EP62 海戦
まだ正午にすらなっていない酒場から、町中に響き渡るような叫びが聞こえてくる。
漁師では無い住民たちも、続々と酒場に野次馬として集まって来た。
「何があったんだ?」
「漁師さんたちの声よ……。」
「翔脚のシンが中に入って行ったらしいが……。」
住民たちが各々の思案を巡らす中、扉がゆっくりと開き一人の男が出てきた。
その場に集まった全員が、彼の一挙手一投足に注目している。
その後、すぐに野次馬たちは男の正体に気付き、声を上げ始めた。
「おい……あれ、翔脚のシンじゃないか?」
「えっ!?アレがシンなの!?」
「もっとドッシリしてるかと思ってた……。」
「あら~イケメンじゃない♡」
”観衆”の反応を見たシンは勢いよく跳び上がり、酒場の屋根によじ登って語りかけた。
「みんな聞いてくれ!!!このシャノンの町に、俺を総監としたサーペント、”フューリー・リヴァイアサン”を新設することにした!
その最初の目標は、みんなも知っているアイツだ!」
シンは掠れることの無い太い声で、演説を開始した。
観衆の士気を高めるために、敢えて破海竜の名前を出さずに、自分たちの脅威が何なのかを考えさせることにした。
「アイツって……まさかマスターウェーブのことか!?」
観衆の一人、若い男が驚いた声で聞き直した。
「その通りだ。俺はこの町近くの海底にある、アトランティスの財宝を探しに来た。
そしてマスターウェーブの話を聞いて、奴を倒してやりたくなった!」
シンは自分でも、無茶苦茶な事を言っている自覚があった。
しかし、アトランティスの財宝を得るためには海竜との戦闘は不可能であり、花と自分だけでは不可能だとも分かっていた。
そして何よりも――。
(海竜と海の支配者をめぐっての抗争……面白えじゃねえか!!!こんなに興奮するのは5年ぶりだ!!!)
シンはこの状況を楽しんでいた。
だからこそシャノンに住む人々と共に、一世一代の大海戦に挑むことを決めたのだ。
「でも、一体どうやって奴と戦うんだ?」
「俺たちは奴らと戦ったこと無いぞ!」
「あんた、サーペントの人間なのか?」
シンは想像通り、観衆から不信感と批判のようなものが湧き上がってくるのを感じた。
しかし、動き出したシンは止まらない。
「マスターウェーブとの戦い方はこれから考えるが、まずはこの町の漁師に並の海竜に勝てるくらい強くなってもらう!
そうすれば、近海での漁はある程度出来るようになる!そして、マスターウェーブについて調べて、奴を殺す!!!」
観衆のほとんどはシンの事を狂った男だと思った。
しかし、海竜への憎しみを魂底に抱えていた者達の心にその言葉は突き刺さった。
「俺はシンについて行くぞ!」
「アイツなら、やってくれる!」
シンに賛同する声が批判が大半を占める観衆の中で、少しずつ多くなっていった。
彼はまたも、そういった声を逃さなかった。
「この町の住人全員に、海竜と戦って貰いたい訳じゃない!
ただ海を、この町の未来を奪い返すための戦いに、協力してほしいんだ!
だからリヴァイアサンに参加、協力したい奴は酒場に来てくれ!
情報提供や、優秀なサーペント海中兵の推薦でも構わない!」
シンは高らかに宣言すると屋根から降り、酒場へと再び入っていった。
野次馬がそれぞれの仕事や家に散っていくのには、長い時間を要した。
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「すごい演説だったな大将!!」
酒場に戻ると、マスターがシンに対して拍手をした。周囲の漁師もそれに続く。
「ありがとよ。では、早速だが作戦会議だ。
まずは俺たちの本拠地だが……この酒場でいいか?」
シンは周囲の反応を確かめるため、一人一人に視線を向ける。
全員が賛同の笑みを浮かべているのを確認すると、シンは次の議題に移った。
「OK、じゃあ次に今後の目標、”海竜と互角に戦えるようになる”についてだ。
そもそも、サーペントの連中はどうやって戦ってたんだ?」
今度の議題は質問だった。
盛大な啖呵を切ったものの、シンは実際のところ海竜を見たことさえなかった。
「さっきも話したが、鉄製の銛と魔法だな。
基本的には空砲、冷凍が多かったが、特に強いって言われてたのは雷撃が使える奴だったな。
たしか、サーペントの総監も雷撃使いだって聞いた。」
漁師の一人が淡々と説明する。しかし、シンは今一腑に落ちない。
「なぁ、魔法ってどうやって覚えるんだ?」




