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EP56.6 雨中の悟り

 

 最凶の入学式から1年、賦遊理威はさらに勢力を増していた。

 苦隷辞畏は数人の構成員を除き、殆どがその傘下となり事実上の解散となった。


 梅雨の日の昼下がり、いつにも増してその日は雨足が強かった。

 そんな中、俊彦は衝撃的な事を知る事になる。


「ええっ!兄貴結婚するの!?いつ?誰と!?」


 俊彦は驚いたように声を出した。


「そりゃあ勿論!」


 シンがそこまで言うと、エプロンを付けたフィーナが出てきた。


「私に決まってるでしょ♪

 2人とも短大卒業の目処も立ったし、シンは一般企業に就職も決まったのよ!

 それに、責任も取ってもらわなくちゃね♡」


 少し盛り上がったお腹を撫でながら、フィーナは嬉しそうに笑っている。


「お前のおかげで組の中で誰も留年しなかっただけじゃなく、殆どが英検2級を取れたんだ!

 本当に、みんなお前に感謝してるぜ!」


 シンも嬉しそうにしている。

 責任を取ると言う事は、シンにとっては決して嫌な事ではないようだ。


(あれ?子供って、結婚してから作るんじゃないのか?)


 俊彦は少し疑問に思ったが、あまり深く考えない事にした。

 それに、シンが責任感のある人間だという事は組の誰もが知っていた。


「俺……じゃなくて僕が就職する企業、初任給が500万もあるんだ!

