包み、バルコニーでレイピアを振るっていた。


「や!!はぁ!!やぁぁ!!」


かけ声と共に一通りレイピアを振るい終えると息を整え鞘へとしまう。

それを見計らったように執事のギヌがタオルを持ってバルコニーへとやってきた。


「おつかれさまでした陛下」

「その呼び名はやめて、まだ王位は継承してないでしょ?」


ヴィクトリアはうんざりといった様子でギヌの手からタオルを受け取りレイピアを渡す。

ギヌは一礼して受け取ったレイピアを持ってバルコニーから去って行った。


「まったく……なんで私が王位を……叔父さんたちのほうが適任でしょ」


言いながらタオルで汗を拭いていると宣教師のような格好をした男がバルコニーへとやってくる。


「あぁ、それはよくない……よくないですよヴィクトリア陛下。カルバンランド公やオルバーニ公では人臣の反発が強すぎます。あなたでなければこの国をまとめられないのですよ女王陛下」


そう言って宣教師の男はヴィクトリアに一礼する。

そんな男をヴィクトリアは睨み付けて。


「どうして?世間からすれば私はまだ18の小娘よ?そんな私に国をまとめる力はないわ」


そう主張する。

だが宣教師の男は鼻で笑い。


「あなたがご自身の事をどう思おうと国が、民が、時代が、あなたを求めるのです女王陛下。それをご理解ください……何者もこの渦から逃れる事はできない。たとえ我らが主たる神であっても」


そう言ってうやうやしく一礼する。

それを見てヴィクトリアはため息をついた。


「つまり、私の意思は反映されないってわけね」

「作用、それが王家に生まれた者の宿命です」

「まるで呪いね……うんざりする。でもまだ陛下は死んでないわ、きっと内乱を鎮圧して凱旋なされる。だから私が即位するのは当分先よ」


ヴィクトリアはそう言ってタオルを宣教師の男に投げつけバルコニーから室内へと入っていった。


タオルを投げつけられた宣教師の男は恍惚の表情をうかべてそのタオルに頬ずりしだす。

そして、タオルが吸い取ったヴィクトリアの汗を堪能するようにベロリと舌をだしてタオルを舐め回していく。


「あぁ……ヴィクトリア陛下、たまらない……」


存分に舐め回した後、宣教師の男はタオルをポケットにしまい込み、後ろを振り返らずに背後に控える存在へと声をかける。


「状況はどうなってる?」


するとバルコニーに柱の影から醜く汚らわしい外見のオークが姿を見せる。


「はい閣下……手筈は順調です、グフフ」


オークの言葉に宣教師の男はニヤリと笑う。


「よろしい、ではすぐにでも王を殺しなさい。はやくヴィクトリアを真の女王にしなければ……あぁ、わが愛しのヴィクトリア……そのすべてをわがものにしたい」


宣教師の男はそこから狂気に顔を歪める。

オークは「御意」と返事をしてバルコニーから姿を消した。



ヴィクトリアは自室に戻り、侍女を退出させるとそのままベットに倒れ込んだ。

そして仰向きになって天蓋付きのベットの天井を見る。


「はぁ……疲れた。女王だなんて……私には無理だよ。こんな事になるなら、そういう系統の小説とか漫画もいっぱい読んどくべきだったかな?」


ヴィクトリアはそう言って目を閉じる。

目を閉じて思い出す。

前世の記憶を……


ヴィクトリアが前世の記憶に目覚めたのは1年前。

ちょうど内戦がはじまった頃だ。


というよりも気付いたらヴィクトリアになっていたと言ったほうが正しいだろうか?

