EP185 排除
「うわぁ・・・本当にユニコーンだぁ・・・!!!」
「凄いでしょ?サンダーランス、略してサランちゃんって言うの!女の子よ!」
「初めまして、サラン!」
ホテルの馬小屋に隠された一頭のユニコーンに、征夜は驚いた。
額から突き出した鋭いツノと、逞しい四本の足。鞭のようにしなる尻尾と、白と金の美しい毛並み。
大昔の絵画に描かれているように、美しさと気品を兼ね備えた"馬"。いや、馬と呼ぶのは失礼なほど、美しい動物だった。
"彼女"に嫌われているシンと、花と一緒に居るのが嫌なミサラは、馬小屋の外で待機している。
よってこの空間には、花と征夜しか居ない。デートスポットには向いていないが、二人きりの空間というのは何であれ味があるものだ。
「ほら、サランちゃんも挨拶しましょ。」
ヒヒン♪
短く嘶いたサランは、優しくお辞儀をした。
上品な身のこなしで礼節を尽くす様子には、征夜としても驚嘆する。
「本当に・・・頭が良い子なんだね・・・!」
「ウチの子は宇宙一ですから!」
花はまるで、「私が育てた!」と言わんばかりに胸を張った。
たしかにサランの世話は彼女が殆どしており、完全に嫌われているシンは蚊帳の外になっていた。
「動物が好きなの?」
「うん!大好き!そもそも、何かを育てるのが好きだからね!」
「世話好きなんだ・・・。」
(女子力高くて良いなぁ・・・!)
花の女子力が高い事は、料理や歌の一件からも証明済みだ。
それに加えて"飼育"が好きと言う事は、女子力というレベルを超えて"家庭的"と言うべきベクトルなのだ。
ハッキリ言って、これはかなり強い。
征夜は花にゾッコンだが、追い打ちをかけるように"理想の彼女"というワードが浮かんでくる。
だが彼女自身には、全く違う捉え方をされていた――。
(せ、世話好きって・・・お節介って事!?)
彼女は今朝も、その事でシンと喧嘩したばかりなのだ。
自分は他人に対し、必要以上の世話を焼いて干渉する癖がある。
薬剤師として、ヒーラーとして、職業病にも似た感覚なのかも知れない。ともあれ、それは人を苛立たせる原因にもなる事を、彼女は嫌というほど思い知らされた。
「ち、違うよ!」
「え?」
「す、好きなのは育てる事じゃなくて!・・・そう!出来なかった事を、出来るようにするのが好きなの!
別に世話を焼きたいんじゃなくて、成長させてあげたいというか!お節介を焼くんじゃないの!そういう事じゃなくて!」
苦しい言い訳だが、これなら"お節介"のレッテルを回避できる。
世話ではなく、成長させる事が好き。これならば、嫌な気持ちにはならない筈。彼女は、そう考えた。
「・・・そっか。」
征夜はどこか、そっけなく反応を示す。
それを見た花は、更に心配になる。自分の嫌な部分を、更に露呈したのではないか。そう思うと、動悸が止まらなくなる。
しかし征夜は、全くそんな事思っておらず――。
(つまり、育児とか好きなのかな!だとしたら、とっても良い奥さんに・・・ってアホか!)
反応を表に出さないように堪えているが、実際は大興奮であった。
だとしても、この考えは行き過ぎだと分かっている。なので懸命に自制しようと、笑みを堪えているのだ。
自分でも不思議なほど、花と結婚している姿が容易に思い浮かぶのは何故だろうか。
まるで昔から決まっていた事のように、抵抗なく"ビジョン"を受け止める事が出来るのだ。
(相変わらずバカだなぁ・・・僕は・・・。)
側頭部を軽く叩いて平常心を呼び戻した征夜は、彼女の方に向き直った。サランを馬小屋から出そうとしている彼女は、手綱を柱から解いているようだ。
「ごめんごめん!手伝うよ!」
征夜は素早く手を貸して、手際よく縄を解いていく。
だが花は、もはやそれどころではない。不安と緊張が頂点に達し、縄を握る手にも力が篭っていないのだ。
その不安を解消するために、彼女は思い切って聞いてみる事にした――。
「恋人なのって・・・私だよね?」
唐突に切り出された話題に対し、征夜は面食らった。だが即座に、分かりきった答えを投げ返す。
「いやいや!そんな風に思ってないよ!流石にあり得ないって!」
(キスまでしたんだから!友達な訳無いでしょ!)
