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EP23 職業


 清也は花と夕日を見た後、コーヒーショップに戻ると1週間分の家賃、1ファルゴ5ファルシを払って、明日出ていくことを店主に告げた。


「そうか……君がいなくなると、また寂しくなるなぁ……本格的に民泊でも始めるかの。」


 店主はそう言って、清也にこれまでで最も豪華な料理を振る舞った。


 翌日、朝起きると既に時刻は9時を回っていて、清也は荷物を持ち、鎧を身に纏うと店主に別れを告げてギルドへ向かった。


 ギルドに着くと、花はもう既に酒場にいた。


「おはよう、花」


「おはよう、清也!」


 清也は料理を注文すると早速、本題に入った。


「まずはどこに行こうか?」


「流石に世界一周って訳にもいかないわよね……清也は何か思い当たるところないの?」


「それが、全くない・・エレーナ様に聞かれたら怒られるだろうけど、試験に集中し過ぎて昨日まで使命のことすら忘れてたんだ……。」


「私も1ヶ月以上ここにいるけど、魔王の情報は全く入ってこないわ。

 他の転生者に関する噂も全く無い。不自然なほどにね。」


「これは僕の仮説なんだけど……」


 清也は重苦しい表情で言い始めた。


「魔王は表立って活動するんじゃなく、人間社会に溶け込んでるんじゃ無いか?

 だから、脅威は増しても人間には気づかれないんだと思う。

 多分、後1人の仲間もそうだと思う。転生者である事を隠して冒険してるのかも。

 何か、黄金に関する冒険者の話を聞かなかったかい?」


「いいえ、全く聞いてないわ。」


 花は少しため息混じりに言った。


「困ったなぁ……。そうだ!

 冒険者とか、この町の住人とかに絞って、噂を集めているからダメなのかも!

 明日開かれる、隣町からの遠征バザーに行ってみない?そこなら、何か情報が掴めるかも!」


「いいわね!丁度、調合の材料も切らしてたの!

 それに、これからは屋外で寝る事になるから、テントとかの旅用品も手に入れておかないと!

 じゃあ……明日の11時に広場集合ね!」


 花は早口で、明日の予定を決めた。だが、清也はそこで重要なことに気づいた。


「ヤバい!僕は今日帰る場所がないや……。

 コーヒーショップにもう一晩泊めてもらってもいいけど、盛大に送り出してもらったし……。

 最後になるかもだし、この町のギルドに泊まるかな。」


 金の無駄にはなるが、異世界のホテルを経験するに越した事は無い。


「もし良かったら、私の部屋に泊まる?これから先を考えると旅費も節約した方がいいだろうし。」


「ちょ、ちょっと待ってよ!流石にそれはまずいって……。」


 清也は堪らず言った。倫理的にいろいろと危ない。


「えぇと……何が?これから先、テント生活をするなら、別に一緒の部屋で寝たってよくない?」


 花は平然と言い切った。確かに正論だった。


「じゃあ、僕は床で寝るよ。それはそうと、明日まで何しようか?」


「図書館に行くのはどう?魔王はともかく、この世界について何か分かるかも。

 丁度、そろそろ会館時刻よ。」


 清也は花の提案に乗ることにした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ギルドから出た2人はその足で、町の南西にある大図書館に向かった。

