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EP43 ブラックボックス

 

 推理ショーの開始から約1時間前、清也はシンと面会していた。


「気分はどうだい?」


「出荷される直前って感じ」


 シンは皮肉を込めて言った。


「君にどうしても聞きたいことがあるんだ。君の無罪がかかってる。」


 清也は真剣な表情で聞き返す。いじけている奴に構っている余裕などないのだ。


「俺が殺してないか聞きたいなら、もちろん殺してないって答えるさ。」


 シンは完全に不貞腐れている。


「シン、僕は君の無罪を確信してるんだ。

 だから教えてほしい、君を森の中で助け起こした時、僕の”瞳の色”は何色だった?」


 清也は落ち着いた口調で聞いた。


「そりゃあ、緑色……。いや、違うな琥珀色だったはずだ。……カラコンでも入れてんのか?」


 シンは軽い冗談を言うと、力無く笑っている。


「よし!いけるぞ!1時間後にエントランスに君を来させるように、保安官に頼んだいた。そこで僕を待っていてくれ!」


「お、おう……楽しみにしとくぜ。」


 シンは清也の、異様なテンションに押されていた。


 清也はホテルに戻る道中、これまで人狼によって起こされてきた惨劇を思い出し、怒りが湧き出てきた。


(お前はもう人間じゃない、必ず俺の手で殺してやる。)


 殺意に満ちた清也の目は、琥珀色に輝き始めていた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 そして、1時間後のホテルエントランスにて、遂に”本当の人狼”を明かす推理ショーが始まろうとしていた。


「"本当の人狼"はお前だ!」


 清也が指を差した先に――。







 ラドックス(……・・)が居た。


「私が人狼!?そんなわけ無いでしょう!

 だって、事件が起こったとき、私は清也さんの真横にいたじゃ無いですか!」


 清也は狼狽えるラースに構う事無く、淡々と語り続ける。


「この事件の大きな謎、それは大きく分けて二つだった。

 一つ目は犯人がどのように部屋から抜け出してもう一度"鍵を閉めて"逃走したのか?

 二つ目は何故、犯人は俺たちに"わざと犯行を見せた"のか?」


「わざと犯行を見せた?一体何を言ってるんだ清也?」


 シンは驚き、目を丸くしている。


「あの日、俺たちが事件の発生に気付いたのは、彼が悲鳴を上げてポストから覗いたときに、彼の喉が掻き切られていたからだ!」


「それが、どうして犯行を見せたことになるんですか!?

 たまたま魔術師さんが叫び声を上げた時に私達が来ていたというだけでしょう!?」


 ラドックスは納得がいかないと言う顔をして、清也を睨んでいる。


「シラ切ってんじゃねぇ!あんたは知らねぇだろうが、あの"部屋は完全防音"なんだよ!

 今からでも試してやっていいさ、中からの悲鳴が聞こえるかどうかな!」


 清也は更に口調が荒くなっている。


「それが、どうして私が犯人という証拠になるんですか!私はあなたと一緒に居たでしょう!?」


 ラドックスは正論を言った。周囲もそれに同調する。


「そうだぜ清也、犯行はお前の目の前で行われたんだ。

 こいつが瞬間移動出来たとしても、そんな芝居は不可能だ。」


「シン!目を覚ませ!お前はこの野郎に操られてるんだ!」


「清也、早いところ結論を言えよ。

 お前の事だ。訳もなくラドックスが犯人だと言ってる訳じゃないだろ?」


 サーインが訝しげに言った。明らかに清也を信用していない顔だ。

 彼の言葉で、清也は少しだけ落ち着きを取り戻す。


「俺とそいつは、彼の喉が切られるところは見たが、"彼を殺したところ"を見た訳じゃない。」


 清也は落ち着いた口調で言った。


「うーん……!?そうか!そういうことか!」


 シンもついに気が付いた。この事件最大のトリック。通称、"ブラックボックス"の存在を。


「でも、そうだとしたらこのホテルどころか、町の奴全員がこのトリックを使えるんじゃないか?」


 シンは少し戸惑っている。


「違うな。このトリックだからこそ、こいつにしかできないんだ。」


 清也は少し笑っている。


「一体、どういう意味なんだ?」


 戦犯はまだ分かっていない。




「昨日、俺とそいつが彼の悲鳴を聞いたとき、彼は"既に死んでいた"んだ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「何を根拠にそんなことを言うんです!」


 ラドックスは丁寧な口調のまま、憤慨している。


「傷だ。首にあった傷は二つ。

 どちらが先かは分からないが、一度切ったあとにもう一度切られていた。」


「たったそれだけの証拠で」


「今、話してんのは俺だ!黙って話を聞け!」


 ラドックスの声は遮られた。


「既に死んでいたなら、あの光景を見せた理由はただ一つ。それは、殺された直後だと錯覚させるためだ!