彼は今でも、本気でガールフレンドを"女友達"だと思っている。その勘違いが、意図せずに花の心を深く抉ってしまう。
「へ?あ、あぁ、そ、そっ・・・か・・・。」
あからさまに動揺した彼女は、トボトボと力なく歩み出した。征夜の恋人は自分であると信じていたのに、本人から否定されてしまったのだ。その衝撃は計り知れない。
放心状態の花と、妙に興奮している征夜。
お互いの勘違いに気付く事もなく、二人は馬小屋から出て行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「アハハハ!舐めないでくれっ!くすぐったいよ!アハハハ!」
頬をサランに舐め回される征夜は、大声で笑いながら広場に出てきた。その傍らには、意気消沈した花がいる。
「その子が噂のユニコーンですか!?」
「そうなんだよ!名前はサラン!」
「可愛いですねぇ!触ってみても良いですか!?」
ユニコーンを初めて見たミサラは、驚きと興奮ではしゃぎ始めた。目の前に立つ雄大な動物の迫力に、恐怖よりも好奇心が湧いているようだ。
「あ、ど、どうぞ・・・。」
サランの傍らに立った花は、ミサラに触れ合う許可を出す。それを聞いた彼女は、どうにも不機嫌そうだ。
(あなたじゃなくて、少将に聞いたのよ!)
肩を怒らせながらサランに歩み寄るミサラは、右手を差し出した。そして額と頬を撫で、可愛がろうとした。
しかし、彼女は知らなかった。
サランは清廉潔白な"聖獣"などではなく、神の威光を模して造られた"生物兵器"である事を――。
グルルル・・・グオォォォンッッッ!!!!!
「え?」
サランは後ろ足を大きく引いて、直後に強烈な刺突を繰り出した。ミサラの下腹部に目がけてツノが迫り、そして勢いのままに――。
「・・・へ?な、何これ?」
ミサラにも、何が何だか分からなかった。
ただ分かるのは、下腹部に鋭い痛みが走った後に、中身をかき混ぜられるような感覚がある事。
「きゃあぁぁぁッッッ!!!!!」
最初に叫んだのは花だった。その目は確かに、サランのツノが腹に突き刺さった光景を捉えている。
「おいサラン!なにやってんだ!」
「まずい!急いで引き剥がさないと!」
「ミサラちゃん!ミサラちゃん!しっかりして!!!」
腹を突き刺されたミサラは、あからさまにグッタリしている。目は虚になり、口からは止めどなく血が溢れ出していた。
しかし、地獄はまだ終わらない。ツノの先端にミサラを引っ掛けたまま、サランは走り出した。そして近くの壁に体当たりし、更に彼女の腹を抉る。
「良い加減にしろ!ソイツは敵じゃない!!!うわっ!?」
ミサラを助けようと近寄ったシンは、思わず尻もちを突いた。生物兵器としての本能が覚醒したサランは、エレメントホーンの展開だけでなく、他にも身体的差異があるようだ。
「目の中に・・・稲妻が!」
赤く透き通るような瞳の中に、黄金の稲妻が刻まれている。それは、まるで"ロックオンレーダー"のようにクルクルと形を変えて、シンを狙っているようにも見えるのだ。
誰の目にも明らかな事だが、サランは完全に興奮している。何が彼女を駆り立てたのか分からないが、今の目標はミサラを殺害する事らしい。
これまでに感じた事がないほど明確な殺意と、敵の排除に対する徹底的な意志。その両方が、彼女からは感じられる。
「や、やるしか・・・ない!」
征夜は覚悟を決めて、素早く刀を抜いた。
殺すのは可哀想だが、ミサラを救うには他に方法があるとは思えないのだ。
「何をする気なの!?」
「サランを・・・倒す!」
「俺も手伝うぜ!」
