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3話:転校生ってどんなのがタイプ?

 ただ今教室内は、席について周りの生徒とひそひそ話し合いが聞こえてくる。

 もうすぐテストがあるというのに勉強をやっているのはほんの四、五人くらいだ。

 まあ真面目な生徒はこの学校には半分もいないのでだとうな数字だ。


 ティコもその一人。


 ティコはちゃんと各教科ずつ、自分のノート一冊一冊にうつしている。

 ここまで真面目だと逆におかしいと思われるのだがティコは毎年のように、クラスの全生徒に勉強をするように言っている。

 そこまでするのはティコがこのクラスの学級委員長だから。

 でも彼女の声など耳に入れない奴もいる。 だった一人だけ、もちろんヤコだ。

 うまく自慢の話術でごまかしてこれまで彼女の声を回避してきた。






 そのヤコは今、職員室の前にいる。

 呼び出しをくらってなかなか入る決心がつかずに立ちすくんでいる。

 いったい何用で呼ばれたか?最近で、自分のした事を思い出してみる。


(一昨日の敦子のヘッドホンを壊した事か?いや、それとも五日前に達弘のシャーペンを真っ二つに折った事か?いやいやそれとも他に…)


 呼び出された動機で考えられるのは、怒られるような事ばかりだ。


(まあとにかく入ってみなきゃわかんねえべ!)


ガラガラ


「失礼しまーす」


 とりあえず入ってみるとチャイムが鳴ったので多数の教師はお留守だったが、担任教師の石原勘一がボーっと、机の上に肘を立ててヤコを待っていた。

 石原は黒縁の丸眼鏡をかけているのがトレードマークの温厚でめったに怒鳴りつけない人。

 三十代後半というのをバッチリに思わせる容姿と、常に見せる、絶景にみとれているかのようなぽーっとした愛想のいい顔で、生徒からは、かなり親しまれている。


「おや?やあ!来てくれたね!おはよう如月、それともそろそろヤコちゃんと言おうか?」


「いえ、先生は如月と呼んでください」


 学校中のほとんどの生徒はヤコの事をヤコちゃんと呼んでいる。

 後輩にも『ヤコちゃん先輩』などと言われて親しまれている。 女性教師の間でもヤコちゃんで通ってる。

 だが校長と教頭、そして一部をのぞいた男性教師には如月と呼ぶように言っている。


 若干、怒られるだろうなと思って、足が震度二ちょっとくらい震えながら石原の側まで歩み寄るヤコ。


「そんな事より何か用あって俺、呼びつけたんでしょ?それ言ってくれませんか?」


「まあ待て、とりあえず座れ」


 そう言って隣の空いている机を右手の人差し指でチョイチョイと突っつき、席を差し出す。

 言われたヤコは、隣の、机ではなく椅子に腰をかけた。

 二人の他には誰もいない為、いつもよりも緊張してて、冷や汗をかきながら背筋を伸ばし、太ももに両手の拳を強く押し当ててしまうヤコであった。


「で、話は?」


「……サンドイッチの中身」


「え?」


(サンドイッチがどうかしたの?上手い?そんな事言う為に俺、引っ張り込んだ訳ねえだろ)


「例えばの話だが、サンドイッチの中身に、レタスやハムならまだしも、ワカメや豆腐を入れる奴なんているかね?」


「えー?いませんよそんな奴なんて」


 その通りだ。

 当然、そんな味噌汁サンドなんてばかげた料理作る訳ない。 なぜ急に先生がこんな事を言い出したのか、不思議に思ってしまうくらいおかしな質問に、ヤコはフッと息を吐くように、緊張で力んでいた肩の力が抜けるのを感じた。


「どうしたんですか先生、何で急にそんな事を?」


「うん……。実は先日、如月の机の中から忘れていったらしい国語のノートがあったんだ」


「ッ!!ギクッ」


「む?察しがついたんじゃないか?そのノートの中身には、メモのように誰かに宛てて書いた文章が紙の端っこにちょこょこっと書かれてあったよ。他にも紙のいたるところにあるちぎられた跡から察するにお前は誰かとメモを授業中に交換しているんだ、そうだろ?」


