EP53 趣味
シンの口から発せられた突拍子のない提案。
花には、それが現実的でないように感じられたが、シンは自信に満ち溢れている。
「無理よ!いくらこの子が私に懐いても、私は牧場の馬に乗った事もないのよ!」
花は既に、ユニコーンに対して”この子”と呼ぶくらいには愛着がわいていた。
「大丈夫!俺は乗馬部だから!」
シンは満面の笑みで言った。
花にしてみれば、大丈夫と判断するには些か不安な根拠だった。
「乗馬部だからってユニコーンに乗れるとは限らないわ!」
花は正論を言ったが、シンは気にも留めない。
むしろ、信用されていないことを面白がっているようだ。
「大丈夫!牧場でのバイト経験もあるから!」
今度の根拠は、少しだけ花を安心させた。
「まあ、そこまで言うなら……。というか、動物好きなの?なんだか意外だわ。」
花はそこそこ失礼なことを言ったが、シンは気にしなかった。
「ああ!愛でるのも、狩るのも、食うのも好きだぞ!」
シンは豪快な笑みを浮かべている。
花はそんなシンの様子に、少しだけ恐怖を抱いた。
「狩る……ってことは鹿とかを撃つってこと?」
花は少し震えながら聞いた。
「まあ、狩猟免許ももってるし、地元の猟友会にも入ってるしね。クマを撃ったこともあるよ。」
シンは少し得意げだが、そもそもこの世界で銃を見たことがないので、あまり意味のない自慢だった。
「へえ……そこそこうまいのね。」
花はシンを少し見直した。ただ、シンのことなのであまり信用しない方がいいとも思った。
「銃の使い方はライフルからピストル。リボルバーからフリントロックまで、ハワイで爺ちゃんに教わったんだ。」
シンは、まるで高校生探偵のようなことを言った。
「ほかに趣味とかはあるの?」
「アニメ研究会、料理研究会、古生物同好会、射撃同好会、賦遊理威……じゃなくてバイクサークル、ダイビングサークル、カードゲームサークル、乗馬部、陸上部、空手部には入ってたな。あっ!ナンパ同好会も入ってたな!」
花は「最後のさえなければ、普通に褒めたのに……。」と思った。
「随分と多趣味なのね……。」
「総てを司りたかったからな!」
シンは右指を空に向けた。
天の道を往ってそうなポーズだ。
「へえ……。」
花にはもはや、返す言葉がなかった。
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「さあ、乗るか!」
シンはそう言うと、ユニコーンの頭を撫でた。
ユニコーンは立ち上がった。先程の荒ぶりはないが、目から少し不機嫌なことが窺える。
「乗せてくれるかしら?」
花は微笑みを湛えた顔で優しく聞いた。
すると、ユニコーンは大人しくなり、花にやさしく頬ずりした。
「こいつやっぱり、花の事が好きだな?」
シンは訝しんでいる。花とユニコーンは飼い主と愛馬と言われても信じるほど、仲良くなっている。
「そうだといいわね。じゃあ、乗せてもらいましょうか!」
花はいつの間にか、文字通り”乗り気”になっていた。
「じゃあ、花から先に乗ってくれ。」
シンは軽い調子で言ったが、花には酷な注文だった。
「んくっ!……無理だわ。」
花はユニコーンの背中によじ登ることは出来なかった。
「しょうがねぇなぁ!ほれっ!」
シンは花の尻を支え、下から押し上げた。
(うわっ……なんていうか、清也の奴が羨ましいな。)
彼は花の事を押し上げながら、邪な事を考えていた。
シンの指に食い込む感触は、まるで雲のようだ。
「えぇっと……ありがとう?」
よじ登った花は、首を傾げながら礼を言った。
「いやいや、こちらこそ!」
シンはニヘニヘと笑っている。
何かを想像しているように見える。
「何かやらしい事考えてるでしょ!」
花は直感で分かった。
「いやぁ〜良い桃をお持ちだなぁと……。」
シンは正直に答えた。
「あいつを刺し殺していいわよ。」
冷たい目をした花が命令すると、ユニコーンは即座に角をシンに向けた。
「すまんかった!!」
シンは両手を顔の前に合わせた。
「置いてっちゃおうか?」
花はユニコーンに話しかける。
ユニコーンは、まるで言葉がわかるかのように、力強く嘶いた。
「おいおいおいおいおい!
俺を置いてったら、早く走れないぞ!」
シンは必死に引き止める。
「ちっ、早く乗んなさいよ。」
花は明らかに不機嫌だ。
「失礼しやす姉貴!」
シンはまた子分口調になった。
少し拗ねていたが何かに気付き、またニヘニヘと笑い始めた。
「何笑ってんのよ?」
花は怪訝そうな顔をして聞いた。
「振り落とされないように、後ろから腕で固定してやろうか?」
シンはニヤけながら花に聞いた。
明らかに何かを企んでいる。
「お気遣いどうも!でも、この子は私を振り落としたりしないわ。そうよね?」
花が聞くと、ユニコーンは今度も力強く嘶いた。
「はぁ……。じゃあ俺が前に乗るよ。」
シンは真面目な顔をして言った。
どこか残念そうに見える。
「そうしてくれるかしら?」
花は、シンの企みを阻止できた事を嬉しく思い、満面の笑みを浮かべている。
シンは言われた通り前に乗った。
残念そうにして見せたが、それは全て演技。本当は、前に座ることが目的だった。
「ちゃんと俺に掴まってろよ?」
シンがそう言うと、花はシンの腰を掴んだ。
「よし!行くぞ!」
ユニコーンは凄まじい速度で走り出した。
シンがコントロールできるほどの速度ではあったが、慣れない花は怯えている。
(懐かしいねえ、この感じ!血が騒ぐぜ!社会人になってからは一度も乗ってないからなあ!)
シンはユニコーンの走りから、”馬以外のもの”を思い出していた。
「きゃっ!」
花はそう言って、掴まっているシンに更に密着した。
(うけけ、やっぱ花の胸は柔らかいなぁ〜。)
彼はやはり、邪な事を考えていた。




