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2話:天真爛漫に

 川島宅は三階建ての結構大きな住宅だ。 二階にティコの部屋とティコの両親の光子と秋吉の部屋、ヤコの部屋は三階にある。


 まずティコの部屋を説明しよう。 ティコの部屋は階段を上がって左手にある。 両親の部屋は階段を上がって右手。 つまり二階に二部屋(階段を挟んで左がティコ、右が両親)。


 ドアを開けたら左手の方にはティコが明るい黄色のチェックが入ったパジャマ姿でベッドに横になって寝ている。 右手の手前には濃い茶色の普通サイズの本棚。

 本棚には彼女の趣味で集めに集めたドラゴンボールやらドラえもんやら幅広いジャンルの漫画がぎっしりと詰められている。 奥にはティコの勉強机。 床には一面、ピンクのじゅうたんが敷かれている。 あとはドアのすぐ右横に、ちいさなテーブルの上に置かれた液晶テレビと、その他には部屋の隅に動物のぬいぐるみが二、三個置いてあるくらいで特に飾られていない。

 続いて秋吉と光子の部屋。


 この部屋は和室で八畳の大きさ。 ふすまを開けると地道な粗茶の色の寝間着を着た秋吉と光子が別々の敷き布団で寝ている。 ここは普段、寝る時以外はほとんど使わない別々なのである物は非常用道具一式と光子のヘソクリが入ったリュックサックと綺麗に磨かれた秋吉のランニングシューズとその中に仕込んだ秋吉のヘソクリだけだ。


ジリリリリ!!


 秋吉の枕元に置いてあった目覚まし時計がなる。 時計の針は六時十分をさしていた。

 目を覚ました秋吉は手探りで時計のやかましい音を止めてムクリと起き上がる。 そのまま大きく伸びをして、寝ぼけ眼で三階へ上がった。


 三階は階段を挟んで右がヤコの部屋、左が秋吉の仕事部屋。 二階で階段は折り返すのでヤコの部屋の下はティコ。


 しかし秋吉が用があるのは仕事部屋ではなくヤコの方だ。 居候のヤコは、いじわるな秋吉に『家にいる時はずっと働け!』、と家事を強要させられている。 文句を言ったら追い出されるのでヤコは従うしかない。 それに十年近く続いたことなのでヤコはそんなのは慣れている。


ガチャッ


 秋吉がドアをあけると小さいベッドで、足も満足にのばせないで寝ている青いパジャマ姿のヤコが目に入った。

 家具もなければ服も十分にそろっていない。 小遣いも月たったの三百円。 そんな暮らしを何年も続けていたら、この年頃の男の子は反抗して何をしでかすかわからないがヤコは内面は温厚な性格で優しい面もあり秋吉の仕打ちに文句一つ言わずに頑張っている。


「おいっ!いつまで寝てるんだ!!さっさと起きろ!」


「イテ!」


 秋吉はヤコの尻を思い切り蹴り飛ばし、ちょっとばかり声を抑えて怒鳴った。

 いじわるな彼にも可愛い娘がいるのでティコが起きないように注意しているのだ。


 しかしヤコにはお構いなしにゲシゲシと蹴りを入れて無理矢理起こす。

 不公平だがヤコは仕方がないと諦めている。


「早く飯を作らないか!」


「はいはいただ今朝食の支度します」


「もたもたするなよ!」


 慌てて飛び起き、パジャマを脱いで高校の制服に着替える。

 そして階段を駆け下りて台所に急ぐ。

 光子のフリフリのエプロンを身につけ、電光石火の如く朝食を作る。

 毎日やってるだけあってかなりの腕前だ。

 それから数十分後───


「皆様!朝食できましたー!」


「はーい」


「はーい」


 言ったのはティコと光子。

 秋吉は作ってすぐに食べて早々と会社に行った。

 毎日こうしてる訳ではないが今日は特別急いでいたのでヤコは作ってる時に、いつも以上にせかされた。




 リビングのダイニングテーブルに並べられた朝食を中心にして座る三人。 ヤコの向かいが光子、右隣がティコ。


「うーんやっぱりヤコちゃんの味噌汁は美味しいわねー」


「ハハッどうも」


 光子はヤコに対してとても優しい。 秋吉がヤコにしている事を知らない光子は、自ら進んでやっていると思い込んでいる。

 秋吉自身も光子には知られたくないし、そんな事で厄介なことにしたくないヤコは、事実を知っているティコにも黙ってもらっている。 ティコからすれば秋吉のしている事は許し難いがヤコがどうしてもと言うので口を開かずにいている。