「…えー…」


 もう全部見抜かれて言葉も出ない。


「さぁてメモをまわし合ってるのは誰だ?そいつを教えておくれ…」


「せ、先生!もうチャイム鳴ったんですよ?教師がちっさいお神輿担いで勝手に騒いで、他のお神輿をほっといていいんですかぁ?教師失格ですよ!」


「その手にはのらないぞ!教室には副担任の秋山先生が行ってくださっている。他の先生方も私とお前の為に席を外してくださっているんだ、時間はまだまだあるぞ〜」


「ひぇぇえぇ!!」


 ヤコの高い悲鳴が職員室中に響き渡る。

 それを職員室外のドアの前で聞き耳を立てていた校長をはじめ、数人の教師がプププと笑い声をこらえるように笑った。






「えー皆さんの中には知ってる人もいるかもしれませんが、本日は転校生がきています」


 教卓に両手をついて、もたれながら副担任の秋山志保が高くて透き通るような美声を三年B組に響かせる。

 彼女は二十代後半だがそれを思わせない若々しさと、とても美人で、いつも見せてくれている引き締まった顔つきにピッタリな元気が非常に良い性格が女子からも男子からも人気になってる。


「先生ー!女子ですか?男子ですか?」


 朋子が質問する。


「かっこいい男子よ!」


「わーやったー!」


 周りの女子も朋子に続いて騒ぎ出す。

 反対に男子からは『なーんだ』と、がっかりしたらしい声が聞こえてくる。


「じゃあ入って来て」


ガララッ


「キャー!!!!!!」


「ッ!?」


 入ってすぐの、予想以上の反応に転校生の少年も拍子抜かしてしまった。

 まるでフライパンの中で暴れるポップコーンのように女子達の悲鳴が教室の壁から壁へと跳ね上がる。


 少年は確かにかなりのイケメンだ。

 ものすごく真面目そうな態度に表情、そしてやわらかな感じのおだやかな目。

 女子達のやかましい声に、苦笑いするのもまた、包まれているような笑顔でうっとりしてしまう。


 しかし転校生の少年の容姿にティコは少し首をかしげている。

 どこかにヤコのような、なんだか赤の他人の気がしない感じが雰囲気が少年の周りに漂っている。


「はいみんな静かにしなさい!」


 秋山が両手でパンパンとたたいて大きな音を出すと、さっきまで暴れていたポップコーンのような悲鳴はたちまちおさまった。

 火は先生の手によって消されたのだ。


「ほらあいさつして!」


「ど、どうも桃井チコと言います!よろしくお願いします!」


 元気よくあいさつして深く礼をする。


(声もちょっとだけだけど似てる……)


「え〜っと…チコ君の席は……あっ上島の前が開いてるわねあそこに座って!」


「先生!そこヤコですよ!」


「え?あっそうだったわね!そうだったわね!」


 クラスの男子の言葉にカクンカクンと首を縦に動かす秋山。

 スカスカと、まるで申し訳なさが無いかのようなうなずき方だ。

 忘れていたのに、ただ笑ってごまかすおおざっぱな性格。

 可愛いじゃなく、かっこいい、これが人気の秘訣なのだ。


「なら後ろは?上島の後ろなら開いてんでしょ?さ、あそこ座って!」


 半分、確定したような口調で、少年チコに指図する。

 チコは指示に従って、その通りに歩き出す。

 その際、チコは挙動不審みたいに、辺りをキョロキョロして落ち着かない態度をとっていた。

 誰かを探しているのかと皆思ったが、ふとティコと目が合って下を向き、そのまま席についた。




チョンチョン


(ん?)


 HRが始まってから少しして大介は後ろから指先で誰かに突っつかれた。

 当然、チコしかいない。


「何なんだよ!?転校生!」


 先生にバレないようにこっそり後ろを向いて話しかける。


「ねぇ……君の前の人が如月ヤコ君ですか?」


「そうだい!当たり前だろが!あんな厄介者、他のどこに置いとくか!まあ今は担任の先生に呼び出されて留守だけどな」


「え?そ、そうですか…どうも…。あのそれから…」


「まだ何かあんのか?はやくしろ!先生に気づかれんぞ!」


「川島ティコさんはどの人?」


「何だテメエ?何だってそんな事気にするんだよ?まあいいや、俺の右斜め前にいる金髪の美少女がそうだよ!」


「あ、やっぱり…どうもありがとうございます!」


「おいもういいか?はやくしないとそろそろ先生も気づくぞ!」


「あ、はいもう結構です。どうもありがとうございます」


 そう言ってチコはもう一度、自分がここに転校してきた理由の半分であるティコを見る。

 そして一人、密かに覚悟を決めたように気合いを入れる。







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