 結論を言おう、あの部屋に"生きた人間は元からいなかった"んだ!」


「そんなバカな!人が居るのを一緒に見たじゃないですか!」


「へぇ、あんたは聴取でそう言ったのか?俺には"腕とナイフ"しか見えなかったが?」


 清也は冷たく言い放った。


「これをみろ!」


 清也は手のひらに血だらけの薄い何かを載せて見せた。


「これは、人間の爪だ!こいつは血や肉と一緒に換気扇に絡まっていた!」


「それが一体、なんだって言うんですか!」


 ラドックスは敬語を崩さない。


「この爪についた血と同じ匂いを俺は、あの部屋で換気扇以外の二箇所で嗅いだ。

 それは……被害者の椅子の近くと、扉の内側のドアノブだ!」






「なるほど……あんた……とんでもねぇ怪物じゃねえか。

 どうやったのか知らねぇが、人間の思いつく事じゃないのは確かさ。」


 シンはこの犯行の猟奇性に気が付いた。


「一体、何を言っているのか分かりません!」


「しらばっくれてんじゃねえ!あんたがした事は人の尊厳を冒涜する行為だ!

 結束紐の使い道に気がついた時には寒気がしたさ!こんな事をやれる人間が、本当に居るのかと思ってな!」


 清也は怒りで震えている。


「結束紐!?私の劇は糸を使って行っています!あんな物では、物を操れませ…………ッ!」


 ラドックスは口を滑らせた。


「聞かなかったことにしてやるさ。まだまだ証拠はあるからなぁ!」


 清也はもはや、笑ってすらいない。

 シン、ラドックス以外の者は、清也の圧に押されて話にすら入り込めなかった。


 そして、清也はついに事件の真相を明かした。




「あんたは!ポストの死角を利用して、109号室という中身の見えないブラックボックスを舞台に、殺人劇を演じたんだ!"切断された人の手"と人間の死体を使ってな!」


「馬鹿馬鹿しい!糸もなしにそんなことできる訳ないでしょう!?」


 ラドックスは薄ら寒い嘲笑を浮かべている。


 だが、清也は余裕の態度を崩さない。


「俺は失念していたよ。殺人には”トリックが有る”もんだとばかり思ってた。

 だがな、この世界には説明できないことがある!俺の相棒の魔法や、人狼の能力のように!

 ブラックボックスこそが、ある意味で最大のトリックさ……。中に人が居ると思わせれば、否が応でもトリックに目が行くからな!

 何も扱わずに物を動かせる、”怪物みたいな奴”が目の前に居たのに!!!」


「ということは、あなたは”私が人狼だから、糸なしで腕を動かせた”と言いたいのですか!?

 暴論すぎます!だいたい、あなたも見たでしょう!?私の左腕に傷がないことを!」


「あんたは、俺に嘘をついてるだろ?

 さっき忍び込んで見たきたが、人形劇の道具は傷ひとつなかったぜ?

 それは、あんたが糸を使った普通の人形劇をできないからだろう?」


「それが事件と何の関係があるんです!

 私は気分が乗った時にしか劇をしないと、決めているんです!

 悪評が立たないように、適当な嘘をついただけです!」


「事件への関係?そんなの、あるに決まってるだろう?人狼ならばこの事件は十分に実行できる。

 悪いが、あんたに隙を与えないために、ここからは殺人事件の話は一度放置する。

 そして、”あんたが人狼だと言う証明”を始める!覚悟しろよ、あんたの化け皮を剥いでやるからな!」


 清也はそう宣言すると、指を高く掲げて大きく鳴らした。


「出てきてくれ!」


 清也がそう叫ぶと、頭の頂点から指先まで、余す所なく覆い隠せるほど巨大な黒いマントが、皆の背後からヨロヨロと歩み寄ってきた。

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