シンはどこか興奮気味に笑いながら、手元に拳銃を出現させた。正確に狙いを定め、サランの側頭部を狙う。
「ま、待って!あの子は悪い子じゃないのよ!混乱してるだけなの!!!」
「どいてくれ花!ミサラを助けないと!」
「私が止めるから!お願い!殺さないで!」
サランを庇うように割って入った花は、手を大きく広げた。征夜にしてみれば、花を斬り倒して進む事など造作もない。だが、そんな事を出来る筈がない。
「どけ!どかないなら、お前ごと撃ち殺、えっ?」
拳銃を構えた手首が、突如として強烈に握り締められる。
思わず構えた銃を取り落としてしまうほどの握力が、シンの両手首に加えられているのだ。
「せ、征夜!離せよ!・・・ッ!?」
シンを見下ろす征夜の視線は、驚くほど冷酷だった。
修羅場に慣れたシンでさえ、思わず縮こまってしまうほどに、怒りに満ちたその表情。
瞳は琥珀色に染まり上がって、黒目はギョロリと睨み付けている。以前の征夜では考えられないほど、殺気に満ちた気迫だ。
「花に銃を向けないでくれ。」
「早くしないとミサラが死ぬぞ!止めるなら、アイツも撃つしかな、いだだだだッッッ!痛ぇよ!離せ!」
「花に銃を向けるな。・・・3度は言わない。」
「わ、分かったから離せ!この野郎!」
シンは体を捻って、凄まじい速さで蹴りを放った。
しかし征夜は、拘束を逃れようとする彼の意志を挫くように、蹴り出された足を受け止めた。
そのままの流れで地面に押し倒し、上から抑え掛かる。
「ぐあぁぁぁ!!!」
苦しそうな声を上げているシンを見下ろしながら、征夜は淡白な口調で語りかける。
「まずは花に任せてみよう。その方が平和的だよ。」
先ほどの発言と矛盾している事は分かるのだが、花を撃たれる訳にはいかないのだ。
そして何故か、征夜はシンの事を信用出来ない。どこまでが本気で、どこからがハッタリなのか、その境界が微塵も掴めないのだ。
考えてみれば当然なのだが、征夜がシンと過ごした時間は半月にも満たないのだ。
同じ仲間である事に異論は無いが、信頼度は他人と変わらない。お互いの事を、何も知らないのだから。
(脅しのつもりで言ったんだろう。だが、本気で撃つかもしれない。だから、これは仕方のない事だ。)
自分でも驚くほどに冷徹な思考が、征夜の脳裏を駆け巡る。シンも悪いが、自分はやり過ぎなのではないか。そう思っても、行動を自制出来ないのだ。
(こ、コイツ!俺より強いのか!?そんなのあり得ないだろ!半年前までヒョロガリだった雑魚が!)
頭に血が上ったシンは、心の中で暴言を吐く。
だが上から押さえ付けられた彼は、一切の抵抗も出来ないのだ。その苛立ちは募るばかりだ。
(負ける訳ないだろ!俺がこんな奴に!)
「離せって言ってるだろうが!!!」
「うがぁっ!?・・・やりやがったな!!!大人しくしろ!!!」
シンの蹴りが征夜の背中に直撃し、体制を崩した彼を押し返して、シンは逆にマウントを取った。
今度は馬乗りになって殴り付けるが、征夜もそれに応戦して泥沼の喧嘩が始まった。
双方の頭に血が上り、征夜とシンが取っ組み合いの喧嘩を続ける中、花はゆっくりとサランに歩み寄って行く――。
「やめなさい、サラン・・・!」
グオォォォンッ!!!
サランはまるで"獅子"のような咆哮を上げて、怒り猛っている。
何が彼女を駆り立てるのか分からないが、今の彼女に普段の可愛らしい面影は無い。
「あなたはこんな事をする子じゃない。だから、今すぐミサラちゃんを下ろして。」
「ぐ・・・おぉぅ・・・げぼっ・・・!」
未だにツノが食い込んでいるミサラは、完全に虫の息となっている。呻きながら血を吐き、叫ぶ事すら出来ないのだ。
グウゥゥゥ・・・!!!
