EP24 傀儡師
思い出してみれば、アルバイト中に最もよく聞いた名前は、間違いなく”黄金の魔術師”であった。
そして、その次がサーカスについての話題であった。
どうやら、凄腕の人形使いが同行しているらしい。
「明日のバザー、そこで黄金の魔術師に関する情報を集めよう!」
「そうね。あら?もうこんな時間……部屋に戻って明日買う物を、リストアップしておきましょう。その本は借りないの?」
「この本、勇者についての本らしいけど、ボロボロで読めないんだ……一応借りていくかな。
勝手に持って行って良い本らしいし……それにしても、管理が雑だなぁ……。」
そう言って清也は、埃まみれの本を少し叩いて、埃を落としてからリュックにしまった。
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買い物リスト作成には意外と時間がかかった。
2人は野宿の経験がないため、旅に必要な物があまりわかっていなかったからだ。
「下着は買った……。歯ブラシ……はいるよね?」
花は首を傾げながら、清也に同意を求める。
「いるだろうね、あとコップもいるし、テントは勿論いる。」
「サバイバルブックでも買う?私は持ってないわ。」
「鍛冶屋の店主に貰った本で十分だと思うな。結構、詳しく書いてあるし。」
「この世界は比較的温暖だから、布団は薄いのが一枚で十分ね。」
花は真顔で言った。
「うん、僕もそう思う……ちょっと待てや!同じ布団で寝るの!?」
清也は堪らず聞き返した。
「え?嫌なの?」
花は不思議そうに聞いた。
「嫌ってわけじゃないけど……流石にまずいよ……。」
「別に私はいいわよ、清也なら。」
真顔を取り繕ってはいるが、少しだけ嬉しそうである。
「まぁ、花が良いなら……。」
清也は仕方なく同意した。
「それにしても、まだまだ買う物が足りない気がする……。
そうだ!今から図書館行って、旅に関する本を借りてくるよ。ちょっと待ってて!」
「え、もう夜遅いよ?」
「大丈夫!」
そう言って、清也は花の制止も聞かずに飛び出して行った。
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「鍵は閉まってるだろうから、煙突からでも忍び込もうか……え?開いてる……。」
ごく普通に不法侵入を試みた清也だったが、直掩で中断する。
図書館の扉は鍵が閉まっていないどころか、扉そのものが半開きだ。
恐る恐る中に入ると、1人の男が掲示板の前にいる。
清也は横を通り過ぎようとして、運悪く目があった。
何が起こったのか、清也にも分からなかった。
目があった時、その男から溢れ出る異様な気配に圧されて、清也の全身は硬直した。
動いたら危ないと感じる、不思議な緊張感で満たされたのだ――。
「こんばんわ……。
こんな夜分遅くに図書館に来るという事は、貴方も広告を貼りにきたのですか?
分かりますよ。人に見られてると恥ずかしいですもんね。」
男に怪しげな声で話しかけられて、初めて清也は動き出すことができた。
「いえ、僕は本を借りに来ただけですので。失礼します。」
清也は本能で、ここにいるのはまずいと感じて、逃げ出そうとした。
「ここであったのは何かの縁。
せっかくですから自己紹介、要するに宣伝をさせて下さいよ。
私の名前は”ラドックス”。
旅の人形使いです……明日、バザーが開かれるでしょう?
私もそこで、人形劇を披露させて頂く事になってます。良かったら、見に来ていただけませんか?
見物料は1人5ファルシなのですが、宣伝用に何枚かチケットを預かってるんです。要りますか?」
清也は、近づいてくる男の顔が月明かりに照らされるのを見た。
ここ数年で一気に老けたかのような顔だ。元は美形であった事が容易に想像できる。
自分語りが長い男だとも思いつつ、ここまで言われて断るのは、流石に失礼だとも思った。
「友人と行くので2枚いただけませんか?」
礼儀として、一応は貰っておく事にする。
「お安い御用です。ではまた明日。」
そう言って2枚の赤いチケットを渡すと去っていった。
「何だったんだ……悪い人では無いのか?あぁ、そうだった!旅についての本か!」
清也はここに来た目的を思い出し、すぐに一冊の本を持って図書館から出ようとした。
その際、さっきの掲示板をもう一度見た。
〜奇跡の人形使い!ラドックス降臨!〜
8年前、姿を消した天才人形使いラドックス!
2月前に復帰した彼が!明日、この街にやってくる!
買い物ついでに夢のショーを見ていこう!
見物料
大人……5ファルシ 子供……無料
子供が無料なところを見ると、本当にただの良い人な気もしてきた。
だが、それを考慮して余りあるほど、不気味な雰囲気を醸し出している男だった。
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部屋に戻り扉を開けると突然、枕が顔に飛んできた。
「遅いじゃない清也!心配したんだから!もうリストは書いちゃったわよ!」
待ちくたびれた花は、膨れている。
「ごめん!……実は……。」
清也は花に、図書館で出会った人形使いの話をした。
「というわけで、チケットをもらったんだ。一緒に行くかい?」
「もちろん!楽しそうね!」
花は満面の笑みで答えた。どうやら、機嫌を直してくれたようだ。
「じゃあ、明日に備えてもう寝ようか。」
「そうね。ねぇ、清也は本当に地べたに寝るの?私はいいのよ。同じベッドで寝ても。」
花は顔を真っ赤にして、清也を誘った。
「いや、なんか、人としてまずい感じになりそうだからやめておくよ。」
清也は歯を食いしばって誘惑に耐えた。
そして、花の純粋さを呪った。
「そうだよね……おやすみなさい。」
花は残念そうに言って、カンテラの火を消した。
寝る直前に花は、ベッドの中で小さく呟いた。
「もう!これじゃ、下心丸見えじゃない……!私のバカっ!」
清也に、その呟きは聞こえなかった。