「……」


 二人のやり取りを聞きながら味噌汁を飲んでいるティコ。


「ヤコちゃんみたいないい子が家にいてホント助かるわー。ねぇティコ?」


「え?あ、うん…」


「何よ?その気持ちの上がらない返事は」


「……別に…」


 ティコは少し朝に 弱い。

 起床してしばらくの間、ぱっちりした二重も奥に隠れてしまって不機嫌な彼女をうまく表した表情になってしまう。


「あ、もう行かないと!ティコティコ!早く食べて!」




「……」


「……」


 下校する時と同じく登校する時もほとんど無言な二人。

 だが二人共、この無言の間が嫌いだ。 もっと相手と話したい。 そう思ってる。


「あのさあ…」


「ん?」


 ティコが、足を止めて口を開く。


「私…やっぱりお父さんの事、止めさせるべきだと思うんだけど…」


「……」


 時々ティコはこのような事を言う。

 父親のしているのはちょっとちがった角度から見れば虐待にも見える。

 このような際には必ずヤコが『いいから』などと言い続けてしぶしぶティコも了解していた。


「いいよ…だって家に居させてもらってるんだし」


「でもあんなやり方はないでしょ?!私だってただ見ているだけなんて我慢できないわよ!」


「なあそんなに怒らないでくれよ。それにおじさんだってベッドの上から蹴り落とすようなことしても家から追い出すなんてことはしないだろ?動物はみんなそんな世の中で生きてるんだ。もし頼まれれば何でもしてやるよ、役に立つならね」


「そんなんじゃあダメじゃなぃ…」


「え?」


 めちゃめちゃ小さい声で呟いたティコ。

 本当はヤコが自分より下に敷かれているのが嫌で、間近にいても、どうしても他の友達のように話せない事から言い出したのだ。

 本当のことを言うならば楽になるのに何年も思いを相手に伝えずに側で見ているだけ、それが当たり前に過ごしていたら伝えるものも伝えヅラくなってしまう。



「……」


「ティコ?」


 下を向いたまま黙り込むティコ。

 以前までは引き下がっていたティコだが今回はちがった。


「とにかく私はお父さんにやめさせるよう言うから」


 スタスタ移動を再開するティコ。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 それを追いかけて右腕を掴んで止めるヤコ。


「わかったよ!そこまで言うなら、お前の言い分を一つだけ聞いてやる!だから何もしないでくれ!」


「……」


 最終手段に出たヤコ。 『言い分を一つだけ』


「なあ頼むよ、この通り!」


 両手を合わせて頭を下げる。


「…わかった」


「ホント?」


「でも代償として今から約束してもらう事がある」


「うん」


「もう学校で人を驚かそうとしないこと」


「……」


「……」


「えーやだなぁ…」


「じゃあ決裂ってことで」


「NO!ノー!のー!のぉ!わかった!イエス!」


「ホントかな?あやしい…」


「もうホントだよ!つるし上げられて首くくれと言われても驚かすもんか!」


「別にそこまで…」


「なら交渉成立!ほらゆびきりげんまん」


「へ?」


 勝手にティコの右手を取って小指と自分の小指をひっかけるヤコ。


「はいゆーびきーりげーんまん♪」


「……」


「ウソついたら針千本のーます♪」


 ヤコは外見からは考えられないほどに天真爛漫な奴だ。

 右を向けと言われれば全く見当違いなことをして人を困らせるなど日常茶飯事。

 ある日、体育の時間、体力測定をしている時に、握力計を見て『いや待てよ、これはもっと別の使い方があるんではないか?』と余計な事を考え、どこから取り寄せたのかマイナスドライバーでネジを一本一本外してバラバラにして先生に、台風のような風が吹き荒れる、嵐の怒鳴り声を浴びせられた事があった。


