EP50 商人 <☆>
花とシンは、ひとまずソントの町に帰ってきた。朝食を素早く取り、雑踏でごった返す市場に向かった。
「旅に必要な物……と言っても、大体は征夜と買ったのよ。」
花はリュックを見ながら言った。前回のバザーで、必需品は全て買い揃えていた。
「俺は武器を見に行ってくるよ。他に買う物あるか?あるならお金渡すけど。」
シンは手を出し、その上に5枚の金貨を生成した。
「あっ!新しくテント買わないと!」
花はそう言って、3枚の金貨を掴み取った。
「俺は清也の使い古しでいいぞ。そう言えば、あいつテントも持って行かないのか!?」
シンが思い出す限り、清也は剣と肩掛けのポーチしか持っていなかった。
流石の彼も、少々驚かされたようだ。
「え?いや、貴方と一緒に寝るのは……何でも無い!」
花は最後まで言わなかったが、シンにはしっかりと伝わった。
「おっとぉ?花ちゃんは、清也くんと一緒におねんねしてたんですか〜?
一緒のおテント使ってたんですかぁ〜?」
隙を見つけたシンは、しっかりと揚げ足を取ってきた。
幼児に話しかける様な言葉で、いやらしく茶化してくる。
「うるさい!早く買いに行ってきなさいよ!」
花はシンの背中を、持っていた杖で殴った。
ゴツンという音がして、シンはつんのめってしまう。
「す、すいやせんでした姉貴!失礼しやす!」
今度は子分口調でヘラヘラと謝り、去って行った。
落ち着きのない男だと改めて思い、花は呆れた。
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花はそのまま、市場の奥にあるテント売り場に行った。そこには大小様々なテントが売っている。
「お姉さん!これ下さい!」
花はテントを指差し、満面の笑顔と共に50は過ぎているであろう女性に言った。
「あら?値段表示が間違ってるわね。本当は2じゃなくて1ファルゴよ。」
狙いは驚くほど上手くいった。年を若く見積もられると嬉しくなるのは、花とて同じなのだ。だからこそ、テント売りの女性の気持ちもよく分かる。
「ありがとうお姉さん!」
花はそう言って、シンを探しに戻ろうと思った。
しかしその時、右目にある物が映り込み足を止めた。
「海底の探索……ならこれがいるわよね。」
花の視線の先に並んでいた物。それは水着だった。
「よっ!綺麗なお嬢さん!水着買ってくかい?安くしとくよ!」
店主と思わしき男が花の全身を舐め回す様な目で見ている。
「ええと……一番"防御力"が高そうなものを見せて下さい。」
花は身震いをして言った。
(うわ……絶対ヤラしいこと考えてる。怖いなぁ……。)
「これなんてどうだい!?」
男はマイクロビキニに分類されるような水着を掲げている。
(シンが一緒なら、こういう事は言ってこないんだろうなぁ……。)
花は気が遠くなってきた。同時に、さっき殴ったばかりのシンが恋しくなってきた。
「ラッシュガードあります?」
花は男の提案を無視して言った。
海底に潜るならラッシュガードは必須だろう。
「あるよ!ただ、下に何かしら着た方がいいよ!」
男は右手に持った水着を揺らしながら言った。
男はどうやら、是が非でも花にマイクロビキニを着せたいらしい。
彼女のスタイルなら、間違いなく似合うだろう。だからこそ、強引に推して来るのだ。
「はぁ……。2ファルゴで両方買います……。試着して良いですか?」
花は男にも聞こえるほど大きなため息をつくと、渋々了承した。
「うーん……意外と水着の方は高級だからなぁ……まぁ、2ファルゴでいっか。
……水着姿見せてくれたら、タダでもいいよ!」
男は一切悪びれる事なく言った。
顔は笑っているが、目はギラついている。
「死んでも嫌です☆」
花は皮肉を込めた満面の笑みで答えた。
憎悪と嫌悪感が全身から溢れ出ている。
「そいつぁ残念!こちらへどうぞ!」
男はあっさりと試着室へ案内した。
花は覗かれていないか確かめながら、素早く水着に着替えた。
花の巨乳は、ギリギリではあるが水着に収まった。圧迫感は無く、最低限は隠されている。着心地も悪くない。
ラッシュガードを着ていれば、そこまで変には見えない。それに、清也になら見られても構わないと、雑に自分を納得させた。
花は一通り鏡で姿を確認すると、再び元の黒い服を着て、ローブを羽織った。
買うのを見られるのが恥ずかしいと思い、水着をラッシュガードに包んでカーテンを開けた。
「これ買いま……え?」
カーテンを開けると、そこにいたのは2発ほど殴られた店主だった。
殴られた痕には、鋭利な物が刺さった後のような、3つの窪みができていた。
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数分前、シンは武器商人の店を訪ねていた。
「あっ!魔術師の助手さん!
