表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/251

EP212 マリオネット <♤>

破滅へのカウントダウンが、新たな時を刻んだ。

流れ出した運命の砂時計は、もう止まらない――。


「な、なんだ・・・アレはっ!?」


 響く音の源流へと到着した征夜は、思わず仰天した。

 そこには、信じられない光景、もっと言えば"信じたくない光景"が広がっていた。


「あ、あれって!よ、溶岩よ!?」


 城の中央に広がっていた、巨大な広間。

 そこには"魔法陣の形に組まれた溶鉱炉"が設けられており、煮えたぎる溶岩のような物で満たされている。


 だが、花や征夜が驚いたのは、そんな事ではない。

 そこで繰り広げられていたのは、目を覆いたくなるような惨状だった――。


「何があったんですか!?」


「あ、あなたは見ちゃダメ!」


「おぉ、こりゃスゲェな・・・。」


 仲違いしている花が急いでミサラの目を覆い隠すほど、未成年には刺激が強すぎる惨状。

 征夜やシン、花ですら絶句しているのだ。そんな物を、子供に見せられる訳がない――。




 溶岩の中には、"人が溶けていた"。

 それも、一人や二人ではない。100人から1000人規模の人数が、性別や年齢が分からないほど原型を無くして、溶かされていた。

 かろうじて人体である事が分かるほどに、ドロドロになった死体。そんな無数の人々が溶岩と溶け合い、正に地獄の様相を呈している。


 そして、何より恐ろしいのは――。


ポトンッ・・・ドポンッ・・・


「お、おい!起きろッ!起きろぉッ!!!」


 征夜は必死になって、ガラス越しに叫んだ。しかし、当の本人には聞こえていない。


 先ほどから響いていた音は、人間が溶岩に落ちる音。

 それも、死体が落ちる音ではない。生きた人間が、"自らの足"で溶岩に飛び込む音だった。


 一直線に列を組み、一人、また一人と溶岩に落ちて行く様子は、異常と言わざるを得ない。

 おそらく、ラースの能力で操られているのだろう。そうでなければ、この奇行には説明が付かない。


「早く助けないと、もっとたくさん死んじゃうわ!せめて、まだ飛び込んでない人だけでも!」


「分かってる!」


 花に急かされる前から、征夜はすでに駆け出していた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「・・・なるほど、お前がここの番人か。」


 溶鉱炉の上に設置された、金網の橋の上に四人は立っていた。そして、向かい側から彼らを迎え撃つのは――。


「コレは・・・マリオネットですか?」


「やぁ!僕は"パラド"!」


 四人の前に立ち塞がる人形は、明るく自己紹介した。

 しかしフレンドリーな物腰とは対照的に、パラドの格好は臨戦態勢そのものだ。

 両手にチェンソーを装備して、両肩と両足には何らかの砲台を装着。口の中には、無数の針が仕込まれていた。


 しかし、何より恐ろしいのは――。


「コイツは普通のマリオネットじゃない。」


「確かに、かなりの重装備です・・・。」


「いや、違うんだ。コイツは・・・。」


 装備の問題ではない。所詮、それは外付けの武装。

 問題は人形の中身。パラド本体の話だ。


「死体で作られてる。」


「・・・えッ!?」


「本当だ・・・。」


「・・・なるほど、侮れませんね。

 傀儡を使う魔法使いは多いですが、人体を素材にした傀儡は見た事がありません。・・・おそらく、強大な魔力を持っているかと。」


 一度は驚愕して声を上げたミサラだが、すぐに冷静さを取り戻した。

 魔法使いとしての知識を活かし、パラドについて冷静に分析。知見を述べる。


 ミサラの考えを聞き終えた征夜は、痺れを切らしてパラドに怒鳴った。


「パラド!そこをどけ!お前なんかとやり合う時間は無い!」


「やぁ!僕はパラド!」


「・・・こんな所を守って、何の意味がある!

 答えろ!お前の主人は、ラドックスは何を目指してる!」


「やぁ!僕はパラド!」


「チッ・・・うるせぇな。」


 征夜は早くも、キレ始めていた。異様に甲高いパラドの声が癪に触り、切りたくて仕方ない。


 破壊衝動だけが全身を駆け巡り、脳を麻痺させている。

 目の前がチカチカと点滅し、パラドを木っ端微塵に吹き飛ばす妄想が視界に映り込む。


 こうしている間にも、罪無き人が溶岩の海に飛び込んでいる。そう考えると、居ても立っても居られないのだ。

 しかしコレも、凶狼の瞳を発動した今となっては建前に思える。実際の心持ちは、パラドを破壊したい。それだけなのだ。


(クソ・・・立ってるだけで熱いな・・・!)