「さあ行こうぜ!」


「ちょっ!」


 そのままティコの右手を引っ張って学校へと走り出すヤコ。

 しかしすぐにティコに振りほどかれて、いつも通り、並んで歩いた。




 何はともあれ学校に到着した二人。

 二人のクラス三年B組は二階だ。


「おーい!ヤコー!」


 と、二人が下駄箱で靴を履き替えていると右手から大声がこちらに向かって来る。

 そして声の主がすぐ側まで走り寄って来て、ヤコの背中を右手の平で思いっ切りひっぱたいた。


「イテェ!大介!何すんだよ?」


 上島大介、ヤコの友達でクラスメートだ。

 真面目そうな見かけに惑わされる者も多いが、ヤコに負けず劣らず陽気な奴だ。

 背丈はヤコよりちょっと下。


「そうだそうだ!先生が呼んでるよ!」


「質問に答えて二口目を話せ!」


「いいからはやく行けよ!何か用事があるみたいだし」


「そりゃペットの犬を呼ぶんじゃないんだから用事があって呼ぶに決まってんだろ!なあティコ?…ってあれ?ティコは?」


「もう行ったよ」


「テメエのせいだろ!」


 大介の首に両手で掴みかかり、ユッサユッサと縦に揺らす。


「ぐぇぇぇ!!」


 されるがままに顔をグラグラ揺らす大介。


 若干、目が回ってる。


「こ、こんな事してる場合じゃないだろ。は、はやく行ったらどうだ?」


「はっそうだった!先生はどこに?」


「バカ!アリの巣にアリンコがいなきゃどうするんだ?職員室に決まってるだろ」


「オッケー!」


 パッと手をはなして、二階の職員室にかけだすヤコ。




 一方でティコは三階の三年B組の教室に到着していた。

 三年B組の生徒数は三十六人。

 教室では何人もの生徒の話し声が、やかましく響いていた。

 ティコの座席は教室入って五列目の前から四番目。


「あっティコおはよー!」


「うんおはよう!」


 席につくと二つ前の、自分の席に座っていた朋子と、そこで一緒に話していた安川美雪がティコの側に寄ってきた(美雪の席は三列目の五番目)。


「ねえねぇ知ってる?今日転校生が来るんだって」


「え?そうなの?」


 美雪の言うことにキョトンとするティコ。 美雪の情報力は尋常じゃない。 と言っても学校の中の範囲でだが。 全校生徒の名前やプロフィールはもちろんの事、校舎の裏庭に咲いてる花の種類まで全部メモしている。


「男子だったらいいんだけどねぇ」


 今度は朋子。


「そーお?」


「あっそっか!そっか!ティコにはヤコちゃんがいるもんねー」


「…な……ぬ??!」


 顔を赤くして鳩が豆鉄砲を食らったような表情のティコ。


 朋子は自分の恋愛経験が全く無いくせに、やたらめったら他人の恋愛ごとに首を突っ込みたがる。

朋子は興味七分、真面目三分くらいの割合で相談等にのっているのでのってもらってる本人からしてみれば迷惑の他でもない。


 その魔の手は三つ年下の弟にまでのびている。

 彼女のせいで大切な初恋がみじんに散ったのだ。

 しかもたったの一カ月で。


「一緒に住んでんだからもう夫婦のような関係だねぇ」


「ッ!……そんなの!○□△☆※◎◇!!!!!!」


ズルッ


 まるで鶏の鳴き声のように、意味のわからない言葉を撒き散らすティコ。


「あ、アンタだいぶ興奮してるねぇ…」


「ちょっと朋子がからかっただけなのに…」


「何々?誰が興奮してるの?」


「あ、上島!」


 気がつくと大介が教室に戻ってきた(大介の席は美雪の左隣。大介の一つ前がヤコなのでティコとヤコは隣同士だ)。


「もう!そんな事気にしてたらすぐにチャイムが鳴るよ!」


「なーに言ってんのよ!まだまだこれからだよ」

キーンコーンカーンコーン


「……」


「……」


「……」


「さ、すわったすわった!」


ゾロゾロ


 三人はしぶしぶ自分の席についた。





座席位置がわからなかったら紙に書いてみてください。

縦六列横六列で三十六なので。

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