何にせよ、気付けば自分は侯爵令嬢で、内戦でキナ臭くなってきた国の次期女王としてあれよあれという間に宮殿に招集されたのだ。


そんなわけで、最近こそ慣れてきたものの、当初は戸惑いを隠せなかった。

無理もない。何せ前世は日本の東京でOLをやっている、休みの日は引きこもって恋愛漫画や恋愛小説を読み漁るオタク女子だったのだから。


しかも読み漁る恋愛漫画も小説も現代のものがほとんどで異世界もの、歴史ものには一切触れてこなかった。

だからオタク知識をフル稼働してこの事態を乗り切るというチート技が発揮できないのだ。

せっかくの異世界転生を一番活かせないパターンである。


(うーん……どうしたものかな?もし陛下が戦死したら私が女王に……右も左もわからない私が?国の舵取りをしていいの?今の内戦だって、王への不満からはじまったんじゃない。だったら今度は私が反乱分子に命を狙われるんじゃ……やだやだ革命怖い!)


ヴィクトリアは頭を抱えるが、しかし自分だけ逃亡するなら逃げ切れる自信もあった。

異世界転生の醍醐味というべきか、ヴィクトリアには他者にはない異能が備わっていたのだ。


この異世界には魔法がある。

つまり魔法が使えるという事自体は珍しい事ではない。

しかしヴィクトリアの扱う魔法はその魔力の量が尋常ではなかった。


尚且つ、ヴィクトリアには別の異能も備わっていた。

それが時間の流れに干渉する能力だ。


ヴィクトリアはレイピアを扱うが、ヴィクトリアの突きが相手を仕留めなかった事はない。

これは時間の流れに干渉する能力を使っているからなのだ。


自分の加速する速さを倍にし、相手の加速する速さを減速させる。

これによってヴィクトリアのレイピアによる攻撃は絶対に相手を一撃で倒してしまう。


だから大勢に囲まれた状態では厳しいが、一対一なら負けない自信がヴィクトリアにはあったのだ。


(追っ手が数人なら対処できる……逃げるかな?うーん……)


そう悩みながら三日三晩が過ぎたある日、宮殿に訃報が届いた。

王が戦死したのだ。


この事実はすぐに国内外に知れ渡り、王都は大混乱となった。

いよいよヴィクトリアは決断を迫られる。


(どうしよう……逃げるなら今夜。そう、今夜逃げないと明日には戴冠式……私が女王?無理無理無理!)


ベットの上で悶えながら声にならない声をあげ、そしてヴィクトリアは決断する。


「うん、逃げよう!!無理!!私には無理!!」


ふっきれた表情でヴィクトリアは言ってベットから起き上がろうとするが。


「どこに逃げようと言うのですか?わが愛しのヴィクトリア」


突然、宣教師の男の声がした。

ヴィクトリアは思わず警戒して護身用のナイフを手に取る。


「リバング?なぜあなたがここにいるの?夜間に王族の寝室への立ち入りは禁止しているはずだけど?衛兵は何をしてるの?」


ヴィクトリアがそう言うとリバングと呼ばれた宣教師の男はニヤニヤしながら暗い影から姿を現し、ベットへと近づいてくる。

その顔と服には返り血がついていた。


「ご安心ください女王陛下、衛兵には永遠にお暇を与えました。何せ、わたくしと女王陛下の逢瀬の邪魔をするんですからね?ヒヒ」

「あなた一体何を……」

「あはぁ……いけませんねぇ、わが愛しのヴィクトリア。誰もがあなたの戴冠を待ちわびているというのに、逃げ出そうなどと……そんな悪い事を考える子にはお仕置きをしないと……ヒヒ、ダメじゃないかわが愛しのヴィクトリア、僕から逃げちゃ」