未だに興奮が冷めないサランは、花の方を睨んでいる。だが、その視線からは敵意を感じない。
まるで「コイツは排除するべきだ。」と言わんばかりの、圧倒的な目的意識を訴えているのだ。
unknown計画によって作り出された彼女たちは、主人と認識した存在に絶対の服従を誓う。
サランの場合、それは楠木花であった。だから"恋人"である征夜には懐き、"親友"であるセレアにも礼を尽くしている。
だが、ミサラは違う。彼女は"恋敵"である上に、明確な"敵意"を持って花に接している。
もしかすると、遺伝子に刻まれた"戦闘マシーンとしての本能"が、彼女の殺意を駆り立てたのかも知れない。
しかし花は、そんな事を望んでいない。
その意思をサランに伝える事は難しいが、ただ一つ言える事がある――。
「あなたが賢くて、優しいユニコーンだと言う事は、私が一番よく知っているわ。だから、こんな事しないで・・・。」
普段のサランに戻ってほしい。その事だけを懸命に訴えて、血だらけのサランを抱きしめた。
興奮で逆立った立て髪はツンツンと張り詰めており、触れ合った肌が痛くなる。
クウゥゥ・・・
「よしよし、良い子良い子・・・。」
花の優しい声によって平静を取り戻したサランは、突き刺したミサラを地面に下ろした。申し訳なさそうに顔を伏せながら、後ろへと下がっていく。
「・・・ミサラちゃん!しっかりして!」
一仕事終えた花は慌ててミサラに駆け寄り、回復魔法の準備を始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「まだ気分が悪いけど・・・いけます・・・。」
「良かったわ!・・・ウチの子が、本当にごめんなさいね・・・。」
「次は無いようにしてください。」
ミサラは不機嫌度を限界突破させながら、病床より起き上がる。
花の魔法と適切な応急処置によって、半日とかからずに傷を治せたミサラは、その日の夕方には退院できた。
(それにしても・・・本当に凄い生命力だわ・・・。お腹とか、グチャグチャになってたのに・・・。)
花は驚嘆と安堵の眼差しをミサラに向ける。
彼女としても、本当に助かるとは思っていなかったのに、まさか半日で全快するとは思えなかったのだ。
「もっと血液が欲しいのですが、看護師さんに頼んでもらえますか?」
「え?あぁ、うん!分かった!」
膨大な量の輸血を受け止めてもなお、彼女の渇きは収まらない。
だが、普通なら死んでいるはずの大量出血を起こしたのだから、それも当然かもしれない。
「輸血が終わったらホテルに戻ります。出発は明日でお願いします。」
「分かった!征夜に伝えてくるね!」
花は穏やかな笑みを浮かべると、ミサラの元から去った。
取り残されてしまった彼女は、今の状況がどうにも面白くないのだ。
「なによ・・・呼び捨てしちゃって・・・!」
まるで自分の方が征夜に親しいと主張された気がして、意味もなく苛立ちが募る。
どうして自分がこんな目に遭うのか、そう思うと嫌悪感が加速する。
不快感で朦朧とする視界の中に、巨大な幻影が映り込む。
血だらけの立て髪を靡かせながら、恐ろしいほどに赤く輝いた瞳が、彼女を睨みつけているのだ。
「あなたなんて怖くない・・・!油断しただけよ・・・!」
心に映るサランの幻影を力強く睨み返したミサラは、指先に炎を纏わせた。
もしも次に襲われたら、焼き殺してやる。自分の身を守るためなら、そのくらいやって良い筈だと思ったのだ。
だが彼女の自信は、突如として崩れ去った――。
「ひぃっ!」
視界に映ったサランの瞳が、"人間の瞳"に形を変えた。
恐ろしいほどに輝いたその眼は、彼女を焼き尽くさんとばかりに睨み付けるのだ。