 それだけあれば十分に2人を養っていけると思うんだ。」


 シンは笑顔が絶えない様だ。

 流石の俊彦も、その2人に自分が含まれていない事は分かったが、悲しみはなく純粋な祝福が彼を包み込んでいた。


「僕って……おい!兄貴らしくないぞっ!」


 俊彦は笑いながら茶化した。

 俊彦にはなぜ、シンがこんな喋り方をするのか分かっていた。

 彼はフィーナとの結婚の条件に、”言葉遣いの矯正”を言われていたのだ。


 確かに、生まれてくる子供のことを考えれば、シンの口調は”一児の母”にとって、好ましくないのは明白だ。

 それに、一般企業に就職するにあたり、暴走族からある程度の距離を置く必要があるのも、事実だった。


 言葉遣いの矯正は、”立派な社会人になる為の初歩”と言っても良いだろう。


 フィーナは決して、育ちが悪かったわけではない。

 なので、一般常識は理解していたし、シンのフィーナを愛する気持ちは、それを受理するには十分だった。


「よくできましたね新一(しんいち)くん!……あっ、間違えた……。」


 フィーナは口を滑らせたが、シンは気にしていないようだ。


「新一?兄貴の名前はシンじゃないのか?」


 俊彦は敏感に話題に飛びついた。


「賦遊理威のメンバーは全員が偽名なんだよ。シンは総長が代々受け継いできた名前なんだ。

 俺の名前が新一なのは親父が初代総長だからなんだよ。絶対に継がせる気で名付けたらしい。」


 子供に、自分の趣味を継がせようと思う、親の気持ちは理解できる。

 だが、よりによって暴走族を継がせるために、それに合わせた名前を付けるのは、かなり風変りである。


 新一自身も、それを不思議に思っているようだ。


「なぜ剣道場でなく、こっちを継がせようと思ったのか……。

 まあ、()()()()()なんて、親父ですら少しも理解してないらしいけどな。

 ていうか、開祖が天才だったくせに、何の書物も残さなかったのが悪いんだよ!」


「もう!親父じゃなくて父さんでしょ!あっ、私の名前はほとんど本名よ。

 仙波(せんば)フィレストーナが本名、ママがロシア人なのよ。もうすぐ苗字は変わっちゃうけど♡」


 俊彦は彼女の常人離れした美貌と、初対面時の高校生とは思えない体つきに合点がいった。


「へえ……。あれ?兄貴が組を抜けるなら一体、だれが総長やるんだ?」


 俊彦は素朴な疑問を浮かべた。

 今の賦遊理威は、組織としての規模が数百人単位まで拡大している。

 その為、総長となる人間は異常なまでのカリスマ性と、圧倒的な戦闘力を有している必要がある。

 俊彦にはそんな人物が、新一の他に居るとは思えなかった。


「まぁ、追って考えるさ。フィーナの出産まであと3か月。それをリミットに考えてる。」


 新一は幸せそうな顔で言った。

 彼にとって賦遊理威は、青春そのものだったが、やはりフィーナとの婚約は、それを凌駕する喜びだったのだろう。


「俺が成っちまったりしてな!」


 俊彦は軽い冗談のつもりで言ったが、シンは真面目な顔で聞き返した。


「実はな……お前を総長にしようって奴も、少数だけどいるんだよ。俺もその一人なんだけどな。

 お前、実は結構強いじゃん?で、伸びしろあるじゃん?で、頭いいじゃん?あとは年齢だけなんだよ。

 それを補えるだけの武勇伝があれば、お前が一番四代目シンに近いと思うぞ。

 それに、お前のことを知らない奴は、賦遊理威の中でもごく少数だしな。」


「ええっ!?なんで!?」


 この発言には俊彦が一番驚いた。

 たしかに、最凶の入学式の発端になったのはそもそも、俊彦が二つ上の伊達を圧倒したからだ。

 中学生にとって、二学年差はかなり大きなハンデだ。それを覆す圧勝は、確かに武勇伝ではあった。


「まあ、色々とね……。」


 フィーナは急に眼を泳がせ始めた。

 どうやら、その件が原因ではないことを俊彦は悟った。


「俺たちに何か聞きたいことはあるか?もしないなら、お前に大事な話をしたいと思うんだが。」


 新一は急に重苦しい顔になった。


「新一……。あの話をするの?別に、次の総長が話せば良いんじゃ……。」


 フィーナは急に俊彦に憐れむような目を向けた。


「だめだ。こんな恥でしかない話を、次代には引き継げない。

 それに、こいつが総長になるのなら同じことだ。

 ……すまん、待たせたな。質問はあるか?」


 新一は俊彦に向き直った。


「じゃあ、一個だけ……。

 初めて会った時から気になってたんだけど……






 なんで”嘘ついた”の?」


 俊彦の声は急に低くなった。


「気づいてたのか……。間違いない、お前が一番総長にふさわしい。

 抜け目がないなんてもんじゃない。俺に三年間も悟らせないなんて……。」


 新一は驚きで目を見張っている。


「答えて、あの日……

 河川敷で集会なんてしてなかったよね?」


 俊彦は今でも、三年前の日をありありと思い出せた。

 あの日の河川敷に人はなく、ましてや暴走族の集会なんて影も形もなかった。


「実はな俊彦……

 お前の両親は俺たちと、ほかのチームとの抗争に巻き込まれて死んだんだ。」


 これこそが、俊彦の知った衝撃的な事実であった。




「やっぱりな……ふざけやがってええええええ!!!!!!」


 俊彦は座っているソファから飛び上がり、シンに向けて飛び蹴りを放った。

 その蹴りには積年の疑念と、嘘をつかれてきた事への恨みが籠っていた。

 新一の予想をはるかに凌駕する速さと威力の蹴りは、新一の顔面に直撃した。

 猛烈な一撃を食らった新一は後ろに大きくのけぞった。


「話を聞いてくれ!わざとじゃないんだ!

 轢いた奴は最近まで刑務所に入ってたが、出てきたときは本当に反省してた!

 許してくれとは言わない!だけど、仲間たちはお前を不憫に思って、夜通し家を張ってたんだ!

 で、やつれたお前が川に飛び込んだから、俺自ら理由を聞こうと思ったん」


 俊彦は新一が言い終わるよりも先に、もう一発顎に食らわせて黙らせた。

 そして、呆然とするフィーナを放置して、豪雨から霧雨へと姿を変えた雨の降る屋外に、勢いよく飛び出していった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(ありえねえ……マジで……。)


 俊彦は雨が降りしきる公園のブランコに座り、何時間もの間、怒りを募らせていた。

 3年間もの間、自分を育ててくれた事には感謝しているが、これとそれとは全くの別問題だ。


(何が総長の器だよっ!ふざけやがって……。)


 俊彦が許せなかったのは、親の死に賦遊理威が関与していたことよりも、実の父のように慕っていた新一が、それを教えてくれなかった事だった。


(信じてたのに……。くそっ!なんでだよっ!)


