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1話:ヤコとティコ


「……」


 三年B組の教室のドアの前で、如月 ヤコは周りの人の不審な目で見る視線など気にもせずに、今日も何を思えばそういう考えが出てくるのか、ドアを思いっ切り開けて驚かそうとしていた。


 クラス変えからもう一カ月たつ、彼が入って来た所で特に女子がキャーキャーと騒いでいたが───


ガラララッ!!!


「キャッ!」


「キャー!!」


「キャキャー!!!」


「皆様!!」


「ねぇ昨日の日曜洋画劇場見た?」


「見た見た!C・ベイルがカッコ良かったね!」


「おはようございます!!!!」


「……」


シ〜ン…


(フフン)


 クラス中の三人だけが、ヤコの突然の登場に、驚き固まっている。 と言っても別に心臓が止まる勢いで驚く者など誰一人としていない。


 如月ヤコは学年、いや学校の中で一二を争う程の美形だが、本人のアホな性格故に、全くと言っていいほどモテない。



 そのアホな性格を象徴した行動の一つがこれだ。 本人はそれでも楽しいのだと主張し、毎日続けているのだ。


 そんなヤコに『びっくりするじゃないか!心臓に悪いからもうやめてくれ!』なんて言っても、暖簾に腕押し、糠に釘である。

 だがそんな事はわかっていても言わずにはいられない者がクラスに一人はいるものだ。 そう…このクラスを『勝手に』仕切っている───


「ちょっと如月!!」 ※女子である。


「アンタ何で毎日毎日アホやってんのよ!他にする事あるでしょう!もうすぐしたらテストがあるのよ!」


 勢い良く叫んだはいいが、彼にはノーダメージだ。

 彼女、すなわち川島ティコは、いつも一生懸命アホをやる彼に、いつも一生懸命叫び声を挙げて、糠に釘を打っている。


「ちょっ、そんなに怒らないでっ。そんなに怒ったら俺もかわいそうじゃないか」


「何で他人事みたいに言うのよ…」


 ティコは腰まで届きそうなクセ毛のないサラサラした天然の金髪と、普段の清楚な表情と、偶に見せるキリッとした表情が可愛いと学校中では評判な、ちょっとした人気者だ。

 一方ヤコは体つきもいいし、顔つきはちょっと幼さを感じる部分もあるが、全体的にいうとどこからどう見てもかなりのイケメンだ。 余談なのだが彼の一番尊敬する人物はアラン・ドロンである。







 今回は初回なので時間を短縮し、現在夕方、下校の時間。


「……」


「……」


 二人は綺麗に真横に並んで同じ方向に足を動かしている。 なぜ二人は同じ方向に下校しているかって? 無論、二人の帰る方向が同じだからだ。


 いや方向だけではない。


 家も同じ川島宅だ。


 その話は彼等が小学四年生だった頃までさかのぼる。 彼の父親はある大きな会社に勤めている。 そこの社長は突拍子もない事をよく言いだす。

 ある日突然の転勤命令。 そしてこともあろうに自分の息子をその場に残して、自分達の居場所も言わずに外国へ行くとだけ言って彼の前から姿を消した。


 そんな中、彼が途方に暮れて街中を歩いていると、偶々ティコとぶつかり合った(その時が初対面&両者は相手に一目惚れ)。


 それからなんやかんやで川島宅に厄介になる事になったのだ。 ちなみに朝は、偶々ティコの友達、中山朋子が迎えに来た為、一緒に登校しなかった。


「ねぇ…」


「はい?」


 俯き気味でティコが話し掛ける。


「あのさぁ…」


「うん?」


「ヤコってさぁ…」


「……」


「ちょっと聞いてる!?!」


「はいっ!もちろんですとも!」


(面倒くさいな…)


「その…さぁ…」


「ほい」


「真面目に聞きなさい!」


「アイアイ!!」


(何なんだよ…)


「……」


 人気のない街角で立ち止まるティコ。

 俯き気味で夕日のせいでかなりわかりにくいが、少し顔が赤くなっている。


「その…ヤコって…す、す、」


「?」


「好きな人とかっているの?」


「え?」


 あまりに突然の言葉に目を丸くするヤコ。


「だからホラ、好きな異性とか」


「……」


 当然、本当の事など言えるわけもなく───


「なぜ気になる?」


「……」


 彼女も同じく。


「まあ行こうぜ」


「え?ちょっと待って。まだ質問に答えてない」


 足を進めようとしたヤコの左腕を掴みかかるティコ。


「痛い!ちょっと強く掴みすぎ!」


「質問に答えてよ!」


「……」


 別に本気で言う必要はないだろう。 でも真面目そうに聞いてる当人からしたらここでふざけるのは悪い気もする。

 ならウソではない事ならかまわないだろうと考えたヤコは、口を開いた。


「…まぁ、いるっちゃあいるかな?」


「え!そ、それって誰の事?」


「その人は───」


 次第に心臓の鼓動が高鳴るティコ。


「オードリー・ヘップバーン!」


ズルッ


 ちなみに彼の言っている事はまんざらウソではない。

 その昔、偶然手に入れた若きヘップバーンのポスターをかなり気に入って大事に今もしまっている。

 しかし、確かにウソではないが真面目ではない答えだ。

 そんな事で今日もまた、二人は一日を呑気に過ごすのであった。




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