「わ、私が・・・悪いって言うの・・・?」
幻影に問いを掛けても、回答が来るわけない。
それでも何かを話さなければ、恐怖に屈してしまいそうなのだ。
「負けない・・・絶対に・・・負けないから・・・!!!」
自らを睨み付ける目玉に恐怖しながらも、必死に声を張るミサラ。しかしその額は、シーツに伏せられたままだった――。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「出発は明日・・・明日・・・あら?征夜たちはどこに・・・。」
病院から出た花は、大通りを抜けて元いた広場に戻って来た。しかし、征夜とシンの姿が見えない。
その時、突如として周囲を見渡す花の耳に、恐ろしい怒号が飛び込んで来た――。
「花にだけ良い顔しやがって!気持ち悪りぃんだよ!!!」
「ぐほぁっ!お前こそ!仲間に銃を向けるなんてどう言うつもりだ!!!」
「ぐはぁっ!うるせぇ!何も分かってないバカが、舐めんじゃねぇよ!!!」
征夜とシンは、花をそっちのけで殴り合っていた。
怒号と暴言を浴びせ合い、自分の正当性と優位性を主張する。
「バカで悪かったなぁ!でもな!インテリだからって、ヤンキーを誇ってる奴よりはマシだね!!!」
「賦遊理威をバカにしてんのか!?ふざけんじゃねえよ!ぶっ殺すぞテメェ!!!」
「良い加減に大人になれ!何が暴走族だよ!馬鹿らしい!」
「良い歳して一人称が"僕"とかいう、キモい奴が大人を語ってんじゃねぇよ!!!」
「社会人として見たときには、"俺"の方が変だけどな!!!」
「仕事も出来ないクズに、社会人の何が分かるんだよ!この・・・親の七光りがぁッ!!!」
互いに一歩も譲らずに、取っ組み合いの大喧嘩を続けている。
両方とも馬鹿みたいに体力があるせいで、数時間の殴り合いを経ても終わる気配が全く無い。
「や、やめなさい!二人とも!そんな事してる場合じゃないわ!」
「うるせぇ!黙ってろ!」
「花になんて口を利くんだ!この野郎ッ!!!」
仲裁に入るつもりが、二人は更にヒートアップし始めた。
花を挟んで睨み合う二人は、ついに武器を取り出した。
「もう良い!お前なんかぶっ殺してやる!!!」
拳銃を構えたシンの目は、完全に血走っていた。
それだけを見れば完全に、"殺人鬼の目"である。
「あぁ上等だ!やってやるよ!」
拳銃に対して応戦するのは、もちろん日本刀だ。
普通ならシンの有利だが、征夜ほどの腕前になると弾丸を斬る事も可能なのだ。
「ふ、二人とも!やめなさいっ!大切な仲間でしょう!」
「ただの剣士なんて、いくらでも代わりが効く!ラドックスは、俺たちで始末すれば良い!!!」
「こんな危ない奴、むしろこっちから願い下げだ!もっとマシな性格の奴を、見つけてくれば良いんだよ!!!」
「なんて事言うの!二人とも撤回しなさい!」
三者三様の怒りが交錯し、のどかな住宅街の広場で混沌が極まっていく。
野次馬も続々と終結し、ヒソヒソと彼らを揶揄したり、勝敗を賭ける者が出始めた。
「死ねぇッ!吹雪征夜ぁッ!!!」
「死ぬのはお前だぁッ!金入俊彦ぉッ!!!」
バァーンッ!!!
ヒュンッ!!!
「ダメえぇぇぇッッッ!!!」
シンが激鉄を引き、征夜が刀を振り下ろした時、突如として二人の間に花が割り込んだ。
弾丸から征夜を守り、刃からシンを庇う。その為に彼女は、自らの身を犠牲にしたのだ。
(花!やめろぉっ!!!)
(何してんだお前っ!!!)
二人は互いに目を見開いたが、時すでに遅し。
放たれた弾丸は花の背中に、斬り下ろされた刃は花の胸へと、勢いのままに飛び込んで行った――。