そう言ってリバングはベットへと入り込んでくる。


「それ以上近づくな!!」

「ふふ、その表情もたまらなくいいですね、わが愛しのヴィクトリア。あぁ、もうわたくし我慢できそうにありませんよ」


リバングは狂気に顔を歪めてヴィクトリアへと覆い被さろうとするが。


「こいつ!!」


ヴィクトリアがリバングの心臓目がけてナイフを突き出す。

時間に干渉し、自身のスピードは加速させ、リバングのスピードは減速させる。

さらに規格外の魔力量でナイフの刀身をコーティングし、威力は増大した。


完全にリバングを仕留められる。そのはずだった。

しかし……


「あぁ、それは通じませんよ?わが愛しのヴィクトリア」


リバングにナイフを持った手を掴まれてしまう。


「なっ!?」

「あはぁー!残念でしたねー陛下、時間干渉はわたくしには通じないのですよ、ヒヒ」


手を強く握られ、ヴィクトリアは傷みからナイフを手放してしまう。


「ぐっ!?」

「うはーーー!!たまらないよその表情!!あぁ、最高だわが愛しのヴィクトリア!」


リバングはヴィクトリアの掴んだ手を持ち上げ、ヴィクトリアの頬を舐め回す。


「っ!!やめろ!!この変態!!」

「あぁ、いいよ!わが愛しのヴィクトリア!その表情すごくゾクゾクする!ずっとあなたを犯したいと思っていたが、その夢が今日叶う」


そう言ってリバングはヴィクトリアをベッドに投げつけるとそのまま馬乗りになってヴィクトリアの衣服を破いていく。


「いや!!やめて!!」

「あぁ!!たまらない!!本当なら戴冠式までお膳立てした後にすべてを打ち明けて公衆の面前で犯そうと思っていたんだけどなぁ……ダメじゃないか、勝手に逃げ出しちゃ。ここにくるまでどれだけわたくしが面倒な段取りをしたことか……苦労したんですからね~ヒヒ。いや、しかしわたくしの手のひらの上で転がされてるとも知らず誰もが内戦をおっぱじめるんですからね……まったくチョロいもんですよ。そう思うでしょ?わが愛しのヴィクトリア」


リバングの言葉にヴィクトリアが激昂する。


「なっ!!全部あんたの仕業だったのか!!内戦がはじまったのも!!そのせいで陛下が命を落としたのも!!」


そんなヴィクトリアの表情を見てリバングは爆笑しながらヴィクトリアの胸を鷲掴み言い放つ。


「ぎゃはは!!そうさ、全部わたくしが仕組んだのさ!!ついでにいえば王を殺したのもわたくしですよ!正確には暗殺を部下に指示したんですがね?ヒヒ」

「なんですって!?」

「すべてはあなたさまのためですよ、わが愛しのヴィクトリア。わたくしは愛するあなたにすべてを与えましょう。その対価としてあなたのすべてをわたくしが貰う。あぁ、そうともヴィクトリア、わたくしはあなたが欲しい!犯したくてたまらない」


