EP66 夢幻
稲妻と共にミナトが消えると、漁師たちはすぐに自分の体に起こった変化に気付かされた。
「うおお!!か、体が熱い!!」
そう言った捨て子の漁師は、手先から赤い閃光をほとばしらせた。
「な、なんか寒い……。」
「だ、だよなあ……いや、そうでもないぞ?」
「手先だけが寒いけど……うおっ!?」
寒がっていた漁師たちは、手先から巨大な雪の結晶を生み出した。
「な、なんかベトベトするな……。」
「だよなあ、俺も……」
「腕が引っ張られる!」
漁師の一人は突然、水の枯れた井戸へと吸い寄せられるように歩いていくと、手先から水を発射して空の桶を満たした。
「すげえ!!これが魔法なのか!!!だったら俺も!!!」
シンはそう言うと地面に向けて、意気揚々と腕を振り下ろした。
「地割れ!!!」
シンは興奮したように叫んだ。
しかし、何も起こらない――。
「あれ?あっ、あれ?」
シンは繰り返し腕を振ってみるが、何も起こらない。
「私とあなたは、どうやら魔能をもらえなかったようね……。」
花は大きく落胆している。
「そりゃねえよ!!俺たちが戦えなくてどうすんだ!!」
魔法を使える漁師たちの大将が、一切の魔法が使えないなど、笑い話もいいところだ。他の者に示しが付かない。
「別の方法を探すしかないわ……。」
皆が新たに得た力に興奮し、自分が今できることの限界に挑む中で、シンと花の二人だけは暗く沈んでいた。
いや、もう一人いた。
力を試す男たちの狂乱の中でサムは倒れ込んで痙攣し、意識を失っていた。
誰よりも冷静な目で周囲に気を配っていた花は、すぐにその事に気が付いた。
「見てシン!サムが倒れてる!!!」
花は言い切るよりも先に、サムのもとへ駆け寄った。
「おい!どうしたんだ?しっかりしろ!
お前ら、いい加減に遊ぶのをやめろ!訓練は後でさせるから道を開けろ!」
シンが漁師たちに叫ぶと、男たちはすぐに道を開けた。
「う、うぅ~ん……。」
花に抱き起されたサムは、呻く事が出来るぐらいには回復していたが、かなり衰弱している。
「ううぉっ……コイツめっちゃ熱高いぞ!」
シンはサムの、服越しにも伝わって来る高熱に驚いた。
そして、すぐにサムを負ぶさると、自分が泊まっていたホテルに向けて走り出した。
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サムが次に目を開けると、美しい山の頂上に立っていた。
崖の下にはどこまでも続く雲海が、波打ちながら広がっている。
「そんなに慌ててどうしたんだ、雷夜。」
サムは振り向くこともせずに、自分の背後に巨大な気配が広がるのを感じると、知らない単語が自分の口から飛び出すのを感じた。
「マスターに近況報告を……しようと思い……急いで来ました……。」
その言葉を聞くと、サムの視点は大きく動き後ろを向いた。
「それほど息を切らせるという事は、かなり重要な報告だな?
そんなに慌てなくていい。まずはフードを取ったらどうだ?」
振り向いた視線の先には、白い服に身を包んだ少女が跪いていた。
「も、申し訳ありません!主君の前で顔を隠すなど……。」
「いや、普通に息苦しいだろう?」
「お心遣い、大変恐縮です……。」
雷夜と呼ばれた少女は白いフードを脱いだ。
(これが……魔法少女さんの素顔!?)
それを見たサムは興奮が抑えられなかった。
雪のように白い肌に、高く整った鼻、大きすぎない口に、末端にいくほど白くなる金色の長い髪。
キリっとした瞳は右目が瑠璃色で、左目は濃い緋色だった。
両耳に緑色の耳飾りをしたその顔は、それだけでも道ゆく人が振り返る程の美貌だった。
だが、それを決定的にする特徴があった。
(まさか……あれって耳!?)
フードに隠されていて分からなかったが、その頭には左右に大きな白い耳が付いていた。
「して、近況報告は義務づけていなかったはずだが、一体何があったのだ?」
「見つけました。エレメントロードです。」
落ち着きを取り戻した雷夜は、少しだけ機械的な口調で報告する。
「……そうか、遂に見つけたか。」
「ですが、実は……。」
雷夜の口から、その先が発せられる事は無かった。
しかし男の口からは、それを察した言葉が出てきた。
「まだ子供……。まぁいい、これで完全に閉じ込めることが可能になった。
あとは奴を見つけ出して殺すだけだ。この宇宙から、絶対に奴を逃がさない。」
サムの意識はそこで途切れた。
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「なんだよ、ただの疲れ熱か……驚かせやがって。」
サムを担ぎ込んだシンは乱暴な、しかし安堵に満ちた声で独り言をつぶやいた。
「いいの?あの子の傍にいなくて……?」
花は心配そうに問いかけたが、付き添いをしている余裕が自分たちに無いことは分かっている。
「俺たちも戦う手段を探さないと……でも今日は遅いな、早いとこ寝るぞ。」
夕日が水平線の彼方に沈み切るのを確認したシンは立ち上がり、自分の部屋へと戻っていった。
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翌朝、薄暗がりの中で目を覚ましたシンは、中々に悩ましい現状に対して思考を巡らせていた。
戦うには魔法が要る。だが、彼にはそれが使えない。
唯一使えるのは、黄金を生み出す能力。しかし、潮風に晒された程度で機能しなくなる力で、どうやって戦えというのか。これでは、水中での苦戦は必至である。
「そうだ……このホテルもそろそろ出ないとな……。金貨は生み出せないし。」
シンはそう言って、深く落胆した。
(黄金を生み出せる能力が使えたらなぁ……。)
シンは近くのコップに入った水に、金貨を生み出そうとしてみた。やはり彼の予想通り、金貨は出てこない。
(シャワーでも浴びるかあ……。)
シンはシャワーを浴びるために、タオルを取って小部屋へと入っていく。
(水中では銛を使って戦うのか……。でも、魔法ほど使い勝手良くないよな……。
水中だと水の抵抗も多いし……やっぱり仲間に援護してもらうか?いや、ダサすぎだろ。自分で立ち上げといて援護させるって……。)
シンは悶々としながらシャワーを浴び、歯を磨くと、体をタオルで隅々まで拭いた。
その時だった。何が理由かはわからないがもしかしたら、自在に伸縮するタオルの生地が、連想させたのかもしれない。
(黄金を操る能力……水の抵抗……遠距離攻撃……金は生み出せない……銛……そうか!そういう事か!!!!これなら行けるぞ!!!)
シンは自分の持つ能力、その真の姿を思い出した――。