 先ほどよりも、気温が大きく上がった気がする。

 溶岩が近いからではない。この巨大な部屋に入った時は、そこまで熱くなかった。


(な、なんかヤバい・・・急いで決着をつけるぞ・・・。)


 その時、征夜は確かに感じていた。いや、気付かないフリをしていた。

 自分の中で、"凶狼の瞳とは違う何か"が顔を出し、蠢いている事を――。


「聞いても無駄だと思います。この人形、遠隔操作されてますね。

 それも、自動で戦闘するように指示されているので、これ以外の言葉は喋らないと思います。」


「しゃあない、ぶっ壊すしかねぇな。」


「二人は下がってろ・・・"俺"たちでやる・・・。」


 征夜とシンは二人を後ろに下がらせると、パラドに攻撃を開始した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 パラドは確かに、強敵だった。この場所がラースの計画にとって、大切である事は火を見るより明らか。だからこそ、番人も強力に決まっている。


 だが、征夜とシンのコンビはそれ以上だった――。


<<<翔足四連弾・改!!!>>>

<<<竜巻殺法!!!>>>


 シンの放った強烈な四連打が、胴体に直撃した。

 勢いよく吹き飛ばされたパラドは、征夜の強烈な”ホームラン”でバラバラに分解される。


 しかし、人形には命が無い。

 たとえ四肢が吹き飛んでも、魔力がある限りは動き続ける。


「や、やや、やっあ!ぼ、ぼぼぼ、ぼくはっ!ぱら、パラドぉッ!!!」


 まるで壊れたラジカセのように、延々と自己紹介を続けるパラド。

 しかし、それすらも満足には出来ないようだ。


「クッソ!コイツしつけぇなぁ!!!」


「気を付けてください!魔力の流れが集まって・・・あぁ、やっぱり・・・。」


「嘘でしょ!?再生した・・・!」


 千切れ飛んだ四肢と頭が、再び胴体に接着した。

 どうやら、魔力によって繋がっているように見える。


「魔力を込めた攻撃で、関節ごとに粉砕するしかありません!」

<<<魔能貸与(エンチャント)!!!>>>


 ミサラが唱えた魔法は、征夜とシンの体を赤いオーラとなって包み込んだ。

 彼女の言うとおりなら、この状態で攻撃すれば再生を阻害できるはず。


「おい征夜!気を付けろッ!!!」


「うわっ!?」


 背後からの不意打ちに、征夜は対応しきれなかった。

 シンと征夜は足をパラドの口から出た縄で縛られ、転ばされてしまう。


「クソッ!なんだコイツ!・・・痛えッ!」


「何だ・・・毒か!」


 光の雫のような何かが、縄を伝って擦り傷の中に浸透した。

 体内に何かを注入された事が、征夜とシンにも理解できる。


「毒が効く前にコイツをやるぞ!」


「分かってる!・・・でやぁッ!!!」


 足元に纏わりつく縄をパラド本体ごと蹴り飛ばした征夜は、傍に落ちていた刀を取り上げ、戦闘を再開した。


~~~~~~~~~


カタカタ・・・ズズズ・・・


「ぼく・・・ぱら・・・どぉ・・・ややや・・・ぱら・・・。」


「こんだけ吹き飛ばしても、まだ動くのかよ!」


 ミサラの言った通り、魔力を纏わせた打撃はパラドの再生を阻害した。

 千切れ飛び、踏み潰された手足は元に戻らず、胴体だけのパラドは這いずりながら攻撃を続けている。


「魔力がある限りは、永遠に動き続けます!

 それに、気を付けてください!遠距離攻撃をまだ抱えているようです!」


「確かに、胴体だけでも、まだまだ仕込んでるだろうな。」


 面倒な事に、避けて通り抜ける訳には行かないのだ。

 征夜たちは今、狭い金網の上に立っている。足を踏み外せば、溶岩の海へと真っ逆さまだ。

 そんな状況で、遠距離攻撃を隠し持っているパラドの傍を抜けるのは、あまりにリスクが大きい。


 すると、花が”とんでもない事”を言い出した――。


「・・・時間が無いわ。みんなは先に行って。」


「は?何言ってるんだ花!」


