EP58 好み
その後、支配人と取り止めのない会話を交わしたシンは、花に会いに行くため、すぐに病室を退院をした。
教えられた部屋に行くまでの道中で、シンは様々な疑問が浮かんだ。
(金貨って渡したかなぁ……?というか、俺の方が断然体調は良かっただろ?
分からん……。あいつに直接聞いてみるしかないか。)
そんなことを考えていると、シンは教えられた部屋に着いた。扉には907号室と書いてある。
(にしても、でっかいホテルだなぁ!ドゴルのホテルも凄かったが、10階建てはこの世界で初じゃないか?)
慌てていたので3日前は気づかなかったが、小さな港町には勿体ないと言わざるを得ないほど、そのホテルは巨大であった。
実はホテルとしてだけでなく、中流貴族の別荘として一部の部屋が購入されている事が、その理由であった。
(やっぱり観光かな?まぁ、近くに海あるしな。ダイビングとかに来るのかな?)
シンは観光の目的はダイビングであると予想した。
それがどんなに的外れであったか理解するのは、実際に海中に潜水してからの事である。
(どうでもいいか。)
シンはあっさりと思案を巡らす事を中断し、扉をノックした。
「花〜!いるか〜?」
そこそこ大きな声で呼び掛けるが返事が無い。
シンは急に花の事が心配になってきた。ラドックスに殺された恩人の事を思い出したからだ。
試しにドアノブを回して見ると、簡単に扉は開いた。その事が一層シンを不安な気持ちにさせた。
(やべぇよ!コ○ンとか金○一なら、中にいる奴が絶対に死んでるパターンじゃん!)
シンは勢いよく扉を押すと、慌てた様子で中に入った。
「おい花!大丈夫か?」
シンが呼び掛けるも返事が無い。
(よし、取り敢えず死んでない!)
シンはひとまず安心して、部屋から出ていると思われる花を探しに行こうとしたその時、
「きゃああああっ!!!!!」
背後から花の鋭い叫び声が聞こえた。
「何だ何だ!?」
シンが声のした方を見ると、視界に花を捉える前に頬に平手打ちが飛んできた。
「何で!あんたが!いるのよ!!」
その一言で、シンは叫びが自分に向けられた者だったのだと察した。
花はその時、お風呂に入っていたらしい――。
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「そう怒らないでくださいよ〜、年下なりの茶目っ気でしょう?
別に風呂を覗こうとかしてた訳じゃないんですって!!」
シンは両頬を二回ずつ打たれた後、花に対して情状酌量を求めた。
その言葉に嘘偽りはないが、花は訝しんでいる。
「え?アンタ年下なの?」
少し間を置いた後、花の膨れっ面には困惑の色が広がった。
「え?だって年齢について話したじゃん?」
シンはあっけらかんと答えた。
「ちょっと待って……じゃあ、もしかして私の歳知ってるの?」
花は少し震えながら聞いた。
「25だって自分で答えてたじゃん。」
「え?私そんな話したっけ?」
「おう!俺は23だからお前より若……!」
言い終わるより先にシンはまたもビンタされた。
「そう言う事を言わない!!」
花は顔を真っ赤にしている。
「す、すいませんでした……。ちなみに、恋愛対象は年下と年上どちらで?」
シンは急に聞いてみたくなった。
「年下よ♪とっても可愛いじゃない♪」
花は一切の迷いなく即答した。
顔は蕩け切って、頬を細い指で抱えて恥ずかしさを紛らわせている。
(ヤバいな、これで惚れない男とかいるのか?)
シンは花の蕩けた顔の破壊力に、静かに驚愕した。
「ただ、年下から好かれる事って、あんまりないのよ……。」
花は急に寂しそうな顔になった。
(多分、可愛すぎて日和ってるだけだと思うぞ。)
シンは喉から出かかった言葉を飲み込んだ。
「では私がお付き合いしてあげましょうか、マドモアゼル?」
シンはふざけてアプローチを掛けてみた。もちろん承諾がない事は分かっている。
「何言ってんのよ、私には征夜がいるでしょ。それに、あなたみたいな可愛げのないのは嫌。」
花は割と本気で拒絶した。
「はいはい、俺には可愛げが無いですよ〜!
ていうか、清也にはあるのか?俺よりも身長高いけど。」
「もちろん!初対面の彼、子供みたいに張り切っちゃって、喋り方とかも今と少し違うのよ♪
で、可愛いなぁって思いながら見てたんだけど、私が瀕死の怪我した時とか必死に助けようとしてくれたの!
その時に見れた可愛さの中に光る男らしさ、みたいなのがとっても素敵だなって思ったの♡
その後も幻惑を見ながらも、私を私だって気付いてくれたり、私の為に怖い男の人と決闘したり、好きな料理を覚えててくれたり、髪飾りをくれたり。
彼、自分が何もできないと思ってるけど、実際は気配りが上手だし、機転が効くし、とっても勇敢なの!
それでいて優しくて、初心で可愛いうえに、カッコいいの♡あとね、あとね……」
「あぁ〜OK!彼氏自慢はそこまででいいや。あとは俺じゃなくて清也に伝えた方がいいと思う。」
(限界オタクの最終奥義を、アニ研以外で見れるとは思わなかった……。)
シンは正直なところ、かなり引いていた。
「そ、そうよね!あなたに言ってもしょうがないものね。
……あと、一人称が僕なのも謙虚で好き♡」
花の閉じた口の端から、本音が溢れでた。
「うーん……俺の予想だと40歳は行ってると思うけどな。」
シンはふざけて、口から出まかせを言ってみた。
「えっ!?何でそう思うの!?」
花はシンのいいかげんな発言にも、敏感に反応した。
(流石にそりゃあないだろ!!!)
「もし清也が年上過ぎたら、いい男紹介してやるよ。あっ、俺も今フリーだぞ!」
シンは心の中で笑い死にしそうになりながら、またもいい加減な事を言った。
「何回言わせるのよ!初対面でナンパして来るような可愛げの無いのは嫌なの!例え清也が何歳年上でも私は彼が好きだから!」
花はそれっきり顔を背けてしまった。
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一方その頃、可愛げのある年下は、
(う〜ん……一人称が僕だと、やっぱり頼りないのかな?普段から俺はなんか違う気がするし、私も違うよな。
やっぱり拙者か!拙者なのか!?)
人生初の彼女に嫌われたくない一心で、一人称を矯正しようか検討していた。




