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EP41 死臭

 

「ちょっと清也、何の冗談?笑えないわよ!」


 花はそう言いつつ、少し笑っている。本気だとは微塵も思っていないのだろう。


「僕が会いに行かなければ、彼は殺されずに済んだんだ……。」


 清也は至って真面目な顔をして言う。しかし花には、その真意が分からない。


「その話は私の見た幻と何か関係があるの?」


「大ありだ……その幻は僕も見たんだ……。

 それは酔ったから見た幻影じゃない……。人狼が、姿を偽ったんだ!」


 衝撃的な結論だが、それなら辻褄が合う。

 二人の顔は段々と青ざめ、罪悪感と戦慄に支配される。


「人狼が、私に化けた……。そして、黄金の魔術師に協力させないように、先回りして殺した……。あぁっ!何てことなの……!」


「全て僕のせいだ!」


 打ち付けるようにして、顔面をテーブルに伏せる。後悔して遅いのは分かっている。それでも、後悔せずにはいられない。

 自分のミスによって、一人の命が奪われたのだ。そして何より、魔王勢力に先を越された可能性が高い。勇者としても、人としても、恥じるべき大失態である。


「清也、厳しいようだけど、今は悩んでる時じゃないわ!

 シンが無実だとしたら、明日の7時がタイムリミットなのよ!クヨクヨしてたら、本当に彼が犯人にされちゃうわ!」


「彼が何て言って、僕らと別れたか覚えてるかい?」


 清也は顔を伏せたまま静かに聞いた。その声には、確かな諦めの気配が漂っている。


「たしか、酒場で飲むって……。あっ!」


 花は気が付いた。それは、あまりにも彼にとって不利な真実。

 シンが清也たちと別れて向かった先は、他ならぬ”人狼と出会った場所”なのだ――。


「彼が一番、人狼の可能性が高いんだ……。

 机に積まれた金の延べ棒、あれだって強奪したのかもしれない……。」


「彼が犯人……。でも、私には彼が悪い人には思えないんだけど……。

 たしかに、初対面でナンパしてきたり、セクハラしてきたけど、殺人なんて出来る人じゃないと思う……。」


「僕も、そう信じたい……。だけど彼は、何かが変だ。僕たちに何かを隠している。

 それに、殺人が出来るかどうかは、本人の資質とは関係が無い。その時の状況によって、殺人に至る判断は起こり得る……。」


 清也の中には、シンに対する二つの疑念が湧いていた。


 一つ目は、これまでの不可思議な言動の数々。彼が自分たちに、何かを隠している事は明確だ。

 二つ目は、より根本的な問題。正確には、本能的な直感による疑念だろう。

 清也にはどうしても、彼を信用できなかった。秘密の有無に関わらず、あの男は心の奥が見えない。魂の根幹が、他とは全く違う気配を感じさせている。


 一言で言えば、不気味なのだ。陽気に振る舞っているし、実際に陽気な男なのだろう。

 しかし何故か、心の底から信用することが出来ない。本人でさえ分かっていないような部分で、シンは闇を抱えている気がするのだ。


「良い奴なんだと思いたいけど……時々、本当に笑っているのか、本当に怒っているのか、それすら分からない時がある……。

 行動の全てが、まるで感情の籠っていない気がするんだ。……()()()()()()()を演じてるっていうか……。」


「私は、そんな風に感じないけどなぁ……。」


 この感覚は、どうやら清也だけが持つ物のようだ。花には全く共感出来ないらしい。


「この話は置いておこう。彼の持ってる秘密、そこが重要な気がするんだ……。」


 清也は即座に話題を切り替え、彼の持つ秘密の方に捜査のサーチライトを移した。

 ところが花は、清也の感じた違和感の意味を、延々と考えているようだ。


「まぁ確かに、人は見かけによらないからね……。馬鹿そうに見えて、実は頭がいいって事も……。能ある鷹は爪を隠すって言うし……。」


「……ちょっと待てよ……実は……頭が良い……?」