 征夜とシンが二人掛かりで戦えば、確かにパラドはさしたる脅威ではなかった。

 しかし決して、弱い訳ではない。大幅に戦闘力を減退させた今でも、何をしてくるのか分からないのが実状だ。


「ここは私だけで何とかする!考えが有るの!」


「無茶を言うな!せめて、僕も一緒に!」


「少将、ここは花さんに任せましょう。

 こうしている間にも、タイムリミットは迫っています。今日で、ちょうど二週間ですから・・・。」


「そうだけど!」


「花さんだって、確かな勝算が有る筈です・・・!」


 ミサラの言う事は正しい。征夜にも、そんな事は分かっていた。

 勇者パーティの一人として、下すべき決断はミサラの意見の方だ。

 しかし征夜には、それが分かっていてもなお、心からの納得が出来なかった。


「・・・分かった。」


 征夜は少し不服そうに呟くと、ミサラの決断に同調した。


「私が注意を引くから、隙を見て反対側に抜けて。」


「う、うん・・・。」


「心配しないで、私は大丈夫だから。・・・さぁ、行って!!!」


 不安げな征夜の背を、花は勢いよく押した。

 パラドの視線は花の方へと向けられ、今なら飛び越える事が出来る。


「グズグズすんな!行くぞッ!!!」


「うわっ!?」


 シンに掴み上げられた征夜は、有無を言わさぬ調子で連れて行かれる。

 ミサラもその後に続いて、走り去って行った――。


「・・・これで、二人きりね。」


「ぼ・・・パラパラ・・・ややや・・・。」


「すぐ楽にしてあげるから、もう少しの辛抱よ・・・。」


 花はそう言うと、ゆっくりと杖を構えた。


~~~~~~~~~~


 パラドの胴体にはミサラが予想した通り、大量の飛び道具が仕込まれていた。

 恐らく体内は、魔法のゲートで別の場所と繋がっているのだろう。

 無尽蔵に飛び出して来るナイフや、閃光玉・煙幕などが花に向けて発射される。


「もう良いの・・・もう・・・良いのよ・・・。」


 花は悲しげな表情を浮かべながら、ゆっくりとパラドに歩み寄る。

 しかし不思議な事に、彼女へ向けて放たれる全ての攻撃が、彼女を避けるのだ。

 一切の回避をしている様子が無いのに、勝手に避ける攻撃。花の方もソレが分かっているように、真っ直ぐと進むだけだ。


 既に彼女は、攻撃を当てられる間合いに入った。

 杖を振り下ろせば、無防備になったパラドの胴体を粉砕できる。




 しかし彼女は何を思ったのか、パラドを"優しく抱きしめた"――。


「ぼ、ぼぼ・・・パラ・・・。」


「もう良いの・・・もう良いんだよ・・・あなたは人形じゃない・・・そうでしょう?」


 花は目を瞑りながら、涙を流して語り掛ける。


 四肢と頭を吹き飛ばされた状態で、今なお主人の命令に従おうと這い続ける様子は、虚しく哀れな物だ。

 そして、ソレが元は人間であった者の"成れの果て"であるなら、なおさら悲しく思える。


「もう良いの・・・頑張らなくて良いの・・・。」


 花は優しく囁きながら、パラドの背をさすった。

 その直後、零れ落ちた涙の筋が、僅かに煌めいてパラドの胸に飛び込んだ――。


 彼女が目を開けると、そこに居たのは不気味な人形ではなかった。

 どこか儚げな雰囲気を醸す美しい"女性"が、花を見上げて泣いている。


<"彼"を・・・止めてください・・・お願いします・・・。>


「えぇ・・・分かってる・・・もう安心して・・・。」


<ありが・・・とう・・・。>


 女性はそう言うと、まるで"糸の切れたマリオネット"のように、花の腕の中で力尽きた。

 グッタリと動かなくなった女性を床に下ろすと、花は涙を拭って征夜たちの後を追った。


 走り去る花の背を見つめながら、僅かに残った意識の中で、女性はか細い声で呟いた――。




<ごめん・・・なさい・・・。>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