 俊彦の行き場の無い怒りは、降り頻る霧雨によって次第に萎んでいき、段々と悲しみに変わっていった。


 信じていた者に裏切られる経験は、俊彦にとって初めての事であり、それも両親の死について隠してきたのだ。

 いずれは話す気だったのかもしれないが、そうであっても隠していたことに違いなかった。


 悲しみが心を満たしそうになると、憎しみが再び湧き上がってくる。

 心の活火山は、少しずつ噴煙を上げ続けていた。

 感情の深淵に根ざしたその火山は、俊彦の肉体を八つ当たりという名の発散活動に促した。


 公園に生えた木を片端から蹴り、殴った。

 公衆トイレの窓ガラスは叩き割ったし、ベンチの一部も破壊した。

 しかし、一通りの破壊活動を行った後の彼には、虚無感しか残らなかった。


(俺……一体何を信じればいいんだよ……。)


 彼は、この3年間で一度も流さなかった涙を流した。

 何故、泣いているのか。なぜ怒っているのか。

 もはや、そんな事さえ分かっていなかった。


 霧雨は再び豪雨へと変わり、涙でぬれた俊彦の頬を洗い流した。

 ベンチの上でうずくまり、足を乗っけて体育座りをしている彼は、普段の粗暴さからは窺い知れないほど、年相応の少年そのものだった。


 全身を豪雨によって打たれるその姿は、見る人によっては滝行と見紛う事すらもあるだろう。

 疲れ切り、自暴自棄になった彼は雨宿りをすることすら無く、その場で眠り込んでしまった――。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俊彦の両親は俊彦を深く愛してはいたが、清也の両親と違い非常に多忙な日々を送っていたので、家族での楽しい思い出はあまり無かった。


 それでいて、とにかく勉強をさせてくる。そんな、家庭教師のような両親だったのだ。

 洗濯や料理といった、一般的に両親から教わる事も教えられておらず、道徳的な教えなども殆ど無かった。

 俊彦が同級生の多くから嫌われていた理由の一つには、精神的幼さゆえの情緒不安定もあった。


 あまり、人生観に関しての教えを説かない両親ではあったが、一つだけ俊彦の心の片隅に残存する印象的な父の言葉があった。


「俊彦、人と言うのは過去を積み重ねて生きていくんだ。

 誰もが過去に行なった事は消せないし、誰もが他人から過去を奪うことはできない。

 たとえ、記録から消えていたとしても、人の行為は大小はあれど世界を変えるんだ。

 今から言うことをよく覚えておくんだよ。


 ”未来を過去にするという行為が、生きるという事”だ。


 人は過ちも栄光も背負いながら生きるんだよ。

 だからこそ”これからの過去”をより良い物にしようとして、人は戦う。

 今ある過去を乗り越え、より良い過去を得るために。

 それができる人は過去に何があったとしても、きっと素晴らしい人だよ。」




 幼き日の思い出を、俊彦は夢に見ていた。

 そして夢の終わりと共に飛び起きた。居てもたってもいられなくなり、全速力で駆け出して行く。


(何言ってんだ俺!兄貴は!賦遊理威の仲間たちは!俺を一所懸命に育ててくれたじゃないか!

 例えそれが偽善であっても、確かに過去と戦っていたじゃないか!!!)