リバングはそう言いながらヴィクトリアの胸を揉みしだき、唇を奪おうと顔を近づけてくる。


「やめて!!ふざけないで!!この裏切り者!!誰か!!誰か助けてーー!!」


ヴィクトリアは必死で叫ぶがリバングは楽しそうに嗤う。


「助けを呼んでも誰も来ませんよ?さぁ一緒に楽しみましょう、わが愛しのヴィクトリア」

「いやーーーーー!!!誰かーーーー!!」


ヴィクトリアが叫んだその時、ブーンという音と共に暗い室内に一筋の光が浮かび上がった。


「あぁ、今助けてやるよ!!」

「!?」


直後、それに気付いたリバングがヴィクトリアを襲うのをやめ、ヴィクトリアが落としたナイフを拾って後ろを振りかえりナイフを突き出す。


「誰だ!?わが至高のひとときを邪魔する無粋な輩は!!」


しかし、そのナイフの突きは振り下ろされたレーザーの刃によってあっけなく弾かれてしまう。


「ち!」


リバングは素早くナイフを捨ててベットから窓際のバルコニーの入り口へと移動、窓を蹴って破壊しバルコニーへの逃走経路を確保する。

そして襲撃者を睨み付けた。


「誰だお前?」


リバングに問われて襲撃者も窓際へとやってくる。

そして暗い室内から窓際にやってきたことにより、その姿が月光に照らされる。


その襲撃者はレーザーの刃をリバングに向けてこう名乗った。


「川畑界斗(かいと)、ただの通りすがりの異世界渡航者だ」


リバングはその言葉に眉を潜める。


「あ?異世界渡航者だ?」

「そうだよ、異世界転生者。いや、このただのレイプ魔が!至高のひとときだと?ふざけるな!!」


カイトは叫んでレーザーの刃を持っていない方の手を振るって風を発生させる。

そして、そのまま横殴りの風をリバングにぶつけてバルコニーへと吹き飛ばした。


「が!?」


ベルコニーに吹き飛ばされたリバングはそのまま柵に激突し吐血する。

そんなリバングを追ってカイトもゆっくりとバルコニーへと出てきた。


「ゲホっ……ゲホっ……き、貴様、異世界渡航者とか言ったか?何が目的だ!?ヴィクトリアを助けに来たのか!?一体誰の差し金だ!?」


リバングがそう尋ねるが、カイトはレーザーの刃をリバングに向け。


「いや、あの子を助けたのはついでだ。俺の目的はお前だよ異世界転生者!」


そう告げた。


「何だと!?」

「俺はお前を殺しにきたんだよ異世界転生者。異世界渡航者ってのはそういう存在なんでな?」


カイトがそう言うと、いつの間にかバルコニーの柵の上に何者かが腰掛けていた。

その何者は漢服に身を包み仮面をつけて顔を隠していた。

そんな何者かはリバングに告げる。


「その通りだゲスな転生者よ。そいつはお前の命を奪いにきた。いわばお前にとって死神だな?」

「……誰だおまえ」


リバングの問いに何者かはこう答えた。


「われか?われは白亜、端的に言えば女神だ」


白亜と名乗った者の答えにリバングは怒りを滲ませる。


「女神だ?敬虔なる神の信徒であるわたくしに対して神を語るか!?ペテン師が!!」


叫んでリバングは両手を突き出し、10本の指先から電撃のようなものを放つ。

しかし、それは白亜に届くことなく、宙に浮かび上がった紋章に阻まれてしまう。


「何!?」


驚いたリバングに対して、カイトが一歩踏み出し睨み付ける。


「無駄だ。その程度の攻撃じゃ魔術障壁は突破できないぞ?」

「あぁ!?魔術障壁だと!?」

「それより、今のがてめーの異能か?」

「だったらなんだ!!余裕ぶっこいてんじゃねーぞ!!死ね!!」


再びリバングが両手の先から電撃を放つがカイトの魔術障壁によって再び阻まれる。


「ぐぬぬ……貴様!」

「どうやらそこが限界のようだな?だったらこちらも本題に入らせてもらうぞ」


カイトがリバングへと近づこうとするが、しかしリバングは口元を歪めると。


「がはは!!バカめ!!まだ奥の手はあるわ!!この宮殿にはね、何百というわたくしの眷属が潜んでいるのですよ!!」


そう言い放つが、しかしカイトは。


「あぁ、それならもう俺の仲間が片づけてると思うけどな?」


そう言ってバルコニーから見渡せる庭のほうを向く。

すると……




「グギャァァァ!!!」


まるで巨大化したトカゲのような怪物が咆哮をあげるが、この怪物をフミコが銅剣で斬りつけ、さらに枝剣から巨大な緑色の大蛇を呼び出し、なぎ倒す。


「ふぅ……図体がでかいだけで相手にならないね。こんなのの相手よりかい君のサポートに回りたいな」


そう言うフミコの後ろではココが一発のパンチで別の巨大化したトカゲのような怪物をミンチにしてしまう。


「カイトさま!ココの活躍見ててくださいね!!」