 清也の中に、これまでのシンとの旅の記憶や、部屋に入った時の様子。そして、転生時の事などが駆け巡る。

 違和感の点と点が、それぞれ一つの線で繋がった。そして彼の持つ、ある意味で分かりやすい”秘密の肖像”を完成させる。


 それにより、シンが強盗目的で彼を殺したという可能性は、彼の中で完全に消えた――。


「そうか!そういうことか!どうして、もっと早くに気付かなかったんだ!」


 事件発生以来、初の笑みを清也は浮かべた。


「えぇと、どうしたの?」


「明日話すよ。その方が安全だからね、ここに居たらまた誰かに聞かれるかもしれない。」


「……分かったわ、あなたを信じて期待しとくわね!」


 清也に釣られて、花も少し笑顔になった。


「やっぱり、換気扇の中を調べる必要がある。それと、犯行を僕に見せた理由を、改めて考えないと……。」


 清也はすぐに元の調子に戻った。しかし先程に比べると、そこまで落ち込んでは居ないようだ。


「まぁ、まずはご飯を食べなきゃね。」


 花と清也はその後は食事を楽しみ、酒場を出た。


~~~~~~~~~~~


 ホテルに戻った清也は花を置いて、一人で換気扇を調べる事にした。


 109号室を開けると、さっき来た時には無かった道具や、カメラなどが置いたままになっており、捜査が行われた形跡があった。


「よし、ちゃんとやってるな。」


 清也は少し、上から目線の独り言を言った。


 部屋の左奥の天井にある正方形の穴に向けて、清也は勢いよく跳び上がり、穴の内側を掴んだ。


「おりゃっ!」


 掛け声と共に、換気扇の中へと全身を滑り込ませる。驚くほど簡単に、清也は中へと侵入できた。


 換気扇の内部は、酷い悪臭がした。

 保安官の言った通りならこの奥にファンがあり、そこには――。


「血液と肉片が絡み付いている……。」


 清也は口に出すことで、恐ろしさを和らげようとした。しかしどうやら、それは逆効果のようだ。

 震えで上下の歯がぶつかり合い、カチカチと音が鳴り始める。


 恐れを振り払うかのように、換気扇のダクトの中をすばやく匍匐前進した。

 悪臭は奥に進むにつれて、より強烈になっていく。


 30秒ほど進んで、やっとファンに辿り着いた。

 持って来たマッチに火をつけて、周囲を照らす。するとそこには、聞きしに勝る凄惨な光景が広がっていた――。




 清也の視界は、どす黒い色のファンで埋め尽くされていた。

 より正確には、どす黒い血で塗り固められていた。


 ファンは動きを止め、肉片が羽と羽の間に巻き込まれ粉砕されており、原型を留めていない。

 その周りに、植物の繊維が原料と思われる紐が絡み付いていた。


「これは……結束紐、みたいだな……?」


 清也は不思議に思った。

 換気扇が事件に何らかの関係があることは間違いない。しかし、この紐に何の意味があるのか、それが分からなかった。


 清也がもっとよく見ようと手を少し進めると、手に奇妙な感触がある。


「な、何だ!?」


 清也は驚いて大声を出す。それは肉片のように柔らかくも、紐のように細長くもなかった。


 照らしてみると、それは丸みを帯びた四角くて薄い何かだった。

 清也には、暗くてそれが何か分からなかったので、ハンカチに包んで持ち帰ることにした。


 清也はファンに顔を向けたまま、後退しようとしたとき、この匂いに覚えがあることに気が付いた。


「この匂いは……あの異常に死臭のする血と全く同じだ……ということは、この血は元々、あの場所にあった物の血なのか……?」


 清也にはこの発見が、重大な事であるという確信があった。

 それと同時に、この換気扇がどこに繋がっているのか、知る必要があると感じた。




 部屋に戻ると既に花は寝ていて、清也も再びシャワーを浴びるとすぐに寝付いてしまう。

 あまりの熟睡具合に、彼はハンカチに包んだ物の存在を、翌朝には忘れていた――。

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