 猛烈な罪悪感が胸を締め付けるが、それは先刻から感じていた虚無感の正体でもあった。

 俊彦は降りしきる雨の中を、全速力でアジトに向けて走り続けた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 20分ほど走り続け、俊彦は息を切らせながらアジトに到着した。

 しかし、そこは口では言い表せないほど、異様な雰囲気に包まれている。

 大勢の構成員に囲まれる中、一台の救急車がタンカーを担ぎ込んだ。


 俊彦は猛烈に嫌な予感がしたので、野次馬の中にすかさず潜り込んだ。

 そしてすぐに、それは確信に変わった。


「フィーナ!しっかりしろ!フィーナ!!頼むから急いでくれ!」


 新一はこれまで聞いたことのない、泣きそうな声で救急車に叫んでいる。

 俊彦が救急車をのぞき込むと、そこには目を覆いたくなるほど痛々しい光景が広がっていた。


 顔に数か所の殴打痕があり、腕には強く握りしめられたような痕が複数ある。

 美しかった緑の髪は所々が乱暴に引き抜かれ、両足の付け根の間、ちょうど股のあたりが服の上からでもわかる量の血で赤く染まっている。


「どうして二台呼ばなかったんです!あなたもとんでもない怪我じゃないですか!」


 救急隊員は怒りよりも、恐怖しているように見える。


「二台来るのを待ってたら、こいつの搬送が遅れちまうだろうが!

 良いからさっさと出せつってんだろうがよ!」


 新一は完全に激昂している。


「同伴者が必要です!乗ってください!」


 隊員は叫んだ。新一は少しよろけながら救急車に乗ろうとした。


「まっ……て……。俊彦も……。」


 もはや虫の息のフィーナは、弱々しい声でつぶやいた。

 それを聞いた新一は、顔の左半分を右手で押さえながら振り返り、俊彦の襟を掴んで救急車の座席に放り込んだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「兄貴……これは……。」


 救急車に乗り込んだ俊彦は、消え入りそうな声でつぶやいた。

 新一は相変わらず俯いたまま、顔を抑えている。


「苦隷辞畏の残党だ!お前を探しに行ったら不意打ちされてこの様だよ!クソが!」


 新一は左手で、救急用具の置かれていない場所を選んで殴った。

 声は怒りで震え、泣いているようにも見える。


「俊彦、お前は悪くない。だから、お前を責める気は一切ない……。」


 新一はそういうと、俯いたまま顔をフィーナに向けた。

 今度こそ泣いていることが、俊彦にも確認できた。

 右目から、雨水とは違う透明の液体があふれ出している。


 しかし、俊彦にとっては右目の液体よりも、

 左手の指をすり抜けて流れ落ちる”透明ではない液体”の方が目を引いたのだった。


「兄貴……お、おい……血が!」


 俊彦は何かを察しながら言った。


「あぁ、これか?」


 新一はそう言い、ゆっくりと顔を上げ押さえていた右手をどけた。


「おわあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 俊彦は堪らず、人生最大の絶叫を上げた。

 彼の予想した通り、本来左目が収まっている”はず”の場所には、赤い”空洞”が広がっていた。




 その後、5分と経たずに救急車は地元の中規模病院に到着した。

 新一とフィーナは、集中治療室に連れ込まれた。


「おい、俊彦ちょっと来い。」


 俊彦は年上の構成員に手を引かれ、裏口から連れ出された。

 そこには俊彦が予想した通り、すでに数人が集まっていた。


「要件は分かってます。お願いします。」


 俊彦は目をつぶった。


 一人につき一発の殴打、わざと加減した者もいたし、日頃の不満を込めた者もいた。

 それでも、俊彦の心からは罪悪感が一切拭えなかった。


「今日はもう解散だ、明日また来よう。

 大勢で来ると他の患者の迷惑になる。とりあえずは俊彦、お前が朝一番だ。」


 居合わせた者の中で最年長の構成員が宣言し、各々が家に帰ることになった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日、俊彦は言われた通りに朝一番に病院へ行った。