また、別のところでもTD-66が腕に装着したバルカン砲で怪物たちを見るも無残な姿に変えていく。


宮殿の入り口近くではオークが武装して警戒していたが、これらを寺崎歩美が光のムチで薙ぎ払っていき。

別の場所にいたオークたちもドリーの水の攻撃とヨハンの魔剣によって排除されていく。




庭のほうではすでに、リバングの眷属である怪異たちの掃討があらかた終わっていた。

それを見てリバングは唸り声をあげる。


「で?他にもまだ奥の手はあるのか?」


そう尋ねるとリバングは。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!だまれーーーーー!!!!」


手に向かって絶叫し両手を突き出して先ほどまでとは桁違いの出力の電撃を放ってきた。

しかし。


「そうか、もうネタ切れか」


これをカイトは魔術障壁で軽く防ぎ、そして……


『Take away ability』


懐からだしたアビリティーチェッカーをグリップに装填し、リバングから能力を奪った。




何が何だかわからず、ベッドの上でその様を見ていたヴィクトリアは動くことができなかった。

ただ、能力を奪われたリバングが最後にこちらを向いて。


「お助けを……わが愛しのヴィクトリア」


そう助けを求めてきた。

こいつは何を言っているのだろうか?


内戦を起こし、王を殺し、自分を犯そうとした。

にもかかわらず助けを求めるだと?

ヴィクトリアの頭の中に怒りがこみあげてくる。


「私があなたに慈悲を与えるような人間だと思うのですか?」


なのでそう言い放つとリバングは。


「ここまで、誰があなた様を導いたと思ってるんですか!?無能だった、笑いものでしかなかった侯爵令嬢であるあなたに力を与え、ここまで伸し上げたのは誰だと!?その恩を考えれば、わたくしに体を捧げて当然だろうが!!この恩知らずが!!」


そう怒り狂ったように怒鳴り散らした。

だが直後、リバングの首にカイトがレーザーの刃を突き刺しリバングは息絶える。


その光景を見てヴィクトリアは一瞬言葉を失った。


「まったく、最後までゲスな野郎だったな……」

「確かにな。でもまぁ、これでこの異世界での任務は終了だ。もうこの異世界に地球からの転生・転移・召喚者はいない」


白亜のその言葉にヴィクトリアは思わず「え?」っと声を出してしまった。

するとカイトと白亜がヴィクトリアの方を向く。


「あっ……その、えっと……」


ふたりの視線にヴィクトリアはどうしようかと考え。


「助けてくださって、ありがとうございます」


まずは感謝のを述べた。


「別に、さっきも言ったけど君を助けに来たわけじゃない。助けたのはたまたまだよ。こいつから能力を奪って殺すついでにそうなっただけだ。だから感謝される事でもないよ」

「それでも、助けていただいた事実に変わりありません」


そう言ってヴィクトリアは深々と頭を下げた。

そんなヴィクトリアの態度にカイトは困ったような表情をして白亜は鼻で笑う。


「まぁ、君が無事なのは何よりだよ。それと……服は何か別のものを着た方がいいんじゃないかな?」


カイトは視線を逸らしながら言った。

そこでヴィクトリアは今着ている服がリバングに破かれて胸があらわになっている事に気づき。


「ひゃっ!!」


慌てて胸元を隠した。

恥ずかしがるヴィクトリアにカイトは背を向けて。


「ま、まぁここでやるべき事は終わったわけだし、俺たちがこの世界から立ち去ればこのゲス野郎と俺たちの記憶は君の頭の中から抜け落ちるはずだ。うん、恥ずかしいとい思う気持ちは一瞬だよ。うん」


そう言うが白亜がため息をつく。


「カイト、この子から見られたという記憶は消えてもカイトが見たという事実は変わらんよ」

「そういう事言うなよ?そうかもしれないけど」


そんなカイトと白亜の会話を聞いてヴィクトリアは恐る恐る尋ねる。


「ところで……あの、さきほどの戦闘に会話を聞く限りでは転生者から能力を奪って殺していってるみたいですけど、私には何もしないんですか?」


ヴィクトリアのその質問にカイトと白亜は顔を見合わせ。


「え?なんで君を殺す必要があるんだ?」

「異世界渡航者は転生者や転移者、召喚者からしか能力を奪えんし、それも地球からの者たちでないと殺す意味もない。君に手を出す理由がないが?」


そう言ってきた。

その言葉にヴィクトリアは。


(もしかしてふたりは私が東京出身の転生者だと気づいてない?どうしよう……だったらこのまま黙ってれば見逃してもらえる?だって能力を奪って殺すって言ってるもんね……でも)


