EP6 図鑑
初めての仲間、フラウ。
清也は、彼女は何かを隠しているようにも感じるが、楽しそうに花やキノコを摘んで、不思議な形をした杖に放り込んでいるのを見ると、邪推な気がしてならなかった。
清也は仲間と何も話さないのも変だと考え、少し休憩し会話をすることにした。
「その杖は何?」
「この杖の持ち手。器のように広がっているでしょう?
ここに材料を入れて、すり鉢のようにして潰すと、魔法ができるんです!
ここら一帯に生えている緑のキノコと青い花を混ぜると汎用回復呪文ができるんです!とりあえず5回分作っておいたので、怪我をしたら言ってください!」
フラウは早口で楽しそうに言った。
(まるで学者みたいな人だな。魔法使いは皆こうなのか?
どうしよう、早くも会話の中身が無い……そうだ!あの話をして無い!)
「ごめん!僕、作戦の説明してなかったね。
見ての通り、僕は武器を持ってない。強いて言えば盾だね。だけどこれじゃ、あいつらは倒せない。
だから、盾で頭を殴って気絶させたら、あいつらをトロッコに乗せて採石場の奥にある、廃棄用の渓谷まで一気に運んで2人で突き落とす。
これが作戦だ。何か質問はあるかい?」
「私の役割はトロッコを押すのを手伝うだけですか?」
「いや、正直この作戦で無傷で帰って来れるのは5億円が宝くじで当たる確率くらい低い。
だから君には物陰から、僕が傷つくたびに回復魔法を飛ばして欲しいんだ。お願いできるかい?」
「もちろんです!けど、セーヤさんにだけ危険な役割をしてもらって良いのでしょうか?私にも手伝わせてください!」
「君、確か攻撃技使えるんだよね?もし危なくなったら、それを使ってくれると嬉しいな。」
「採石場は岩だらけですよね?
……だとしたら使えないと思います……すみません……。」
岩だらけだと使えない技。どんな技なのかとても気になるが詳しくは教えてくれなかった。
会話が行き詰まってしまったので、何か別の話題がないかと周囲を見渡す。
すると、初めての仲間に夢中で忘れていたが、盾以外にもう一つ、鍛冶屋の店主から渡されていたものがあった。
それは本、正確には図鑑だった。
中には鉱石の種類と効果。生き物の生体と可否食性。植物についてと、有名な武器、防具の効果と素材についても書かれていた。
パラパラとページを捲っていくと、特に目を引いたのがエレメンタルストーンという鉱石だった。
図鑑によると星型の鉱石で、数秒に一回、色が7つの色のうちどれかに変化するという特性があるようだ。
その名の通り様々な属性を持つ素材であり、この鉱石から作った杖の持ち主はありとあらゆる呪文を放てるようになる。
また、生命力の結晶でもあるため、この石をうまく使えばどんな瀕死の傷でも治すことができるようだ。
こういった効果から、ときに賢者の石とも呼ばれるようだが、真の賢者の石は究極の錬金術を用いて生み出される物質で、未だかつて生み出せた者はいないと注釈がついていた。
賢者の石。前世でも聞いたことがあったが、錬金術という単語はもはや800年以上前の物であり、おとぎ話としてすらあまり語られていない。
そんな時代に生きていた清也にとっては信じ難いが、魔術が存在するこの世界では実在してもおかしくない。
そう思わせる妙な説得力がこの本にはあった。