 扉を開けると中はとても涼しく、人は殆どいなかった。

 それぞれ、図書館を両端から見ていくことにした。


 そこには本当に様々な本があった。

 魔法理論、剣術指南書、占い学、ルーン文字、童話、古代文明、伝承、ざっと見通しただけで、これだけの種類がある。


 その中で清也の目を特に引いたのはやはり、伝承だった――。


「もしかしたら、300年前の勇者について何か分かるかも。」


 そう言って、"伝承・◯の勇者"と書かれた本を取った。


 背表紙の一部が掠れて読めない時点で覚悟していたが、本の中もボロボロで読める状態ではない。

 落ち着いて刊行年を見ると、なんと260年前であった。これでは読める訳がない。

 他に勇者に関する記録がないか棚を探したが、他には見当たらなかった。


 本棚の管理は、ハッキリ言って杜撰だった。書物にも、雑に扱われた形跡がある。

 どうやら、この本の状態の悪さは、経年劣化だけでは無いらしい――。


「くそっ!何でちゃんと管理してないんだ!」


 カッとなった清也は、本棚を蹴った。

 ドサドサと音を立てて、本棚の本が大量に落下して来る。


「ちゃんと!整理を!しろっ!!くそがっ!!!」


 目は血走り、明らかに言葉遣いがおかしい。

 脛に重たい辞書などがぶつかるが、それを気にする事も無く、全力で本棚を蹴り続ける。


「清也ぁ~?大きな音がしてるけど大丈夫?」


 花の透き通るような可憐な声で、清也は我に返った。




「僕、今何をしたんだ……?」


 清也は直近三日間ほど、特に男との決闘以降、不自然に怒りが抑えられない時がある。

 同時に、ほんの些細な事に対しても、自分でも何故か分からないほどに、激怒する事もあった――。


「清也!何やってるの!」


 花は駆け寄ってきて、蹴られた本棚から落ちた本をかき集める。


「一体どうしたの?こんな事するなんて、貴方らしくないわ。」


「わ、分からない……!僕にも……抑えられないんだ……。

 ここ最近、妙なんだ……。なんて言うか、異常に沸点が低くなると言うか……。寝不足なのかもしれない……。」


 そう言って清也は、本を拾うのを手伝いはじめた。


「寝不足……なの?もし、決闘のせいなら原因は私にあるわ。ごめんなさいね。」


 花は本を取り上げる手を止めると、清也に視線を合わせて、申し訳なさそうに言った。


「とんでもない!君は何も悪くないよ、悪いのはあのクズ野郎だ!……ハッ!」


 言い切ってから気付いたが、以前の清也なら嫌な相手でも、こんな呼び方はしない。

 その異変に、清也本人だけでなく花も気づいた。


「クズ……?清也、貴方本当に大丈夫?

 こんな事言いたくないけど、以前とは別人みたいよ……。ちょっと待って……?」


 花は言葉を途切れさせた。そしてすぐにこう言った。


「あの決闘の日、私、決闘の準備をする貴方に会ったわよね。覚えてる?

 確かあの時、貴方の瞳が普段の緑じゃなくて琥珀色に輝いてたの。

 カッコ良かったけど、ちょっと不気味だったわ……。」


 清也は、ポジティブな方だけを捉えることにした。


「カッコいい……照れるなぁ。」


「もう……バカなんだから♪」


 花の朗らかな笑みが、二人を包む険悪な雰囲気を払い飛ばす。


「それはそうと、何か有力な情報はあった?」


 清也は強引に話題を変えた。


「なんにも無いわ……そっちは?」


「こっちも何も無いかった……一度部屋に戻ろうか。荷物も運びたいし。」


 花と共に帰ろうとした清也は、掲示板に貼られたチラシを見て、思わず立ち止まった――。


――――――――――――――――――――


 〜黄金の魔術師〜

 明日を生きるための金がない?夜遊びがしたい?

 欲しくても金が借りられないこと、ありますよね!?


 そんな時は"黄金の魔術師"を頼ろう!

 不思議な力を持った彼は、君に低い金利でいくらでも金を貸してくれる!まずは相談から!


 注意!黄金の魔術師はサーカスと共に各地を渡り歩いてます。

 ここに行けば必ず会えるというのはありません。


――――――――――――――――――――


「これだ!」


 清也は何かに閃いて、突然叫んだ。


「貴方と会うまでの間、結構稼いだからお金は十分にあるわよ。」


 花は自慢げに清也を見つめる。まるで、”さぁ、私に頼りなさい!”と言わんばかりの表情だ。


「違うよ!これだ!ひっそりと冒険してるんじゃない!そもそも、冒険なんてしてないんだよ!

 黄金使いは……金貸しなんだ!」


 花と清也は目を見合わせて、満足そうに笑った。

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