一瞬迷うが、正直に伝える事にした。


「あの……実は私、前世の記憶が」


ヴィクトリアの話を聞いたカイトと白亜はしかし顔を見合わせて。


「いや、たぶん君は転生者じゃない」

「そうだな、違うな」


そう言い切った。

なので思わず叫んでしまう。


「どうしてですか!?だって私には日本で暮らしていた時の記憶が!!」

「それって本当に君の記憶かな?」

「え?」


カイトの質問に、ヴィクトリアは言葉に詰まってしまう。


自分の中で東京での記憶は確かに息づいている。

これは間違いなく自分の体験した記憶だ。そう言い切れる。

だが、なぜかカイトに問われてすぐに言い返せなかった。


「実は俺には鑑定眼って能力があるんだ。これがあれば相手のステータスが覗けるんだけど、転生者には転生者ってわかる情報があるんだ、色々とね……けど君のステータスにはそれが見られない」

「それって……」

「つまりは君は転生者じゃないって事だよ」


カイトにそう言われてヴィクトリアは混乱してしまう。

今まで自分はこの異世界に転生したと思っていたが、それは思い込みだった。

では自分が転生者だと思い込んだこの記憶はなんだ?

なんでこんな記憶が自分にはあるんだ?


ヴィクトリアは頭を抱えだす。


「じゃあ……この記憶はなんなの?東京で暮らしていた……働いていた記憶はなんなの?」


そう言って混乱するヴィクトリアにカイトはアビリティーチェッカーを見せて答える。


「それはきっとあのゲスやろうの能力だ。やろうは君に偽の記憶を埋め込んだんだ」

「偽の記憶?」

「そう、ゲスやろうの前世の記憶ではないだろうけど、恐らくはゲスやろうの前世を元に作られた記憶だろうな……それを君に埋め込んだんだ」

「なんで、そんな事を?」

「操りやすくするためだろうな、もしくは能力を促進するため、かな?何かがきっかけで人は能力が飛躍的に上昇する。前世の記憶と思われるものに触れて、何かヒントを掴めば行動が変化する事がある。それをゲスやろうは利用したんだ。君の行動を扱いやすくするために」


ヴィクトリアはそこでリバングの最期の言葉を思い出す。


「ここまで、誰があなた様を導いたと思ってるんですか!?無能だった、笑いものでしかなかった侯爵令嬢であるあなたに力を与え、ここまで伸し上げたのは誰だと!?その恩を考えれば、わたくしに体を捧げて当然だろうが!!この恩知らずが!!」


思い起こせば、「前世の記憶」に目覚める前の自分は侯爵家の中でメイドたちからも無能とバカにされるほど才能がなかった。

「前世の記憶」に目覚めてから、魔法の腕前もあがり、魔力量も増え、時間に干渉する異能にも目覚めたのだ。

これらすべてはリバングによって与えられたものだったというのだろうか?


「なんで……私にそんな事を?」


ヴィクトリアはそう呟くが、それは本人にしかわからない。

そして、当の本人はもう殺してしまってこの世にはいない。


「……まぁ、単純に君に惚れて、君を助けたいと思ったんだろうな。それがどんどん歪んでいった。欲望が膨らんでいった。そんなところだろう」


カイトの言葉にヴィクトリアはため息をつく。


「そうですか……だとすれば、本当に私は恩知らずだったんですね」

「……そうかな?一方的に自分の欲望を押し付けられて、頼んでもないお節介を知らず知らずされててて、それで恩知らずなんて言われても知ったことか!と思うけどな?」


そう言ったカイトにヴィクトリアはありがとうと告げ、そして改めてカイトと白亜の二人を見る。


「この記憶は……消えないの?」

「どうだろう?通常なら転生者、転移者、召喚者の能力を奪って殺したらその世界から転生者、転移者、召喚者の記憶や痕跡は消えるんだ。だから俺たちがこの世界を去れば、君からその記憶も消えると思う」