 まずは新一に謝ろうと思い、病室へ向かうと突然扉が開いて、左目に眼帯を巻いた新一が出てきた。


「あ、兄貴……本当にごめん!俺のせいで……!」


 俊彦はそれより後の言葉は続かなかった。

 罪悪感で押しつぶされそうになる。


「俺の事は気にしなくていい。痛みは殆どないし、消毒もしてもらった。

 少し見え辛くはなったが、完全に何も見えなくなったわけじゃない。」


 新一は強気に言ったが、それが強がりである事は俊彦にも分かった。


「フィ、フィーナにはも、もう会ったの……?」


 俊彦は強引に話題を変えた。声が震えている。


「今からだ……。一緒に来い。」


 新一は先ほどよりも格段に辛そうな声になった。

 俊彦は言われた通りに、後に着いて行った。




 少し歩くと、新一は一つの病室の前で立ち止まった。

 そこに来るまでの道中で、二人は一言も会話を交わさなかった。


「ここだな、ん?……あの馬鹿……。」


 新一は何かを見つけて、泣きそうな声で言った。

 嬉しそうにも聞こえるし、悲しそうにも聞こえる。


「どうしたの?」


 俊彦はたまらず聞いたが、新一は答えることなく病室に入ったので、俊彦も後に続いた。

 中に入ると、ベッドにフィーナが横になっている。


「あっ、新一……。目の具合はどう?」


 フィーナは無理に笑顔を作って聞いた。

 顔の腫れはだいぶ引いている。


「なんてことない!それよりも、お前は大丈夫なのか!?」


 新一はベッドに駆け寄り、フィーナの手を握って聞いた。


「外傷は残らないってさ!」


 フィーナはまだ笑っているが、声は完全に震えだした。

 それを感じ取った新一は、慌ててフィーナの布団をはぎ取った。


「ごめんね……守れなくて……。」


 フィーナは笑いながら涙を流し始めた。


「それはこっちのセリフだ!すまない……。

 君にこんな思いをさせるなんて……。本当に……すまない!」


 新一は完全に号泣している。

 人目をはばからず泣き、必死に謝る彼に暴走族の総長の面影は無く、恋人思いの青年だけがそこに居た。


 何が起こったのかわからず、俊彦はフィーナがよく見える位置に寄った。

 最初は何も変わった点は見当たらなかったが、少し経って気が付いた。


 昨日まで確かに膨らんでいたフィーナの腹部は、跡形もなく痩せていた。

 俊彦は前後の会話と、フィーナの様子からすべてを察した。


「フィーナ……。ちょっと待っててくれ。すぐにまた来るから!」


 新一は優しい口調でそう言うと、部屋を後にしようとした。


「待って新一!お願い!復讐なんて考えないで!

 内定が取り消しになっちゃうわ!逮捕されちゃうかもしれない!

 子供はまだ作れるって、先生も言ってたわ!」


 フィーナは必死になって、手を伸ばして叫んだ。


 それを聞いた新一は踵を返して、ベッドによるとフィーナの手にキスをした。


「わかった、君のための復讐なんてしないと約束するよ。」


「良かった……。もし退院したら、もっと安全な場所へ引っ越しましょうね。」


 フィーナは泣き止むと、笑顔で言った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 娘の突然の入院の知らせを受け、長期海外出張中だった”仙波夫婦”は急いで病院に駆け付けた。

 知らされた病室の前につくと、二人ともすぐに目を疑った。


「あなた……ここってフィーナの病室よね……?」


 フィーナの母は震えながら聞いた。


「あの子に聞いてみるしかあるまい。」


 父親は落ち着いた口調で言ったが、かなりの怒りを漂わせている。


 慌てて病室に入り込んだ母親は寝ているフィーナを怒鳴りつけた。


「フィーナ!いい加減にしなさい!何よこの表札!縁を切れって言ったでしょ!」


 右手には病室の表札が強く握りしめられている。


「私は彼を愛してるわ!一般企業への就職も決まったし、立派になろうとしてる!

 それに、彼も私を愛してくれてるわ!出張ばかりのママ達と違ってね!」


 フィーナも怒鳴ったが、少し迫力負けしている。


「お前がそんな目にあったのは彼と親しかったからだろうが!

 私たちの居ない間に、子供まで作りおって!」


 ついに父親も、怒りを我慢できなくなった。


「二人がなんて言おうと、私は私を必死になって守ってくれた彼と結婚するから!

 退院したら彼と籍を入れる!そして、その表札に書いてある通りに私の名前は…………




 ”吹雪フィレストーナ”になるから!」

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