聞いたよ、魔術師さんは災難だったね……。惜しい人を亡くしたもんだ……。
金を貸してくれる以上に、人としてよく出来た人だった。彼以上の人格者は見たことが無いよ。
返すお金は用意してあるから、ここで少し待っててくれ。今取ってくる。」
店主は残念そうな顔をして言った。
それが、返済の取り立てに来たと思ったからなのか、それとも単純に死を悼んでいるからか、シンには分からなかった。
「いや、良いんです。彼の貸した金は全てチャラになったんです。
その代わり、この店の武器を一つだけ貰っても良いですか?」
シンは少々、下手に出て言った。
店主は嫌がる素振りを見せなかったので、純粋に死を悼んでいるのだと思った。
「犯人は指名手配中なんだろ?君は彼を探しているのかい?私刑の許可が降りたと聞いたが。」
商人は店内を回るシンに対し、カウンターから出て来て聞いた。
「私刑……て事は"殺害許可"って事ですよね。
実は仲間と共に、奴を追ってるんです。必ず俺が仇を討ちます。」
シンは拳に力を込めて言った。声が怒りで震えている。
「うちの武器を存分に使ってくれ!探してる武器種はあるかい?」
店主は覗き込む様にして聞いた。
「オススメはありますか?取り回しのしやすい物で。」
シンは大まかに注文をした。店主は待ってましたと言わんばかりに、シンを店の奥の方に連れて行った。
「これなんてどうだい?"エクスカリバー"っていう剣なんだがね。
由緒正しい剣だ、なんでも異世界の国王の持ち物だとか?」
店主は豪華な装飾が施された剣を見せながら聞いた。
しかしシンは直感で分かった、この剣がナマクラだと。装飾こそ豪華だが、明らかに刃の輝きが鈍い。
「エクスカリバー……聞いたことあります。
でもその剣は、素人の身には余る武器だと思います。他はないですか?」
シンは苛立ちを見せないように、やんわりと断った。すると店主は、すぐに別の武器を取り出した。
「じゃあ……これはどうだい?”プラズマブレード”、別の宇宙の未来の剣士が愛用してる剣だとか言われてる。」
店主はそう言って、手のひら二つ分ほどの鉄の棒を取り出し、ボタンを押した。
先端から青い光の筋が飛び出している。
("別の宇宙の未来の剣士"は適当すぎだろ!しかもこれ、完全にラ○トセイバーじゃねえか!)
「ええっと……。」
シンは反応に困った。明らかに怪しいので買わないことにした。
「剣じゃないのが良いです。」
シンは丁寧に言った。
「これはどうだい?由緒正し……」
店主はそう言って、絶妙に作りの悪い弓を取り出して来た。
「この店、拳を使う武器ありますか?」
シンは、少しだけ苛立ちながら聞いた。これ以上は時間の無駄だと悟った。
「ナックルダスター……かな?」
店主はシンが望む答えを言った。
「それで良いです!見せて頂けないでしょうか?」
「こっちにあったが……。これとかどうだい?」
店主はまたも、造りの粗い物を持って来た。
その顔は至って真剣だ。何かに怯えている様にも見える。
「これとか……。」
シンは店主を無視して、杭付きの不思議な形の黒いナックルダスターを手に取ってみた。
指に完全にフィットする。握ってみた感触も悪くない。
そして何より――。
「付けたまま物が握れる……。」
シンは、指の動きに合わせて変形する器用な拳鍔に、一瞬で魅了された。
「これ、2つ貰って良いですよね?」
シンは有無を言わさぬ態度で聞いた。
「あぁ……。」
店主は、明らかに様子がおかしい。何かを祈っている様に見える。
「この後はど、どこに向かうんだ……?」
店主は狼狽えている。シンにもそれは伝わった。
「言えないんです、すいません。」
不穏な様子を察知したシンはそう言うと、店から逃げる様に出て行った。
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数分後、殴られた店主の側には、両手に拳鍔を嵌めたシンが立っていた。
「覗かれてたぞ〜!」
試着室から出て来た花を見て、彼は爆笑している。
「ええええええ!!!???」
彼女は驚きで、思わず絶叫してしまった。
「マジックミラーだ。バッチリ覗かれてたぞ!」
シンは笑いが止まらないようだ。
「最低っ!!!」
花は杖で殴ろうとしたが、シンに止められた。
「流石にこれ以上はまずいって!!」
シンは手を伸ばして、蛮行に及ぼうとする花を制止した。
「く、くそっ……後ちょっとだったのに……。」
男は悪びれることなく捨て台詞を吐くと、気を失った。
「どこまで見られてた!?」
花は堪らず聞いた。花にとっては重要な問題だ。
「まだ服は着てたぞ!……下は。」
実際のところ、上は下着姿だった。
ただ、ブラの上にもう一枚だけ分厚いのを着ていたので、ギリギリセーフである。
「もういいわ!行きましょう!」
花は最後に男の脛を踏みつけると、怒った様子で歩き出した。周囲には人が集まり始めている。
「おいアンタ、あいつを病院に連れて行ってくれないか?これは治療費と手数料ね。」
シンはそう言って、野次馬に7ファルゴほど渡すと、買い物をする群衆へと足を踏み入れた。
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シンが去った後の武器屋では、店主が独り言を呟いていた。
「あの者は、あなたを探していると言っていました。行き先は……わかりません。
武器も、なんとかナマクラを掴ませようと、懸命に試みたのですが……。
え?待ってください!チャンスを!チャンスをください!お、おぐぅっ……!!!」
店主は突然痙攣し始め、まるで何かに引き裂かれるように頭が破裂した。
鮮血が木造の壁を濡らし、頭部が炸裂した死体が、ドサリと音を立てて床に転がる――。
そしてその後、誰もいない店内に、不気味な声が響き渡った。
「余の役に立たぬ人間に、生きる価値などない。」
今回のストーリー分岐は、ガッツリ違います。
気になる方はどうぞ……!
↓
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