「そう……ですか。それ、は少し残念ですね」


そう寂しそうに言うヴィクトリアに白亜はある提案をした。


「こればかりは仕方ないが、けど、そうだな……ならこうするのはどうだ?われらがこの世界を去った後、君がその記憶をすぐに失わなければ……君をわれらの仲間として受け入れよう」


その白亜の言葉にカイトが驚く。


「おい!ちょっと待て!!それはルール違反じゃないのか?」

「ずいぶん前の異世界でのギルドの仲間をいまだに連れまわしてるお前が言うか?」

「あの異世界は特例扱いだっただろ!ここはそうじゃないはずだ」

「確かにな……だが、記憶が消えなかった場合ややこしい事になるのは間違いないぞ?だったらこちらの手元に置いておくのが得策だろう。なんならアビリティーユニットGX-A04を渡せば問題は解決すると思うが?」


白亜の言葉にカイトは唸りながらも了承した。

そして白亜はヴィクトリアに指輪を渡す。


「これは?」

「それは導きの指輪。もし君が偽りの前世の記憶を忘れたならばその指輪も一緒に消滅する。そして君は元の人生へと戻る。しかし、偽りの前世の記憶を忘れなかった場合、その指輪が異界への扉を開くはずだ」

「異界の扉……それはどうやって開けば?」


ヴィクトリアの質問に白亜は苦笑しながら。


「それは記憶が忘れなかった時に勝手に開く。そういうもんだ。今は気にしなくていい。忘れる可能性だってあるんだからな?というか、ほぼそうなると思うけど」


そう言ってカイトのもとに歩いていき、その肩をぽんぽんと叩いた。


「それじゃあ行くか」

「そうだな……フミコたちと合流して次元の狭間の空間(ホーム)に戻ろう」


カイトもそう言ってヴィクトリアの方を向くと。


「それじゃあ、俺たちは行くよ。もし記憶を忘れなかったら、また会えると思うけど。たぶんもう会うことはないと思う。それじゃあ!」


そう言ってカイトと白亜はバルコニーから庭へと飛び降りた。


「あっ!ま、待って!」


ヴィクトリアは慌ててバルコニーへと飛びだし、庭を見渡すがカイトと白亜の姿はすでになかった。


「……行っちゃった」


ヴィクトリアは白亜から受け取った指輪を右手の人差し指にはめる。


(大丈夫、まだ記憶はある)


そして確認するようにヴィクトリアは偽りの前世の記憶を思い返す。

その夜、ヴィクトリアは一睡もしなかった。


そして月日は流れ……



戴冠式を終え、女王となったヴィクトリアは内戦を平定するため、反乱軍最後の砦である国境の貴族領へと進軍していた。

優雅な馬車に乗らず、自ら馬にまたがって進軍するヴィクトリアはふと空を見上げる。

そして、右手をなんとなく掲げた。


その人差し指にはひとつの指輪が輝いていた。

どうも、この短編は筆者が今書いている「これはとある異世界渡航者の物語」https://ncode.syosetu.com/n3408fs/という小説の現在書いているお話より少し先のお話になります。


そんなわけで本編を読んでくれている方には多少のネタバレがあったりなかったりする感じになってますが、本編を読んだことがない、知らないという方にも「これはとある異世界渡航者の物語」という作品がどんなものかとわかる内容になってる……と思いたいです(え


そんなわけで、これを読んで「これはとある異世界渡航者の物語」という作品に少しでも興味を持っていただけたなら、本編も読んでもらえると嬉しいです(宣伝


そして、本編も読んだことあるという方はこの機会に、もう一度本編も読んでもらえたら幸いです

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